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第五章 獣人国編
第110話 城内潜入 井戸の異物
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ガラクや仲間とキューブで食事をした後、深夜にライベル城に侵入して城内の井戸を調べることにした。
町中の井戸水を検査したところ、メチル水銀を検出したが、井戸そのものには何の異常も発見できなかった。
残る井戸はライベル城内の井戸だけだ。
ライベル城内の井戸は街の井戸に比べて高い位置にあり、源流に近い。
そして町中の井戸の水脈から見て上流部に存在する。
もし城内の井戸に異常があって井戸水が汚染されていれば、その汚染は城から街へと流れ込むはずだ。
深夜の1時になった。
城の北側にある山の中腹に俺とガラクが潜んでいる。
目の前には石造りの倉庫があって、門番が一人居る。
俺は遠間から睡眠魔法を門番にかけた。
門番はあくびをしながら、その場にゆっくりと倒れ込んだ。
「行くぞ」
「ああ」
ガラクが先に倉庫に入った。
倉庫の中には麦や蕎麦などの穀物の他、酒やビネガーなどの樽がいくつか並んでいた。
「これだ。」
ガラクが倉庫の奥の方にあったビネガーの空樽を横へ移動させた。
樽が動いた後の床には60センチ四方位の穴が開いている。
「この穴は城内に繋がっている。」
穴の中は真っ暗だ。
俺が先に降りて、ペンライトで前方を照らした。
「ずいぶん明るいな、それも神器か?」
「ああ、そうだよ。」
ごくありふれたペンライトだがこの世界の人にすれば不思議な道具なのだろう。
10分ほど地下道を進んだところ、地下道は二又に分かれて、ひとつの道は上部へ、もう一つの道は進行方向に更に伸びてる。
「こっちだ。」
ガラクは真っ直ぐ進んだ。
二又から10メートルほど進むと通路は板塀に突き当たった。
板塀には胸の高さくらいの位置に60センチ四方位の他とは異なる材質で作られた窓のような造りがあった。
窓には取手があってその取っ手を手前に引くと奥に空間が開けた。
「調理場の貯蔵庫だ。」
窓をくぐって中に入ると、食料品や調味料が所狭しと並べられていた。
貯蔵庫の隅に階段があって、その階段を上ると、城の調理場に出た。
用心のため探知スキルで周囲を探ったが近くに人の反応はなかった。
「こっちだ」
ガラクの案内で調理場の勝手口から中庭に出た。
中庭の東隅に小さな小屋があって、一人の見張りがいる。
俺は睡眠魔法で見張りを眠らせた。
「ここが中庭の井戸、城内の者だけが仕える井戸だ。」
俺は井戸の水をくみ上げてアナライザーの反応を見たが変化はなかった。
「やはりな、ここの水に毒はない。」
中庭の井戸水に水銀が含まれていれば、ヌーレイや他の幹部にも水銀中毒の症状がみてとれるはずだか、その気配はなかった。
城の外壁をまわり前庭に出た時、ドルムさんから連絡が入った。
『ソウ、注意しろ、なんだか様子がおかしい。正門と城正面から兵士が出てきた。』
どこかに隠れようと思ったが、前庭は広く障害物がない。
かといってガラクとの約束で兵士を攻撃することもできない。
そうこうしているうちに周りを囲まれてしまった。
俺とガラクなら兵士たちを怪我させることなく逃げることもできるが、このまま逃げたのではあとから何を言われるかわかったもんじゃない。
どうせ
『ソウが井戸に毒を入れに来たが、みつかったのであわてて逃げた。』
くらいのことは言われるだろう。
「やはり毒を入れたのはお前だな。この詐欺師め。」
サルディアが得意げな顔で、こちらを見ている。
(やっぱりね)
「俺が入れたんじゃない。と言っても信じないだろうな。で、どうするんだ?ここで一戦交えるのか?俺とガラク相手に。」
ガラクは俺を振り返って(やるのか?)と視線を向けた。
俺はサルディアに大して『威圧』のスキルを使いながらサルディアをにらんだ。
サルディアの部下たちは30名ほどだろうか、サルディアの指示を待っている。
サルディアの部下たちも俺とガラクを相手にすればどうなるか十分理解できているが、そこはやはり職業兵士、命令には従うだろう。
サルディアは俺の『威圧』の影響も受けてか少し足を震わせて、どうすればいいのか迷っている。
俺たちの侵入を発見したのはいいが、その後のことは考えていなかったようだ。
