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第五章 獣人国編
第88話 ネリア村 ルチアの故郷
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獣人軍の協定破りによってゲラン国と獣人の国ジュベルは戦争状態に突入した。
しかし俺は、あのライジン将軍が約束を破ったとは思えない。
ジュベルの住民を宣教と言う名のもとに襲撃し、王族の子供たちを奴隷にしたことで、ライジン将軍もゲラン国に恨みを抱いていたのは事実だが、ライジンは兵士であるとともに武人だ。
俺とは短い付き合いだったが、ライジンの武人としての誠実さは感じ取ることが出来ていた。
ライジン将軍を補佐するセト達も、ただ粗暴な獣人でないことは判っている。
今回の件はライジン将軍たちにとっても予期せぬ出来事だったのではないかと思えるのだ。
俺は事案の真相を探るため獣人の国ジュベルへ行き、ライジン将軍と会ってみることに決めていた。
「ドルムさん、俺、ジュベルへ行くことにしました。一緒に行ってもらえますか。」
「ああ、いいぜ。俺もソウの考えを信じるよ。一国の英雄ともいえる武人が、やすやすと約束を破るとは思えない。」
ドランゴさんも頷いている
「ルチアの事も心配でがす。留守番はしっかりするので、ドルムが頑張るでやんす。師匠はまだ怪我が完治していないでやんす。」
俺の左足はブラックドラゴンのブレスで焼かれたが、龍神丹のおかげで再生途中だ。
「オイラも行くよ。」
ピンターが俺にしがみついた。
今回はピンターのおかげで命拾いをした。
ピンターがブラックドラゴンの攻撃を止めることが出来た理由は、ここ何日かで判明した。
ピンターは俺の眷属になったことで、『動物親和』というスキルが発現していた。
元々動物好きだったピンターならではのスキルだ。
『動物親和』というスキルを簡単に説明すれば「動物から好かれる。」というスキルだ。
最近ピンターが家の外に出ると猫や犬が沢山集まって来る。
そして一度ピンターが触れた動物はピンターの言う事を良く聞く。
あの時ピンターがブラックドラゴンの鼻先を撫でるとブラックドラゴンはピンターのお願いを聞き入れ、その場から立ち去った。
ドレイモンの命令と違うのは、あくまでも仲良くなった相手が、こちらの願い事、頼みごとを聞き入れてくれるという点で、強制ではないということだ。
ピンターの『動物親和』は日に日に成長しているようだ。
「うん。ピンターも一緒においで。ルチアに会いに行こう。」
ピンターを旅の全行程に同伴させようとは思っていない。
ウルフの中では一緒だが、野宿をする時にはゲートでキューブまで帰し、万が一にも危険が及ぶことの無いよう気配りするつもりだ。
ピンターを同伴するのはもう一つの理由がある。
それはブラックドラゴン対策だ。
今の俺ではブラックドラゴンには勝てない。
ウルフの装備で追い払うのが関の山だろう。
万が一戦闘になった場合は、全力で戦うが、出来るならば戦いたくない。
ピンターを危険にさらしたくないが、ピンターならブラックドラゴンと意思疎通できそうな気がする。
意思疎通が出来れば、ブラックドラゴンを戦闘から遠ざけることが出来るかもしれないのだ。
テルマさんが笑顔で近づいてきた。
「はい、これお弁当です。」
テルマさんが手に持っているバスケットからパンの香ばしい匂いが漂ってくる。
テルマさんの料理の腕前は益々向上している。
「姉ちゃん。ありがとう。」
「ピンターちゃん。ルチアのことお願いね。」
「うん。」
ここにいる仲間全員がルチアのことを心配している。
逆境を共に過ごしてきた俺達は血のつながりこそないが家族同然だ。
「それじゃぁ行ってきます。」
「まかせたでやんす。」
「いってらっしゃい。気を付けて。」
ゲートを通ってセプタに出た。
セプタの街はほとんどの施設をブラックドラゴンに焼き払われていて復旧工事も進められているが、未だに残骸が多く残っている。
