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第五章 獣人国編
第108話 ガラク 救出
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俺に決闘裁判で敗れたガラクは軍事裁判により、絞首刑になることが決定していた。
俺は住民の力を背景にガラクを助けようと画策して今、城門の前に大多数の住民を引き連れ立っている。
「散歩の途中だ。トイレを借りたいがいいかな?」
城門が開いた。
「すまんね。町並みを汚すわけにいかんのでね。」
「どうぞ、どうぞ、遠慮無く。」
ルステが出迎えてくれた。
俺の直近にいたレンヤが俺に続いた。
「オラもだにや。トイレ、トイレ」
シゲルがそれに続く
「出物腫れ物ところきらわず。失礼するぶ。」
レンヤとシゲルの後に他の者も続く、
「俺も」
「私も」
小さな子供がトコトコと城内へ入る。
「あら、うちの子が・・」
母親が子供を追いかけるように城内へ入る。
「入れ入れ!!」
ぞろぞろと住民が城門をくぐり、城内に入る。
その様子を見て、城の奥から武装兵士があわててやってくる。
しかし、先頭に居る俺の顔を見て武器を仕舞い、敬礼した。
「これは、ソウ様おはようございます。」
その兵士は俺が治療した患者の一人だった。
「ああ、おはよう。」
俺はにこやかに笑顔を返す。
すると俺とは面識のない兵士も俺に敬礼する。
「おはよう。おはよう。」
俺は穏やかに城の奥まで入っていった。
城の右側をまわって、中庭に入ると、中庭の中央に死刑台が禍々しく設置されていた。
死刑台の側には縄うたれたガラクと、死刑台の正面に構えられた椅子に座るヌーレイ、サルディア将軍とミルド大隊長が居た。
中庭に突然現れた俺達を見て驚いている。
ミルド大隊長が叫んだ。
「何だ?反乱か?クーデターか?守備隊は何をしている?どうなっている?」
ミルド隊長が呼ぶ守備隊は、俺の側にいるが、どうして良いのかわからず戸惑っている。
サルディア将軍が一歩前に出た。
「お前等、任務を放棄したか?反乱軍を鎮圧しろ、城から追い出せ。」
サルディアの命令にルステ小隊長が反応した。
「おそれながら、質問いたします将軍様。反乱軍はどこに居ますか?見ての通りここにおりますのはこの街の住人、それに貴族の皆様方です。国に反旗を翻すような者は、私の目には映りません。どうか明確な指示をお願いいたします。」
サルディアの顔色が赤くなった。
「何をふざけたことを言っておる。城内に許可無く立ち入り、刑の執行を邪魔立てしているのは明らかではないか。これを反乱と呼ばずして何とする。」
「あ、入城許可なら私が出しました。散歩の途中、便意を催したというので用を足したい者に対しては城内のトイレを使うことを許可しました。」
レンヤとシゲルがおどけながら言った。
「あーうんこ漏れるがにぃ。もれるもれる。」
「レンヤ、はしたないだぶよ。すこし我慢するだぶよ。ところでトイレはどこにか?」
周囲から失笑が漏れる。
サルディアの顔が更に赤くなる。
こめかみには青筋が浮き出ている。
「ふ、ふざけるなぁ。そこの馬鹿どもを捕らえろ」
とレンヤとシゲルを指さす。
レンヤとシゲルは俺の背に隠れた。
俺は一歩前に出て、ヌーレイに向かって言った。
「代官、見ての通りだ。散歩の途中城に迷い込んだが、思わぬ場所に出てしまった。これからガラクの処刑が始まるのか?」
ヌーレイはサルディアよりは落ち着いている。
「そうだ。この国の法律にのっとり、反逆者を処刑するところだ。邪魔立てするな。」
「邪魔はしないさ。ただこの国にも有益な人材をむざむざと消し去るのはどうかと思ってね。」