「将軍さんよう。戦うなら戦ってもいいが、先に井戸を調べさせてくれないか?見張っていたのならわかるだろう俺たちは城に入って中庭の井戸は見たが、前庭の井戸へはまだ近づいていない。
もし前庭の井戸に何も異常がなければ、大人しく捕まってやるよ。もし先に戦いたいというのなら、それでもかまわんが、大勢と戦うのなら先に大将首を取るのが兵法のいろはだよな。どうする?」
兵士達は少し安どした表情でサルディアを見ている。
「・・本当だろうな。もし井戸に何も異常がなければ、大人しく捕まるのだな。」
「ああ、嘘はつかない。」
もし、井戸に何も異常がなければ本気で逃げるつもりだった。へへ
「わかった。井戸を調べる許可を出す。手短にしろ。どうせ何もないのだ。」
俺はサルディアの部下に頼んで中庭と前庭、両方の井戸の水を汲んできてもらった。
自分で汲めば変な細工をしたといいかねないからだ。
アナライザーで解析する前にドルムさんを呼び出した。
『ドルムさん、暗いからドローンの照明つけてください。』
『ほいよ』
俺を中心とする半径10メートルほどが昼間のように明るくなった。
兵士たちは驚き後ずさった後、額に手をかざしながらドローンを見上げている。
「暗いからちょっと明るくしただけだ、騒ぐな。」
俺はそういってからサルディアたちにアナライザーを示した。
「上の照明は俺の持つ神器だ。そしてこの機械も神器だ。この神器は毒に反応する。
井戸水になんの毒もなければ青く光り、毒があれば赤く光る。そのことを覚えておいてくれ。」
兵士たちはウンウンとうなずく。
俺はまず中庭の井戸水にアナライザーのセンサー部分を浸した。
もちろんのことアナライザーは毒物を検出することなくアナライザー上部の発行体は青く明滅している。
次に前庭の井戸水を調べた。
アナライザーの解析値を表示する部分は急激に数値を増やし、発行体は赤く明滅した。
いままでいくつかの井戸を調べたが、これほど高い数値を示したのは初めてだ。
高濃度のメチル水銀がこの井戸水に含有されている。
この水を飲めば急性水銀中毒になることは間違いない。
「やっぱりな。汚染源はここだ。ここの水を飲めば間違いなく病気になる。」
兵士たちはうなずいている。
「そんなのでたらめだ。俺たちは毎日城の水を飲んでいる。いままで病気になったことはない。だから庶民にも分け与えていたのだ。」
サルディアが目の前の現実を否定する。
「ほう、じゃあお前、この水を飲んでみろよ。かなり濃い部分だぞ。お前は病気にならんらしいから、俺の助けもいらんだろう。ほれ、飲んでみろ。」
俺はサルディアに前庭の井戸水を差し出した。
サルディアは顔をそむける。
「サルディアは飲みたくないらしい。外にこの毒水を飲んでみる気のある勇者はいるか?」
井戸水の入った桶を兵士に向けるが、兵士は顔を横に振る。
「サルディア、お前が飲んでいたのは中庭の水だろ?中庭の水には毒はない。毒があるのは、この前庭の井戸から下流にある井戸すべてだ。いままでいくつかの井戸を調査したが、ここが最上流で、そしてもっとも毒が濃い。ここがライベルの病の源、汚染源に間違いない。」
俺がそう言い切ると、あちこちで兵士がささやいた。
「俺たちは、毒を売っていたのか?」
「俺、自分の親戚にも売っちまったぜ・・」
「俺なんか、自分の子供に飲ませたダニよ・・」
その様子を見たサルディアが兵士を向いていった。
「沈まれ、まだわからん。こいつらがインチキな道具を使ってまやかしをかけているかもしれんではないか。あの道具がインチキかもしれんでは・・・」
サルディアの言葉が終わらないうちに兵士たちの後ろから声がした。
「サルディアのいうとおりだ。イインチキまじない師にだまされるな。変な道具もどうせインチキだろう。」
ヌーレイだった。
「そもそも城に不法侵入した奴らに何を遠慮している。直ちに捕まえよ。」
軍の最高指揮官に命令されて兵士はとまどいながらも武器を構えた。
戦闘は避けられそうにない。
「ガラク、約束は守りたいが、こうなったら仕方ないよな。殺さなければいいだろう?」
「大怪我をさせずにできるか?」
「ああ」
ガラクは兵士に向かって言った。
「お前ら、できるだけ痛くないようにするから、向かってこい。ヌーレイの命令に従え。かかってこい。」
元、自分の部下だった兵士にガラクと同じ思いはさせたくないのだろう。
