異世界修学旅行で人狼になりました。

ていぞう

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第五章 獣人国編

第120話 読心スキルが必要なのか?

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ジュベル国の宿でこの国の王族レギラと一悶着あった後、自室にいたところドルムさんからの呼び出しがあった。

どうやらゲラニ側で何か問題が発生したらしい。
俺がキューブに戻るとそこにはブンザさんが居た。
ブンザさんの表情は少し曇っているように見える。

「ブンザさん。お久しぶりです。」

「シン相談役、お久しぶりです。お呼び立てして申し訳ございません。」

「いえ、ブンザさんのご用ならいつでも飛んできますよ。」

俺はにこやかに答えた。
ブンザさんの表情がいくらか和らいだ。

「今日お呼び立てしたのはシン相談役にお知らせしたいことがいくつかございまして・・」

「ブンザさん。」

「はい?」

「俺は確かにキノクニ相談役のシンですが、ここに居る時、仲間内では『ソウ』と呼んで下さいませんか。その方が落ち着きます。」

「・・・実はそのこともお知らせしたいことの一つでして・・」

「え?」

「元々ソウ様は殺人の濡れ衣を着せられているからという理由で偽名を名乗ってもらい、いずれはその汚名も返上させてあげます。とラジエル侯爵とも話し合いが付いていましたよね。」

「そうですね。『真偽判定』の裁判官に判定してもらうとのことでしたよね。」

「実は・・それが出来なくなりそうで・・ソウ様は先日ソウ・ホンダ名義でキノクニから大量の物資を購入なされました。その搬送先についてはキノクニは関与しないという体で。ところが、その物資の一部が敵国、ジュベル国の村で大量に発見されたのです。」

俺は嫌な予感がした。
ネリア村?

「先日ゲラン軍の先遣隊がジュベル国の村を攻撃した後、その村の倉庫からキノクニが販売した大量の物資が見つかったそうです。そしてその村の村長に出所を尋問したところ、ソウ・ホンダという獣人が施した物資だということが判明しました。ですからもしソウ・ホンダとシン相談役が同一人物だと特定されるとなんとも難しい事に・・・」

つまりソウ・ホンダとキノクニシン相談役が同一人物だとばれると、俺はもちろんのことキノクニまで反逆罪に問われるかも知れない。

したがって俺の殺人罪の汚名を雪ぐ裁判=ソウとシンが同一人物だという証明になってしまうから、それは出来ない。
ということだ。

「わかりました。俺の裁判の件は全く問題ないです。今まで通りでかまいません。それより今回の件でキノクニやラジエル侯爵にご迷惑をおかけしたのでは無いですか?そっちの方が問題だ。」

「いえ、今のところは問題ないです。あくまでキノクニは、ソウ・ホンダという人物と正規の商売をしただけで、ちゃんと伝票も残っていますから心配ないです。ソウ様はこのことを予想してシン相談役としてではなく、ソウ・ホンダとして伝票を残すように指示されたのですね。」

