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第四章 首都ゲラニ編
第83話 ドラゴン使い エレイナ
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二人共、よく無事で帰れたな。」
報告を受けたランデル将軍が俺とミューラーを見ている。
「いやー。たいしたことありませんでしたよ。獣人共は、吾輩がひと睨みしたら縄を解きました。イヤハヤあっはっは。」
俺がミューラーの顔を覗き込むと、ミューラーは黙った。
「それで、攻撃を開始したのは、なぜです?おかげで私とミューラーさんが死にかけましたが。」
交渉と人質役は俺とミューラー、残った部隊の責任者はランデル将軍ということになる。
「すまん。ワシの責任じゃ。向こうが攻撃するまで絶対に手を出すなと命じていたのだが、一部の兵士がドラゴンの恐怖に負けて手を出してしまったようじゃ。もっとも先に手を出した兵士は黒焦げになったしもうたから、裏付けはとれぬがの。」
俺の想像のとおりだ。
ブラックドラゴンと対峙した一部の兵士が死の危険を感じて本能的にブラックドラゴンを攻撃したらしい。
後は知ってのとおりだが、その結果人間側の死者約800名、傷者700名の被害を受けた。
獣人側も魔法攻撃の被害を受けたが、死傷者数名とのことだった。
人族側の被害も大きいが、それにもまして精神的ダメージが大きい。
ブラックドラゴンのブレス一息で、1,500もの死傷者が出たのだ。
俺が2度目のブレスを防いでいなかったら、単純に考えても3.000の死傷者が出ていたはずだ。
それ以上の攻撃を受けなかったのは、兵士が逃げ込んだ街に、獣人側の王族が人質として残っていたからだ。
ここで疑問が一つ残る。
セトは『攻撃命令は出していない。』と言っていた。
それならば、なぜブラックドラゴンは、人族を挑発するように最前線に降り立ったのだろうか。
停戦を守り続ける意思があるなら、上空で待機しているだけでよかったはずだ。
やはり、そこに何者かの悪意を感じる。
「ランデル将軍。先に報告したとおり、獣人側は停戦に応じてセプタまで引き上げるそうです。わが軍はどのように対処するおつもりですか。」
ランデル将軍は額に皺を寄せている。
「今は敵を信用して停戦する以外はあるまい。しかし、敵の言葉を信用してよいものかどうか。人質を渡した途端に戦闘になるのではないか?そうなればひとたまりもない。援軍を待っても結果は同じだろうしな。」
ランデル将軍は顎髭を撫でながら眉をしかめる。
俺はブラックドラゴンを操っているのはヒュドラ教だと思っているが、今この場で話すには危険度が高い。
そこで、ランデル将軍に提案した。
「ランデル将軍、今からラジエル公爵の元で作戦を立て直しませんか?」
「それは構わぬが、今からゲラニへ戻るのか?」
「はい。」
俺はその場にゲートを展開した。
「ミューラーさん、すみませんが、このゲートを守っていてくれませんか?」
「え、・・いいけどこれは何だ?」
「ゲラニへ通じる門です。神器ですよ。」
俺は不思議がるランデル将軍を伴いラジエル公爵の屋敷へ行き、ラジエル公爵と直接話し合うことにした。
ラジエル将軍は苦悶の表情を浮かべていた。
千名近くの部下を失ったのだ。
無理もない。
「問題は、あのブラックドラゴンです。そのことについて一つ疑問があります。あのブラックドラゴンは、ヒュドラ教の関係者が操っている可能性が高いです。」
俺はフォナシス火山での出来事をラジエル公爵とランデル将軍に説明した。
ラジエル公爵は更に顔をしかめる。
「それは、信じがたいな。ヒュドラ教国と我が国は軍事協定を結んでおる。ヒュドラ教はゲランの国教でもある。そのヒュドラ教国が我が国に敵対するとは思えぬ。」