一人の兵士がガラクに向かって突進した。
ガラクは難なくよけて足払いで兵士を転がした。
転がった兵士に俺が軽めのパラライズを撃って動けないようにした。
同じようなことを繰り返して5分ほどで、その場に動けるものは、サルディアとヌーレイだけになった。
俺は懐から雷鳴剣を抜きながら言った。
「どうしたサルディア。お前は戦わないのか?お前の部下は、お前の命令で勇敢に戦ったぞ。
俺はガラクの部下や同僚には手加減するが、それ以外の者は、どうなろうとしらん。かかってきてみろよ。」
雷鳴剣は青白くスパークしている。
「いや。その。あれだ。毒の原因がわかったから、・・・そのもう。良いではないか。お前の言うことを聞いて、井戸の調査もさせてやっただろう。・・・なっ」
俺はヌーレイを向いて言った。
「ヌーレイ。お前は言ったよな。部下に対して。「こいつらを捕まえろ」と。サルディアはその命令に逆らっているぞ。反逆罪だよな。死罪だよな。もちろんそうするよな。ガラクと同じように。」
ヌーレイは苦虫をかみつぶしたような顔をしている。
「なにが望みだ。」
ようやくしゃべった。
「何度も言っているだろう。はやり病の原因究明だよ。井戸の調査だよ。」
ヌーレイはゆっくりと踵を返し城へ向かいながら言った。
「好きにしろ。」
ヌーレイに従い城へ帰ろうとするサルディアの首根っこをつかんだ。
「ひぃ」
「お前はまだだ。気絶した部下を残して自分だけ逃げるな。最後まで見届けろ。」
俺は気絶している兵士、一人一人にヒールを施した。
これから井戸を調査するための立会人が欲しかったのだ。
『ドルムさん、タイチさんに言って、小型のドローンを出動させてください。確か水に潜れる奴があったはずです。』
『わかった。』
数分後、小型ドローンが到着した。
『ドルムさん、井戸の中へ』
『よっしゃ』
ドローンが井戸へもぐる。
『ソウ、井戸の底になんか変な物があるぞ。黒い球のようだ。』
『取り出せますか?』
『タイチできるか?』
『呼び捨てにするな。わしゃお前より2万歳年上やぞ』
『へいへい。タイチ様』
ドローンが上がってきた。
ドローンが掴んできたものはソフトボール大の黒い球だ。
その球は明らかに人工物で、球の一部から管が出ていて、ウネウネと動いている。
どこかで見たことがある形状。
イリヤ様の体内から出てきた球と同じだ。
町中の井戸水を検査したところ、メチル水銀を検出したが、井戸そのものには何の異常も発見できなかった。
残る井戸はライベル城内の井戸だけだ。
ライベル城内の井戸は街の井戸に比べて高い位置にあり、源流に近い。
そして町中の井戸の水脈から見て上流部に存在する。
もし城内の井戸に異常があって井戸水が汚染されていれば、その汚染は城から街へと流れ込むはずだ。
深夜の1時になった。
城の北側にある山の中腹に俺とガラクが潜んでいる。
目の前には石造りの倉庫があって、門番が一人居る。
俺は遠間から睡眠魔法を門番にかけた。
門番はあくびをしながら、その場にゆっくりと倒れ込んだ。
「行くぞ」
「ああ」
ガラクが先に倉庫に入った。
倉庫の中には麦や蕎麦などの穀物の他、酒やビネガーなどの樽がいくつか並んでいた。
「これだ。」
ガラクが倉庫の奥の方にあったビネガーの空樽を横へ移動させた。
樽が動いた後の床には60センチ四方位の穴が開いている。
「この穴は城内に繋がっている。」
穴の中は真っ暗だ。
俺が先に降りて、ペンライトで前方を照らした。
「ずいぶん明るいな、それも神器か?」
「ああ、そうだよ。」
ごくありふれたペンライトだがこの世界の人にすれば不思議な道具なのだろう。
10分ほど地下道を進んだところ、地下道は二又に分かれて、ひとつの道は上部へ、もう一つの道は進行方向に更に伸びてる。
「こっちだ。」
ガラクは真っ直ぐ進んだ。
二又から10メートルほど進むと通路は板塀に突き当たった。
板塀には胸の高さくらいの位置に60センチ四方位の他とは異なる材質で作られた窓のような造りがあった。
窓には取手があってその取っ手を手前に引くと奥に空間が開けた。
「調理場の貯蔵庫だ。」
窓をくぐって中に入ると、食料品や調味料が所狭しと並べられていた。
貯蔵庫の隅に階段があって、その階段を上ると、城の調理場に出た。
用心のため探知スキルで周囲を探ったが近くに人の反応はなかった。
「こっちだ」
