異世界修学旅行で人狼になりました。

ていぞう

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第五章 獣人国編

第118話 レギラ ライベル領主

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俺達はセプタ蹂躙の理由を知る為、またルチアの安全を確認するためライジン将軍を追って、ここオラベルの街まで来た。

ところが出迎えたセトの話では最後のセプタ攻撃はジュベル国の意思では無くエレイナの勝手な行動によるものであり、そのエレイナは逃亡してここにはいないとのこと。

それどころか王家に帰すはずのルチアがさらわれてしまったとのことだった。

俺は後悔した。
ルチアの幸せのためとはいえ、ルチアをジュベル軍に渡してしまったことを。

こうなるとわかっていれば当然ルチアを引き渡すことはしなかったし、もっと慎重に考えて俺自身がライベルまで送り届ければ良かったと。

セトの世話してくれた宿で待機してもう5日になるが、ライジンからの連絡は無い。
俺自身がラーシャまで出向いてルチアを探したいのはやまやまだが、俺達がラーシャに出向いてもできることは限られている。

またセトに言われたとおり、ラーシャとジュベルは停戦中だが元々敵対関係にあり、ジュベル王家の問題でラーシャ国をかき回せばそれだけで戦争になりかねない。

だからここはセトのいうとおりライジン将軍の帰りを待つしかないのだ。

おそらく俺の助けを待っているルチア、それに対して何も出来ない俺に歯がゆさを感じていた。

「ソウ。イライラするのはわかるが、毎日そんな顔でメシ食うなよ。こっちのメシまでまずくなりそうだ。」

ガラクが不機嫌に言う。

俺達はセトが世話してくれた宿でセト達からの連絡を受けるため交代で待機している。

俺も時々はキューブへ帰るが、ピンターやテルマさんに不機嫌な顔を見せたくないし、いち早く報告を受けたかったので、この宿に待機しているのだ。

「そんなに不機嫌に見えるか?」

「ああ、不機嫌どころか怒っている。お前は気がつかないかも知れないが、お前から漏れる怒気を感じて、この宿に居る虫やネズミはとうに引っ越したぞ。」

俺が本気で怒気を放てば、比喩で無くて草木は物理的に揺れるし小動物はその場から逃げ出す。

「そんなにか?」

「ああ、そんなにだ。」

ガラクと宿の食堂で会話をしていると、ドヤドヤと兵士の一団が入ってきた。
指揮官らしい熊族らしい男が食堂内を見回して言った。

「ここにソウ・ホンダはおるか?」

兵士達は武装している。
セトからの迎えなら平服の兵士か民間人が来るはずだ。
また何かトラブルに巻き込まれそうな気がする・・・

「ソウは俺だ。何の用だ?セトの使いか?」

俺がそう答えるとガラクが、席から立っていつでも動けるような姿勢になった。
指揮官が俺の声に反応した。

「セト大隊長の使いではない。俺達はレギラ様の親衛隊だ。レギラ様の元へ出頭せよ。」

レギラと言えば俺が流行病を鎮圧したライベルの領主、獅子王の末の弟だ。

「レギラが俺に何の用だ。」

「行けばわかる。」

「じゃ、行かない。」

指揮官は怒ったようだ。

「何だと!!今、なんと申した。」

「行かないと言ったんだ。獣人なのに耳が遠いんだな。」

指揮官は顔を真っ赤にした。

「レギラ様の申しつけだぞ!王族に逆らうのか?」

俺は、ここ数日いらだっている。
一刻も早くセトからの報告を受けたいから、ここを離れたくも無いのだ。

「王族の命令か何か知らないね。この国は強さが全てだろ?どうしても俺を動かしたければ、その剣で動かしてみろよ。」

普段の俺ならそんなことは言わない。
できるだけ、ことを穏便にすませるはずだ。
しかし、俺は、過去ジュベル国には何度か裏切られている。
そのことが心のどこかにあって、ジュベル国兵士が強面で俺を動かそうとする試みには大きく反発したくなるのだ。

