異世界修学旅行で人狼になりました。

ていぞう

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第五章 獣人国編

第106話 貴族と兵士 ルステの涙

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決闘裁判の結果、俺はガラクに勝ち、無罪を勝ち取った。
元々何の悪い事もしていない。
いや悪いことどころか、困っている人々を救っていたのだから、裁判にかけられること自体間違っているのだ。

俺が勝ち名乗りをあげる代わりに観衆に向かって現状を説明したところ、国に騙されていると知った群衆が代官に詰め寄った。

代官はガラクや兵隊を指揮して群衆を排除しようとしたが、ガラクがそれに従わなかった。
他人事とはいえ、ガラクのことが少し心配だ。

「いいのか?軍人だろ?代官を無視して・・」

「いいさ、俺は獅子王様に忠誠を誓っているが、あのクソ野郎には何の義理もない。元々住民に水を分け与えるのが有料だなんて気に入らなかったんだ。・・・それにしても城の井戸に毒が入ってるとはな。」

「まだ疑っているのか?」

「いや、今は疑っていない。お前の神々しいまでの加護は、お前を信じるに値する。それにインチキまじない師ならば、これほど住民に好かれるはずもない。ライベルの住民は馬鹿じゃないよ。」

俺の体は青い光で包まれたままだ。
人狼Ⅱはそれを維持するのに大量の魔力を必要とするから、長時間の人狼化は苦痛をともなう。

しかし獣王の姿は、その姿を保つのに、ほとんど苦労することがない。
消費する以上に魔力が補給されるからだ。
人の姿でいる時と同等、いやそれ以上に獣王の姿で居ることが心地良い。
獣王化している俺の周りを住民が取り囲む。

「ソウ様、ありがとうございます。」
「神が降臨なされた。」
「ソウ様、この街をお救い下さい。」

口々に俺を賛美し、中には地に伏して俺を拝む者も居る。
ガラクが俺に向いた。

「さて、これから俺は何をすればいい?神様」

「何をって・・・」

「お前は、勝者だ。敗者に何か命令しろ。お前は負けていれば死罪だったんだ。俺には何のリスクもなかった。だから、俺に何か試練を与えろ。そうでなければ俺の気が済まん。」

ガラクは正々堂々と戦って敗れた。

「敗者にむち打つつもりはない。」

「そんな意味じゃない。この町のために、俺にも何かさせろと言ってるんだ。」

あ、なるほどね。
ガラクは、元々この街を守る軍人だ。

上司の命令で仕方なく俺と敵対したが、住民を守りたい気持ちは大きいのだろう。

「わかった。後で城へ行って、城内の井戸を調べてみたい。その時の手伝いをしてくれ。」

「わかった。城で待っている。」

「ああ、頼んだ。」

ガラクは片手をあげ、兵を引き連れ闘技場を後にした。

俺は鳴り止まぬ歓声の中、群衆をかき分けて闘技場を出た。
出入り口でピンター達が待ち構えていた。

「兄ちゃん。よかったね。心配したよ。」

ガラクには一時苦戦を強いられた。
ピンターが心配したのも無理はない。

「ごめん。ごめん。けっこう強かったよ。あいつ。あはは」

ドルムさんが俺の肩を叩く。

「ヒヤヒヤしたぞ。ま、いざとなったら俺がでていくつもりだったけどな。」

ドルムさんに悪魔化されると後始末が面倒だ。

「わいも、出て行ったろかとおもとったで。グハハ」

アウラ様に出られるともっとややこしい。

「すみません。心配させて。でもなんだかうまくいきましたよ。」

イリヤ様が俺の服の汚れを払ってくれる。

「一段と神に近づきましたね。感じますよ。貴方の心にアウラと同じものを・・」

「おそれおおいです。イリヤ様。」

「いえいえ、どっちかと言えば、ソウさんの方が似合ってます。神という立場。」

アウラ様があせる。

「おいおい。かぁちゃん。・・・」

「うふふ・・お酒を飲まなければ、あなたも立派な神様なのにネ。うふふ」

「えーと・・・」

アウラ様が答えに詰まる。
ドランゴさんもにこやかだ。

「師匠、お疲れ様でした。帰るでやんすよ。テルマさんが、ご馳走作ってまってくれてるでがす。」

「ご馳走か、わいの分もあるかな?」

「もちろんでがす。イリヤ様の分もありやす。どうぞおいで下しあ。」

俺たちは、闘技場を後にしてキューブへ帰った。
ツインズも来ていた。
久しぶりに仲間が全員揃った。
皆で食事をしながら、だべった。
やはり我が家がいい。

俺の本当の家は遙か遠くの日本という国にあるが、帰宅することはもとより今は、連絡さえとれない。
この世界へ来て一年以上になる。
今では、このキューブが我が家だ。
そして、今ここに居る仲間が俺の家族だ。
俺は本気でそう思っている。

