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第五章 獣人国編
第112話 神話級の加護 「再生」
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ライベル城内の井戸で定期的に水銀を排出する装置を発見した。
その装置を仕掛けたのはライジン将軍が連れていたドラゴン使いのエレイナだった。
そのことをサルディアに伝えたが、ヌーレイからは何の反応もなかった。
ただ、俺がサルディアに告げたように中庭の井戸水は無料で住民達に配られるようになった。
ヌーレイが毒水を住民達に有料で配布していたことは明らかになったが箝口令がしかれたのだろう、住民の間で大きな問題とはならなかった。
ヌーレイの汚職については、他国人の俺が騒ぎ立てることも無い。
この街の問題だ。
俺達は治安がある程度安定したのを見届けてライベルを後にし、ルチアを追いかけることにした。
ライベルの街の出口には沢山の人が集まっている。
俺たちの見送りにきてくれた人々だ。
レンヤ一家とライチ、シゲル一家、ロダン商工会長、ルステ小隊長、ガラクそして俺が治療した沢山の住民、兵士、貴族。
ロダン会長が一歩前へ出た。
「ソウ様、この度はひとかたならぬお世話をいただきまして、まことにありがとうございました。住民を代表して心からお礼申し上げます。」
「いいですよ。元々はライチとその親族を助けようとしただけのこと、ちょっとその範囲が広がっただけですからね。」
レンヤとシゲルが頭を下げた。
「ソウ様のことは一生忘れないだによ。」
「そうでぶ。ソウ様のことは末代まで語り継ぐでぶよ。」
ライチがピンターに近寄った。
「ピンターちゃん。また会えるかな?」
ピンターが俺を見上げる。
俺はライチの頭をなでた。
「ああ、会えるさ。問題が解決できれば、またこの街に戻ってくるよ。」
ピンターが嬉しそうに俺の手を強く握った。
「ライチちゃん、ソウ兄ちゃんは約束を破らないよ。また遊ぼうね。」
「うん。」
俺は手を振りライベルの人々に別れを告げた。
歩いて門を出たが人々は手を振るのを止めない。
中にはひざまずいて俺に向かい祈りをささげる人も居る。
俺を見送る人々の姿が見えなくなるところまで来た時に後ろを振り返ると、俺たちの最後尾にガラクが居た。
「ガラク、見送りありがとう。ここいらでいいよ。」
ガラクは黙っている。
少し進んでからもう一度、振り返ったがやはりガラクが最後尾を付いて来ている。
「どうした、ガラク。見送りはこの辺でいいよ。」
ガラクは黙っている。
その様子を見ていたドルムさんがガラクに声をかけた。
「ガラク、ライベルに身よりはいるか?」
「いない。」
「職はあるか?」
「ない。」
「メシはあるか?」
「ない。」
「俺たちと一緒に晩飯くうか?」
「ああ」
「仲間になりたいか?」
「皆が良ければ・・」
何も語る必要はないな。
森に隠してあったウルフに全員で乗り込んだ。
次の目的地はルチア達がいるであろうジュベル国首都、オラベルだ。
ソウ達一行がライベルの街を出た頃、ヒナ達が所属するゲラン国軍第二師団はドラゴンによって蹂躙されたセプタの街に到着していた。
セプタの街はある程度復興していたがドラゴンのブレスによって焼き払われた街の一部はガレキのまま放置されていた。
ドラゴンのブレスにより死傷者が多く出て、怪我人の一部は未だに苦しんでいる。
ヒナは病院の治療室に居た。
病院内にはブレスによって大やけどを負い、身動きできない者もいた。
その患者の周りを医師と看護師がせわしなく動いている。
ヒナは看護師を引き連れた中年の医師を呼び止めた。
「第二師団第一大隊看護班のヒナと申します。看護のお手伝いをしてもよろしいでしょうか?」
医師はヒナの肩にある階級章を見て。
「二等陸士か・・二等兵ごときが何をしゃしゃり出る。じゃまだから出ていけ。」
その様子を見ていたもう一人の若い医師が
