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第五章 獣人国編
第94話 流行病の正体
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ネリア村のライチを要塞都市ライベルに送り届けたところ、ライベルでは正体不明の病気が蔓延していた。
街の住人のほとんどが罹患していて、軽い症状は目眩と吐き気、気脱力感だけだったが、症状が重くなると、視野狭窄、手足のしびれ、嘔吐がひどくなり全身の痛みを伴って最後には呼吸困難になって死に至る恐ろしい病気だ。
死者はまだ、それほど多くないが子供や年寄りなど体力の弱い者から衰弱している。
病気の正体がわかれば、対処方法もわかるかもしれないと思い、ライチの叔父の協力を得て原因究明に努めるつもりだ。
俺はウルフのそばにゲートを開いてライチの叔父レンヤを誘った。
「何かね、これは。?」
レンヤが驚いている。
「これは、別の場所につながる門です。特別な神の加護とでも思ってください。危険はまったくありません。」
「そうだにか?・・・」
ためらうレンヤを見て、ピンターが先にゲートをくぐった。
ピンターは数秒姿を消したが、すぐにゲートから現れた。
「ダイジョウブだよ。」
ピンターが獣人言葉でレンヤに笑顔で話かけている。
「う、うん。」
「レンヤさん行きますよ。」
俺はレンヤを促して、レンヤと共にゲートをくぐった。
ゲートの出口はキューブだ。
「ここは?」
「俺の自宅の地下室です。」
「ここが?」
レンヤの目に映るのは近代設備の揃ったサーバールームのような場所だ。
「タイチさん。」
ブォーンという音と共にタイチのフォログラムが現れた。
「おう。なんじゃ、ソウ。」
「ライベルというところで蔓延している病気の正体を知りたくて患者を連れてきました。念のために外部との遮断、それにここをクリーンルームにしてください。」
「ほいよ。お安いご用じゃ。」
レンヤが不思議そうな目でタイチを見つめている。
「この方は?」
「俺のご先祖様のタイチさんです。」
「これはこれは、初めまして。レンヤと申します。」
レンヤがタイチに挨拶をした。
タイチは
「うむ。タイチじゃ。」
とそっけない。
エリカ等、女性を案内した時と雲泥の差がある。
タイチさんの基本的性格が反映されているのだろう。
「まず、血液採取じゃな。ほれ。」
メディカルマシーンが出現した。
「上半身裸になって、それに寝そべるんじゃ。」
「え?え?」
「はようせんか。わしゃ忙しい。」
何が忙しいのだろう?
「は・はい。・・・」
レンヤさんが、上半身裸になってメディカルマシーンに寝そべった。
「メディ、この患者は初めての患者だから、怖がらないように丁寧に説明して処置してくれ。」
『かしこまりました。』
レンヤさんが目をまるくしている。
「今の女性の声は?・・」
「気にしないで、機械の声だから」
『初めまして、レンヤさん。メディと申します。これからしばらくの間、お付き合い願います。驚いて暴れて怪我をしないように体や手足を縛りますが、痛くないし、怪我をすることもありませんので、じっとしていてください。』
「ひゃい。」
メディの寝台で寝そべるレンヤさんの体をメディが固定具で固定した。
『今から、腕に針を刺します。少しチクリとしますが。危険はないのでおとなしくしてくださいね。』
「ひゃい。」
メディのマシンアームが伸びてレンヤさんの左腕から、少量の血液を採取した。
『ソウ様、この血液を太一様にお渡しください。』
「わかった。」
俺はメディから受け取った血液の入った容器を持ってタイチの前に移動した。
『ソウ、スポイトで一滴垂らせ。』
タイチさんの胴体部にあるPCのコンパクトディスクドライブの構造物がスライドして出てきた。
その受け皿にレンヤさんの血を一滴垂らしたところ、構造物は収納された。
『解析に少し時間がかかる。ゆっくりしていろ。』
