異世界修学旅行で人狼になりました。

ていぞう

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第五章 獣人国編

第109話 飯がこれほど美味いものとは

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ガラクを救出した後、今回の疫病の元をさぐるべく、俺たちはライベル城後方の山中に居た。
ロダンさんが案内してくれた水源地の水を解析したが毒物反応はなかった。

つまり、汚染源は城内の井戸ということになる。
となると、問題解決は更に困難になる。

この街、ライベルの統治者はヌーレイだ。
そのヌーレイは疫病が流行り始めた当時、疫病の原因は貧民街だとして貧民街の一部を焼きはらい、安全な水だとして城の井戸水を庶民に売っていた。

ヌーレイは腐っているとは言っても一地方の領主代理、毒が入っていることとは知らずに売っていたのだろうとは思う。

その行為は過失かもしれないが、住民に対する大きな損害を与えたことには間違いない。
現に住民からは大きな不満が漏れている。

ここで俺が城の井戸が原因だという証拠を発見して公に晒せば、革命が起きかねない。

ガラクの件で、ヌーレイに反旗を翻そうとした者も多く居る。
事を大きくせずに汚染源を潰す方法はないものだろうか?

俺はガラクに訪ねた。

「今回の疫病、汚染源が城の井戸だと皆に知れたら、どうなる?」

ガラクは少し困っている。

「そりゃ、大事になるな。場合によっては反乱、革命になるかもしれん。そうなると多くの死者がでるはずだ。城が汚染源なのか?」

「ああ、たぶんな。それはこれから調べるが、革命勢力が実際にあるのか?」

「革命勢力とは言えないかも知れないが・・・貧民街の多くの住人が、今の治世に不満を持っている。

流行病の原因を押しつけられているし、税金を払えない多くの住人が奴隷にされたり、格闘技場で見世物になっている。

実際に現場で水を売ったのは俺たち兵士、つまりヌーレイの部下だし、税の取り立てをしたのも俺たちだ。ヌーレイの命令だとは言え、俺たちもずいぶん酷いことをしている。貧民街の多くは俺たち兵士をうらんでいるだろう。」

