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第四章 首都ゲラニ編
第86話 交渉失敗 煤けたルビー
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停戦協定を結んでから一週間、今日は人質交換の日だ。
セプタの街の外、南門前には、ゲラニの軍勢が人質とセプタの街の解放を待っている。
ゲラン兵は先発隊と、後続の6000人を合わせて総勢15,000になっていた。
これから俺がルチアを含む獣人王家の子供達をセプタ内で引き渡せば、セプタの住民は解放される。
ルチア達を引き渡せば街を占領いている獣人軍がセプタの北門から出ていく手はずになっている。
俺はセプタ代官の屋敷で豹頭将軍「ライジン」と向き合っている。
「では、ライジン将軍、今から王家の子供達と他の住民21名を引き渡す。撤退の準備をしてくれているか?」
「ああ、既に半数は北門から外に出ている。ドラゴンも近くには居るが、人質の交換終了次第、撤退の予定だ。」
俺とライジン将軍の様子を見ている代官とシュガルも安堵の表情を浮かべている。
俺は、その場にゲートを開いた。
『ドルムさんお願いします。』
『よっしゃ。』
ゲートからルチアを先頭に21人の獣人が出てきた。最後にドルムさんもゲートをくぐって来た。
それを見たライジン将軍達獣人軍も、代官たちも驚いた様子を隠せない。
ライジン将軍が俺を見つめた。
「これは、すごいな。こんなものが人族にはあるのか?」
「いや、これは俺だけが使える神器だ。人には使えない。」
実際、ポータブルゲート他、ウルフやサーペントは、人狼である俺にしか管理権が無い。
「ニイニ」
ルチアが俺にすり寄る。
セトをはじめとする獣人軍は、ルチア達の姿を見て膝をついた。
「お帰りなさいませ。」
セトが挨拶をするが、ルチアと、その兄弟は少し戸惑っている。
「レルム様他王族の皆様、そして囚われていた住民の皆。お疲れさまでした。もう安心です。私が獅子王様の元までの安全を保証致します。」
ライジン将軍も片膝をついて挨拶をした。
「ニイニもイク?」
ルチアが心配そうに俺の顔を覗き込んだ。
「大丈夫だよ、ルチア。今すぐには行けないが、必ず会いに行く。その将軍から許可をもらっているからね。必ずジュベルへ行くよ。そしたら毎日でも会えるようになる。それまで我慢できるよね。」
「ウン。ルチア我慢する。」
俺とルチアが話している間に、いつのまにかピンターが来ていた。
危険があるので、お別れはキューブで済ませておけと言ってあったが、やはり名残が惜しいのだろう。
「ルチア。きっとまた会えるから、必ず会えるから。それまでに竹トンボの練習しておけよ。」
ピンターは少し涙ぐんでいる。
ピンターはいつの間にか大人びた言葉をつかうようになった。
俺の眷属となって以来、身体的な成長も著しいものがあったが、精神的にも成長しているようだ。
「ウン。ピンターに負けない。ご飯たくさんたべてルチアもおっきくなるから。」
ルチアも涙ぐんでいる。
「さあ、ルチア様。行きますよ。」
ライジン将軍が、いつまでも別れを惜しむルチアを促した。
セトが俺に近づいた。
「これは、お前が持つべきだ。」
セトは龍神の盾を差し出した。
「いいのか?」
「ああ、龍神様がお前に与えた物だ、俺達が奪うと龍神様に叱られる。」
セトは笑顔だった。
