異世界修学旅行で人狼になりました。

ていぞう

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第五章 獣人国編

第105話 裁判結果 ソウは死罪

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決闘裁判の最中、俺はマザーの力を借りて、一段階進化した。
マザーが言うところの「ジュウオウカ(獣王化)」だ。

見かけは銀狼ギンロウ、青く緩やかな光が俺の全身を包んでいる。
青い光は俺がヒールを使うときに自然に発生する光に似ている。

その光に包まれた人は、怪我が治り、体力と免疫力が向上し、病から解き放たれるのだ。
その光が、常時俺を包んでいる。

獣王化している間は、人狼Ⅱと同様、大量の魔力を必要とするが、獣王化を維持するための魔力量より、俺のタテガミが吸収する魔力量の方が多いので、魔力量に関しては困ることはない。

俺の右腕には、俺に鳩尾を打たれて意識を失ったガラクが居る。
手加減はしたが、内臓には相当のダメージが残っているはずだ。

裁判所の救護班がかけつけて、俺からガラクを奪うように切り離した。

何人かのヒール使いがガラクにヒールを施すがガラクは意識を取り戻さない。

「「「「「ガラク隊長ぉぉぉぉぉ」」」」」」

悲鳴に近い叫び声が観客席から聞こえる。
ガラクの部下達だ。

貴賓席からフィールドをのぞき込んでいる裁判官や貴族、そして代官に対してヒーラー達が首を横に振った。

(死んだのか?)

俺は横たわるガラクに近づいた。
兵士数人がガラクに近づく俺に槍を向けたが、それには構わず、俺はガラクの横に片膝をついてガラクに触れた。

かすかだが鼓動を感じる。
生きてはいるが俺が与えたダメージが大きく、そこいらのヒーラーには手が出ないだけのことだった。

俺はガラクをヒールすべく、念じた。
俺の体を包む青い光は金色へと徐々に変化し、俺がガラクに手をかざすと俺が身にまとっていた金色の光がガラクへと緩やかに移り、ガラクの体全体をまとった。

「プヒュー・・・」

ガラクが息を吹き返した。
ガラクは何事が起こったのか理解していないようだ。
一時的に記憶を失っているのだろう。
ガラクが周囲を見渡し、次に俺を見て、自分が置かれた状況を理解したようだ。
自ら立ち上がり、俺に向かって告げた。

「俺の負けだ・・・」

その言葉を聞いて補助官が貴賓席に向かって大きな声で告げた。

「勝者、ソウ・ホンダ」

ウォォォォォォ!!!!!