「ヘズナ先生、今は猫の手も借りたいはず。雑用を引き受けてもらいましょうよ。」
と言った。
「ラナガ先生が、そういうのなら別にかまわないが、わしの仕事の邪魔はさせないでくれ。」
と言い残し大部屋を出て行った。
若い医師は、金髪を短く刈り上げ衣服も清潔感を漂わせていた。
いわゆる好青年の見掛けをしている。
「すまないね。悪い人ではないが、彼はこの街の住人でね。多数の犠牲者を出したことでいらだっているようだ。君は看護兵なのだろう?私も忙しくて何の支持もできないが、自分で判断して君のできることをやってくれないか」
「はい。ありがとうございます。できるだけのことをさせてもらいます。」
「私はラナガという。君たちより先に派遣された王宮医師だ。困ったことがあったら頼りなさい。」
「はい。私はヒナと申します。ご親切にありがとうございます。」
ラナガは笑顔を向けたのち、右手を挙げながら大部屋を出て行った。
ヒナは自分のできることを探そうとして大部屋内を見渡した。
大部屋のベッドには5歳くらいの女の子が寝ていて、側には母親であろう女性が女の子の患部をさすって居た。
ヒナが母親の側に来て
「具合はいかがですか?」
と訪ねた。
「見ての通りです。」
と言いながら子供にかかっている毛布をめくった。
女の子は右半身をブレスで焼かれていた。
女の子の頭部右半分は髪の毛が抜け落ち、頭頂部から太ももにかけて、ケロイドで覆われ、生きているのが不思議なほど負傷状態だった。
ヒナの表情が曇った。
「お母さん、私救護兵です。治療を試みても良いですか?」
母親がヒナの顔を見上げる。
「もちろん、お願いします。けれどお医者様は、時間の問題だと・・・」
母親は女子の手を握りながら涙をこぼした。
女の子は、意識が朦朧としているようで、母親が手を握りしめても反応できない。
ヒナはベッドの傍らにひざまずき、目を閉じて精神集中を始めた。
精神集中をしはじめて何秒か過ぎた頃、ヒナの手は薄く、青く光り始め、その光はヒナの全身を包んだ。
ヒナが目を開き、女の子の患部に手をかざすと、ヒナの全身を包む青い光が徐々にヒナの手先に集り初め、ヒナが手先に意識を集中したところ、その青い光が女の子の全身を包み込んだ。
最初に女の子の頭部に変化が現れた。
ケロイドに覆われていた女の子の頭部の皮膚が一部剥がれて再生し、再生された皮膚からは頭髪が生え始めた。
顔を含めた体の右側を覆っていたケロイドが浮き上がり、かさぶたが剝がれるように落ちていきその後にピンク色の真皮が再生した。
時間を置かずピンク色の真皮は左半分の健康な皮膚と同じ色になり産毛が生えた。
母親は目を見開き、その様子を見守っている。
女の子が目を開いた。
「ママ・・」
母親の目から涙がこぼれる。
母親は女の子を抱きしめる。
「リリア・・リリア・・」
母親は女の子の元患部だった部分を撫でまわし
「リリア痛くない?」
と女の子に問いかけた。
女の子は自分の右手を左手で撫でたり自分の頭に手を伸ばして
「痛くないよ。火傷治った?リリアのお顔、きれいになったの?」
と母親に質問した。
母親は泣き笑いで
「ええ、治ったわよ、とても奇麗だわ。」
と再度女の子を抱きしめた。
そして立ち上がりヒナに向かって頭を下げた。
「本当に、本当にありがとうございます。こんな奇跡が起こるなんて・・何かお礼をしたいのですが、家は焼かれてしまい何もお返しすることが・・」
「いえ、私の仕事ですから、お気になさらずに。」
母親は何度も頭を下げている。
ヒナは親子から少し離れて
「ふぅ・・」
とため息をついた。
ヒナの横では同僚のリナルが一部始終を無言で見ていた。
「ヒナさん。驚きだわ。私もヒールの加護を持っているし、他の人がヒールを使っているのを何度も見ているけど、ヒナさんの加護は凄すぎる。
もはやヒールではなくて神話に出てくる『再生』や『蘇生』の加護に近いわね。頭髪や皮膚が再生する加護なんて初めて見たわ。」
ヒナのヒールは成長していた。