セトとも友達になれそうな気がする。
俺はルチア達を街の北門まで見送った。
ピンターもついてきた。
ピンターはルチア達が載る馬車が見えなくなるまで門の外に佇んでいた。
ルチア達の姿が見えなくなると同時に、ゲラン軍が南門から街の中に入って来た。
ゲラン兵士は町中の建物に監禁されている住民を開放し、ランデル将軍は代官屋敷へ入った。
俺も代官屋敷へ入ろうとした時、晴れていたはずの空がにわかに曇った。
なにげに空を見上げると、そいつが居た。
ブラックドラゴンだ。
ブラックドラゴンは代官屋敷の上空にホバリングして、口からは青い炎が漏れている。
「やめ・・・」
俺は止めろと叫ぼうとしたが間に合わなかった。
ゴォォォーー
という轟音と共にブラックドラゴンの口から青い炎が放射状に放たれた。
ブレスの直撃を受けた代官屋敷は骨組みだけを残し、綺麗に消え去った。
余波で代官屋敷の近隣に会った建物も代官屋敷を起点に30度くらいの角度で100メートルくらい扇状に焼け落ちた。
あちこちから悲鳴が聞こえる。
建物はもちろんの事、すでに街の中に入っていたゲラン軍も多大な被害を受けている。
あちこちに黒焦げの死体が転がり、皮膚が捲れた兵士がのたうち回っている。
阿鼻叫喚とはこのことだ。
俺とピンターはブレスの範囲内には居なかったのでかすり傷一つない。
ブラックドラゴンは上空で旋回し、次の攻撃目標を探しているようだ。
俺は龍神の盾を取り出した。
ブラックドラゴンのブレスが吐き出される直前、セプタの街は龍神の盾によるシールドで覆われた。
ドーム型のシールドに沿ってブレスのエネルギーが流れていく。
ブラックドラゴンの二度目のブレスはなんとかかわせた。
しかし、俺の魔力が限界に近づいている。
もし次のブレスがくれば、持ちこたえれるかどうか、ギリギリのところだ。
ブラックドラゴンも、シールドを発生させたのが俺だと気が付いたようだ。
頭をこちらに向け俺を睨んでいる。
ブラックドラゴンはシールド内の俺目掛けて指向性のあるブレスを放った。
アウラ様と闘った時の様なレーザービームの様なブレスだ。
龍神の盾によるシールドは一瞬持ちこたえたかに見えたが、半透明のドームのブレスが当たっている部分にヒビが入り、その直後、『バリン!!』と音を立ててシールドが破壊された。
俺はピンターを抱きかかえ、横っ飛びにブレスをかわしたが、左足に激痛を感じた。
左足の膝から下が消失している。
ピンターだけはなんとか無傷だった。
俺は魔力も尽きて左足を失い、意識を保つのが精いっぱいだった。
なんとかピンターを逃がそうとマジックバッグからポータブルゲートを出そうとした時、ブラックドラゴンが俺とピンターの面前に着陸した。
俺とピンターを観察しているようだ。
『停戦したはずだろう。』
俺は龍語でブラックドラゴンに話しかけた。
『・・・・・』
ブラックドラゴンからの返事はなかったが、なぜだか困惑の思念だけは伝わって来た。
まるでドレイモンで操られ、自己の意思に反して行動しているかのような感情が伝わって来たのだ。
俺は意思疎通が無理だと判断してポータブルゲートを展開しようとしたが、既にブラックドラゴンが口元に青い炎を蓄えている。
間に合いそうもない。
ブラックドラゴンが今まさにブレスを吐こうとした時、ふいにピンターがブラックドラゴンの前に立ち塞がった。
「ピンター逃げろ!!!」
ピンターは逃げなかった。
そして両手を広げ