「はい。」
俺はメディに乗っているレンヤさんの元へ戻った。
レンヤさんはメディのスキャン装置で全身をスキャンされてる。
ドーム状のスキャン装置が何度か往復した後、レンヤさんが解放された。
『以上で終了です。お疲れ様でした。』
「はい。ありがとうございました。」
レンヤさんはメディに向かって深々と頭を下げた。
そして少し顔を赤くしている。
なぜ?・・・
「レンヤさん。お腹は?」
「え、大丈夫だ。全然痛くないだによ。」
「あ、そうじゃなくて。お腹減ってないですか?何か食べ物とか飲み物とか・・・」
「あ、そっちか。減ってるといえばへってるだによ。」
少し遠慮をしているのだろう。
「少し待っててくださいね。」
俺は地下室にも設置されているれいの冷蔵庫からハンバーグステーキとパスタのセット、フランスパンとバター、果汁のフレッシュジュースをチョイスして取り出した。
もちろん、料理は熱々だし、ジュースはよく冷えている。
「協力ありがとうごあいました。怖かったでしょう。お礼と言ってはなんですが、これ食べてください。」
簡易テーブルの上に置かれた料理からは湯気と、おいしそうな匂いが漂っている。
「ええ?こんなに?ええだにか?」
「いいですよ。たくさん食べてください。」
レンヤさんは、おそるおそるハンバーグを食べた。
「これは・・・・」
一口食べて絶句した。
「どうかしましたか?」
「これは食べ物にか?こんな美味しい物、食べ物ではないだによ。・・」
食べ物ではないなら何よ?
「これは神の召し上がるものだによ。この果汁も神のしずくだによ。・・」
少しオーバーな表現だが、レンヤさんにとっては、それほどのご馳走だったのだろう。
そういえば、この世界のこの時代で食べて美味しかったのは、ニク串とラーメンくらいのものだな。
ラーメン食べたくなった・・・
レンヤさんはハンバーグを半分食べたところでフォークを置いた。
どうしたのだろう?
「あのー」
「何です?」
「この料理を持ち帰ってもええにか?」
「いいですけど、お腹いっぱいですか?」
「いや、いっぱいとはいかんが、子供達にも食べさせたくて。」
俺や俺の仲間は、毎日何不自由なく食事をしているが流行病に襲われているレンヤさん達は日々の食事にも事欠いているのだろう。
そのことは俺の頭になかった。
「ああ、それなら、レンヤさんの家族分、必要ならもっと沢山。お土産に持たせてあげますから、レンヤさんは、そこにある物全部食べてください。遠慮はいりませんから。」
「いや、そこまでしてもらうのは・・・」
「いや、いいですよ。出来たての料理だけでなく、他の保存食もお渡しします。困っている人がいれば助けるのが、俺の家族の流儀です。」
いつから、そんな流儀になったかは知らないが。
「本当だにか?言葉にあまえるだによ?」
「どうぞどうぞ。」
レンヤさんは改めて料理を食べ始めた。
レンヤさんが食事を終える頃、結果が出た。
「ソウ、わかったぞ。」
タイチさんが俺を呼んだ。
「どんな病気です?」
「病気じゃねぇよ。」
「え?」
「急性中毒だ。メチル水銀のな。」
「自然発生ですか?」
「いや、この水銀は人の手で加工された物だ。自然界には存在しない。」
ある程度は予想していた。
流行病にしてはネリヤ村や、その周辺の集落には同じような症状の患者はいなかった。
発生地域が限定的なのだ。
ライベルだけに発生する病気など、考えにくい。
誰かが毒をまき散らしているのではないかと考えてはいたのだ。
しかし、誰が、いったい何のために。
考えられるのは戦争準備、対戦相手を弱らせるために毒を流すのは昔からある戦法だ。
今から徐々に敵を弱らせて、春の開戦時には楽勝になる。
そういった戦法なのかもしれない。
弱毒にしたのは、強い毒だとその原因がすぐに特定されてしまうからだろう。
毒だと疑われないよう流行病を装ったのかもしれない。
「で、タイチさん、治療方法はありますか?」