鑑定のスキルを持つ者がヒナを鑑定すれば驚くだろう。
ヒナにもう一つのスキルが誕生していた。
それは『ヒール』の上位スキル『再生』だ。
ヒールは主に怪我を治癒したり免疫力抵抗力を高めたりするスキルだが欠損した身体を元に戻すことはできない。
対して『再生』欠落した身体の一部分を元に戻すことができる。
ヒナの『再生』はまだ成長過程にあり、欠落した指や目鼻など大きな部位を元に戻すことはできない。
しかしヒナは今女の子の頭髪や皮膚を『再生』させた。
リナルが言ったように神話級のスキルなのだ。
「リナルさん。そんな大げさな加護ではないわ。私の体調が良い時、ヒールをかけた皮膚組織が生まれ変わることがあるの。意識して行えるわけではないの。」
「それでもすごいわよ。今私この目で見たけど、髪の毛や皮膚が生え変わるなんて驚きよ。」
ヒナとリナルが話し合っていると、先ほどヒナに対し出ていけと怒鳴った医師が巡回に来た。
そして先ほどヒナが治療した女の子を見て驚いている。
「これは、・・何があった?誰かが治療したのか?」
母親がヒナを指さす。
「あの方が・・」
ヘズナがヒナに近づく。
「君があの子を治療したのか?」
「ええヒールを施しました。」
「あれがヒールの加護だというのか?ありえない。あれほどの怪我、重度の熱傷、右半身の皮膚はほとんど壊死していた。それをヒールだけで回復させるなんて、ありえないことだ。何をした?」
「特別な事は何も、いつもより強く念じはしましたけどヒール以外何もしていません。」
医師はヒナの言葉を聞いて怒気を膨らませた。
「そんなはずはない。君は二等陸士だろ?その程度の階級で、ほぼ完全に近い、いやそれ以上の効果をもつヒールの加護を行使できるはずはない。何をしたんだ?何か神器でももっているのか?」
医師は自分が治癒できなかった患者が、ほぼ完全に治癒されているのを見て変なプライドから目の前の現実を受け入れることが出来ないようだ。
患者の母親が見るに見かねて医師に訴えた。
「まことに失礼ですがお医者様、この女性がこの子を治療してくださったことに間違いはございません。私目の前で見ていましたもの。」
「なにかの見間違いではないか?それとも何か特別な道具を使ったのではないか?」
「この方は何の道具も使いませんでした。天に祈りを捧げたら体が光って、この子に手をかざしたらその光がこの子の体に移って、そして・・そして元の健康な体になったのです。」
医師は苦虫をかみつぶしたような顔をしている。
「すると、この二等兵がわしらをも上回る加護の持ち主ということか・・やはり信じられんな。」
中年の医師のそばで、そのやりとりを見ていた若い医師がヒナを見た後、中年の医師に言った。
「ヘズナ先生、私も目の前の出来事が信じられないです。しかしこの看護兵が嘘をつく理由もないでしょうし、なにより患者の母親が証言しているのです。そこでどうでしょうか我々の目の前で治療を実践してもらいましょう。」
「そうじゃのラナガ君。」
若い医師はヒナを見つめた。
「どうかね。同じことをもう一度やってみてはくれまいか」
「いいですよ。どなたを治療すればよろしいのですか?」
「この部屋にはあと5人の患者がいる。どの患者でもよいからヒールを施してくれたまえ」
「はい。」
ヒナは先ほど治療した女の子以外の患者を軽く診察し、部屋の中央にひざまずいた。
ヘズナが不思議そうな顔をしてヒナに声をかけた。
「何をしている。早く治療する患者を選ばぬか。」
「もう選びました。」
「なにを言っておる・・」
その時ラナガがヘズナを制した。
「黙って見守りましょう。」
ラナガが無言でヒナを促した。
ヒナはひざまずいて精神統一をしている。
するとヒナの両腕が淡く光はじめ、その光が徐々にヒナの体をつつんだ。
そしてヒナが両手を上にむけ花束でも投げるようなしぐさをするとヒナの体を包んでいた光が部屋全体に広がった。
そして天から光が降り注ぐように5人の患者に染み込んでいった。
ヒナ固有のスキル『範囲ヒール』だ。