「やめて。お願い。兄ちゃんを殺さないで。」
とブラックドラゴンの方へ自ら進んでいった。
(駄目だ・・・二人共死んでしまう)
そう思ったがブレスが来ない・・・
ブラックドラゴンを見るとなぜだか戸惑っている。
『・・・・・・・』
ピンターは更にブラックドラゴンに近づいた。
そしてブラックドラゴンの鼻にさわって撫でた。
「いうことを聞いてくれてありがとう。君とは戦いたくないから巣に帰って。お願い。」
鼻の頭を撫でられたブラックドラゴンからは温和な感情が流れている。
さっきまでの殺気からは程遠い感情だ。
そして頭をもたげゆっくりと羽ばたき、少しだけホバリングして北の空へ消えた。
「ピンター・・・・どうやって・・・」
ピンターが駆け寄って来る。
「兄ちゃん。酷い怪我、早く治療して。早く!!」
俺は、取りあえずヒールで止血した。
周囲を見渡して失った自分の左足を探したが見つからない。
おそらくブレスで焼け落ちた。
つまり焼失したのだろう。
俺とピンターの命に別状はない。
気になるのは代官屋敷に居た人々だ。
代官、シュガルさん、ランデル将軍、そしてドルムさんも居たはずだ。
焼け落ちた建物から杖になりそうなものを探し出し、ピンターに支えられて代官屋敷へ戻った。
代官屋敷はわずかな骨組みを残して殆どの物が消失していた。
柱も壁も、そして人間も。
焼け跡には幾つかの黒焦げの死体が転がっている。
『シュガルさん!!!代官!!ドルムさん!!』
声を限りに叫んだ。
俺の声に反応したのか、瓦礫が少し動いた気がした。
ピンターと一緒に瓦礫をどかすと・・・
「ウヒー。死ぬかと思ったぜ。」
ドルムさんだ。
普段の姿ではなく悪魔化したドルムさんだ。
ピンターが驚いている。
ドルムさんはすぐに悪魔化を解いて元の人間の姿に戻った。
ピンターがドルムさんに抱き着いた。
「よう。ピンター無事でよかったな。」
ドルムさんがピンターの頭を撫でた。
「ソウ、オメーは大丈夫か?」
俺は焼失した左足を見せた。
「あちゃー随分やられたな。・・」
「ええやられちゃいました。」
俺が左足を失っても狼狽えないのは、いずれまた左足は生えてくるからだ。
俺はアウラ様からもらった龍神丹を過去に服用している。
アウラ様の話では龍神丹の効果は約千年持続するとのことだ。
つまり、また足が生えてくるという事だ。
そのことをドルムさんも知っているから二人共暢気なのだ。
他にも瓦礫の下に生存者がいないか探した。
生存者をさがしているうちに、サンダさんが現れた。
偶然屋敷の外に居て、爆風で気を失っていたが怪我はないらしい。
屋敷の焼け跡で数体の遺体を発見した。
その遺体の中に女性と思われる遺体があった。
女性の遺体の胸には金属製の首飾りがあった。
首飾りには煤で汚れたルビーが付いている。
シュガルさんだ。
(サルトさんに、どうやって報告しよう・・・)
結局代官屋敷に居た代官、ランデル将軍、シュガルさん、その他の兵士5名は帰らぬ人となった。
代官屋敷以外でも死傷者は多数出ており、詳しい現状はわからないが、獣人軍が停戦を破り、ブラックドラゴンで攻撃してきたことは間違いない。
しかし、それにしては獣人軍の追撃が無い。
ブラックドラゴンはピンターが何かの力で追い返したが、停戦を破り、再びセプタを占領するなら、獣人軍の追撃があるはずだ。
街の外で様子を見てきたミューラーが言った。
「獣人軍の追撃は無い。今のうちに逃げよう。」
住人を残して逃げるのか?