そのことをガラクも察していて、「やれやれ」と言った顔をしている。

「言ったな。その言葉忘れるなよ。」

指揮官は部下に目線を送った。
部下5名は抜剣した。

しょうがないな。
という表情でガラクが動いた。

「おい。お前等、レギラ様の親衛隊だと言ったな。親衛隊と言っても獅子王様の部下には違いないだろうが。」

指揮官が胸を張って答える。

「あたりまえだろうが。我々はジュベル国兵士、獅子王様の兵隊だ。」

「だったら、なぜ獅子王様の名を汚すようなことをする?」

「なんのことだ?」

「ここにいるソウ・ホンダと俺はセト大隊長から『ジュベル国の名において、二人の身の安全は保証する。』と言われている。ジュベル国の名においてということは獅子王様の名においてということじゃないのか?それともセトは嘘つきなのか?」

兵士達は顔を見合わせている。
指揮官は少し困ったような顔をしたがガラクの言葉では引かなかった。

「詭弁を申すな。だいたいお前は誰だ。何を偉そうにセト大隊長を呼び捨てにする。」

「俺か?俺はガラクという平民だ。セトとは長い付き合いでな。呼び捨てにしてもあいつは怒らんよ。」

指揮官の顔色が変わった。

「ガラク?・・・・もしかしてあの三大英雄のガラク様?」

「昔、そんな二つ名で呼ばれたこともあったな。・・」

三大英雄、その言葉が出た途端に兵士達の背筋がピーンと伸びた。

「これは、・・・ガラク様。あなた様とは知らず。まことに失礼なことを・・平に平にご容赦下さい。」

指揮官はガラクに対して敬礼した。
部下達も指揮官にならった。

「俺は、今平民だ。敬礼なんていらねぇよ。俺よりこのソウ・ホンダ殿に謝罪しろ。食事中に非礼を働いたんだから。」

指揮官は言葉に詰まった。

「その、あの・・この方とガラク様はどのようなご関係で。」

「このソウ・ホンダに俺は命の借りがある。だからそれを返すまで俺が勝手につきまとっているのさ。」

俺はガラクの事をなんとなく気にいって、なんとなく仲間になったような気がしていた。
ガラクの方もそうだと思っていたが、ガラクの本心は「命の借りを返す。」というところにあるようだ。

それでも俺は知っている。
ガラクがキューブでテルマさんの料理を食べ仲間と笑っている時、とても幸せそうな表情を見せることを。

「そうでしたか。・・・・ソウ・ホンダ殿、先程の失礼な態度をお詫びいたします。」

俺のつれがガラクだと知れると兵士達の態度は一変した。

「そこで、そのう。命令では無くてお願いです。一度宮中へおいでていただいてレギラ様と面会してはいただけませんでしょうか?」

「だから、だめだって。俺はここに居なければならない。ここを離れるわけにはいかないんだ。どうしても用があるならレギラの方から来いと言っておいてくれ。」

「そんなぁ・・」

「ソウが駄目だというのなら駄目だな。あきらめてありのままをレギラ様に報告しろ。それしかないぜ。」

ガラクがそういうと兵士達は諦めて宿の外へ出た。
兵士達が外へ出る姿を見ながらガラクに言った。

「三大英雄って便利だな。」

「からかうな。」

兵士達が帰って行った後、俺は朝食を済ませて自室へ戻った。
昼前に二階の部屋でゴロゴロしていたところ、階下が騒がしくなった。

「ソウ・ホンダ!出てこい!! ソウ・ホンダはどこだ?」

町中に響き渡るような大声だ。

「出てこい。ソウ!逃げたか?そうか、そうか逃げたか腰抜け野郎!!」

逃げたも何も大声の主が宿に入ってきて何秒も経っていない。
声の主は、ものすごく気が短いか馬鹿なのか?

