異世界修学旅行で人狼になりました。

ていぞう

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第五章 獣人国編

第113話 ゲラン国軍人 特殊任務

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ヒナはゲラン国軍第二師団の看護兵としてセプタの街に来ていた。
セプタの街の病院で重度の火傷で苦しんでいた女の子をヒールしたところ、ほぼ完全な形で治癒することができた。

その結果に不信感をいだいた現場の医師の要請により他の患者の治療を現場の医師の面前で行うことになった。

ヒナは大部屋に居る5人の患者の治療をヒナの固有スキル『範囲ヒール』で行った。
ゲラン国にヒナのような『再生』や『範囲ヒール』のスキルを持つ者は居ない。

ヒナの治療スキルは日に日に成長している。

「これは・・・」

現地の医師ヘズナとラナガは目を見開いて驚いている。
ヘズナが一人の患者を診察した。

「ケロイドが無くなっている。・・・」

ラナガが他の患者を診る。

「ヘズナ先生、こちらの患者もです・・・」

ヒナが治療した患者は最初に治療した女の子ほどではないが、いずれも火傷の後遺症に苦しんでいる者達ばかりだった。

それがヒナの範囲ヒールにより、ケロイドが無くなりほぼ完全体に戻っているのだ。

ヘズナがヒナに詰め寄る。

「今、何をした?ほぼ完全に治癒している。こんな、こんなことがありえるのか?わしらが一月かかって出来なかったことを、お前は一瞬で成し遂げたというのか?お前は何者だ?」


ヒナは

(私は日本から来た高校生です。)

と言いたかったが、それを我慢して

「ヒールの加護を施しました。私はゲラン国軍第二師団第一大隊二等陸士、看護兵ヒナ・カワセです。」

と答えた。
ヘズナはヒナの返答に少しいらだって声を大きくした。

「そんなことを聞いているのじゃ無い。」

ヒナもヘズナの大声に少し腹を立てた。

(そんなことを訪ねたでしょ!)

「では、何をお答えすれば?」

「わしが聞いておるのは、この治療結果じゃ。今わしには伝説の加護『範囲ヒール』を行ったように見えたのじゃが。お前は範囲ヒールを行ったのか?」

「はい。」

「なんと・・範囲ヒール・・・実在するのか・・・」

ヘズナは言葉を失った。
ラナガがヒナに歩み寄った。

「ヒナさんと言いましたね、貴方それほどの力を持ちながら・・・失礼な言い方かも知れませんが、なぜ二等陸士なのでしょう。」

ヒナは以前ソウを助けたという理由で軍事裁判にかけられ、有罪判決を受け10年間の兵役を課せられていた。
この世界では前科者なのだ。

「・・・私が元犯罪者だからです。利敵行為という罪で10年の兵役を課せられています。」

ヒナは前科者という烙印を重荷に感じてはいたが、それを恥じては居なかった。
自分の幼なじみで今では恋愛感情さへ抱いているソウを助けたことに罪悪感は、さらさらなかった。

前科者と聞いてヘズナもラナガ少したじろいだ。

「前科者で二等兵が伝説級の加護『範囲ヒール』を持つとは驚きじゃな。・・・で、何をしでかしたんじゃ?」

ヒナの前科と患者の治療は何の関係性も無い。
ヒナは最初からヘズナの態度が気に入らなかった。

「その質問への返答は命令ですか?」

ヘズナは少しうろたえた。

「いや、命令では無い。答えたくなければ答えなくてよろしい。そもそもわしにはお前に対する命令権などないからの」

ヘズナはあっさりと引き下がった。
ガラナはヒナとヘズナのやりとりを横耳で聴きながら女の子や他の患者の治療結果を熱心に見ていた。

「ヘズナ先生、患者を詳しく診てみましたが、これは伝説級どころではありませんよ。ほとんどの患者の壊死した部分が元に戻って居ます。神話に出てくる『再生』の加護が施されたようです。」

ゲラン国の医師の間にはヒールの上級加護『範囲ヒール』『再生』そして更に上位の『蘇生』があると語り継がれている。

範囲ヒールと再生は医学書にも記載されており、過去に実在した加護と言うことははっきりしている。
しかし今現在、その二つの加護を持つ者はゲランには存在しない。

蘇生は死者をも蘇らせる加護だが、それが実在したどうかは判明していない。
唯一ヒュドラ教の経典に、いずれ『蘇生』を持つ人物が現れ、ヒュドラを復活させるという記載があるのみだ。

その神話級の加護をヒナは二つ持っているということだ。
医学関係者ならヒナの治療結果に驚くのは当然だ。
しかもヒナは少女で二等兵。
おまけに前科者だというのだ。

「ヒナさん、貴方の過去のことはどうでもいいこと、今大切なのは貴方が神話級の加護をもっているということだ。私からお願いする。この街には未だ怪我で苦しんでいる人が大勢居る。私やヘズナ先生を手伝ってくれないか?」

「もちろん、こちらからもお願いします。でも一つ問題が・・」

「何です?」

「私には、ほとんど自由時間がありません。今も買い出しの途中、この病院に立ち寄りました。先ほど話したとおり私は前科者で行動を制限されているんです。この後もすぐに大隊長の元へ行かなければならないんです。」

「大隊長の元へ何をしに?」

「・・・マッサージです。毎日3時間・・・」

ヘズナがヒナを見た。

「なんと、なんと愚かな・・こんな有益な人材を自分の楽しみのためだけに独占するとは。だから兵隊は嫌いなんじゃ。」

ヘズナは軍人が嫌いなようだ。

「わかりました。大隊長には私が話をつけましょう。私は医師ですがある程度の政治的発言力もあります。ヒナさんの力をマッサージだけに用いるなんて、もったいなさすぎます。いいですよね?ヘズナ先生」