部屋中の患者がベッドから起き上がり、自分の腕や足を見ている。
患者の傷や火傷の跡が消えていた。
その装置を仕掛けたのはライジン将軍が連れていたドラゴン使いのエレイナだった。
そのことをサルディアに伝えたが、ヌーレイからは何の反応もなかった。
ただ、俺がサルディアに告げたように中庭の井戸水は無料で住民達に配られるようになった。
ヌーレイが毒水を住民達に有料で配布していたことは明らかになったが箝口令がしかれたのだろう、住民の間で大きな問題とはならなかった。
ヌーレイの汚職については、他国人の俺が騒ぎ立てることも無い。
この街の問題だ。
俺達は治安がある程度安定したのを見届けてライベルを後にし、ルチアを追いかけることにした。
ライベルの街の出口には沢山の人が集まっている。
俺たちの見送りにきてくれた人々だ。
レンヤ一家とライチ、シゲル一家、ロダン商工会長、ルステ小隊長、ガラクそして俺が治療した沢山の住民、兵士、貴族。
ロダン会長が一歩前へ出た。
「ソウ様、この度はひとかたならぬお世話をいただきまして、まことにありがとうございました。住民を代表して心からお礼申し上げます。」
「いいですよ。元々はライチとその親族を助けようとしただけのこと、ちょっとその範囲が広がっただけですからね。」
レンヤとシゲルが頭を下げた。
「ソウ様のことは一生忘れないだによ。」
「そうでぶ。ソウ様のことは末代まで語り継ぐでぶよ。」
ライチがピンターに近寄った。
「ピンターちゃん。また会えるかな?」
ピンターが俺を見上げる。
俺はライチの頭をなでた。
「ああ、会えるさ。問題が解決できれば、またこの街に戻ってくるよ。」
ピンターが嬉しそうに俺の手を強く握った。
「ライチちゃん、ソウ兄ちゃんは約束を破らないよ。また遊ぼうね。」
「うん。」
俺は手を振りライベルの人々に別れを告げた。
歩いて門を出たが人々は手を振るのを止めない。
中にはひざまずいて俺に向かい祈りをささげる人も居る。
俺を見送る人々の姿が見えなくなるところまで来た時に後ろを振り返ると、俺たちの最後尾にガラクが居た。
「ガラク、見送りありがとう。ここいらでいいよ。」
ガラクは黙っている。
少し進んでからもう一度、振り返ったがやはりガラクが最後尾を付いて来ている。
「どうした、ガラク。見送りはこの辺でいいよ。」
ガラクは黙っている。
その様子を見ていたドルムさんがガラクに声をかけた。
「ガラク、ライベルに身よりはいるか?」
「いない。」
「職はあるか?」
「ない。」
「メシはあるか?」
「ない。」
「俺たちと一緒に晩飯くうか?」
「ああ」
「仲間になりたいか?」
「皆が良ければ・・」
何も語る必要はないな。
森に隠してあったウルフに全員で乗り込んだ。
次の目的地はルチア達がいるであろうジュベル国首都、オラベルだ。
ソウ達一行がライベルの街を出た頃、ヒナ達が所属するゲラン国軍第二師団はドラゴンによって蹂躙されたセプタの街に到着していた。
セプタの街はある程度復興していたがドラゴンのブレスによって焼き払われた街の一部はガレキのまま放置されていた。
ドラゴンのブレスにより死傷者が多く出て、怪我人の一部は未だに苦しんでいる。
ヒナは病院の治療室に居た。
病院内にはブレスによって大やけどを負い、身動きできない者もいた。
その患者の周りを医師と看護師がせわしなく動いている。
ヒナは看護師を引き連れた中年の医師を呼び止めた。
「第二師団第一大隊看護班のヒナと申します。看護のお手伝いをしてもよろしいでしょうか?」
医師はヒナの肩にある階級章を見て。
「二等陸士か・・二等兵ごときが何をしゃしゃり出る。じゃまだから出ていけ。」
その様子を見ていたもう一人の若い医師が
「ヘズナ先生、今は猫の手も借りたいはず。雑用を引き受けてもらいましょうよ。」
と言った。
「ラナガ先生が、そういうのなら別にかまわないが、わしの仕事の邪魔はさせないでくれ。」
と言い残し大部屋を出て行った。