地鳴りのような歓声が観客席から闘技場全体に響き渡る。
俺の勝利を喜ぶ歓声と、ガラクが息を吹き返したことの喜びの声だ。

「やったね。兄ちゃん。!!」

「ああ、やったな。さすがソウだ。」

「師匠、よかったでやんす。」

「ま、こんなもんやろな。さ、祝い酒祝い酒♪」

「よかったですわ。ソウさん無事で。」

「これで兄ちゃん無罪だよね。」

「そのはずだがな・・・」

ピンターの問いかけにドルムが不安そうな声を返す。

「そうやな。闘技場の入り口に多くの魔力を感じる。なんやしらんが、多くの兵士が身がまえとるぞ。」

貴賓席では代官のヌーレイが歯ぎしりしている。

「ガラクの馬鹿者が、犬ころなんぞに負けおって。」

代官の部下が代官の耳元で何か囁いた。
代官は一瞬、躊躇したかに見えたが、すぐに指示を出した。

「やれ・・・」

ヌーレイから指示を受けた部下は、今度は裁判官に耳打ちした。
裁判官は少し、驚いている。
ヌーレイの部下が更に裁判官に耳打ちをする。

「しかし・・それでは裁判官としての・・・」

何事かを拒否しているようだ。

ヌーレイがいらだって裁判官を睨んだ。
「お前は職務を放棄するのか?獅子王様の威厳を潰すつもりか?獅子王様を侮辱するあの犬ころを庇うのか?」

裁判官は青ざめる。

「いえ、けっしてそのような・・・」

「ならば、とっとと職務をこなせ。」

「はい。・・・」

まだ覚めやらぬ歓声を裁判補助官が沈めようと大きな声で叫んだ。

「静まれ、静まれ、ただ今より、決闘裁判の結果を発表する。静まれ!!!!」

観衆は俺に対する拍手と歓声を送ることに夢中で、補助官の声は届かない。
補助官は一度引き下がり、大きなドラを持ち出して、それを何度も叩いて観衆の関心を引きつけた。

「静まれ、静まれ、裁判結果の発表だ!!」

観客席のシゲルがレンヤに顔を向けた。

「レンヤ、裁判結果の発表って何だぶ?ソウ様が勝ったでぶよ?」

「さぁな。勝ち名乗りでもあげさせるんじゃないだにか?」

裁判官が補助官の後ろから出てきた。

心なしか足が震えているようだ。

「ただ今の決闘裁判の結果を発表する。勝者・・・・・・ガラク。よってソウ・ホンダを王家の侮辱罪、詐欺罪で有罪とし死刑に処する。・・・」

「「「なんだとぉぉおお」」」」
「「「「「なんだ、それは、!!!」」」
「「「「バカヤロウー!!!!」」」」

観衆が口々に叫び出す。

裁判長は続けた。

「先ほど、決闘の際ソウは、自分の武器を仕舞った。明らかに戦意を喪失していた。そしてガラクに告げたのだ。『降参』と。そしてガラクが降参を受け入れたにも関わらず、卑怯にもガラクの隙をついて攻撃をした。従ってソウが武器を仕舞い。降参を告げた時点でソウの負けは確定している。その後のソウの攻撃でガラクが倒れたことは勝敗には関係なきものと見なす。」

確かに俺は武器を仕舞った。
しかし、それは戦意を喪失したのではなく、ガラクを殺したくなかったからだ。
そのことをとらえて戦意喪失とは詭弁もいいところだ。
ましてや俺は「降参」などと一言も言っていない。

裁判官が手を上げた。
闘技場入り口の門が開いて完全武装した兵士数百人がフィールドに現れた。
観衆がどよめく。
観衆は口々に裁判官を罵っている。

「そんなのあるか!!」
「恥ずかしくないのか?!!!」
「獅子王様の名を汚すのは、お前達だ!!!」

観客席の兵士は戸惑っている。
本来なら代官や裁判官側の手のものなのだが、あまりにも理不尽な裁判結果に驚いている。
心の中ではソウの勝利はあきらかなのだが、兵士として上官である代官に逆らうことができないもどかしさに身動きがとれないようだ。

俺は、並の兵士数百人なら今からでも戦うことが出来る。
もちろん、負けることはない。

しかし、俺ににじり寄る兵士にも家族はいるだろう。
その家族を悲しい目に遭わせたくない。
さしたる理由もなく誰かを殺したくないのだ。

それでも自分の身は守らなくてはいけない。
やむを得ず、俺は雷鳴剣を取り出した。
すると俺と兵士の間にガラクが立ち塞がった。

「お前等、剣を納めろ。すまん。お前等の期待に添えなくて。俺は負けた。このソウ・ホンダに負けた。完全に実力差だ。ソウ・ホンダは何も汚いことをしていない。俺とソウは正々堂々と戦い、俺がソウに負けたのだ。このことは誰が何を言っても、例え獅子王様の命令でも変わることはない。もう一度言う。俺はソウ・ホンダに負けたのだ。」

俺に詰め寄る兵士達の行進が止まった。
観客席の兵士達の中には泣いている者もいる。

ガラクは貴賓席の裁判官に向かって言った。

「裁判官殿、先ほどの宣言は何かの手違い、勘違いでございましょう。今、直ちに訂正をお願いいたします。勝者ソウ・ホンダと。何卒これ以上私に恥をかかせないでいただきたい。」

ガラクに、そう言われたものの、裁判官はとまどっている。
ガラクを見た後、不安げな顔でヌーレイの方を見た。
ヌーレイは知らぬ顔をしている。

「あ、いや、あのぅ・・・・そうじゃな。確かに勘違いであった。うん。そう、そう。勘違い。誰にでも間違いや勘違いはあるもの。うん。訂正しよう。うん。」

裁判官はヌーレイに無理な判決結果の言い渡しを指示されたものの、当事者のガラクが自ら負けを認めたのだから、どうしようもない。

「んー、先ほどの宣言、補助官の見誤りであった。当事者のガラクから負けを認める発言があったので、判決結果の言い直しをする。ん、おほん!・・・本決闘裁判の勝者、・・・ソウ・ホンダ。よってソウ・ホンダは無罪とする。」