ゲートを出たところにサルトさんが居た。
「シン殿、獣共の国へ行かれるのですね。」
サルトさんの目には怒りが燃えている。
当然だ、婚約者を殺されたのだから。
「ええ、行きます。これ以上の犠牲を出さないためにも。なぜこうなったのかを見極めに。」
「なぜこうなったかって?そんな事判り切っているじゃないですか、あいつらが獣だからですよ。あいつらが停戦協定を破ったからですよ。」
サルトさんが言うことはもっともなことだ。
実際に停戦協定は破られて、シュガルさんは殺されたのだから。
「そうですね。サルトさんのおっしゃる通りです。しかしこのまま戦争に突入すれば、罪もない多くの人々が死にます。覚悟のある兵士はともかく、女性や子供の犠牲者を出したくないのです。」
判って欲しいとは言えない。
俺はサルトさんの言葉を待たずにその場を立ち去った。
セプタの街を出ると街の北に「ベルヌ山」という標高1000メートル位の山がある。
この山の中に金鉱山があるのだ。
金鉱山を右手に見ながら山のすそ野を西へ進んだ。
獣人の国ジュベルに向かうにはベルヌ山越えをするか、山の東側の魔獣地帯を抜けるか、西回りの平原ルートの何れかを通らなければならない。
俺達は西回りの安全ルートを通ることにした。
獣人の国、ジュベルの首都『オラベル』までは道のりにして約3,000キロ。
ウルフを順調に進めても一週間は、かかる距離だ。
「兄ちゃん。ルチアどうしているかな。」
「家族と一緒なんだ。大丈夫だよ。」
「そうだよね。本当の兄弟と一緒に居るんだから、大丈夫だよね。」
「ピンターもルチアの兄弟、家族だよ。」
俺は助手席に座るピンターの頭を撫でた。
普段なら、ピンターの指定席は運転座席後部なのだが、いつもその座席に一緒に居るはずのルチアが居ないせいか、俺の隣に座りたがったのだ。
旅程は順調で、何事も起こらず、その日の夜と、次の日の夜は荒野で野宿した。
ピンターも車内泊を望んだが、万が一を考えて夜だけはキューブへ帰した。
3日目の正午頃、ナビが反応した。
『この先30キロの地点に集落があります。迂回しますか?』
「ナビ、生命反応はあるか?」
『はい。獣人と思われる反応が300程度あります。その他魔獣らしき反応もいくつかあります。』
この先にある集落は、おそらくルチアの故郷「ネリア村」だ。
「ソウ、どうする。少し遠回りだが迂回するか?」
ドルムさんが尋ねた。
「いえ、おそらくここはネリア村、ルチア達の情報をもらえるかもしれません。俺だけでも行ってみます。」
俺は村の手前にウルフを止めて、一人で村へ行くことにした。
「ソウ、用心しろよ。村人にとって俺達は憎い仇なんだからな。」
ネリア村の獣人達にとって、人族は村を蹂躙した憎い敵なのだ、いくら俺達に敵意がないといっても、その事は外見からはわからない。
「わかっています。ドルムさん。いざと言う時には、お願いします。」
「おう。」
村の入り口には見張りが二人いた。
成人男性で、腰には尻尾がある。
顔つきは人族のそれと変わることは無いが、目は猫の目のようだ。
頭は兜をかぶっていて見えないが猫耳があるはずだ。
年老いた猫人と、若い猫人だ。
俺は人狼Ⅱの姿で、両手を上げて見張りに近づいた。
「止まれ!」
若い猫人が槍の穂先を俺に向けた。
「見かけないやつだな。誰だ。」
「ライジン将軍の知人でソウという者だ。ライジン将軍に合流する予定だ。」
嘘は言っていない。
猫人二人は顔を見合わせている。
俺は更に話しかけた。
「ライジン将軍やセト達も、ここを通ったはずだが、何日前かな?」
年老いた猫人がこちらに向き直った。
「そうか、ライジン将軍の知り合いなのか。まぁどうみても人族ではないから、いいだろう。」
若い猫人はまだ少し緊張しているようだ。
「ライジン様達なら、5日ほど前に出立したぞ、この村の仇をとったうえ、さらわれた子供達も救出してくれたよ。さすがだよな。」