ガラクの案内で調理場の勝手口から中庭に出た。
中庭の東隅に小さな小屋があって、一人の見張りがいる。
俺は睡眠魔法で見張りを眠らせた。
「ここが中庭の井戸、城内の者だけが仕える井戸だ。」
俺は井戸の水をくみ上げてアナライザーの反応を見たが変化はなかった。
「やはりな、ここの水に毒はない。」
中庭の井戸水に水銀が含まれていれば、ヌーレイや他の幹部にも水銀中毒の症状がみてとれるはずだか、その気配はなかった。
城の外壁をまわり前庭に出た時、ドルムさんから連絡が入った。
『ソウ、注意しろ、なんだか様子がおかしい。正門と城正面から兵士が出てきた。』
どこかに隠れようと思ったが、前庭は広く障害物がない。
かといってガラクとの約束で兵士を攻撃することもできない。
そうこうしているうちに周りを囲まれてしまった。
俺とガラクなら兵士たちを怪我させることなく逃げることもできるが、このまま逃げたのではあとから何を言われるかわかったもんじゃない。
どうせ
『ソウが井戸に毒を入れに来たが、みつかったのであわてて逃げた。』
くらいのことは言われるだろう。
「やはり毒を入れたのはお前だな。この詐欺師め。」
サルディアが得意げな顔で、こちらを見ている。
(やっぱりね)
「俺が入れたんじゃない。と言っても信じないだろうな。で、どうするんだ?ここで一戦交えるのか?俺とガラク相手に。」
ガラクは俺を振り返って(やるのか?)と視線を向けた。
俺はサルディアに大して『威圧』のスキルを使いながらサルディアをにらんだ。
サルディアの部下たちは30名ほどだろうか、サルディアの指示を待っている。
サルディアの部下たちも俺とガラクを相手にすればどうなるか十分理解できているが、そこはやはり職業兵士、命令には従うだろう。
サルディアは俺の『威圧』の影響も受けてか少し足を震わせて、どうすればいいのか迷っている。
俺たちの侵入を発見したのはいいが、その後のことは考えていなかったようだ。
「将軍さんよう。戦うなら戦ってもいいが、先に井戸を調べさせてくれないか?見張っていたのならわかるだろう俺たちは城に入って中庭の井戸は見たが、前庭の井戸へはまだ近づいていない。
もし前庭の井戸に何も異常がなければ、大人しく捕まってやるよ。もし先に戦いたいというのなら、それでもかまわんが、大勢と戦うのなら先に大将首を取るのが兵法のいろはだよな。どうする?」
兵士達は少し安どした表情でサルディアを見ている。
「・・本当だろうな。もし井戸に何も異常がなければ、大人しく捕まるのだな。」
「ああ、嘘はつかない。」
もし、井戸に何も異常がなければ本気で逃げるつもりだった。へへ
「わかった。井戸を調べる許可を出す。手短にしろ。どうせ何もないのだ。」
俺はサルディアの部下に頼んで中庭と前庭、両方の井戸の水を汲んできてもらった。
自分で汲めば変な細工をしたといいかねないからだ。
アナライザーで解析する前にドルムさんを呼び出した。
『ドルムさん、暗いからドローンの照明つけてください。』
『ほいよ』
俺を中心とする半径10メートルほどが昼間のように明るくなった。
兵士たちは驚き後ずさった後、額に手をかざしながらドローンを見上げている。
「暗いからちょっと明るくしただけだ、騒ぐな。」
俺はそういってからサルディアたちにアナライザーを示した。
「上の照明は俺の持つ神器だ。そしてこの機械も神器だ。この神器は毒に反応する。
井戸水になんの毒もなければ青く光り、毒があれば赤く光る。そのことを覚えておいてくれ。」
兵士たちはウンウンとうなずく。
俺はまず中庭の井戸水にアナライザーのセンサー部分を浸した。
もちろんのことアナライザーは毒物を検出することなくアナライザー上部の発行体は青く明滅している。
次に前庭の井戸水を調べた。
アナライザーの解析値を表示する部分は急激に数値を増やし、発行体は赤く明滅した。
いままでいくつかの井戸を調べたが、これほど高い数値を示したのは初めてだ。
高濃度のメチル水銀がこの井戸水に含有されている。
この水を飲めば急性水銀中毒になることは間違いない。
「やっぱりな。汚染源はここだ。ここの水を飲めば間違いなく病気になる。」
兵士たちはうなずいている。
「そんなのでたらめだ。俺たちは毎日城の水を飲んでいる。いままで病気になったことはない。だから庶民にも分け与えていたのだ。」
サルディアが目の前の現実を否定する。