俺が部屋を出て階下に下りる間も男は叫び続けている。

「腰抜けソウはどこ行った?腰抜けソウは逃げ隠れ。アハハ」

ガラクは出てこない。
どこかへ出かけているのかも知れない。

俺はいつものとおり獣人Ⅱの姿で階下へ降りた。

階下には朝、俺を迎えに来た兵士達が声の主のまわりでオロオロしている。

「どうか、おやめ下さい。レギラ様。王家の品位が・・・」

「やかましい。これほどコケにされて落ち着いていられるか。俺が呼びつけたのに用があったらそっちから来いだと?馬鹿にしやがって。上等じゃねぇか。こっちから来てやったわ。

むかつく!!セトやガラクの知り合いか何かしらんが、そんなの関係ない。俺自身の問題だ。セトやガラクが敵に回るなら、それはそれでいいさ。俺がこの拳で制裁してやる。」

声の主は身長2メートルほどの大男で、髪の毛は燃えるように赤く腰に届くほど長い。

顔立ちは西洋風で少し角張っている。
体型は筋骨隆々といった感じだ。
動きやすそうで上等そうな服を着ているが武装はしていない。

兵士達はその男を「レギラ様」と呼んでいる。
この男がライベルの領主で獅子王の弟「レギラ」本人なのだろう。

俺は無言でレギラに近づいた。

レギラが俺に気がつく。
レギラの目は髪の毛と同じように赤く、目の奥底に怒りが見える。

「お前か?」

「ああ、俺がソウ・ホンダだ。何か用・・」

俺の言葉が終わらぬうちにレギラの鉄拳が飛んできた。
俺はまだ戦闘モードでは無かったので警戒を怠っていた。
いきなりの拳を顔面にまともに受けてしまったが、堅固のスキルは間に合って大ダメージをくらうことはなかった。

それでも拳の勢いはすさまじく体は吹き飛ばされた。
俺は空中で一回転して宿屋の壁を蹴り、その勢いのまま自分の拳をレギラの腹に一発お見舞いした。

もちろん死なない程度に手加減はしてある。
ここでジュベル国王の弟を殺すわけにはいかない。
手加減をしたものの気絶くらいはさせる勢いで殴ったが意外なことにレギラは苦悶の表情を浮かべながらもその場に踏みとどまった。

「ぐぅぅ。いてえな、このヤロウ!!」

レギラは左ジャブ、右ストレート、前蹴りを繰り出すが、俺はすでに戦闘モードに入っていてガラクからコピーした「未来予測」のスキルも使っているのでレギラの攻撃が俺に当たることは無い。

俺がレギラの攻撃をかわし続けているとレギラは焦ってきたようだ。

「なんだこのクソ野郎。逃げ回るだけか?ああ、クソネズミが。手も足もでねぇのか?ああ?」

挑発に乗ったわけでは無いが、このまままではいつまでも終わらないので、右足にローキックを見舞い。
ボディに最初より少し強めのパンチを撃った。

レギラはその場に崩れたが苦悶の表情を浮かべながらも攻撃を止めようとしなかった。

「おい。俺を殺す覚悟はあるのか?俺は殺されない限り攻撃を止めないぞ。このクソヤロウ。俺の大事なライベルを無茶苦茶にしやがって。このゲスヤロウ!!かかって来やがれ。」

(ライベルを無茶苦茶にした?何のことだろう。)

俺は攻撃の手を止めた。

「おい。ライベルを無茶苦茶にしたって、何の事だ?」

レギラは攻撃をしながら言った。

「なにをすっとぼげていやがる。お前はソウ・ホンダだろうが?」

「ああ、確かに俺はソウ・ホンダだ。それが?」

「まだとぼけやがるか。このクソ野郎。それなら本気で成敗してくれるわ。」

周囲の兵士達が慌てふためいた。

「おやめ下さい。レギラ様、おやめ下さい。本当に、街が壊れます。」

「やかましい。お前等がこいつを連れてこなかったからこうなったんじゃないか。俺は大人しく話をしようとしただけなのに。それをこいつは!!自分でこいだと!!許せん。」

(何が大人しくだよ。いきなり殴りやがったくせに)

レギラは攻撃をしながら服を脱いだ。
何をするかと思えば獣化を始めたのだ。
ライオンの獣人だ。

鑑定をしなくても見ただけで人の姿でいる時の数倍の戦闘力があるようだ。
俺の獣人Ⅱくらいの戦闘力があるかもしれない。

俺もレギラの攻撃に備えて獣王化しようとした時。

「若、止めて下さい。」

セトが宿屋に入ってきた。
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