「いや、追撃の様子がないのなら、負傷者の救護が優先だ。逃げたところで相手はドラゴン。すぐに追いつかれるさ、それより、ここを守ろう。住民と怪我人の安全を優先しよう。」
「何を言っているんだ。ここにはもう代官様もランデル将軍も居ないんだ。指揮官は吾輩である。停戦交渉に失敗した今は吾輩の指示に従ってもらうぞ。」
住民をほっぽりだして逃げるのかよ。
「わかった。兵士の指揮官はあんただ。俺は一般人だから軍の命令には従わない。好きにしてくれ。」
交渉失敗と言われれば、そのとおりで返す言葉がない。
しかし、ここにはまだ大勢の負傷者が居る。
俺は負傷者の救護を優先することにした。
セプタの街の外、南門前には、ゲラニの軍勢が人質とセプタの街の解放を待っている。
ゲラン兵は先発隊と、後続の6000人を合わせて総勢15,000になっていた。
これから俺がルチアを含む獣人王家の子供達をセプタ内で引き渡せば、セプタの住民は解放される。
ルチア達を引き渡せば街を占領いている獣人軍がセプタの北門から出ていく手はずになっている。
俺はセプタ代官の屋敷で豹頭将軍「ライジン」と向き合っている。
「では、ライジン将軍、今から王家の子供達と他の住民21名を引き渡す。撤退の準備をしてくれているか?」
「ああ、既に半数は北門から外に出ている。ドラゴンも近くには居るが、人質の交換終了次第、撤退の予定だ。」
俺とライジン将軍の様子を見ている代官とシュガルも安堵の表情を浮かべている。
俺は、その場にゲートを開いた。
『ドルムさんお願いします。』
『よっしゃ。』
ゲートからルチアを先頭に21人の獣人が出てきた。最後にドルムさんもゲートをくぐって来た。
それを見たライジン将軍達獣人軍も、代官たちも驚いた様子を隠せない。
ライジン将軍が俺を見つめた。
「これは、すごいな。こんなものが人族にはあるのか?」
「いや、これは俺だけが使える神器だ。人には使えない。」
実際、ポータブルゲート他、ウルフやサーペントは、人狼である俺にしか管理権が無い。
「ニイニ」
ルチアが俺にすり寄る。
セトをはじめとする獣人軍は、ルチア達の姿を見て膝をついた。
「お帰りなさいませ。」
セトが挨拶をするが、ルチアと、その兄弟は少し戸惑っている。
「レルム様他王族の皆様、そして囚われていた住民の皆。お疲れさまでした。もう安心です。私が獅子王様の元までの安全を保証致します。」
ライジン将軍も片膝をついて挨拶をした。
「ニイニもイク?」
ルチアが心配そうに俺の顔を覗き込んだ。
「大丈夫だよ、ルチア。今すぐには行けないが、必ず会いに行く。その将軍から許可をもらっているからね。必ずジュベルへ行くよ。そしたら毎日でも会えるようになる。それまで我慢できるよね。」
「ウン。ルチア我慢する。」
俺とルチアが話している間に、いつのまにかピンターが来ていた。
危険があるので、お別れはキューブで済ませておけと言ってあったが、やはり名残が惜しいのだろう。
「ルチア。きっとまた会えるから、必ず会えるから。それまでに竹トンボの練習しておけよ。」
ピンターは少し涙ぐんでいる。
ピンターはいつの間にか大人びた言葉をつかうようになった。
俺の眷属となって以来、身体的な成長も著しいものがあったが、精神的にも成長しているようだ。
「ウン。ピンターに負けない。ご飯たくさんたべてルチアもおっきくなるから。」
ルチアも涙ぐんでいる。
「さあ、ルチア様。行きますよ。」
ライジン将軍が、いつまでも別れを惜しむルチアを促した。
セトが俺に近づいた。
「これは、お前が持つべきだ。」
セトは龍神の盾を差し出した。
「いいのか?」
「ああ、龍神様がお前に与えた物だ、俺達が奪うと龍神様に叱られる。」
セトは笑顔だった。
セトとも友達になれそうな気がする。
俺はルチア達を街の北門まで見送った。