「中毒が進んで慢性的になれば対処のしようはないが、今ならまだ間に合うかもしれない。」
「どうすれば?」
「1 水銀の摂取を断つ。2 体からの水銀の排出。3 患者の体力、免疫力を回復させて、毒に打ち勝つ。この三つだな。」
1は判る。
住民が摂取している水か食べ物に水銀がふくまれているのだろう。
これを探せばいい。
3も俺がヒールをかけることで、さっきのレンヤさんみたいに、ある程度の体力向上、免疫力増加をさせることができるだろう。
しかし、問題は2だ。
体からの水銀排出。
どうすればいいのだろう。
「タイチさん。1と2はなんとかなりそうだけど、2の水銀排出はどうすればいいの?」
『軽傷者には点滴だけでいけるが、重傷者から短期に排出させるとなれば、キレート剤という薬が有効だな。』
つまり病状の軽い者は、1と3を施した後、点滴で生理食塩水を体内に注入し続ければ回復する。
症状の重い者は早期に体内から水銀を排出する必要がある。
そのためにはキレート剤という薬が必要になるということだ。
「タイチさん、そのキレート剤という薬は、ここにありますか?」
『ああ、あるよ。300錠くらいはあったはずだ』
「わかりました。」
それだけあれば少なくともレンヤさんの家族分は、まかなえる。
「レンヤさん、レンヤさんの家族で病状が重い人は誰ですか?」
「三女のビヨラが、ここ2~3日、かなり具合が悪いだに。ベッドから起き上がるのもようやくだによ。今朝方は足が痺れると言うとった。」
1の水銀の汚染源を調査するのも大切だが、まずは2の体内からの水銀排出と3の体力回復を試みることにしょう。
「レンヤさん。俺を信用してくれますか?」
「ああ、もちろんだでや。あんたさんに神の加護があることは俺の体で知ったし、わずかな縁なのに、こんな美味しい物をくわせてもらっただによ。信用するだによ。なんでも言ってくれ。」
「この病気は流行病じゃないです。誰かが毒を住民にばらまいています。その原因を調べることに協力してください。もちろん家族の治療もします。」
「そりゃ、願ったり叶ったりだがや。しかし、毒なのけ?誰が?何のために?」
レンヤさんは怒りを顔に出している。
「それも一緒に調べましょう。」
「タイチさん、キレート剤、どこにありますか?」
『8番のトランクから薬剤室にに入れ、その部屋のどこかにあるはずだ。判らなければ部屋のセキュリティーシステムに問いかけろ。』
「はい。」
『あ、それと水銀検出もしたいだろ?薬剤室にアナライザー(分析器)があるから、それも持って行け。』
「ありがとう。」
俺はキューブ地下室の壁に並んでいる各種資機材の中からNO8と書かれたトランクを取り出してゲートを出現させた。
ここにある資機材はすべてタイチさんが、タイチさんとその家族のために用意していた物だが、今ではすべて俺の所有物になっている。
だからタイチさんか俺じゃないと使用することができない。
ウルフや他のゲートは俺が使用許可を出した者も使えるが基本的には俺が許可しないと使えない仕組みになっている。
出現させたゲートをくぐると8畳間くらいの部屋に出た。
薬剤や使い道のわからない道具が四方の棚に並んでいる。
棚の前面は透明な材質で覆われていて、前面が開かなければ中の物をとりだすことが出来ない構造になっている。
「セキュリティー」
『はい。ソウ様』
ナビよりは少し甲高い女性風の声が反応した。
「キレート剤とアナライザーはどこにある?」
『17番の棚と56番の棚にあります。』
音もなしに前面の棚の丈夫付近と右側の棚の中央部分が開いた。
キレート剤とアナライザーだ。
キレート剤は100錠入りの瓶が3つ、アナライザーは縦10センチ横5センチ厚さ3センチくらいのかまぼこ形をしている。
俺は、キレート剤とアナライザーを手にして元の部屋へ戻った。
「レンヤさん。家へ戻りましょう。」
「んだに」