ヌーレイは俺の後方の群衆を見据えている。
群衆の中には地元住民はもちろんのこと、高位の軍人や貴族階級の者も沢山居る。
処世術に長けたヌーレイは、それが何を意味しているのか十分に理解しているはずだ。
「何が望みだ。何を言いたい。」
ヌーレイの頭の回転は速い。
今、ヌーレイ達の置かれている立場は弱い。
代官の地位にあるとは言え、この街の住民、兵士、貴族のほとんどを敵に回すのは相当不利だ。
俺達は反乱の意思は見せていない。
現状を把握してから対処する余裕はあると思っているのだろう。
「俺は、この街の住人ではないから、この街の治世に口出すつもりはない。ただ命を懸けて戦った相手を絞首刑などと言う下らぬことで失いたくないだけだ。どうだ?俺と取引しないか?」
ヌーレイは少し考えたが再度周囲を見回してから言った。
「何の取引だ。何を求め何を支払う?」
俺はにこやかに答えた。
「求めるのはガラクの命。支払うのはこの街の住民の健康。お前も含めての健康だよ。」
「なんだと?お前がこの街の流行病すべてを追い払うというのか?」
「そうだ。」
実際にはこの数日で、ほとんどの住民の治療を終えていたが、城に引きこもるヌーレイにはその事実がつかめていないのだろう。
「そんな戯れ言に付き合えるか。馬鹿馬鹿しい。流行病の原因は貧民街の不衛生な住民だ。それ以外の何物でも無い。」
「そうか?それならば問う。俺の後ろに控えている住民は何だ?」
「知るかそんなこと。」
「知らないなら教えてやろう。ここにいる人々は、全て俺が病から救った人々だ。病の正体は水銀中毒、原因もわからずに治療などできないよ。」
俺の後ろには数万の人々がひかえている。
顔を赤くしたサルディアが横から口を出す。
「また、そんな嘘をいいやがって。一人でこれだけの人数を治療したというのか?ホラ吹きもいいところだな。」
俺は後ろを振り返って言った。
「恩を着せるわけではないが、俺の治療に満足している人は声にしてくれ。」
俺の声は見える限りの人に届いた。
「「「「「「「「「「「「「ソウ様ぁぁぁぁ・・ありがとうございましたぁぁ」」」」」」」」」」」」
大音響となって返って来た。
その大音響にヌーレイ達が後ずさった。
ヌーレイが遠くを眺める。
「そ、そんな・・・・ここに居る全てを治療したというのか?」
「そうだよ。だから城の中に残っている病人も手当てしてやる。その代償にガラクの命を俺に譲れ。」
ヌーレイは戸惑っている。
「俺は、この街の人々が健康になり、ガラクの命が助かればそれでいい。後は何も言わない。それだけでいいんだ。」
俺は暗にヌーレイ達の汚職を追及しないと言ったのだ。
ヌーレイ達の汚職はこの街の人々の問題だ。
俺が介入する必要は無い。
「ガラクの命を助けた後、お前はどうする?」
俺の意図するところがヌーレイにも理解できたのだろう。
「ガラクと街の人々の安全が確認でき次第、俺はここを立ち去る。もちろん流行病の原因を取り除いてからだがな。」
ヌーレイは目をつぶってもう一度考えた。
そして俺の後ろを見渡してから答えた。
「いいだろう。ガラクの処刑は取りやめる。ただし軍事裁判の決定は覆さない。ガラクは有罪、階級剥奪のうえ軍から追放だ。それ以上の要求には応じない。」
俺はガラクを見て言った。
「これでいいか?」
ガラクは首を縦に振りながら、体を少し膨張させ自分を縛っている縄をちぎり飛ばした。
「すまんな。世話かける。」
ガラクの縄をもった官吏が驚いている。
サルディアとミルドが青ざめガラクから離れた。
ガラクは逃げようと思えば、いつでも逃げることができたようだ。
俺がガラクに近寄った。
「なぜ逃げなかった?」
ガラクは小さな声で言った。
「伝言・・」
俺は軍事裁判の後、ルステに言った。