ある意味俺は幸せだ。
住み心地の良い家と、仲の良い家族がここに全員集まっている。

ルチアを除いて・・・・

「ルチア大丈夫かな。」

俺が一言こぼすとドルムさんが反応した。

「この街に入っていないというから、大丈夫だろ。もしここの水を飲んだとしても一時のはずだ。この毒は飲み続けると病状が出るんだろ?」

ここの水は有機水銀で毒されているが、含有量は少なく、長期に摂取しなければ発病しないはずだ。

「それも、そうですね。でも早く会って安心したいです。ここでの作業を早く終えてルチアを追いかけましょう。」

「そうだな。」
「兄ちゃん・・」
「そうでやんす。」
「わいにでけることがあったら言えよ。」

俺は食事を済ませた後、一度商工会議所へ戻り、患者の様子を見た。
重篤だった患者も点滴治療でほぼ回復し、今はベッドが空いている。

建物の外では、俺の帰りを待っている患者が何人かいたので、その全てをヒールした。
俺のヒールは獣王となってからは、格段と進歩し、一人あたり数秒で行えるようになっていたし、その効果も増大していた。

流れ作業のようにヒールを続けたが、その効果は絶大で、皆一様に驚いていた。
商工会長のロダンさんが、俺に近づいてきた。

「ソウ様、なにか更に神々しくなられたような。それに治療の効果も早く、より良くあらわれているご様子ですな。」

「うん。ちょっとしたコツをつかんだからね。もう、以前みたいに倒れたりしないよ。ハハ」

俺は獣王化する前は、魔力の使いすぎで何度か倒れた。
ヒールすべき対象が多すぎたのだ。
しかし、今は何人患者がこようが、時間さえあれば、その全てを治療する自信がある。
獣王化した俺のタテガミが無尽蔵に魔力を供給してくれるのだ。

「それは、頼もしい限りです。ところでソウ様、決闘裁判を見た兵士や兵士の家族、それに貴族までもが、ソウ様の治療を望んでおりますが、いかがなされます。」

俺を捕まえようとした兵士や、闘技場で俺を見下ろしていた貴族までもが、俺に救いを求めている。
兵士はまだしも、貴族という名の者達には何もしたくなかった。

貴族、つまり下町の住民から税金や水代をむしり取り、その金で優雅に暮らしている人々のことだ。

税金は仕方ないが、本当に困っている人達に、その弱みにつけ込んで金をむしり取るというのが腹立たしかったのだ。

「ロダンさん。城の水を売って、その利益を得ているのは誰?」

「はぁ・・・ソウ様のご質問ですからお答えします。大きな声では言えませんが、水の売り上げは国庫に入り、治水や街の整備、軍費としてまかなわれるはずです。表向きは・・・」

表向きはと言うことは・・・

「代官?」

ロダンさんは、声に出さず、首を縦にふった。
代官は、領主が不在の間この街の最高権力者だ。
その最高権力者が不正をしているなどと声に出せないのだろう。

「それに、その取り巻きもです・・・」

「裁判官?」

ロダンさんが首を縦にふる。

「ガラク?」

首を横に振る。

「他に何人くらい?」

ロダンさんは、指を3本出した。

「誰よ?」

ロダンさんが俺の耳元で囁いた。

「サルディア将軍、ミルド大隊長、それにワレス副官ですね。」

ロダンさんの話によると3ヶ月前に、この町の領主で獅子王の弟『レギラ』が王都オラベルに自分の結婚準備の為に帰った。

レギラが留守の間に、この街の統治を任されたのがヌーレイだ。

レギラは血気盛んな若者だが、統治力、政治力は持ち合わせていないらしい。
レギラがこの街にいる時も、治世は、当時副官だったヌーレイに一任していたようだ。

ヌーレイは元々、貧乏な平民の出だが、話術、処世術に長けていて、いつの間にやら代官の地位まで上り詰めた。

ヌーレイは出世と同時に自己の財産を増やすことに熱中し、庶民を虐げるようになってきたらしい。
税は上がり、庶民の不満が高まると、その不満のはけ口を生産性の乏しい貧民街へ向けた。

