異世界修学旅行で人狼になりました。

ていぞう

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第五章 獣人国編

第124話 再会 誰か助けて

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ブルナが所属するゲラン第三師団がバルチの街に到着した。
第三師団は俺達の予想通り、代官屋敷近くの河川敷で野営の準備を始めた。

俺とエリカは河川敷の対岸の山の中に潜んでブルナを探した。

第三師団の総員は1万名だが比較的早くブルナを見つけ出すことができた。

多くの兵士は新品の軍服に身を固め武器も装備しているが、野営準備をする下級兵士の中に武器も持たず、くたびれた古着のような軍服を着ている一団がいた。
しかも年齢層は低い。

10歳~15歳くらいまでの子供達だ。

その子供の中に目的のブルナが居た。
ブルナと別れて一年以上経過しているが、遠目からでもブルナの存在を認識できた。
長かった髪の毛はショートにしているが、整った顔立ちと大きくて黒い眼は忘れようがない。

背は少し伸びたようだ。
ブルナは他の子供達といっしょになって野営のためのテントを張っている。

(ブルナ・・・)

駆け寄って抱きしめてやりたい衝動に駆られた。

(ついに追いついたよブルナ。もう少しだからね。)

「ブルナさん。居ましたか?」

双眼鏡を覗く俺にエリカが声をかけてきた。

「ああ、いたよ。ようやく見つけた。長かった・・・」

俺はクチル島でグンター達にさらわれて奴隷にされてから、ここまでの道のりを思い返していた。

ブルナ達がテントを張り終えて、自分たち用のテントに入るまでの間、肉眼とドローンを併用して監視を続けた。

ブルナ達はテントを張った後、他の兵隊の給仕を行い、最後に自分たちで食事を取り後片付けをした後、宿泊用のテントへ入った。

働くブルナの動作を注意深く観察していたが、健康体のようだった。
いざとなればブルナも走れる。

後は深夜にブルナを連れ出すだけだ。

他の兵士が寝静まるまで山中でブルナの行動を監視した。
河川敷のかがり火も消えてほとんどの者が就寝した頃を見計らい俺は山を下りて一人で川を渡った。

川の水は痺れるほどに冷たいが、そんなことは意に介さない。
もうすぐブルナをピンターに合わせてやれるのだ。

川を渡りきった頃、ウルフで待機するエリカに連絡を取った。
エリカはウルフのモニターで俺の頭上から現場周囲を監視している。

「エリカ。このまま進んでも大丈夫か?」

「はい。シン様。野営地の入り口に番兵が4名います。野営地の外向きには警戒をしていますが、シン様のいる方向には無警戒です。あと明かりの付いているテントが2~3ありますが、動きはないようです。今ならブルナさんのテントに近づけるでしょう。」

俺の遠話はマザーを介してウルフに届く。
その内容をウルフが電磁的に翻訳してエリカの装備しているインカムマイクに伝えているのだ。

「わかった。これからブルナのテントに接近する。」

俺は河原の砂利で音を立てないように匍匐前進ほふくぜんしんしてブルナのテントに近づいた。

ブルナのテントは5人用くらいのテントで所々破れ目がある。

その破れ目からテントの中を覗いたところ、少女ばかり7人くらいが寝ているのが見えた。
いずれの子も誰かと抱き合って寝ている。
寒いのだろう。

10歳くらいの子供もいるが、こんな小さな子まで兵役にかり出すとは。
やはりこの世界の奴隷制度が腹立たしい。

10歳くらいの子を抱いて寝ているのは年長の少女だ。
俺に対して背を向ける格好なので詳細はわからないが、髪の毛の長さや色からしてブルナである可能性が高い。

他の兵士は寝ているとは言え、いつまでもテントの外から様子をうかがうわけにもいかないので、俺は少女達のテントへもぐりこんだ。

少女達が驚いて声を出さないように、ブルナ以外の子供達に対して軽く睡眠の魔法を施した。

睡眠の魔法は熟睡する程度にかけただけなので、大きな物音を立てると魔法が解けてしまう。

注意して行動しなければならない。

俺はブルナと思われる少女の枕元に座り、ゆっくりと顔をのぞき込んだ。

ブルナだ・・・

クチル島で俺を助けてくれたブラニさんの娘、ピンターの姉、そして俺に対してマザーへの祈りを勧めてくれた少女。

そのブルナが目の前に居た。

ブルナは苦労をしたのだろう。
クチル島に居た時は、どちらかと言えばふくよかな体型、顔立ちだったが今、目の前に居るブルナはスレンダーな体型だ。
顔には少し疲労の色が見える。