ゲラン国の食料や物資を敵国であるジュベル国に持ち込むのは明らかに反逆罪だ。

だから俺はキノクニに迷惑をかけないようソウ・ホンダの名前で伝票を残したのだ。

それでも内々では俺のしたことがばれてしまっている。
キノクニやラジエル侯爵には絶対に迷惑をかけてはいけない。

「ええ、黙っていてすみません。どうしても物資が必要だったし話せば余計に迷惑をおかけすることになると思いました。」

「いえ。かまいません。ソウ様が何をなされても私は信用します。大丈夫ですよ。」

ブンザさんは俺に対して相変わらず優しい。
俺に血の繋がった姉は居ないが、ブンザさんは俺の姉のような存在だ。

「ありがとうございます。」

俺は深々と頭を下げた。
俺と一緒に居たピンターやテルマさんドランゴさんも一緒に頭を下げた。
ブンザさんが笑顔になった。

「ドランゴ、お前まで・・・ハハハ」

「あ。ついついワッシもアハハ」

暗かった雰囲気が明るくなった。

「ところで、物資が発見された場所はネリア村でしょうか?」

「ええ、そう聞いています。なんでも先遣隊が少数で大勝利を収めたとかで敵軍を壊滅させたという噂です。」

ネリア村に守備隊は居ない。
せいぜい村の大人が門番をしているくらいのものだ。
村人は全滅したかもしれない。

ルチアを悲しませたくない。
一度様子を見に行こう。

「それと、もう一つお知らせが・・」

「はい。」

「ソウ様がお探しだったブルナさん、それにソウ様の同郷の皆様の件、キノクニ情報部がつきとめました。ハットリ部長を初めエリカさんも積極的に動いてくれたようです。」

俺はハットリ部長に俺の同級生やピンターの家族の捜索をお願いしていた。
その結果が出たようだ。

ブンザさんがピンターを見た。

「まず、ピンターちゃんの家族。ブラニさん、ラマさんは未だ行方が知れませんがクチル島に帰っていないということはわかっています。お姉さんのブルナさんについては、現在第3師団、第二大隊奴隷歩兵として国境へ向けて移動中です。明日か明後日にはセプタ手前の街バルチに到着するでしょう。」

ピンターの目が輝いた。
俺の手を握りしめる。

(わかっているよ。ピンター)

バルチはキノクニ情報部員エリカの故郷だ。
俺もエリカと共に訪れたことがある。

「そしてソウ様の元々のお仲間は、いくつかのグループに分かれています。女性達のグループは一名の方を除いて、引率の方と共にこの街の修道院においでです。

男性陣は、ほとんどの方が前線に赴いています。つまり今はセプタにいるということですね。その前線にご指名のヒナ・カワセという女性も居るそうです。詳し事はわかりませんが、ヒナ・カワセは戦犯として兵役を課せられているそうです。」

女生徒はキヨちゃんと一緒に居るのだろう。
放っておいても危険はないな。

ヒナが戦犯ということには少し心あたりがあった。
ブテラを脱出するとき、ヒナが俺を信用する。この場は危ないから逃げてと言ったことを覚えて居る。

そのことが関係しているかも知れない。
それにしても無事なのがわかって少し安心した。
イツキとレンはどうしているだろう。

「ブンザさん。セプタ派遣の兵士にレンとイツキという名前はなかったですか?」

「ちょっと待って下さい。」

ブンザさんは懐からなにやら書類を取り出して俺に差し出した。

「これが調査結果をまとめた書類です。ごらんになってください。」

ブンザさんから渡された書類には俺の同郷者の名前とピンターの家族の名前が一覧表になっていた。

以前俺がハットリ部長に渡した名簿の写しだ。
その名前の横にはそれぞれの現在の状況が書かれている。
ヒナは第二師団所属の看護兵で現在地はセプタとなっている。
イツキとレンもヒナと同じ場所に居る。

少し気になったのはアキトが中佐の階級、リュウヤが少佐の階級、つまりゲラン軍の幹部将校としてセプタに居ることだ。

キヨちゃん達女性は修道院。
ウタもここにいる。

そして名前の横の情報欄が空欄なのはピンターの両親と木村先生、それにCAの前田さんと鈴木さんだ。

不時着当時のことが遙か昔のように思えるがまだ1年しか経っていないのだ。

「ありがとうございます。この書類もらっていいですか?」

「ええ、どうぞ。それでソウ様はこれからどうなされます?」

「具体的な行動予定は立っていませんが、当面の目標は戦争回避です。なんとかゲランとジュベルの戦争を止めてみます。」

そういうとピンターがチラリと不安げな視線を俺に送った。

「あっと、その前に最速でブルナを救出します。今の一番の目標はブルナ救出、その次におれの友達の救出。そして戦争回避。この順で動くつもりです。」

ピンターが俺の手を再度強く握った。

「お言葉ですがソウ様、戦争回避といっても既に宣戦布告が済んで今はもう戦争中ですよ?」

「わかっています。言葉足らずでしたね。戦争回避というよりも戦闘回避、つまり両軍に被害が出ないように動くつもりです。難しいのはわかっています。

しかしゲランもジュベルも、より大きな敵に踊らされていることがわかれば無益な血を流さないで済むかも知れません。無駄に終わるかも知れませんが動けるだけ動いてみます。」