俺は、マジックバッグから、九つのペンダントを取り出してラジエル公爵に見せた。
フォナシス火山で死んだヒュドラ教徒の遺品だ。
「これは・・・」
「フォナシス火山で戦ったヒュドラ教徒の遺品です。」
ラジエル公爵がペンダントを覗き込んだ。
ペンダントにはヒュドラの横顔が彫刻されている。
「これは、ヒュドラ教徒の司祭が持つペンダントじゃな。」
ランデル将軍がペンダントを一つ取り上げた。
「シン殿のいう事が誠ならば、国の一大事じゃ。それにシン殿の身にも危険が及ぶかも知れぬ。なにしろヒュドラ教の司祭10人の殺害に加担したということになるからの。」
確かに正当防衛とは言え、ヒュドラ教徒を攻撃したのは事実だ。
しかし、ヒュドラ教徒の死亡原因は、アウラ様とブラックドラゴンの戦闘の余波を受けたためだ。
そしてランデル将軍のいうとおり、このことが教国側に発覚すれば、おれの身も危なくなる。
だからこそ、ラジエル公爵とランデル将軍の二人にのみ、この情報を伝えたのだ。
ラジエル公爵がランデル将軍を向いた。
「いずれにしろ、この件は内密にしておく方が良い。ランデルわかっておるの。」
「はい。重大な軍事機密です。誰にも口外いたしません。」
その後、今後の作戦を3人で話し合った。
その結果、今は停戦を守り、負傷者の救護を優先すること。
ブラックドラゴンの件をラジエル公爵側で内密に調査すること。
俺が獣人側に接近して、ブラックドラゴンを操っている者を探し出すこと。
人質の交換は、予定通りセプタで行うが、獣人軍がセプタに到着するまでの間はラジエル邸で保護すること。
等が決定された。
俺はラジエル邸宅で予備のゲートを展開し、バルチの村長宅へリンクさせた。
ゲートをくぐるとミューラーが出迎えた。
「シン殿、この神器は、すごいですな。一瞬でブラニと行き来できるなんて。」
ミューラーの言葉使いが随分と丁寧になった。
最初の頃とは大違いだ。
俺の力を目の当たりに見たのと、俺がラジエル公爵と親しいという事を実感したからだろう。
村長宅の居間へ入ると、ルチアが飛びついてきた。
「ニイニ!」
ルチアの笑顔に俺も癒される。
ここ数日、死と隣り合わせで緊張の連続だったし、見知らぬ人とは言え多くの死を目撃してきた。
(ルチアと別れたくないな・・・)
「ルチア、ありがとうな。」
「ニイニ?」
ルチア達をラジエル邸に連れて行った後、俺は一人で獣人軍へ向かった。
今後の行動を確認することと、できればブラックドラゴンの操縦者を割り出したかったからだ。
両手を上げて獣人軍キャンプへ入った。
見張り役は特に何も言わず、素直に幹部のいるテントに案内してくれた。
どうやら俺が龍神の使徒だということが獣人軍内に伝わっているようだ。
「今度は何だ?」
ライジン将軍が俺を出迎えた。
「停戦に応じてくれた礼をしたい。重症患者はいるか?」
「ほう。お前が治療するのか?」
俺は、ルチアの為にも獣人軍と良好な関係を築いておきたかった。
ルチアとは距離的に離れても繋がりを持っておきたい。
その為には、どうしても俺自身が獣人の国『ジュベル』を訪問して、適切な場所にゲートを開いておきたかったのだ。
「ああ、俺はヒール持ちだし、医療器具も持っている。獣人の家族の為にも、俺のできることをしておきたいのだ。」
「何か裏があるのかもしれないが、仲間の治療は歓迎する。」
ライジン将軍は、意外と素直に俺の提案を受け入れてくれた。
獣人側の死者は2名、負傷者が十数名いたが重傷者は3名のみだった。
いずれの怪我人も軽い治療は受けていたが、治癒師のレベルが低いようで、完全治療にはほど遠かった。
俺は軽症者にはヒールを施し、重症患者にはメディカルマシンで完全治療を施した。
「お前たちのせいで死傷者が出たのだから、治療行為に礼はしないが、個人的にはありがたく思う。」