「俺がなんとかするから、はやまるな。」
と、そのことをガラクにも伝えていたのだろう。
そのことを聞いたガラクは自分が逃走すれば部下にも迷惑がかかると考えてギリギリまで俺の到着を待っていたのだ。
俺はガラクを引き取ってから、群衆に向かった。
「さぁ、散歩は終わりだ。帰ろう。散歩につきあってくれてありがとう。」
俺が大きく手を振ると、群衆が、それに応えた。
「「「「「「「「「ソウ様ぁぁぁ」」」」」」」」」」」」
俺を呼ぶ声に混じって
「「「「「ガラク隊長ぉぉぉお」」」」」」」」」
という叫びも、聞こえる。
俺がガラクを連れて前に進むと人並みが割れて通路が出来た。
その中を俺とガラクはゆっくりと進む。
俺の背中に視線がささるのを感じていた。
悪意のある視線だ。
「あの男、危険だ。よく監視しろ。」
「はい。ヌーレイ様。」
サルデァが答えた。
俺はガラクを連れて商工会議所へ戻ってきた。
群衆には礼を言って解散してもらった。
おそらくこの国では初めてのデモだろう。
俺の居た日本という国では、時折、このデモンストレーションという団体による意思表示が行わる。
デモの種類にもよるが、その行為は国の体制をゆらし、国政を変換させることもある。
今回、ガラクを俺の武力で奪還することは容易なことだったが、それでは罪のない兵士を傷つけてしまうし、後々しこりを残すことにもなる。
だから、俺は民衆の力を背景にヌーレイと穏やかに交渉する方法を選んだのだ。
予想どおり民衆の力は大きく、ヌーレイから譲歩を引き出すことができた。
これで、ガラクは地位を失ったものの自由な身の上となった。
ガラクが俺の前で突然、片膝と片手をついた。
俺は驚いた。
「なんだ?やめろよ。」
「いや、止めない。俺は獅子王様に忠誠を誓った身、お前・・いや貴方に忠誠を誓うことはできないが、この命の恩、終生わすれることは無い。この命、必要とあればいつでも差し出す。そのことを覚えて居て欲しい。」
ガラクの顔は真剣だ。
俺も真面目に返答することにした。
「わかった。貴方の誠意をしっかり受け取った。俺はこれから巨大な敵に立ち向かうかもしれない。その時には力を貸して欲しい。よろしく頼む。」
俺は自分の言葉を頭の中で、もう一度繰り返した。
巨大な敵?
ヒュドラを思い浮かべた。
これから先、ブルナを取り返し、ヒナやレン、イツキ達と合流して日本に帰るにはヒュドラが大きな敵になる。
おぼろげながら、そう考えている自分を再確認した。
「さて、これからどうすんだ?」
ドルムさんがにこやかに言った。
「そうですね。患者の治療をしながら、本格的な調査を始めます。」
「毒の調査か?」
「そうです。町中の井戸を調べてみます。」
側に居たロダンに一番近くの井戸まで案内してもらった。
井戸から水を汲み、その水をアナライザーで解析したところ、やはりメチル水銀の反応があった。
「ロダンさん。この井戸水の水脈は他の井戸と繋がっているのですか?」
「ええ、地下水脈は全ての井戸に繋がっているはずです。水源は、お城の後方にある山の中です。」
ライベル城の後方には標高300メートルほどの小さな山がある。
その山を起点にして水脈が繋がっているらしい。
だから、お城の井戸は全ての井戸の起点となっているはずだ。
俺達はロダンさんの案内でライベル城の後方にある山の水源地に向かった。
山道を歩くこと30分ほどで目的地に着いた。
そこは山の中腹の岩肌がむき出しになった場所で、岩と岩の間から湧き水がチョロチョロと流れ出て、小さな泉になっているような場所だった。
泉はこんこんと水を湧き出させているが、湧きでた水は、ほんの小さな小川を作り、途中でまた地下に潜っていた。
「ここです。ここがライベルの水源地です。」