街の住人のほとんどが罹患していて、軽い症状は目眩と吐き気、気脱力感だけだったが、症状が重くなると、視野狭窄、手足のしびれ、嘔吐がひどくなり全身の痛みを伴って最後には呼吸困難になって死に至る恐ろしい病気だ。
死者はまだ、それほど多くないが子供や年寄りなど体力の弱い者から衰弱している。
病気の正体がわかれば、対処方法もわかるかもしれないと思い、ライチの叔父の協力を得て原因究明に努めるつもりだ。
俺はウルフのそばにゲートを開いてライチの叔父レンヤを誘った。
「何かね、これは。?」
レンヤが驚いている。
「これは、別の場所につながる門です。特別な神の加護とでも思ってください。危険はまったくありません。」
「そうだにか?・・・」
ためらうレンヤを見て、ピンターが先にゲートをくぐった。
ピンターは数秒姿を消したが、すぐにゲートから現れた。
「ダイジョウブだよ。」
ピンターが獣人言葉でレンヤに笑顔で話かけている。
「う、うん。」
「レンヤさん行きますよ。」
俺はレンヤを促して、レンヤと共にゲートをくぐった。
ゲートの出口はキューブだ。
「ここは?」
「俺の自宅の地下室です。」
「ここが?」
レンヤの目に映るのは近代設備の揃ったサーバールームのような場所だ。
「タイチさん。」
ブォーンという音と共にタイチのフォログラムが現れた。
「おう。なんじゃ、ソウ。」
「ライベルというところで蔓延している病気の正体を知りたくて患者を連れてきました。念のために外部との遮断、それにここをクリーンルームにしてください。」
「ほいよ。お安いご用じゃ。」
レンヤが不思議そうな目でタイチを見つめている。
「この方は?」
「俺のご先祖様のタイチさんです。」
「これはこれは、初めまして。レンヤと申します。」
レンヤがタイチに挨拶をした。
タイチは
「うむ。タイチじゃ。」
とそっけない。
エリカ等、女性を案内した時と雲泥の差がある。
タイチさんの基本的性格が反映されているのだろう。
「まず、血液採取じゃな。ほれ。」
メディカルマシーンが出現した。
「上半身裸になって、それに寝そべるんじゃ。」
「え?え?」
「はようせんか。わしゃ忙しい。」
何が忙しいのだろう?
「は・はい。・・・」
レンヤさんが、上半身裸になってメディカルマシーンに寝そべった。
「メディ、この患者は初めての患者だから、怖がらないように丁寧に説明して処置してくれ。」
『かしこまりました。』
レンヤさんが目をまるくしている。
「今の女性の声は?・・」
「気にしないで、機械の声だから」
『初めまして、レンヤさん。メディと申します。これからしばらくの間、お付き合い願います。驚いて暴れて怪我をしないように体や手足を縛りますが、痛くないし、怪我をすることもありませんので、じっとしていてください。』
「ひゃい。」
メディの寝台で寝そべるレンヤさんの体をメディが固定具で固定した。
『今から、腕に針を刺します。少しチクリとしますが。危険はないのでおとなしくしてくださいね。』
「ひゃい。」
メディのマシンアームが伸びてレンヤさんの左腕から、少量の血液を採取した。
『ソウ様、この血液を太一様にお渡しください。』
「わかった。」
俺はメディから受け取った血液の入った容器を持ってタイチの前に移動した。
『ソウ、スポイトで一滴垂らせ。』
タイチさんの胴体部にあるPCのコンパクトディスクドライブの構造物がスライドして出てきた。
その受け皿にレンヤさんの血を一滴垂らしたところ、構造物は収納された。
『解析に少し時間がかかる。ゆっくりしていろ。』
「はい。」
俺はメディに乗っているレンヤさんの元へ戻った。
レンヤさんはメディのスキャン装置で全身をスキャンされてる。
ドーム状のスキャン装置が何度か往復した後、レンヤさんが解放された。
『以上で終了です。お疲れ様でした。』
「はい。ありがとうございました。」
レンヤさんはメディに向かって深々と頭を下げた。
そして少し顔を赤くしている。
なぜ?・・・
「レンヤさん。お腹は?」
「え、大丈夫だ。全然痛くないだによ。」