ガラク達は毒水と知らずに、それを住民に売っているし、税を払えない者に対しては厳しい職務執行をしている。

住民にも兵士にも罪はない。
税の徴収は、どこの世界にもある社会を維持するための仕組みだ。

ヌーレイですら、ある意味その社会の仕組みに従っていると言える。
だからこそ、俺はその仕組みにまで立ち入ろうとはしないのだ。

「問題山積みだな。それでも原因は明らかにすべきだろう。ガラク、城の井戸に近づくことはできるか?」

「俺が軍にいれば簡単だったのだが・・・今は、争いになることを覚悟の上なら近づけるかもな。

それと、ヌーレイに願い出るという手もあるが、まず無駄だろうな。ヌーレイにとってみれば、自分の罪を暴いて下さい。というようなものだから。」

ガラクの話によると、城の井戸は城の中庭と前庭にあり、24時間体制で監視されている。

井戸に近づくには常時2~3名いる城内の見張り番を殺すか眠らすかしないと無理のようだ。
住民に販売しているのは、より門に近い前庭の井戸水だそうだ。

中庭の井戸は前庭より位置的に高く、その水は城内のみで使用され、販売はしていないそうだ。
そういえばヌーレイ達、城の幹部に病人は見当たらない。

中庭の下流にある前庭の井戸だけが汚染されているのかもしれない。

「ガラク、夜間、少人数でいいから人目に触れず井戸に近づくことができないか?」

「出来ないことはないが、どうするんだ?」

「俺が行って原因を探る。案内してくれないか?」

「兵士を傷つけないのなら、案内する。」

ガラクは今でこそ一般民だが、昨日までは一つの隊を預かる大隊長だったのだ。
その要求はあたりまえのことだろう。

「もちろん、誰も傷つけないさ、少し居眠りはしてもらうけどね。」

「わかった。」

俺たちは一度商工会議所へ戻った。
井戸を調べにいくのは見張りが手薄になる夜に決めていた。

「作戦は夜だ。一度帰ろう。」

ドルムさんが返事をした。

「そうだな。飯にしよう。メシ飯。」

ガラクは黙っている。
俺がガラクに声をかけた。

「ガラクも一度帰って支度をしてくれ。」

「ああ・・」

といったものの動かない。
その様子を見たドルムさんがガラクに近寄った。

「どうした。メシ食わないのか?」

「ああ・・」

「どうして?ハラヘったら動けないぞ?」

「ああ・・」

「メシ、無いのか?」

「ああ・・」

「金も?」

「ああ、メシも金も家もないよ。」

ガラクは身分を剥奪され、兵士当時の官舎、給金、財産、全てを没収されていた。
その様子を見ていたピンターがガラクに近づいた。

「鬼のおじさん。いっしょに行こう。テルマねえちゃんのご飯美味しいよ。」

とガラクに言ってから俺の顔を見た。

その顔は、(兄ちゃん、いいよね?)と言っている。
俺は無言で頷いた。

「行こう。ご飯冷めるよ。」

と言うがガラクは

「しかし・・」

と言いながら立ち上がろうとしない。
ピンターがガラクの腕に自分の手を回す。

「ご飯ないのは辛いよ。オイラもご飯食べさせてもらえない時あったよ。でもソウ兄ちゃんがなんとかしてくれた。

鬼のおじさんもソウ兄ちゃんに甘えたらいいよ。兄ちゃんは、どこでも、お腹すいた人を助けてきたよ。ね」

ピンターには奴隷時代ひもじい思いをさせた。
俺自身もひもじい思いをした。
だから、食に困っている人をみかけると放ってはいられなかった。
数々の集落の飢餓を救済してきたのはそんな思いもあってだ。