俺は泉から水を汲んでアナライザーにかけた。
ドルムさんがのぞき込む。
「どうだ?」
アナライザーは何の反応も示さなかった。
俺は住民の力を背景にガラクを助けようと画策して今、城門の前に大多数の住民を引き連れ立っている。
「散歩の途中だ。トイレを借りたいがいいかな?」
城門が開いた。
「すまんね。町並みを汚すわけにいかんのでね。」
「どうぞ、どうぞ、遠慮無く。」
ルステが出迎えてくれた。
俺の直近にいたレンヤが俺に続いた。
「オラもだにや。トイレ、トイレ」
シゲルがそれに続く
「出物腫れ物ところきらわず。失礼するぶ。」
レンヤとシゲルの後に他の者も続く、
「俺も」
「私も」
小さな子供がトコトコと城内へ入る。
「あら、うちの子が・・」
母親が子供を追いかけるように城内へ入る。
「入れ入れ!!」
ぞろぞろと住民が城門をくぐり、城内に入る。
その様子を見て、城の奥から武装兵士があわててやってくる。
しかし、先頭に居る俺の顔を見て武器を仕舞い、敬礼した。
「これは、ソウ様おはようございます。」
その兵士は俺が治療した患者の一人だった。
「ああ、おはよう。」
俺はにこやかに笑顔を返す。
すると俺とは面識のない兵士も俺に敬礼する。
「おはよう。おはよう。」
俺は穏やかに城の奥まで入っていった。
城の右側をまわって、中庭に入ると、中庭の中央に死刑台が禍々しく設置されていた。
死刑台の側には縄うたれたガラクと、死刑台の正面に構えられた椅子に座るヌーレイ、サルディア将軍とミルド大隊長が居た。
中庭に突然現れた俺達を見て驚いている。
ミルド大隊長が叫んだ。
「何だ?反乱か?クーデターか?守備隊は何をしている?どうなっている?」
ミルド隊長が呼ぶ守備隊は、俺の側にいるが、どうして良いのかわからず戸惑っている。
サルディア将軍が一歩前に出た。
「お前等、任務を放棄したか?反乱軍を鎮圧しろ、城から追い出せ。」
サルディアの命令にルステ小隊長が反応した。
「おそれながら、質問いたします将軍様。反乱軍はどこに居ますか?見ての通りここにおりますのはこの街の住人、それに貴族の皆様方です。国に反旗を翻すような者は、私の目には映りません。どうか明確な指示をお願いいたします。」
サルディアの顔色が赤くなった。
「何をふざけたことを言っておる。城内に許可無く立ち入り、刑の執行を邪魔立てしているのは明らかではないか。これを反乱と呼ばずして何とする。」
「あ、入城許可なら私が出しました。散歩の途中、便意を催したというので用を足したい者に対しては城内のトイレを使うことを許可しました。」
レンヤとシゲルがおどけながら言った。
「あーうんこ漏れるがにぃ。もれるもれる。」
「レンヤ、はしたないだぶよ。すこし我慢するだぶよ。ところでトイレはどこにか?」
周囲から失笑が漏れる。
サルディアの顔が更に赤くなる。
こめかみには青筋が浮き出ている。
「ふ、ふざけるなぁ。そこの馬鹿どもを捕らえろ」
とレンヤとシゲルを指さす。
レンヤとシゲルは俺の背に隠れた。
俺は一歩前に出て、ヌーレイに向かって言った。
「代官、見ての通りだ。散歩の途中城に迷い込んだが、思わぬ場所に出てしまった。これからガラクの処刑が始まるのか?」
ヌーレイはサルディアよりは落ち着いている。
「そうだ。この国の法律にのっとり、反逆者を処刑するところだ。邪魔立てするな。」
「邪魔はしないさ。ただこの国にも有益な人材をむざむざと消し去るのはどうかと思ってね。」
ヌーレイは俺の後方の群衆を見据えている。
群衆の中には地元住民はもちろんのこと、高位の軍人や貴族階級の者も沢山居る。
処世術に長けたヌーレイは、それが何を意味しているのか十分に理解しているはずだ。