「ああ、患者を救うのなら、その人が兵隊じゃろうが犯罪者じゃろうが、そんなことはどうでもよいことじゃ。」

ヒナは思った。

(この人、そんなに悪い人じゃ無いかも)

セプタにはヒナと同じ第二師団に所属するアキトとリュウヤも到着していた。

アキトとリュウヤは軍事訓練所を卒業すると同時に、軍内部での昇級を果たしていた。

両名共に戦闘スキルが著しく向上していたからだ。

アキトは魔法も体術もゲランでは最上位クラス、リュウヤは体術がアキトをしのぐ程のレベルに達していた。

その事とヘレナの推薦もあってアキトは中佐、リュウヤは少佐となっていた。

大隊長の階級が大佐なので、アキトは中隊長、リュウヤは小隊長といったレベルだ。

階級は中隊長、小隊長クラスだが、二人が若いことと、軍務経験に乏しいことから直接の部下は持っていなかった。

「リュウヤ君、大隊長がお呼びだってさ。」

アキトがリュウヤに声をかけた。
二人とも髪を短くして軍服を着ている。

「なんだろうな?」

「さぁね。何か特別任務でもあるんじゃないの?」

二人とも身なりを整えて大隊長がいるテントに入る。

「アキト入ります。」

「リュウヤ入ります。」

二人はカツンと軍靴のかかとをそろえて敬礼をした。
教育とは恐ろしいもので訓練所の軍事教育と入隊後の軍事訓練を繰り返すうち、日本人のアキトもリュウヤも軍隊の規律に慣れてしまっていた。

違う言い方をすれば、軍隊の礼式を実行しなければ生きていけない境遇なのだ。

「ああご苦労様です。入って下さい。」

アキト達が所属する第二師団第三大隊の大隊長はミハイルと言い、少年といってもいいほど顔に幼さが残る銀髪の男だ。

「貴方達のことヘレナさんからよく聞いています。すばらしい加護をお持ちだそうですね。」

アキトが返答した。

「ヒュドラ様の教えに従っていると、いつの間にか強くなりました。」

内心そんなことは思ってもおらず、自分の天分だと信じているのだが、大隊長はヒュドラ教国から派遣された人物だとアキトは知っていた。

長いものには巻かれろ、利用できる者はだれでも使い、有利に立ち回れというのがアキトの信条だった。

ミハイルは軽く手を叩きながら微笑み

「良い答えです。」

と言った。

「ところで、あなた方をお呼びしたのは特殊任務を下命したかったからです。」

アキトとリュウヤが背筋を伸ばした。
もうすっかりゲラン国軍人だ。

「命令内容は、さほど難しいものではないです。セプタの街から北に約100キロの位置、ベルヌ山を越えた場所にネリア村という獣どもの村がある。一度壊滅に近いほど攻撃したが、斥候によると、なぜだか今は完全に復興しているといいます。

ネリア村だけに限らず、ネリア村周囲の集落も潤っているという。その原因を調査してきていただきたい。本格的な侵攻まで後一月を切った。我が軍の不安要素をあらかじめ把握したいのです。」

アキトが一歩前に出た。

「わかりました。お引き受けいたします。何点かお伺いしてよろしいでしょうか?」

ミハイルは座ったまま答えた。

「どうぞ。」

「まず一点目は言葉の問題。通訳は同行できますか?」

「ええ、見かけは醜い獣ですが、獣言葉とゲラン語を話せる者を同行させます。」

「ありがとうございます。もう一点は現地人に対する攻撃許可をいただけるか。ということです。」

ミハイルは、にやりと笑った。

「もちろんですよ。今は獣との戦争のただ中です。好きなだけ殺して下さい。」

アキトもにやりと笑った。
アキトが心にも無くゲラン軍に従順なのは目的があったからだ。
アキトは日本人、いくら強くてもこの国においては地位も財産も無い。

そこで軍事的に出世してこの国に基盤を作り、今あるスキルを最大限利用して思うがままの生活をしてやろうと企んでいるのだ。
地位が無ければブテラ領主の娘レイシアに近づいても何の意味もなさない。

アキトは日本に未練がなかった。
日本ではいくら努力しても平凡な人生だろう。
しかし、この世界では類い希な加護の持ち主。
望めば一国の独裁者にもなれるかもしれない。
いや世界を手中に納めることが出来るかも知れない。

昔話に出てくるハーレムを夢に見ていた。
アキトの原点はそこにある。

ミハイルが

「好きなだけ殺して下さい。」

と言った時、リュウヤの表情が少し曇った。
リュウヤはアキトと違い、日本へ帰ることを諦めていなかった。

だから生活のため軍人になったとは言え、その中身は未だ高校生だ。

不良だが殺人を犯す度胸はなかった。
自分が獣とは言え人間に近い生物を殺すことができるのか、自問自答してた。

ミハイルは、その不安そうな表情を見逃さなかった。

「おや、リュウヤさん。なにかご不満がおありかな?」

リュウヤはミハイルの言葉で現実に引き戻された。

「いえ、何も。ご期待に添うよう努力いたします。」

「では明朝出発して下さい。偵察ですから一個分隊、通訳を入れて13名での出撃を命じます。」

アキトとリュウヤは軍靴のかかとを揃えて打ち鳴らし敬礼をした。
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