ライジン将軍の態度が少し柔和になった。
「ライジン将軍、腹を割って話がしたい。」
「なんだ?」
「俺達の力でこの、戦争を避けることは出来ないか?」
ライジン将軍は少し時間をおいてこういった。
「それは、無理だな。お前もわかっているだろう?」
俺にもその理由は判っていた。
ヒュドラ教が宣教と言う侵略行為を止めない限り、ジュベル国とゲラン国の紛争、いや戦争は止まらないだろう。
それでも、戦争を止めようとする意志がお互いの国にあれば、戦争を阻止できる可能性はある。
その意思が獣人国にあるのか問いたかったのだ。
「わかっている。それでも無益な戦争は避けたい。もしゲランとヒュドラが手を切れば、ジュベルに、戦争を避ける意思はあるか?」
「獅子王様は好戦的なお方だ。だが、無益な殺生はしない。侵略行為が無くなれば、今回の件で報復を終えたとお考えになるだろう。」
今回の件と言うのは、獣人軍のセプタへの侵攻だ。
千名以上の犠牲が出ている。
「わかった。今この場で約束は出来ないが、俺はジュベルとゲランの国民のため。・・・いや俺の仲間の為に戦争を避ける努力をする。もし、その機会が訪れたら協力をしてくれないか?」
「・・・ま、無理だろうな。それでもゲランがヒュドラと決別すれば、その時には考えてやるよ。おまえの仲間思いに免じてな。」
それから、少しの間、ライジン将軍と話し合った。
ライジン将軍は、話してみると意外に友好的な人物だった。
豹頭で武装した姿からは、いかにも好戦的で情け容赦の無い武人に見えたが、その実、家族を持ち、国の事を思う立派な人物のように思えた。
俺とライジン将軍の話を横で聞いていた竜人のセトは、俺が龍神の使徒だと名乗って以来、俺に友好的で、話の間に飲み物も手配してくれた。
俺が最初に持っていた獣人軍のイメージは大きく変わった。
やはり姿形だけで判断をしてはいけない。
「それでは、将軍。予定通り、俺達は明日の午後、貴方達から1日遅れて、出発をする。セプタまでの間、こちらからは絶対に手出しをさせないので、貴方たちもできるだけ、ドラゴンを遠ざけておいて欲しい。」
「わかった。武人として約束は守る。しかし、今朝のようなことがあれば、また攻撃するぞ。」
俺は頷いた。
ライジン将軍のテントを出る時、テントの外の人の気配に気が付いた。
身構えながら、テントの外に出ると、人族の女が居た。
その女はフードを被り、口をマスクで覆っているが、目元は見えている。
どこかで見たような目だ。
「エレイナ、そこで何をしている。」
ライジン将軍がその女に声をかけた。
「ドラゴンのブレスを防いだという男を人目見ておきたくて・・」
その女は獣人語でしゃべった・・・というより、俺の翻訳機能に近い意思疎通の方法だった。
そして、女から魔力が俺に伸びてきた。
タンジの『鑑定』の様な感じだ。
俺の能力を探ろうとしているのかもしれない。
タンジよりははるかに強い魔力だ。
俺は女が伸ばしてくる魔力を跳ね返した。
そして俺も『鑑定』スキルを使おうしたが、思いとどまった。
どこかで見たような目、そしてこの魔力の感じ、以前に感じたことがある。
ヘレナだ。
ブテラの教会でダニクを殺した『ヘレナ』の魔力にそっくりだった。
しかし、ヘレナと別人なのは背格好や仕草で何となくわかる。
「ライジン将軍。この女は俺に魔力を伸ばしてきて、俺に何か仕掛けようとしたが、これは、協定違反じゃないのか?」
ライジン将軍が女を見た。
「エレイナ、止めろ。」
そして俺を振り返り。
「すまんな。止めさせたから大目に見ろ。この女についての質問は受け付けん。」
と言った。
俺は素直に受け入れ、キャンプを後にした。
エレイナという女、ヘレナとの関係が深そうだ・・・
報告を受けたランデル将軍が俺とミューラーを見ている。