「そうか。ルチア達は、ここまで無事にたどりついたのだな。」
ルチアの名前が出た途端、猫人から出ていた緊張感、警戒感が解けた。
「あんた。ルチア達のこと知っているのかね?」
年老いた猫人が微笑みながら一歩近づいてきた。
「ああ、他の兄弟とは縁が薄いが、ルチアとは家族のようなものだ。ルチアが無事なのは嬉しい。」
猫人二人と村の入り口で立ち話をしていると雪が舞い始めた。
「ソウさんとやら、ここじゃ寒いだろう。村長とこへ案内するから、少し休んでいきな。ルチアはオラベルへ向かっているが、いずれ追いつくさ。」
オラベルと言うのは獣人国ジュベルの首都だ。
「ありがとう。甘えることにするよ。」
年老いた猫人の案内で村長の家におじゃました。
村長宅と言っても人間の村に比べると、はるかに質素で藁ぶき屋根に土壁の苫屋だった。
村長の家の前には魔獣が寝そべっていて、俺達が近づくと起き上がり俺の方を見て
「ウウウ・・」
と唸った。
その魔獣は犬型で、ドーベルマン位の体つきで頭が二つあった。
両方の顔がこちらを睨み牙を剥きだしにして唸っていたが、風向きが変わり、俺が風上に立ったところ
「クウーン・・」
と唸って尾っぽを丸めて元の位置に戻り伏せた。
取り寄りの猫人は、その様子を見て少し驚いているようだ。
「その犬は村長さんの番犬だが、他人に尾っぽを丸めるのは初めてだがや・・・」
年寄りの猫人がノックもせずに木製のドアを開けると、先に知らせに走っていた若い方の猫人が出迎えてくれた。
村長は、ひどく痩せていて見るからに血色が悪い初老の猫人だった。
村長の周囲には俺を物珍しそうに見る5人ほどの子供がいた。
いずれの子供も痩せていて、健康状態が悪そうだった。
「ようこそ、旅人よ。ルチアの知り合いだそうだでな。何ももてなすことは出来ねぇどもが、寒さだけは凌げよう。温まっておゆきなせぇ。」
村長は見ず知らずの俺に暖を取るよう勧めてくれた。
「ありがとうございます。ソウと申します。」
俺は村長に一礼して、暖炉の前に腰かけた。
暖炉に手を翳す俺に、女性の猫人がカップに入った暖かいスープを勧めてくれた。
スープはほんの少しの野菜が入った薄い塩味のスープだ。
俺が差し出されたスープをすすると、子供達が俺の口元を見つめる。
飢えているのかもしれない。
「村長さん、失礼かもしれないこの村は、食料事情が良くないのですか?」
「ええ、見ての通りのありさまだで、1年ほど前、人族に襲撃されて働き手を失い食料にことかく有様。国からの救援、ライジン将軍の施しにより餓死だけはまぬがれたというのが現状ですだにや。」
自分たちの食料も事欠く中、見ず知らずの俺に差し出してくれたスープ。
感謝の気持ちを込めて飲み干した。
俺は、マジックバッグから、テルマさんお手製の弁当が入ったバスケットを取り出した。
バスケットの中には焼きたてのパンや鶏肉料理、サラダなどが入っていた。
子供達が目を輝かせて料理を見ている。
俺は部屋の中のテーブルにその料理を並べて、子供達に向き直った。
「これは俺の家族が作ってくれた弁当だ。俺はスープでお腹がいっぱいになった。小さい子供はたくさん食べて大きくなるのが仕事だ。よかったら食べてくれないか?」
子供達は料理と村長の顔を見比べている。
村長が俺を見て
「いいのかな?貴方も旅の途中で、食料は貴重なはずだがや。」
俺は村長に笑顔で答えた。
「この村の出身、ルチアは俺の家族同然の仲間、そのルチアの知人からもてなされたのだから、少しくらいのお返しはさせてくださいよ。」
「そうか・・・ルチアの家族・・」
村長は、子供達に向き直った。
「ご馳走になるとええがに。」
子供達が料理に飛びつくかと思ってみていると、年長の子供がパンを幼い子供から順に手渡した。
幼い子供達は、年長の子供がパンや料理を配ってくれるのを大人しく待っている。
飢えているはずなのに、礼儀正しい子供達だ。
一部の人族が言う。