俺はゆっくりとブルナの肩を揺さぶった。
ブルナはゆっくりと目を開け俺の顔を見た。

ブルナは俺を見るなり叫ぼうとしたので俺が慌ててブルナの口を押さえた。
俺の不注意だ。

ブルナは俺が人狼化できることを知らない。
今の俺は獣王化している。
素の俺とは、ほど遠い人相だ。

「俺だよ。俺。ソウだ。」

俺は人狼化を解いて17歳の俺、高校生の俺に戻った。
ブルナは叫ぼうとして開けた口をゆっくりと戻し、上半身を起こして、しばらくの間俺の顔を眺めた。

俺の顔を眺めるうちにブルナの大きな黒眼からじわりと涙があふれ出し俺の膝をぬらした。
俺はブルナの両腕を取って胸元にブルナを引き寄せた。
俺の心音がブルナに聞こえるほどにブルナを抱きしめた。

「待たせたね。迎えに来たよ。」

「ソウ様。」

ブルナも俺の背中に手を回し俺を抱きしめる。

しかし、再会を喜ぶのは後だ。
今は一刻も早くここを離脱しなければならない。

「ブルナ・・・・・・」

俺が(ブルナ一刻も早くここを出よう)と言いかけた時、

「バス!!」

という破裂音と共に背中に痛みが走った。

何か鋭い刃物で背中をつかれたような、背中をえぐるような痛みだ。
人狼化している時の俺なら刃物など効果は無いのだが、今は素の俺。
通常の人間と同じように怪我をする。

それに、なぜだか声が出ないしブルナに抱かれたままの姿勢で動くことができない。
人狼化しようとするが精神統一ができず人狼化できない。
何か変だ

(ブルナ?)

ブルナは右手に金属製の筒のような物を持っている。
武器だろうか?

ブルナが落ち着いた口調で言った。

「みんな起きて。来たわよ。」

ブルナの目はうつろだ。
黒眼に生気が無い。

テント内で寝ていた子供達が次々に起き上がる。
そして懐から先端が鋭利な黒い棒のような物を取り出した。
その黒い棒を手に持った6名の女の子がこちらに向かってくる。
俺は意識こそ保っているものの何の行動も起こせない。

最初に10歳くらいの女の子が俺の右胸を、その黒い棒で刺した。
激痛が走る。

引き抜いた黒い棒は先端が折れている。
俺の体内に先端部分が残ったのだろう。
その棒を昔見たことがある。

レイシアがサソリに刺されて体内にサソリの刺が残り、その摘出手術をしたが、その時のサソリの刺にそっくりだ。

他の女の子も次々と俺の体にサソリの刺を刺す。
その度に意識が薄れていく。

(かなりやばい・・・)

「エリカ・・・しくじった。・・・」

それだけをエリカに伝えた後、俺は意識が無くなった。



ウルフで待機するエリカのインカムマイクにソウの音声が届いた。

「エリカ・・・しくじった・・・」

「シン様?シン様?」

ソウからの応答はない。
ソウがブルナのテントに近づきテント内へはいるまでの様子はドローンからの中継映像で確認していた。

テントの中の様子はわからないが、少なくともブルナのテントへソウ以外の者が入った形跡はない。

ソウがエリカへ「しくじった。」と連絡してきた理由は言葉通りでソウがミスをしたかテント内に敵が潜んでいたか、なんらかの理由でソウが窮地に陥ったのだろう。

エリカは狼狽した。
全てにおいて万能だと、完璧だと思っていたソウが窮地に陥っているらしい。
ソウがいかなる窮地におちいっているのかウルフのモニターだけでは確認のしようがない。