「より大きな敵というのは?」

もちろんヒュドラ教のことだが、今はまだ口に出せない。
何も証拠が無いのだ。

「今はまだ言えません。でもこの国や周囲の国を巻き込んで大きな犠牲をだそうとしている勢力があるのは間違いないです。」


忙しくなってきた。
今から俺がなすべきこと。

1 ブルナ救出
2 ヒナ達の救出
3 ライジン将軍の帰りを待ってからルチアの追跡
4 ゲラン軍とジュベル軍の大規模戦闘の回避。

いうまでもなく1,2、3が優先。
とりあえずブルナ救出が一番早くできそうなので順位を1位にしたが重要度は2も3も同じだ。

俺はブンザさんと分かれてから一度オラベルに戻り、ガラクから新しい情報が無いか確認した後、ガラクに改めて留守番を依頼した。

ガラクに使用権を付与したゲートを託し、緊急事態があればキューブで待機しているドルムさんに連絡するように手配した。

ブルナ救出の為に一人でバルチへ行こうかとも思ったが、何かの為に連絡要員が必要だと考えエリカを頼ることにした。
エリカはバルチ出身のキノクニ情報部員だ。

ハットリ部長にお願いすると気軽に応じてくれた。

俺はエリカをキューブまで呼び寄せた。

「ソウ様・・・」

「おうエリカ久しぶり」

なぜだかエリカは頬を赤らめている。
相変わらずエリカは美しい。
金髪で青い目、鼻筋が通っていて薄いが弾力のある唇。

以前より髪の毛が短いような気がする。

「髪の毛切ったの?よく似合っているよ。」

俺は社交辞令でそういった。

「ありがとうございます。」

エリカはそう言って下を向いた。
エリカから何か熱気のようなものを感じる。
気のせいだろうか?

「ところでエリカ、今回も手助けをお願いしたい。」

「はい。なんなりと。身命を賭して働きます。」

いやいや命かけるほどの仕事じゃ無いから・・・

「あ、そんなに力まなくていいよ。バルチへ行くから・・その以前のように道案内とか情報収集をお願いしたいんだ。」

「はい。お供します。」

「今回は急ぐから俺が先にバルチへ行って、その後ゲートを開くからエリカに合流してもらう。」

「私だけ後からと言うのは・・・足手まといでしょうか?」

「いや、そうは言わないが、今の俺に付いてこれる生物は居ないと思う。」

俺はエリカの目の前で獣王化した。
何の能力のない者でも獣王化した俺を見ればある程度、俺の能力を察することができるだろう。

自分で言うのもなんだが俺の見た目は『神々しい』という表現がふさわしい。
銀色のタテガミ、鋭く光る金色の目体中が淡く青い光に包まれている。

エリカは言葉を失った。

「ね?ほとんど人間じゃ無いでしょ。でも俺は俺だから嫌わないでね。ふふ」

俺は獣王化したままエリカに微笑みかけた。
エリカは少し慌てたそぶりを見せた。

「嫌いだなんて!とんでもないです。益々・・・そのぅ・・益々・・」

「ん?」

エリカの態度がいつになくはっきりしない。
何かを言いたそうだが、何を言いたいのか俺にはわからない。

「あ、いや、よくわかりました。ここで指示をお待ちします。」

ブォーン

突然タイチさんが現れた。

「馬鹿たれソウ。お前には読心のスキルが必要だな。ほんと・・」

「え?なんですタイチさん。」

「なんでもねぇよ。馬鹿ソウ」

タイチさんは何を怒っているのだろう?
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