『獣人と言うのは粗野で、礼儀知らずで、魔物と変わることはない。』
と。
しかし、それは誤った考えだと、目の前の子供達が証明してくれている。
しかし俺は、あのライジン将軍が約束を破ったとは思えない。
ジュベルの住民を宣教と言う名のもとに襲撃し、王族の子供たちを奴隷にしたことで、ライジン将軍もゲラン国に恨みを抱いていたのは事実だが、ライジンは兵士であるとともに武人だ。
俺とは短い付き合いだったが、ライジンの武人としての誠実さは感じ取ることが出来ていた。
ライジン将軍を補佐するセト達も、ただ粗暴な獣人でないことは判っている。
今回の件はライジン将軍たちにとっても予期せぬ出来事だったのではないかと思えるのだ。
俺は事案の真相を探るため獣人の国ジュベルへ行き、ライジン将軍と会ってみることに決めていた。
「ドルムさん、俺、ジュベルへ行くことにしました。一緒に行ってもらえますか。」
「ああ、いいぜ。俺もソウの考えを信じるよ。一国の英雄ともいえる武人が、やすやすと約束を破るとは思えない。」
ドランゴさんも頷いている
「ルチアの事も心配でがす。留守番はしっかりするので、ドルムが頑張るでやんす。師匠はまだ怪我が完治していないでやんす。」
俺の左足はブラックドラゴンのブレスで焼かれたが、龍神丹のおかげで再生途中だ。
「オイラも行くよ。」
ピンターが俺にしがみついた。
今回はピンターのおかげで命拾いをした。
ピンターがブラックドラゴンの攻撃を止めることが出来た理由は、ここ何日かで判明した。
ピンターは俺の眷属になったことで、『動物親和』というスキルが発現していた。
元々動物好きだったピンターならではのスキルだ。
『動物親和』というスキルを簡単に説明すれば「動物から好かれる。」というスキルだ。
最近ピンターが家の外に出ると猫や犬が沢山集まって来る。
そして一度ピンターが触れた動物はピンターの言う事を良く聞く。
あの時ピンターがブラックドラゴンの鼻先を撫でるとブラックドラゴンはピンターのお願いを聞き入れ、その場から立ち去った。
ドレイモンの命令と違うのは、あくまでも仲良くなった相手が、こちらの願い事、頼みごとを聞き入れてくれるという点で、強制ではないということだ。
ピンターの『動物親和』は日に日に成長しているようだ。
「うん。ピンターも一緒においで。ルチアに会いに行こう。」
ピンターを旅の全行程に同伴させようとは思っていない。
ウルフの中では一緒だが、野宿をする時にはゲートでキューブまで帰し、万が一にも危険が及ぶことの無いよう気配りするつもりだ。
ピンターを同伴するのはもう一つの理由がある。
それはブラックドラゴン対策だ。
今の俺ではブラックドラゴンには勝てない。
ウルフの装備で追い払うのが関の山だろう。
万が一戦闘になった場合は、全力で戦うが、出来るならば戦いたくない。
ピンターを危険にさらしたくないが、ピンターならブラックドラゴンと意思疎通できそうな気がする。
意思疎通が出来れば、ブラックドラゴンを戦闘から遠ざけることが出来るかもしれないのだ。
テルマさんが笑顔で近づいてきた。
「はい、これお弁当です。」
テルマさんが手に持っているバスケットからパンの香ばしい匂いが漂ってくる。
テルマさんの料理の腕前は益々向上している。
「姉ちゃん。ありがとう。」
「ピンターちゃん。ルチアのことお願いね。」
「うん。」
ここにいる仲間全員がルチアのことを心配している。
逆境を共に過ごしてきた俺達は血のつながりこそないが家族同然だ。
「それじゃぁ行ってきます。」
「まかせたでやんす。」
「いってらっしゃい。気を付けて。」
ゲートを通ってセプタに出た。
セプタの街はほとんどの施設をブラックドラゴンに焼き払われていて復旧工事も進められているが、未だに残骸が多く残っている。
ゲートを出たところにサルトさんが居た。
「シン殿、獣共の国へ行かれるのですね。」
サルトさんの目には怒りが燃えている。
当然だ、婚約者を殺されたのだから。