(とにかく現状を把握しなければ・・)

エリカはウルフを出て野営地対岸の河原へ急ぎ降りた。
エリカの服装はれいによって黒装束、日本の女忍者「くノ一」のような格好だ。

素早く全裸になって衣装を防水袋に入れ、水深50センチくらいの川に自分の全身を入れた。
立って川を渡れば水音がするし、遠くからでも影が見えるかも知れないからだ。

水温は低く身が切れるような感じがする。
エリカは苦痛を感じなかった。

自分の苦痛よりソウの身の上が心配で水の冷たさなど意識の外にあったのだ。

川を泳ぎ切って黒装束を着直す。
体が濡れているので衣服を着るのに手間がかかる。
いっそ全裸でソウの元へ走りたいとおもったが、そこは女忍者、冷静さを意識して保ち服を着た。

河原で音を立てぬように細心の注意を払いながらブルナのテントへ近づいた時、テントから少女が出てきて松明に火を点し、それを自分の体の前で大きく回した。

誰かに何かの合図を送ったようだ。
少女は数秒間松明を大きく回してテントへ戻った。

時間が無い・・・

テント内を覗くと複数の少女が、テント中央で意識を失っているであろうソウを取り囲んで眺めている。

ソウは人狼化していない素のソウだ。
ソウの体のあちこちには黒い棒が刺さっていて多量の血が流れている。

エリカは悲鳴をあげそうになったが、ぐっと喉元でこらえてテントへ入る。
少女達が騒げば当て身を食らわせてでも黙らせるつもりだった。

意外にも少女達は騒がずじっとしている。
少女達の目はまるで生気が無い。
まるで蝋人形のような表情だ。

ソウに近づきソウの右腕で脈を取る。

出血のわりに脈はしっかりしている。

「誰がやったの?」

誰も返事をしない。
ソウの傍らにたたずむ一人の少女に目をやった。
昼間ドローンで監視をしていて、その姿に覚えがあった。

「ブルナさんね。」

ブルナは頷くが夢遊病者のような表情で正常な意識下にあるとは思えない。

「あなたがやったの?」

ブルナはうつろな表情のまま返事をしない。

パシーン!!
エリカがブルナの左頬を思い切って平手打ちした。
ブルナが憎くて平手打ちをしたのではない。

ブルナの表情が変わった。
ブルナは、ゆっくりと自分の周囲を見渡した。
そして自分の足下に横たわるソウを見つけて目を丸くした。

ブルナはひざまずいてソウの顔を両手で包んだ。

「ソウ様!!」

ブルナはいましがたの自分の行動を覚えて居ないようだ。
周囲の子供達は、状況が飲み込めず、うつろな表情のまま突っ立て居る。

(状況把握は後よ、今はここを離脱しなければ・・・)

エリカはテントの隙間から外を見た。
いくつかの松明がこちらに近づきつつある。
ソウは自力で動くことは出来ないだろう。

(どうすれば・・どうすれば・・)

焦るエリカ。

「ブルナさん。私はシン・・いえソウ様の部下です。ここを脱出します。ソウ様を二人で運びましょう。」

ブルナは狼狽している。

「駄目です。私はここを離れることができません。動けません。」

エリカは事前にソウから聞いていた。

『ブルナはドレイモンの命令で部隊を離れることができないだろう。だから俺がドレイモンを解除する。』

情報通りブルナはドレイモンの制約下にある。
だがエリカにはドレイモンを解除する能力が無い。

せまりつつある複数の敵。
重傷を負って意識の無いソウ。

目の前には今回のオペレーション最大の目的であるブルナ。
ここに味方はいない。

討ち死に覚悟で戦うか・・
自分が無駄に死んでもソウは助からない。

「誰か助けて・・・」

エリカは思わず口にした。

『了解しました。』

エリカのインカムから女性の声がした。
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