税を払えぬ者をしょっ引き、罰金を科すが貧民は当然、罰金など払えない。
罰金を払えない者は奴隷落ちさせるか、闘技場の戦士として戦わせ、庶民の不満のはけ口とさせていたらしい。

ヌーレイが権力と財力を身につけると、それに媚びへつらい、追従する者が現れた。
それが、この町の軍事責任者、将軍サルディアとその部下ミルド大隊長だ。

ガラクもサルディアの部下だが、サルディアとはそりが合わず、反発していたようだ。
実力はガラクの方が上、一般兵士からの信奉もガラクの方が厚いらしい。

大隊長はもう一人居るが、サルディアとガラクの間で中立を保っているらしい。
ミルド大隊長はサルディア将軍のイエスマン。
ワレス副官というのはヌーレイ子飼いの部下だという。

話が少し横道にずれた。

「で、その治療を希望する兵士や貴族は、何人くらい居るの?」

「正確な数字はわかりませんが、申し出があるのは今のところ、数十名です。本当はもっと多くの患者がいるはずですが、ヌーレイ様に気を遣って名乗り出ることができないのかと・・今、申し出があっている兵士や、その家族は、よほど困っているものと思われます。」

俺を敵視した兵士や貴族を治療するのには少し抵抗があったが、やはり兵士達にも家族があるし、その家族を想う心は俺たちと同じだ。

「わかった。治療を求める者には治療を施そう。兵士も貴族もわけへだてなく。」

ロダンさんが笑顔になった。

「そうお答えいただけると思っていました。今から使いを出して病人をつれてこさせますが、よろしいですか?」

「いいよ。他の病人を診ているから、順次連れてきて。」

「はい。」

商工会館の広間で貧民街の住人を診ていると何人かの兵士が入ってきた。
兵士の何人かは子供の手を引いている。

兵士の中には以前俺を逮捕に来た兵士もいた。
申し訳なさそうにしているのを見て俺は、何も言わなかった。

何人かの兵士と、その家族にヒールをかけたとき、見覚えのある男の順番になった。
俺を城まで連行したルステ小隊長だ。

ルステは、ばつの悪そうな、困ったような、なんとも言えない顔をしている。
ルステ小隊長の腕の中には、3歳くらいのオークの女の子がぐったりしている。
ルステの娘だろう。

ルステは、自分の順番になっても、こちらへ歩を進めようとしない。

娘に俺の治療を受けさせるかどうか未だに悩んでいる様子だ。

ルステは無実の俺を逮捕し城まで連行した男だ。
その負い目があるのだろう。

それでもここまで来たのは、子を思う親の心なのだろう。

ルステが抱いている女の子は、かなり重症らしく、意識が朦朧としているようだ。

ルステの腕の中で

「パパ、痛い・・・」

とうわごとを言っている。

俺は、自らルステに歩み寄った。

ルステは何も言わず顔を背けた。

俺は、女の子に対し幾分長めにヒールを施した。
俺の全身を包む青い光が金色に変化して、ゆるやかにルステの娘に流れ込んだ。

「ふぅー」

女の子は一息ついて目をしっかりと開けルステを見た。

「パパ、おはよう。」

ルステの目から、溢れるように涙が湧き出す。

「チュナ・・・・」

ルステは娘を抱きしめた。
そして俺に向かってひざまずき頭を下げた。

俺はルステの肩をポンポンと二回軽くたたいた。
ついでにヒールもかけてやった。

「よかったな。」

ルステは声を出して泣いた。

「ありがとうございます。ありがとうございます。そして・・・そして・・・」

ルステは俺を逮捕したことを謝罪しようとした。

「いいよ。何にも言うな。お前は仕事熱心なだけだ。家族の為に働いているのだろう。だから、何も言わなくていいよ。」

ルステ以外の兵士も涙している。
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