ピンターもついてきた。
ピンターはルチア達が載る馬車が見えなくなるまで門の外に佇んでいた。
ルチア達の姿が見えなくなると同時に、ゲラン軍が南門から街の中に入って来た。
ゲラン兵士は町中の建物に監禁されている住民を開放し、ランデル将軍は代官屋敷へ入った。
俺も代官屋敷へ入ろうとした時、晴れていたはずの空がにわかに曇った。
なにげに空を見上げると、そいつが居た。
ブラックドラゴンだ。
ブラックドラゴンは代官屋敷の上空にホバリングして、口からは青い炎が漏れている。
「やめ・・・」
俺は止めろと叫ぼうとしたが間に合わなかった。
ゴォォォーー
という轟音と共にブラックドラゴンの口から青い炎が放射状に放たれた。
ブレスの直撃を受けた代官屋敷は骨組みだけを残し、綺麗に消え去った。
余波で代官屋敷の近隣に会った建物も代官屋敷を起点に30度くらいの角度で100メートルくらい扇状に焼け落ちた。
あちこちから悲鳴が聞こえる。
建物はもちろんの事、すでに街の中に入っていたゲラン軍も多大な被害を受けている。
あちこちに黒焦げの死体が転がり、皮膚が捲れた兵士がのたうち回っている。
阿鼻叫喚とはこのことだ。
俺とピンターはブレスの範囲内には居なかったのでかすり傷一つない。
ブラックドラゴンは上空で旋回し、次の攻撃目標を探しているようだ。
俺は龍神の盾を取り出した。
ブラックドラゴンのブレスが吐き出される直前、セプタの街は龍神の盾によるシールドで覆われた。
ドーム型のシールドに沿ってブレスのエネルギーが流れていく。
ブラックドラゴンの二度目のブレスはなんとかかわせた。
しかし、俺の魔力が限界に近づいている。
もし次のブレスがくれば、持ちこたえれるかどうか、ギリギリのところだ。
ブラックドラゴンも、シールドを発生させたのが俺だと気が付いたようだ。
頭をこちらに向け俺を睨んでいる。
ブラックドラゴンはシールド内の俺目掛けて指向性のあるブレスを放った。
アウラ様と闘った時の様なレーザービームの様なブレスだ。
龍神の盾によるシールドは一瞬持ちこたえたかに見えたが、半透明のドームのブレスが当たっている部分にヒビが入り、その直後、『バリン!!』と音を立ててシールドが破壊された。
俺はピンターを抱きかかえ、横っ飛びにブレスをかわしたが、左足に激痛を感じた。
左足の膝から下が消失している。
ピンターだけはなんとか無傷だった。
俺は魔力も尽きて左足を失い、意識を保つのが精いっぱいだった。
なんとかピンターを逃がそうとマジックバッグからポータブルゲートを出そうとした時、ブラックドラゴンが俺とピンターの面前に着陸した。
俺とピンターを観察しているようだ。
『停戦したはずだろう。』
俺は龍語でブラックドラゴンに話しかけた。
『・・・・・』
ブラックドラゴンからの返事はなかったが、なぜだか困惑の思念だけは伝わって来た。
まるでドレイモンで操られ、自己の意思に反して行動しているかのような感情が伝わって来たのだ。
俺は意思疎通が無理だと判断してポータブルゲートを展開しようとしたが、既にブラックドラゴンが口元に青い炎を蓄えている。
間に合いそうもない。
ブラックドラゴンが今まさにブレスを吐こうとした時、ふいにピンターがブラックドラゴンの前に立ち塞がった。
「ピンター逃げろ!!!」
ピンターは逃げなかった。
そして両手を広げ
「やめて。お願い。兄ちゃんを殺さないで。」
とブラックドラゴンの方へ自ら進んでいった。
(駄目だ・・・二人共死んでしまう)
そう思ったがブレスが来ない・・・
ブラックドラゴンを見るとなぜだか戸惑っている。
『・・・・・・・』
ピンターは更にブラックドラゴンに近づいた。
そしてブラックドラゴンの鼻にさわって撫でた。
「いうことを聞いてくれてありがとう。君とは戦いたくないから巣に帰って。お願い。」