「ええ、行きます。これ以上の犠牲を出さないためにも。なぜこうなったのかを見極めに。」
「なぜこうなったかって?そんな事判り切っているじゃないですか、あいつらが獣だからですよ。あいつらが停戦協定を破ったからですよ。」
サルトさんが言うことはもっともなことだ。
実際に停戦協定は破られて、シュガルさんは殺されたのだから。
「そうですね。サルトさんのおっしゃる通りです。しかしこのまま戦争に突入すれば、罪もない多くの人々が死にます。覚悟のある兵士はともかく、女性や子供の犠牲者を出したくないのです。」
判って欲しいとは言えない。
俺はサルトさんの言葉を待たずにその場を立ち去った。
セプタの街を出ると街の北に「ベルヌ山」という標高1000メートル位の山がある。
この山の中に金鉱山があるのだ。
金鉱山を右手に見ながら山のすそ野を西へ進んだ。
獣人の国ジュベルに向かうにはベルヌ山越えをするか、山の東側の魔獣地帯を抜けるか、西回りの平原ルートの何れかを通らなければならない。
俺達は西回りの安全ルートを通ることにした。
獣人の国、ジュベルの首都『オラベル』までは道のりにして約3,000キロ。
ウルフを順調に進めても一週間は、かかる距離だ。
「兄ちゃん。ルチアどうしているかな。」
「家族と一緒なんだ。大丈夫だよ。」
「そうだよね。本当の兄弟と一緒に居るんだから、大丈夫だよね。」
「ピンターもルチアの兄弟、家族だよ。」
俺は助手席に座るピンターの頭を撫でた。
普段なら、ピンターの指定席は運転座席後部なのだが、いつもその座席に一緒に居るはずのルチアが居ないせいか、俺の隣に座りたがったのだ。
旅程は順調で、何事も起こらず、その日の夜と、次の日の夜は荒野で野宿した。
ピンターも車内泊を望んだが、万が一を考えて夜だけはキューブへ帰した。
3日目の正午頃、ナビが反応した。
『この先30キロの地点に集落があります。迂回しますか?』
「ナビ、生命反応はあるか?」
『はい。獣人と思われる反応が300程度あります。その他魔獣らしき反応もいくつかあります。』
この先にある集落は、おそらくルチアの故郷「ネリア村」だ。
「ソウ、どうする。少し遠回りだが迂回するか?」
ドルムさんが尋ねた。
「いえ、おそらくここはネリア村、ルチア達の情報をもらえるかもしれません。俺だけでも行ってみます。」
俺は村の手前にウルフを止めて、一人で村へ行くことにした。
「ソウ、用心しろよ。村人にとって俺達は憎い仇なんだからな。」
ネリア村の獣人達にとって、人族は村を蹂躙した憎い敵なのだ、いくら俺達に敵意がないといっても、その事は外見からはわからない。
「わかっています。ドルムさん。いざと言う時には、お願いします。」
「おう。」
村の入り口には見張りが二人いた。
成人男性で、腰には尻尾がある。
顔つきは人族のそれと変わることは無いが、目は猫の目のようだ。
頭は兜をかぶっていて見えないが猫耳があるはずだ。
年老いた猫人と、若い猫人だ。
俺は人狼Ⅱの姿で、両手を上げて見張りに近づいた。
「止まれ!」
若い猫人が槍の穂先を俺に向けた。
「見かけないやつだな。誰だ。」
「ライジン将軍の知人でソウという者だ。ライジン将軍に合流する予定だ。」
嘘は言っていない。
猫人二人は顔を見合わせている。
俺は更に話しかけた。
「ライジン将軍やセト達も、ここを通ったはずだが、何日前かな?」
年老いた猫人がこちらに向き直った。
「そうか、ライジン将軍の知り合いなのか。まぁどうみても人族ではないから、いいだろう。」
若い猫人はまだ少し緊張しているようだ。
「ライジン様達なら、5日ほど前に出立したぞ、この村の仇をとったうえ、さらわれた子供達も救出してくれたよ。さすがだよな。」
「そうか。ルチア達は、ここまで無事にたどりついたのだな。」
ルチアの名前が出た途端、猫人から出ていた緊張感、警戒感が解けた。
「あんた。ルチア達のこと知っているのかね?」
年老いた猫人が微笑みながら一歩近づいてきた。