「あ、そうじゃなくて。お腹減ってないですか?何か食べ物とか飲み物とか・・・」
「あ、そっちか。減ってるといえばへってるだによ。」
少し遠慮をしているのだろう。
「少し待っててくださいね。」
俺は地下室にも設置されているれいの冷蔵庫からハンバーグステーキとパスタのセット、フランスパンとバター、果汁のフレッシュジュースをチョイスして取り出した。
もちろん、料理は熱々だし、ジュースはよく冷えている。
「協力ありがとうごあいました。怖かったでしょう。お礼と言ってはなんですが、これ食べてください。」
簡易テーブルの上に置かれた料理からは湯気と、おいしそうな匂いが漂っている。
「ええ?こんなに?ええだにか?」
「いいですよ。たくさん食べてください。」
レンヤさんは、おそるおそるハンバーグを食べた。
「これは・・・・」
一口食べて絶句した。
「どうかしましたか?」
「これは食べ物にか?こんな美味しい物、食べ物ではないだによ。・・」
食べ物ではないなら何よ?
「これは神の召し上がるものだによ。この果汁も神のしずくだによ。・・」
少しオーバーな表現だが、レンヤさんにとっては、それほどのご馳走だったのだろう。
そういえば、この世界のこの時代で食べて美味しかったのは、ニク串とラーメンくらいのものだな。
ラーメン食べたくなった・・・
レンヤさんはハンバーグを半分食べたところでフォークを置いた。
どうしたのだろう?
「あのー」
「何です?」
「この料理を持ち帰ってもええにか?」
「いいですけど、お腹いっぱいですか?」
「いや、いっぱいとはいかんが、子供達にも食べさせたくて。」
俺や俺の仲間は、毎日何不自由なく食事をしているが流行病に襲われているレンヤさん達は日々の食事にも事欠いているのだろう。
そのことは俺の頭になかった。
「ああ、それなら、レンヤさんの家族分、必要ならもっと沢山。お土産に持たせてあげますから、レンヤさんは、そこにある物全部食べてください。遠慮はいりませんから。」
「いや、そこまでしてもらうのは・・・」
「いや、いいですよ。出来たての料理だけでなく、他の保存食もお渡しします。困っている人がいれば助けるのが、俺の家族の流儀です。」
いつから、そんな流儀になったかは知らないが。
「本当だにか?言葉にあまえるだによ?」
「どうぞどうぞ。」
レンヤさんは改めて料理を食べ始めた。
レンヤさんが食事を終える頃、結果が出た。
「ソウ、わかったぞ。」
タイチさんが俺を呼んだ。
「どんな病気です?」
「病気じゃねぇよ。」
「え?」
「急性中毒だ。メチル水銀のな。」
「自然発生ですか?」
「いや、この水銀は人の手で加工された物だ。自然界には存在しない。」
ある程度は予想していた。
流行病にしてはネリヤ村や、その周辺の集落には同じような症状の患者はいなかった。
発生地域が限定的なのだ。
ライベルだけに発生する病気など、考えにくい。
誰かが毒をまき散らしているのではないかと考えてはいたのだ。
しかし、誰が、いったい何のために。
考えられるのは戦争準備、対戦相手を弱らせるために毒を流すのは昔からある戦法だ。
今から徐々に敵を弱らせて、春の開戦時には楽勝になる。
そういった戦法なのかもしれない。
弱毒にしたのは、強い毒だとその原因がすぐに特定されてしまうからだろう。
毒だと疑われないよう流行病を装ったのかもしれない。
「で、タイチさん、治療方法はありますか?」
「中毒が進んで慢性的になれば対処のしようはないが、今ならまだ間に合うかもしれない。」
「どうすれば?」
「1 水銀の摂取を断つ。2 体からの水銀の排出。3 患者の体力、免疫力を回復させて、毒に打ち勝つ。この三つだな。」
1は判る。
住民が摂取している水か食べ物に水銀がふくまれているのだろう。
これを探せばいい。
3も俺がヒールをかけることで、さっきのレンヤさんみたいに、ある程度の体力向上、免疫力増加をさせることができるだろう。
しかし、問題は2だ。
体からの水銀排出。