「いやー。たいしたことありませんでしたよ。獣人共は、吾輩がひと睨みしたら縄を解きました。イヤハヤあっはっは。」
俺がミューラーの顔を覗き込むと、ミューラーは黙った。
「それで、攻撃を開始したのは、なぜです?おかげで私とミューラーさんが死にかけましたが。」
交渉と人質役は俺とミューラー、残った部隊の責任者はランデル将軍ということになる。
「すまん。ワシの責任じゃ。向こうが攻撃するまで絶対に手を出すなと命じていたのだが、一部の兵士がドラゴンの恐怖に負けて手を出してしまったようじゃ。もっとも先に手を出した兵士は黒焦げになったしもうたから、裏付けはとれぬがの。」
俺の想像のとおりだ。
ブラックドラゴンと対峙した一部の兵士が死の危険を感じて本能的にブラックドラゴンを攻撃したらしい。
後は知ってのとおりだが、その結果人間側の死者約800名、傷者700名の被害を受けた。
獣人側も魔法攻撃の被害を受けたが、死傷者数名とのことだった。
人族側の被害も大きいが、それにもまして精神的ダメージが大きい。
ブラックドラゴンのブレス一息で、1,500もの死傷者が出たのだ。
俺が2度目のブレスを防いでいなかったら、単純に考えても3.000の死傷者が出ていたはずだ。
それ以上の攻撃を受けなかったのは、兵士が逃げ込んだ街に、獣人側の王族が人質として残っていたからだ。
ここで疑問が一つ残る。
セトは『攻撃命令は出していない。』と言っていた。
それならば、なぜブラックドラゴンは、人族を挑発するように最前線に降り立ったのだろうか。
停戦を守り続ける意思があるなら、上空で待機しているだけでよかったはずだ。
やはり、そこに何者かの悪意を感じる。
「ランデル将軍。先に報告したとおり、獣人側は停戦に応じてセプタまで引き上げるそうです。わが軍はどのように対処するおつもりですか。」
ランデル将軍は額に皺を寄せている。
「今は敵を信用して停戦する以外はあるまい。しかし、敵の言葉を信用してよいものかどうか。人質を渡した途端に戦闘になるのではないか?そうなればひとたまりもない。援軍を待っても結果は同じだろうしな。」
ランデル将軍は顎髭を撫でながら眉をしかめる。
俺はブラックドラゴンを操っているのはヒュドラ教だと思っているが、今この場で話すには危険度が高い。
そこで、ランデル将軍に提案した。
「ランデル将軍、今からラジエル公爵の元で作戦を立て直しませんか?」
「それは構わぬが、今からゲラニへ戻るのか?」
「はい。」
俺はその場にゲートを展開した。
「ミューラーさん、すみませんが、このゲートを守っていてくれませんか?」
「え、・・いいけどこれは何だ?」
「ゲラニへ通じる門です。神器ですよ。」
俺は不思議がるランデル将軍を伴いラジエル公爵の屋敷へ行き、ラジエル公爵と直接話し合うことにした。
ラジエル将軍は苦悶の表情を浮かべていた。
千名近くの部下を失ったのだ。
無理もない。
「問題は、あのブラックドラゴンです。そのことについて一つ疑問があります。あのブラックドラゴンは、ヒュドラ教の関係者が操っている可能性が高いです。」
俺はフォナシス火山での出来事をラジエル公爵とランデル将軍に説明した。
ラジエル公爵は更に顔をしかめる。
「それは、信じがたいな。ヒュドラ教国と我が国は軍事協定を結んでおる。ヒュドラ教はゲランの国教でもある。そのヒュドラ教国が我が国に敵対するとは思えぬ。」
俺は、マジックバッグから、九つのペンダントを取り出してラジエル公爵に見せた。
フォナシス火山で死んだヒュドラ教徒の遺品だ。
「これは・・・」
「フォナシス火山で戦ったヒュドラ教徒の遺品です。」
ラジエル公爵がペンダントを覗き込んだ。
ペンダントにはヒュドラの横顔が彫刻されている。
「これは、ヒュドラ教徒の司祭が持つペンダントじゃな。」
ランデル将軍がペンダントを一つ取り上げた。