若い医師は、金髪を短く刈り上げ衣服も清潔感を漂わせていた。
いわゆる好青年の見掛けをしている。
「すまないね。悪い人ではないが、彼はこの街の住人でね。多数の犠牲者を出したことでいらだっているようだ。君は看護兵なのだろう?私も忙しくて何の支持もできないが、自分で判断して君のできることをやってくれないか」
「はい。ありがとうございます。できるだけのことをさせてもらいます。」
「私はラナガという。君たちより先に派遣された王宮医師だ。困ったことがあったら頼りなさい。」
「はい。私はヒナと申します。ご親切にありがとうございます。」
ラナガは笑顔を向けたのち、右手を挙げながら大部屋を出て行った。
ヒナは自分のできることを探そうとして大部屋内を見渡した。
大部屋のベッドには5歳くらいの女の子が寝ていて、側には母親であろう女性が女の子の患部をさすって居た。
ヒナが母親の側に来て
「具合はいかがですか?」
と訪ねた。
「見ての通りです。」
と言いながら子供にかかっている毛布をめくった。
女の子は右半身をブレスで焼かれていた。
女の子の頭部右半分は髪の毛が抜け落ち、頭頂部から太ももにかけて、ケロイドで覆われ、生きているのが不思議なほど負傷状態だった。
ヒナの表情が曇った。
「お母さん、私救護兵です。治療を試みても良いですか?」
母親がヒナの顔を見上げる。
「もちろん、お願いします。けれどお医者様は、時間の問題だと・・・」
母親は女子の手を握りながら涙をこぼした。
女の子は、意識が朦朧としているようで、母親が手を握りしめても反応できない。
ヒナはベッドの傍らにひざまずき、目を閉じて精神集中を始めた。
精神集中をしはじめて何秒か過ぎた頃、ヒナの手は薄く、青く光り始め、その光はヒナの全身を包んだ。
ヒナが目を開き、女の子の患部に手をかざすと、ヒナの全身を包む青い光が徐々にヒナの手先に集り初め、ヒナが手先に意識を集中したところ、その青い光が女の子の全身を包み込んだ。
最初に女の子の頭部に変化が現れた。
ケロイドに覆われていた女の子の頭部の皮膚が一部剥がれて再生し、再生された皮膚からは頭髪が生え始めた。
顔を含めた体の右側を覆っていたケロイドが浮き上がり、かさぶたが剝がれるように落ちていきその後にピンク色の真皮が再生した。
時間を置かずピンク色の真皮は左半分の健康な皮膚と同じ色になり産毛が生えた。
母親は目を見開き、その様子を見守っている。
女の子が目を開いた。
「ママ・・」
母親の目から涙がこぼれる。
母親は女の子を抱きしめる。
「リリア・・リリア・・」
母親は女の子の元患部だった部分を撫でまわし
「リリア痛くない?」
と女の子に問いかけた。
女の子は自分の右手を左手で撫でたり自分の頭に手を伸ばして
「痛くないよ。火傷治った?リリアのお顔、きれいになったの?」
と母親に質問した。
母親は泣き笑いで
「ええ、治ったわよ、とても奇麗だわ。」
と再度女の子を抱きしめた。
そして立ち上がりヒナに向かって頭を下げた。
「本当に、本当にありがとうございます。こんな奇跡が起こるなんて・・何かお礼をしたいのですが、家は焼かれてしまい何もお返しすることが・・」
「いえ、私の仕事ですから、お気になさらずに。」
母親は何度も頭を下げている。
ヒナは親子から少し離れて
「ふぅ・・」
とため息をついた。
ヒナの横では同僚のリナルが一部始終を無言で見ていた。
「ヒナさん。驚きだわ。私もヒールの加護を持っているし、他の人がヒールを使っているのを何度も見ているけど、ヒナさんの加護は凄すぎる。
もはやヒールではなくて神話に出てくる『再生』や『蘇生』の加護に近いわね。頭髪や皮膚が再生する加護なんて初めて見たわ。」
ヒナのヒールは成長していた。
鑑定のスキルを持つ者がヒナを鑑定すれば驚くだろう。
ヒナにもう一つのスキルが誕生していた。
それは『ヒール』の上位スキル『再生』だ。
ヒールは主に怪我を治癒したり免疫力抵抗力を高めたりするスキルだが欠損した身体を元に戻すことはできない。