その判決直後、ガラクが俺に対して兵士の礼を取って一言言った。

「すまなかった。部下達に罪はない。許してくれ。」

俺もガラクに対して兵士の礼をとった。

「わかっているよ。」

俺とガラクのやり取りを見た観客席の観衆とフィールドにいる兵士から一斉に歓声が上がった。

「「「「「「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉっぉぉ」」」」」」」」」」」」」

住民から
「ソウ様、ばんざい」
「使徒様ぁぁぁ」
「神様、ありがとう」


の声がする。
兵士側からも

「ガラク隊長ばんざい」
「さすがガラク隊長」
「ガラク隊長おつかれさまでした。」

と声が上がる。
貴賓席のヌーレイが苦虫をかみつぶしたような顔をしている。
「ガラクの馬鹿者が・・・」

俺は貴賓席へ歩み寄り、ヌーレイに声をかけた。

「代官、これで俺の無実は証明されたんだよな。」

ヌーレイは無言で俺を睨んでいる。

「裁判官、どうなんだ?俺は無罪なのか?有罪なのか?」

裁判官はヌーレイの方を何度見た後、答えた。

「む、無罪ということになるかなぁ・・・あはは・・」

「つまり、俺の方が正しいということだな?」

「そ、そういうことになるかもしれぬな・・・あはは・・・」

俺は観衆に向き直った。

「みんな聞いてくれ今、目の前で皆が見たとおり、俺が正しいと証明された。そのうえでもう一度言う。この町にある全ての井戸には毒がある。飲むな、飲ませるな。今は川の水を煮沸してから飲め。それが健康回復の一番の近道だ。」

観衆の住民の誰かが叫んだ

「お城の井戸水にも毒が入っているんですか?」

俺は全ての人に聞こえるように大きな声で答えた。

「そうだ、城の井戸水にも毒がある。飲んではいけない。」

観衆がどよめく兵士も何か囁き合っている。
元々住民に対しては俺が治療する姿を見せていたことで、俺に対する信用度は高かった。
兵士にはヌーレイ達が「インチキまじない師」という情報を伝えていたので、最初は敵対心しか持たれていなかった。

しかし、ガラクと戦い勝利し、ガラクをヒールする姿を見て考えを改めたようだ。
観客席の兵士達が囁き合う。

「城の井戸水にも毒って、じゃ、俺たちは毒水を住民に売りつけていたってことか?」

「・・・そういう事になるな。」

住民達は大きな声でしゃべっている。

「どおりで、病が広がるはずだ。俺たちは高い金を払って、毒を買わされ、飲みつづけていたんだ。」

「そうだなや。毒を買って、それを家族にのませていたなんて、なんちゅうこんだでや。」

住民の視線は代官のヌーレイに向く。
ヌーレイもその視線に気がつく。

「静まれ、静まれ、お前達、獅子王様の恩義を忘れるな、獅子王様がいるからこそ、他国からの侵略に耐えていられるんだぞ、その獅子王様の名が汚れるような馬鹿話を信じるな。」

ヌーレイが民衆を説得しようとするが、住民の憤りは治まらない。

「なにを言ってるにか、その獅子王様の名をけがしているのは、あんただがや。恥をしれ」

「「「「そうだでや、恥を知れ。」」」」」

騒ぎは大きくなる。

「オラ達の金を返せ、だまし取った金返せよ。オラの家族の健康を返せ!!」

何人もの観衆が、観客席からフィールドに降りてきた。
それにつられて騒ぎは一層大きくなる。

何十人かが貴賓席に詰め寄ろうとした時、ヌーレイが

「兵士ども、反逆する住民を取り押さえろ、暴れさせるな。」

ヌーレイがフィールドにいる兵士に命じた。
フィールドの武装した兵士がとまどっている。

「何をしている。下民共をこちらに近づけるな。かまわん。攻撃しろ。こちらに近づけるんじゃない。」

怒った住民が続々と貴賓席に詰め寄る。

「何をしとるか!! ガラク、兵どもを指揮しろ、反乱を抑えろ!!」

ガラクはゆっくりとヌーレイに背を向けた。
それに習ってフィールドの兵士もヌーレイに背を向けた。

「ヌーレイ様ここは一度待避を」

側近に促されてヌーレイは捨て台詞を残して貴賓席から姿を消した。

「覚えていろよ、ソウ、ガラク、ワシは反逆者を許さんぞ」

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