「シン殿のいう事が誠ならば、国の一大事じゃ。それにシン殿の身にも危険が及ぶかも知れぬ。なにしろヒュドラ教の司祭10人の殺害に加担したということになるからの。」
確かに正当防衛とは言え、ヒュドラ教徒を攻撃したのは事実だ。
しかし、ヒュドラ教徒の死亡原因は、アウラ様とブラックドラゴンの戦闘の余波を受けたためだ。
そしてランデル将軍のいうとおり、このことが教国側に発覚すれば、おれの身も危なくなる。
だからこそ、ラジエル公爵とランデル将軍の二人にのみ、この情報を伝えたのだ。
ラジエル公爵がランデル将軍を向いた。
「いずれにしろ、この件は内密にしておく方が良い。ランデルわかっておるの。」
「はい。重大な軍事機密です。誰にも口外いたしません。」
その後、今後の作戦を3人で話し合った。
その結果、今は停戦を守り、負傷者の救護を優先すること。
ブラックドラゴンの件をラジエル公爵側で内密に調査すること。
俺が獣人側に接近して、ブラックドラゴンを操っている者を探し出すこと。
人質の交換は、予定通りセプタで行うが、獣人軍がセプタに到着するまでの間はラジエル邸で保護すること。
等が決定された。
俺はラジエル邸宅で予備のゲートを展開し、バルチの村長宅へリンクさせた。
ゲートをくぐるとミューラーが出迎えた。
「シン殿、この神器は、すごいですな。一瞬でブラニと行き来できるなんて。」
ミューラーの言葉使いが随分と丁寧になった。
最初の頃とは大違いだ。
俺の力を目の当たりに見たのと、俺がラジエル公爵と親しいという事を実感したからだろう。
村長宅の居間へ入ると、ルチアが飛びついてきた。
「ニイニ!」
ルチアの笑顔に俺も癒される。
ここ数日、死と隣り合わせで緊張の連続だったし、見知らぬ人とは言え多くの死を目撃してきた。
(ルチアと別れたくないな・・・)
「ルチア、ありがとうな。」
「ニイニ?」
ルチア達をラジエル邸に連れて行った後、俺は一人で獣人軍へ向かった。
今後の行動を確認することと、できればブラックドラゴンの操縦者を割り出したかったからだ。
両手を上げて獣人軍キャンプへ入った。
見張り役は特に何も言わず、素直に幹部のいるテントに案内してくれた。
どうやら俺が龍神の使徒だということが獣人軍内に伝わっているようだ。
「今度は何だ?」
ライジン将軍が俺を出迎えた。
「停戦に応じてくれた礼をしたい。重症患者はいるか?」
「ほう。お前が治療するのか?」
俺は、ルチアの為にも獣人軍と良好な関係を築いておきたかった。
ルチアとは距離的に離れても繋がりを持っておきたい。
その為には、どうしても俺自身が獣人の国『ジュベル』を訪問して、適切な場所にゲートを開いておきたかったのだ。
「ああ、俺はヒール持ちだし、医療器具も持っている。獣人の家族の為にも、俺のできることをしておきたいのだ。」
「何か裏があるのかもしれないが、仲間の治療は歓迎する。」
ライジン将軍は、意外と素直に俺の提案を受け入れてくれた。
獣人側の死者は2名、負傷者が十数名いたが重傷者は3名のみだった。
いずれの怪我人も軽い治療は受けていたが、治癒師のレベルが低いようで、完全治療にはほど遠かった。
俺は軽症者にはヒールを施し、重症患者にはメディカルマシンで完全治療を施した。
「お前たちのせいで死傷者が出たのだから、治療行為に礼はしないが、個人的にはありがたく思う。」
ライジン将軍の態度が少し柔和になった。
「ライジン将軍、腹を割って話がしたい。」
「なんだ?」
「俺達の力でこの、戦争を避けることは出来ないか?」
ライジン将軍は少し時間をおいてこういった。
「それは、無理だな。お前もわかっているだろう?」
俺にもその理由は判っていた。
ヒュドラ教が宣教と言う侵略行為を止めない限り、ジュベル国とゲラン国の紛争、いや戦争は止まらないだろう。