鼻の頭を撫でられたブラックドラゴンからは温和な感情が流れている。
さっきまでの殺気からは程遠い感情だ。
そして頭をもたげゆっくりと羽ばたき、少しだけホバリングして北の空へ消えた。
「ピンター・・・・どうやって・・・」
ピンターが駆け寄って来る。
「兄ちゃん。酷い怪我、早く治療して。早く!!」
俺は、取りあえずヒールで止血した。
周囲を見渡して失った自分の左足を探したが見つからない。
おそらくブレスで焼け落ちた。
つまり焼失したのだろう。
俺とピンターの命に別状はない。
気になるのは代官屋敷に居た人々だ。
代官、シュガルさん、ランデル将軍、そしてドルムさんも居たはずだ。
焼け落ちた建物から杖になりそうなものを探し出し、ピンターに支えられて代官屋敷へ戻った。
代官屋敷はわずかな骨組みを残して殆どの物が消失していた。
柱も壁も、そして人間も。
焼け跡には幾つかの黒焦げの死体が転がっている。
『シュガルさん!!!代官!!ドルムさん!!』
声を限りに叫んだ。
俺の声に反応したのか、瓦礫が少し動いた気がした。
ピンターと一緒に瓦礫をどかすと・・・
「ウヒー。死ぬかと思ったぜ。」
ドルムさんだ。
普段の姿ではなく悪魔化したドルムさんだ。
ピンターが驚いている。
ドルムさんはすぐに悪魔化を解いて元の人間の姿に戻った。
ピンターがドルムさんに抱き着いた。
「よう。ピンター無事でよかったな。」
ドルムさんがピンターの頭を撫でた。
「ソウ、オメーは大丈夫か?」
俺は焼失した左足を見せた。
「あちゃー随分やられたな。・・」
「ええやられちゃいました。」
俺が左足を失っても狼狽えないのは、いずれまた左足は生えてくるからだ。
俺はアウラ様からもらった龍神丹を過去に服用している。
アウラ様の話では龍神丹の効果は約千年持続するとのことだ。
つまり、また足が生えてくるという事だ。
そのことをドルムさんも知っているから二人共暢気なのだ。
他にも瓦礫の下に生存者がいないか探した。
生存者をさがしているうちに、サンダさんが現れた。
偶然屋敷の外に居て、爆風で気を失っていたが怪我はないらしい。
屋敷の焼け跡で数体の遺体を発見した。
その遺体の中に女性と思われる遺体があった。
女性の遺体の胸には金属製の首飾りがあった。
首飾りには煤で汚れたルビーが付いている。
シュガルさんだ。
(サルトさんに、どうやって報告しよう・・・)
結局代官屋敷に居た代官、ランデル将軍、シュガルさん、その他の兵士5名は帰らぬ人となった。
代官屋敷以外でも死傷者は多数出ており、詳しい現状はわからないが、獣人軍が停戦を破り、ブラックドラゴンで攻撃してきたことは間違いない。
しかし、それにしては獣人軍の追撃が無い。
ブラックドラゴンはピンターが何かの力で追い返したが、停戦を破り、再びセプタを占領するなら、獣人軍の追撃があるはずだ。
街の外で様子を見てきたミューラーが言った。
「獣人軍の追撃は無い。今のうちに逃げよう。」
住人を残して逃げるのか?
「いや、追撃の様子がないのなら、負傷者の救護が優先だ。逃げたところで相手はドラゴン。すぐに追いつかれるさ、それより、ここを守ろう。住民と怪我人の安全を優先しよう。」
「何を言っているんだ。ここにはもう代官様もランデル将軍も居ないんだ。指揮官は吾輩である。停戦交渉に失敗した今は吾輩の指示に従ってもらうぞ。」
住民をほっぽりだして逃げるのかよ。
「わかった。兵士の指揮官はあんただ。俺は一般人だから軍の命令には従わない。好きにしてくれ。」
交渉失敗と言われれば、そのとおりで返す言葉がない。
しかし、ここにはまだ大勢の負傷者が居る。
俺は負傷者の救護を優先することにした。
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