どうすればいいのだろう。
「タイチさん。1と2はなんとかなりそうだけど、2の水銀排出はどうすればいいの?」
『軽傷者には点滴だけでいけるが、重傷者から短期に排出させるとなれば、キレート剤という薬が有効だな。』
つまり病状の軽い者は、1と3を施した後、点滴で生理食塩水を体内に注入し続ければ回復する。
症状の重い者は早期に体内から水銀を排出する必要がある。
そのためにはキレート剤という薬が必要になるということだ。
「タイチさん、そのキレート剤という薬は、ここにありますか?」
『ああ、あるよ。300錠くらいはあったはずだ』
「わかりました。」
それだけあれば少なくともレンヤさんの家族分は、まかなえる。
「レンヤさん、レンヤさんの家族で病状が重い人は誰ですか?」
「三女のビヨラが、ここ2~3日、かなり具合が悪いだに。ベッドから起き上がるのもようやくだによ。今朝方は足が痺れると言うとった。」
1の水銀の汚染源を調査するのも大切だが、まずは2の体内からの水銀排出と3の体力回復を試みることにしょう。
「レンヤさん。俺を信用してくれますか?」
「ああ、もちろんだでや。あんたさんに神の加護があることは俺の体で知ったし、わずかな縁なのに、こんな美味しい物をくわせてもらっただによ。信用するだによ。なんでも言ってくれ。」
「この病気は流行病じゃないです。誰かが毒を住民にばらまいています。その原因を調べることに協力してください。もちろん家族の治療もします。」
「そりゃ、願ったり叶ったりだがや。しかし、毒なのけ?誰が?何のために?」
レンヤさんは怒りを顔に出している。
「それも一緒に調べましょう。」
「タイチさん、キレート剤、どこにありますか?」
『8番のトランクから薬剤室にに入れ、その部屋のどこかにあるはずだ。判らなければ部屋のセキュリティーシステムに問いかけろ。』
「はい。」
『あ、それと水銀検出もしたいだろ?薬剤室にアナライザー(分析器)があるから、それも持って行け。』
「ありがとう。」
俺はキューブ地下室の壁に並んでいる各種資機材の中からNO8と書かれたトランクを取り出してゲートを出現させた。
ここにある資機材はすべてタイチさんが、タイチさんとその家族のために用意していた物だが、今ではすべて俺の所有物になっている。
だからタイチさんか俺じゃないと使用することができない。
ウルフや他のゲートは俺が使用許可を出した者も使えるが基本的には俺が許可しないと使えない仕組みになっている。
出現させたゲートをくぐると8畳間くらいの部屋に出た。
薬剤や使い道のわからない道具が四方の棚に並んでいる。
棚の前面は透明な材質で覆われていて、前面が開かなければ中の物をとりだすことが出来ない構造になっている。
「セキュリティー」
『はい。ソウ様』
ナビよりは少し甲高い女性風の声が反応した。
「キレート剤とアナライザーはどこにある?」
『17番の棚と56番の棚にあります。』
音もなしに前面の棚の丈夫付近と右側の棚の中央部分が開いた。
キレート剤とアナライザーだ。
キレート剤は100錠入りの瓶が3つ、アナライザーは縦10センチ横5センチ厚さ3センチくらいのかまぼこ形をしている。
俺は、キレート剤とアナライザーを手にして元の部屋へ戻った。
「レンヤさん。家へ戻りましょう。」
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前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。
また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。
以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。
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