それでも、戦争を止めようとする意志がお互いの国にあれば、戦争を阻止できる可能性はある。
その意思が獣人国にあるのか問いたかったのだ。
「わかっている。それでも無益な戦争は避けたい。もしゲランとヒュドラが手を切れば、ジュベルに、戦争を避ける意思はあるか?」
「獅子王様は好戦的なお方だ。だが、無益な殺生はしない。侵略行為が無くなれば、今回の件で報復を終えたとお考えになるだろう。」
今回の件と言うのは、獣人軍のセプタへの侵攻だ。
千名以上の犠牲が出ている。
「わかった。今この場で約束は出来ないが、俺はジュベルとゲランの国民のため。・・・いや俺の仲間の為に戦争を避ける努力をする。もし、その機会が訪れたら協力をしてくれないか?」
「・・・ま、無理だろうな。それでもゲランがヒュドラと決別すれば、その時には考えてやるよ。おまえの仲間思いに免じてな。」
それから、少しの間、ライジン将軍と話し合った。
ライジン将軍は、話してみると意外に友好的な人物だった。
豹頭で武装した姿からは、いかにも好戦的で情け容赦の無い武人に見えたが、その実、家族を持ち、国の事を思う立派な人物のように思えた。
俺とライジン将軍の話を横で聞いていた竜人のセトは、俺が龍神の使徒だと名乗って以来、俺に友好的で、話の間に飲み物も手配してくれた。
俺が最初に持っていた獣人軍のイメージは大きく変わった。
やはり姿形だけで判断をしてはいけない。
「それでは、将軍。予定通り、俺達は明日の午後、貴方達から1日遅れて、出発をする。セプタまでの間、こちらからは絶対に手出しをさせないので、貴方たちもできるだけ、ドラゴンを遠ざけておいて欲しい。」
「わかった。武人として約束は守る。しかし、今朝のようなことがあれば、また攻撃するぞ。」
俺は頷いた。
ライジン将軍のテントを出る時、テントの外の人の気配に気が付いた。
身構えながら、テントの外に出ると、人族の女が居た。
その女はフードを被り、口をマスクで覆っているが、目元は見えている。
どこかで見たような目だ。
「エレイナ、そこで何をしている。」
ライジン将軍がその女に声をかけた。
「ドラゴンのブレスを防いだという男を人目見ておきたくて・・」
その女は獣人語でしゃべった・・・というより、俺の翻訳機能に近い意思疎通の方法だった。
そして、女から魔力が俺に伸びてきた。
タンジの『鑑定』の様な感じだ。
俺の能力を探ろうとしているのかもしれない。
タンジよりははるかに強い魔力だ。
俺は女が伸ばしてくる魔力を跳ね返した。
そして俺も『鑑定』スキルを使おうしたが、思いとどまった。
どこかで見たような目、そしてこの魔力の感じ、以前に感じたことがある。
ヘレナだ。
ブテラの教会でダニクを殺した『ヘレナ』の魔力にそっくりだった。
しかし、ヘレナと別人なのは背格好や仕草で何となくわかる。
「ライジン将軍。この女は俺に魔力を伸ばしてきて、俺に何か仕掛けようとしたが、これは、協定違反じゃないのか?」
ライジン将軍が女を見た。
「エレイナ、止めろ。」
そして俺を振り返り。
「すまんな。止めさせたから大目に見ろ。この女についての質問は受け付けん。」
と言った。
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前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。
また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。
以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。
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