対して『再生』欠落した身体の一部分を元に戻すことができる。
ヒナの『再生』はまだ成長過程にあり、欠落した指や目鼻など大きな部位を元に戻すことはできない。
しかしヒナは今女の子の頭髪や皮膚を『再生』させた。
リナルが言ったように神話級のスキルなのだ。
「リナルさん。そんな大げさな加護ではないわ。私の体調が良い時、ヒールをかけた皮膚組織が生まれ変わることがあるの。意識して行えるわけではないの。」
「それでもすごいわよ。今私この目で見たけど、髪の毛や皮膚が生え変わるなんて驚きよ。」
ヒナとリナルが話し合っていると、先ほどヒナに対し出ていけと怒鳴った医師が巡回に来た。
そして先ほどヒナが治療した女の子を見て驚いている。
「これは、・・何があった?誰かが治療したのか?」
母親がヒナを指さす。
「あの方が・・」
ヘズナがヒナに近づく。
「君があの子を治療したのか?」
「ええヒールを施しました。」
「あれがヒールの加護だというのか?ありえない。あれほどの怪我、重度の熱傷、右半身の皮膚はほとんど壊死していた。それをヒールだけで回復させるなんて、ありえないことだ。何をした?」
「特別な事は何も、いつもより強く念じはしましたけどヒール以外何もしていません。」
医師はヒナの言葉を聞いて怒気を膨らませた。
「そんなはずはない。君は二等陸士だろ?その程度の階級で、ほぼ完全に近い、いやそれ以上の効果をもつヒールの加護を行使できるはずはない。何をしたんだ?何か神器でももっているのか?」
医師は自分が治癒できなかった患者が、ほぼ完全に治癒されているのを見て変なプライドから目の前の現実を受け入れることが出来ないようだ。
患者の母親が見るに見かねて医師に訴えた。
「まことに失礼ですがお医者様、この女性がこの子を治療してくださったことに間違いはございません。私目の前で見ていましたもの。」
「なにかの見間違いではないか?それとも何か特別な道具を使ったのではないか?」
「この方は何の道具も使いませんでした。天に祈りを捧げたら体が光って、この子に手をかざしたらその光がこの子の体に移って、そして・・そして元の健康な体になったのです。」
医師は苦虫をかみつぶしたような顔をしている。
「すると、この二等兵がわしらをも上回る加護の持ち主ということか・・やはり信じられんな。」
中年の医師のそばで、そのやりとりを見ていた若い医師がヒナを見た後、中年の医師に言った。
「ヘズナ先生、私も目の前の出来事が信じられないです。しかしこの看護兵が嘘をつく理由もないでしょうし、なにより患者の母親が証言しているのです。そこでどうでしょうか我々の目の前で治療を実践してもらいましょう。」
「そうじゃのラナガ君。」
若い医師はヒナを見つめた。
「どうかね。同じことをもう一度やってみてはくれまいか」
「いいですよ。どなたを治療すればよろしいのですか?」
「この部屋にはあと5人の患者がいる。どの患者でもよいからヒールを施してくれたまえ」
「はい。」
ヒナは先ほど治療した女の子以外の患者を軽く診察し、部屋の中央にひざまずいた。
ヘズナが不思議そうな顔をしてヒナに声をかけた。
「何をしている。早く治療する患者を選ばぬか。」
「もう選びました。」
「なにを言っておる・・」
その時ラナガがヘズナを制した。
「黙って見守りましょう。」
ラナガが無言でヒナを促した。
ヒナはひざまずいて精神統一をしている。
するとヒナの両腕が淡く光はじめ、その光が徐々にヒナの体をつつんだ。
そしてヒナが両手を上にむけ花束でも投げるようなしぐさをするとヒナの体を包んでいた光が部屋全体に広がった。
そして天から光が降り注ぐように5人の患者に染み込んでいった。
ヒナ固有のスキル『範囲ヒール』だ。
部屋中の患者がベッドから起き上がり、自分の腕や足を見ている。
患者の傷や火傷の跡が消えていた。
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