「ああ、他の兄弟とは縁が薄いが、ルチアとは家族のようなものだ。ルチアが無事なのは嬉しい。」
猫人二人と村の入り口で立ち話をしていると雪が舞い始めた。
「ソウさんとやら、ここじゃ寒いだろう。村長とこへ案内するから、少し休んでいきな。ルチアはオラベルへ向かっているが、いずれ追いつくさ。」
オラベルと言うのは獣人国ジュベルの首都だ。
「ありがとう。甘えることにするよ。」
年老いた猫人の案内で村長の家におじゃました。
村長宅と言っても人間の村に比べると、はるかに質素で藁ぶき屋根に土壁の苫屋だった。
村長の家の前には魔獣が寝そべっていて、俺達が近づくと起き上がり俺の方を見て
「ウウウ・・」
と唸った。
その魔獣は犬型で、ドーベルマン位の体つきで頭が二つあった。
両方の顔がこちらを睨み牙を剥きだしにして唸っていたが、風向きが変わり、俺が風上に立ったところ
「クウーン・・」
と唸って尾っぽを丸めて元の位置に戻り伏せた。
取り寄りの猫人は、その様子を見て少し驚いているようだ。
「その犬は村長さんの番犬だが、他人に尾っぽを丸めるのは初めてだがや・・・」
年寄りの猫人がノックもせずに木製のドアを開けると、先に知らせに走っていた若い方の猫人が出迎えてくれた。
村長は、ひどく痩せていて見るからに血色が悪い初老の猫人だった。
村長の周囲には俺を物珍しそうに見る5人ほどの子供がいた。
いずれの子供も痩せていて、健康状態が悪そうだった。
「ようこそ、旅人よ。ルチアの知り合いだそうだでな。何ももてなすことは出来ねぇどもが、寒さだけは凌げよう。温まっておゆきなせぇ。」
村長は見ず知らずの俺に暖を取るよう勧めてくれた。
「ありがとうございます。ソウと申します。」
俺は村長に一礼して、暖炉の前に腰かけた。
暖炉に手を翳す俺に、女性の猫人がカップに入った暖かいスープを勧めてくれた。
スープはほんの少しの野菜が入った薄い塩味のスープだ。
俺が差し出されたスープをすすると、子供達が俺の口元を見つめる。
飢えているのかもしれない。
「村長さん、失礼かもしれないこの村は、食料事情が良くないのですか?」
「ええ、見ての通りのありさまだで、1年ほど前、人族に襲撃されて働き手を失い食料にことかく有様。国からの救援、ライジン将軍の施しにより餓死だけはまぬがれたというのが現状ですだにや。」
自分たちの食料も事欠く中、見ず知らずの俺に差し出してくれたスープ。
感謝の気持ちを込めて飲み干した。
俺は、マジックバッグから、テルマさんお手製の弁当が入ったバスケットを取り出した。
バスケットの中には焼きたてのパンや鶏肉料理、サラダなどが入っていた。
子供達が目を輝かせて料理を見ている。
俺は部屋の中のテーブルにその料理を並べて、子供達に向き直った。
「これは俺の家族が作ってくれた弁当だ。俺はスープでお腹がいっぱいになった。小さい子供はたくさん食べて大きくなるのが仕事だ。よかったら食べてくれないか?」
子供達は料理と村長の顔を見比べている。
村長が俺を見て
「いいのかな?貴方も旅の途中で、食料は貴重なはずだがや。」
俺は村長に笑顔で答えた。
「この村の出身、ルチアは俺の家族同然の仲間、そのルチアの知人からもてなされたのだから、少しくらいのお返しはさせてくださいよ。」
「そうか・・・ルチアの家族・・」
村長は、子供達に向き直った。
「ご馳走になるとええがに。」
子供達が料理に飛びつくかと思ってみていると、年長の子供がパンを幼い子供から順に手渡した。
幼い子供達は、年長の子供がパンや料理を配ってくれるのを大人しく待っている。
飢えているはずなのに、礼儀正しい子供達だ。
一部の人族が言う。
『獣人と言うのは粗野で、礼儀知らずで、魔物と変わることはない。』
と。
しかし、それは誤った考えだと、目の前の子供達が証明してくれている。
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