「何が望みだ。何を言いたい。」
ヌーレイの頭の回転は速い。
今、ヌーレイ達の置かれている立場は弱い。
代官の地位にあるとは言え、この街の住民、兵士、貴族のほとんどを敵に回すのは相当不利だ。
俺達は反乱の意思は見せていない。
現状を把握してから対処する余裕はあると思っているのだろう。
「俺は、この街の住人ではないから、この街の治世に口出すつもりはない。ただ命を懸けて戦った相手を絞首刑などと言う下らぬことで失いたくないだけだ。どうだ?俺と取引しないか?」
ヌーレイは少し考えたが再度周囲を見回してから言った。
「何の取引だ。何を求め何を支払う?」
俺はにこやかに答えた。
「求めるのはガラクの命。支払うのはこの街の住民の健康。お前も含めての健康だよ。」
「なんだと?お前がこの街の流行病すべてを追い払うというのか?」
「そうだ。」
実際にはこの数日で、ほとんどの住民の治療を終えていたが、城に引きこもるヌーレイにはその事実がつかめていないのだろう。
「そんな戯れ言に付き合えるか。馬鹿馬鹿しい。流行病の原因は貧民街の不衛生な住民だ。それ以外の何物でも無い。」
「そうか?それならば問う。俺の後ろに控えている住民は何だ?」
「知るかそんなこと。」
「知らないなら教えてやろう。ここにいる人々は、全て俺が病から救った人々だ。病の正体は水銀中毒、原因もわからずに治療などできないよ。」
俺の後ろには数万の人々がひかえている。
顔を赤くしたサルディアが横から口を出す。
「また、そんな嘘をいいやがって。一人でこれだけの人数を治療したというのか?ホラ吹きもいいところだな。」
俺は後ろを振り返って言った。
「恩を着せるわけではないが、俺の治療に満足している人は声にしてくれ。」
俺の声は見える限りの人に届いた。
「「「「「「「「「「「「「ソウ様ぁぁぁぁ・・ありがとうございましたぁぁ」」」」」」」」」」」」
大音響となって返って来た。
その大音響にヌーレイ達が後ずさった。
ヌーレイが遠くを眺める。
「そ、そんな・・・・ここに居る全てを治療したというのか?」
「そうだよ。だから城の中に残っている病人も手当てしてやる。その代償にガラクの命を俺に譲れ。」
ヌーレイは戸惑っている。
「俺は、この街の人々が健康になり、ガラクの命が助かればそれでいい。後は何も言わない。それだけでいいんだ。」
俺は暗にヌーレイ達の汚職を追及しないと言ったのだ。
ヌーレイ達の汚職はこの街の人々の問題だ。
俺が介入する必要は無い。
「ガラクの命を助けた後、お前はどうする?」
俺の意図するところがヌーレイにも理解できたのだろう。
「ガラクと街の人々の安全が確認でき次第、俺はここを立ち去る。もちろん流行病の原因を取り除いてからだがな。」
ヌーレイは目をつぶってもう一度考えた。
そして俺の後ろを見渡してから答えた。
「いいだろう。ガラクの処刑は取りやめる。ただし軍事裁判の決定は覆さない。ガラクは有罪、階級剥奪のうえ軍から追放だ。それ以上の要求には応じない。」
俺はガラクを見て言った。
「これでいいか?」
ガラクは首を縦に振りながら、体を少し膨張させ自分を縛っている縄をちぎり飛ばした。
「すまんな。世話かける。」
ガラクの縄をもった官吏が驚いている。
サルディアとミルドが青ざめガラクから離れた。
ガラクは逃げようと思えば、いつでも逃げることができたようだ。
俺がガラクに近寄った。
「なぜ逃げなかった?」
ガラクは小さな声で言った。
「伝言・・」
俺は軍事裁判の後、ルステに言った。
「俺がなんとかするから、はやまるな。」
と、そのことをガラクにも伝えていたのだろう。
そのことを聞いたガラクは自分が逃走すれば部下にも迷惑がかかると考えてギリギリまで俺の到着を待っていたのだ。