「ガラク、ピンターの言うとおりだ。お前と仲良くなりたい。だから一緒に飯食おうぜ。」

「ああ・・・すまん。」

ガラクが立ち上がった。
ドルムさんがガラクに寄り添って笑う。

「ガラク、謝るなよ。俺もただ飯食いだぜ。アハハ」

俺はガラクを連れてキューブへ戻った。
ガラクはゲートをくぐってから落ち着きがない。

「ここは?」

「我が家だよ。」

ガラクの目の前にテルマさんの手料理が運ばれる。

「ようこそ、いらっしゃい。新しいお友達ですね。」

テルマさんがガラクに対してにこやかに挨拶する。

「あ、あ、これは初めまして。ガラクと申します。突然・・そのすみません。」

「いえいえ、いいですよ。食事は大勢でいただく方が美味しいですもの。」

「はい・・」

ガラクはカチコチになっている。
俺と闘技場で対戦した時に比べるとガラクの態度は天と地程の差がある。
俺を殺そうとした武人には見えない。

メニューは俺が頼んでいたチーズinハンバーグと鳥の唐揚げ、野菜サラダとコンソメスープ、それとテルマさんが焼いたパンだ。

料理がテーブルに運ばれている最中、次々と人が増えた。

「おう、まにおうたな。今日もうまそうやな。」

アウラ様だ。

「いつもごめんなさいね。運ぶの手伝うわね。」

イリヤ様だ。

「「キャウキャウ、キュイキュイ。」」

ツインズ。

「今日のパンは、わっしもお手伝いしたでヤンスよ。」

ドランゴさん。

ガラクは台所に入ってくるメンバーに見とれている。

「さぁ、それではいただきましょう。」

俺が、そういうと皆一斉に食事を始めた。
アウラ様、ドルムさん、ドランゴさんは、いつものように酒盛りを始めている。

ツインズはハンバーグを食べた後、俺の周りでぷかぷかと浮かんでいる。
ガラクは料理に手をつけていない。
俺がガラクに質問にした。

「どうしたガラク、食べないのか?」

「あ、食べる、食べる。ちょっと驚いていたんだ。」

「何に?」

「いや、その、ソウに家庭があるなんて・・その、もっと険しい、厳しい人生を送っているのかと・・・」

ガラクは俺のことを修行僧のような生活をしていると勝手に思っていたようだ。

「なんで?」

「いや、ソウの加護の域に達するには、人並みの修行じゃ絶対に至らない。

自分で言うのもなんだが、俺がここまで来るには全てを犠牲にしてきた。恋人も家族も作らず、一切の楽しみを捨てて修行したからこそ、今の俺になった。

俺は苦行の果てに強さがあると思っていた。それなのに・・・」

ガラクの言いたいことは少しわかる。
俺だって最近の自分の変化には驚いている。
その変化は俺が異世界人だからという理由もあるのだろう。

それを説明してやりたい気もするが、ガラクにそれを打ち明けるのはまだ早い気がする。

「ま、俺の場合は運がよかったのさ。」

「運だけで強くなるわけないと思うがな。」

「ま、いずれ教えるよ。俺の強さの秘密。それよりも飯食えよ。せっかくテルマさんがつくってくれたんだから。」

「ああ、うん。」

ガラクがハンバーグを口にした。
一口食べたところで、また止まった。

「どうした?」

「食い物が・・・これほどうまいものだとは・・・知らなかった・・」

ガラクは何を食べてきたんだろう?
その後は何もしゃべらず、無我夢中で料理をほおばっていた。

「ふー。うまかった。これほどうまいものを食べたのは初めてだ。感動さえしたよ。」

おれはテルマさんを見た。

「だってさ。よかったね。」

テルマさんは微笑んでいる。

「どうだ一杯」

ドルムさんが近寄ってきてガラクに酒を進める。

「あ、俺は酒を飲まない。すまん。」

「へー樽ごと飲みそうな顔してんのにな。アハハ」

ガラクはドルムさんの顔を見つめた。

「うむ。前に樽ごと飲んで腹をこわしたからな。」

みんながガラクを見た。

・・・・・

ガラクがニヤリと笑った。

その場の全員が大笑いした。

「ガラク、お前気に入ったぜ。あっはっは。」

ドルムさんが、ガラクの肩をたたく。

皆で大笑いしながら食事をした後、地下で俺、ガラク、ドルムさんが作戦会議を開いた。
地下室のモニターには城を上空から撮影した映像が映し出されている。

ドローンによるリアル映像だ。

「これは・・・」

ガラクが驚いている。

「俺の先祖が残した神器だよ。」

タイチさんからもらった古代の機械は、今を生きる人々に解説するのが面倒なので総じて「神器」と説明している。

「それで、井戸はどこだ?」

ガラクが前庭と中庭にある小さな建物を指さす。

「ここだ。この小屋の中に井戸がある。」

その小屋の周囲には見張り役がそれぞれ一人いる。
その外にも城内を巡回している兵士が何人か映し出されている。

「それで、どうやって城内に入る?」

「これは、城の守備隊でも一部の幹部しか知らないことだが、ライベル城には緊急避難用の抜け道がある。」

日本やヨーロッパの古い城には城が危機に陥った時、要人を逃がすための抜け道、抜け穴がある。
このライベル城にも同じような抜け道があるのだろう。

「城の北側城壁の外の山手に小さな倉庫があるが、その倉庫から城内へ入ることができる。

城側の出入り口は2つあって、一つは領主の部屋、一つは厨房地下の食糧庫に通じている。忍び込むとすれば、地下だな。」

「その抜け道に警備員はいないのか?」

「外側の倉庫には警備兵が2~3名いるだろう。深夜なら一人いるだけだ。」

「わかった。その倉庫から城内に入ろう。」

ドルムさんが身を乗り出す。

「で、俺の役目はなんだ?」

「ドルムさんは、ここにいてドローンでの監視をお願いします。危なくなったら遠話で知らせてください。ドローンの操作は口頭でできます。」

「口頭でって、タイチにお願いするのか?」

ブオンと音がしてタイチさんのフォログラムが現れた。

「なにか不満か?」

「いえ・・・なにも・・よろしくお願いします。・・」

ドルムさんはタイチさんが苦手のようだ。
ガラクが不思議そうな顔をしているが、「誰?」とは言わなかった。

「それでは、午前1時に決行します。」

「よっしゃ。」
「わかった。」

ライベル城侵入まであと3時間。
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