「ほう、じゃあお前、この水を飲んでみろよ。かなり濃い部分だぞ。お前は病気にならんらしいから、俺の助けもいらんだろう。ほれ、飲んでみろ。」
俺はサルディアに前庭の井戸水を差し出した。
サルディアは顔をそむける。
「サルディアは飲みたくないらしい。外にこの毒水を飲んでみる気のある勇者はいるか?」
井戸水の入った桶を兵士に向けるが、兵士は顔を横に振る。
「サルディア、お前が飲んでいたのは中庭の水だろ?中庭の水には毒はない。毒があるのは、この前庭の井戸から下流にある井戸すべてだ。いままでいくつかの井戸を調査したが、ここが最上流で、そしてもっとも毒が濃い。ここがライベルの病の源、汚染源に間違いない。」
俺がそう言い切ると、あちこちで兵士がささやいた。
「俺たちは、毒を売っていたのか?」
「俺、自分の親戚にも売っちまったぜ・・」
「俺なんか、自分の子供に飲ませたダニよ・・」
その様子を見たサルディアが兵士を向いていった。
「沈まれ、まだわからん。こいつらがインチキな道具を使ってまやかしをかけているかもしれんではないか。あの道具がインチキかもしれんでは・・・」
サルディアの言葉が終わらないうちに兵士たちの後ろから声がした。
「サルディアのいうとおりだ。イインチキまじない師にだまされるな。変な道具もどうせインチキだろう。」
ヌーレイだった。
「そもそも城に不法侵入した奴らに何を遠慮している。直ちに捕まえよ。」
軍の最高指揮官に命令されて兵士はとまどいながらも武器を構えた。
戦闘は避けられそうにない。
「ガラク、約束は守りたいが、こうなったら仕方ないよな。殺さなければいいだろう?」
「大怪我をさせずにできるか?」
「ああ」
ガラクは兵士に向かって言った。
「お前ら、できるだけ痛くないようにするから、向かってこい。ヌーレイの命令に従え。かかってこい。」
元、自分の部下だった兵士にガラクと同じ思いはさせたくないのだろう。
一人の兵士がガラクに向かって突進した。
ガラクは難なくよけて足払いで兵士を転がした。
転がった兵士に俺が軽めのパラライズを撃って動けないようにした。
同じようなことを繰り返して5分ほどで、その場に動けるものは、サルディアとヌーレイだけになった。
俺は懐から雷鳴剣を抜きながら言った。
「どうしたサルディア。お前は戦わないのか?お前の部下は、お前の命令で勇敢に戦ったぞ。
俺はガラクの部下や同僚には手加減するが、それ以外の者は、どうなろうとしらん。かかってきてみろよ。」
雷鳴剣は青白くスパークしている。
「いや。その。あれだ。毒の原因がわかったから、・・・そのもう。良いではないか。お前の言うことを聞いて、井戸の調査もさせてやっただろう。・・・なっ」
俺はヌーレイを向いて言った。
「ヌーレイ。お前は言ったよな。部下に対して。「こいつらを捕まえろ」と。サルディアはその命令に逆らっているぞ。反逆罪だよな。死罪だよな。もちろんそうするよな。ガラクと同じように。」
ヌーレイは苦虫をかみつぶしたような顔をしている。
「なにが望みだ。」
ようやくしゃべった。
「何度も言っているだろう。はやり病の原因究明だよ。井戸の調査だよ。」
ヌーレイはゆっくりと踵を返し城へ向かいながら言った。
「好きにしろ。」
ヌーレイに従い城へ帰ろうとするサルディアの首根っこをつかんだ。
「ひぃ」
「お前はまだだ。気絶した部下を残して自分だけ逃げるな。最後まで見届けろ。」
俺は気絶している兵士、一人一人にヒールを施した。
これから井戸を調査するための立会人が欲しかったのだ。
『ドルムさん、タイチさんに言って、小型のドローンを出動させてください。確か水に潜れる奴があったはずです。』
『わかった。』
数分後、小型ドローンが到着した。
『ドルムさん、井戸の中へ』
『よっしゃ』
ドローンが井戸へもぐる。
『ソウ、井戸の底になんか変な物があるぞ。黒い球のようだ。』
『取り出せますか?』
『タイチできるか?』
『呼び捨てにするな。わしゃお前より2万歳年上やぞ』
『へいへい。タイチ様』
ドローンが上がってきた。
ドローンが掴んできたものはソフトボール大の黒い球だ。
その球は明らかに人工物で、球の一部から管が出ていて、ウネウネと動いている。
どこかで見たことがある形状。
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