俺はガラクを引き取ってから、群衆に向かった。
「さぁ、散歩は終わりだ。帰ろう。散歩につきあってくれてありがとう。」
俺が大きく手を振ると、群衆が、それに応えた。
「「「「「「「「「ソウ様ぁぁぁ」」」」」」」」」」」」
俺を呼ぶ声に混じって
「「「「「ガラク隊長ぉぉぉお」」」」」」」」」
という叫びも、聞こえる。
俺がガラクを連れて前に進むと人並みが割れて通路が出来た。
その中を俺とガラクはゆっくりと進む。
俺の背中に視線がささるのを感じていた。
悪意のある視線だ。
「あの男、危険だ。よく監視しろ。」
「はい。ヌーレイ様。」
サルデァが答えた。
俺はガラクを連れて商工会議所へ戻ってきた。
群衆には礼を言って解散してもらった。
おそらくこの国では初めてのデモだろう。
俺の居た日本という国では、時折、このデモンストレーションという団体による意思表示が行わる。
デモの種類にもよるが、その行為は国の体制をゆらし、国政を変換させることもある。
今回、ガラクを俺の武力で奪還することは容易なことだったが、それでは罪のない兵士を傷つけてしまうし、後々しこりを残すことにもなる。
だから、俺は民衆の力を背景にヌーレイと穏やかに交渉する方法を選んだのだ。
予想どおり民衆の力は大きく、ヌーレイから譲歩を引き出すことができた。
これで、ガラクは地位を失ったものの自由な身の上となった。
ガラクが俺の前で突然、片膝と片手をついた。
俺は驚いた。
「なんだ?やめろよ。」
「いや、止めない。俺は獅子王様に忠誠を誓った身、お前・・いや貴方に忠誠を誓うことはできないが、この命の恩、終生わすれることは無い。この命、必要とあればいつでも差し出す。そのことを覚えて居て欲しい。」
ガラクの顔は真剣だ。
俺も真面目に返答することにした。
「わかった。貴方の誠意をしっかり受け取った。俺はこれから巨大な敵に立ち向かうかもしれない。その時には力を貸して欲しい。よろしく頼む。」
俺は自分の言葉を頭の中で、もう一度繰り返した。
巨大な敵?
ヒュドラを思い浮かべた。
これから先、ブルナを取り返し、ヒナやレン、イツキ達と合流して日本に帰るにはヒュドラが大きな敵になる。
おぼろげながら、そう考えている自分を再確認した。
「さて、これからどうすんだ?」
ドルムさんがにこやかに言った。
「そうですね。患者の治療をしながら、本格的な調査を始めます。」
「毒の調査か?」
「そうです。町中の井戸を調べてみます。」
側に居たロダンに一番近くの井戸まで案内してもらった。
井戸から水を汲み、その水をアナライザーで解析したところ、やはりメチル水銀の反応があった。
「ロダンさん。この井戸水の水脈は他の井戸と繋がっているのですか?」
「ええ、地下水脈は全ての井戸に繋がっているはずです。水源は、お城の後方にある山の中です。」
ライベル城の後方には標高300メートルほどの小さな山がある。
その山を起点にして水脈が繋がっているらしい。
だから、お城の井戸は全ての井戸の起点となっているはずだ。
俺達はロダンさんの案内でライベル城の後方にある山の水源地に向かった。
山道を歩くこと30分ほどで目的地に着いた。
そこは山の中腹の岩肌がむき出しになった場所で、岩と岩の間から湧き水がチョロチョロと流れ出て、小さな泉になっているような場所だった。
泉はこんこんと水を湧き出させているが、湧きでた水は、ほんの小さな小川を作り、途中でまた地下に潜っていた。
「ここです。ここがライベルの水源地です。」
俺は泉から水を汲んでアナライザーにかけた。
ドルムさんがのぞき込む。
「どうだ?」
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