異世界修学旅行で人狼になりました。

ていぞう

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第四章 首都ゲラニ編

第81話 豹頭将軍 ライジン

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ルチアをルチアの兄弟と合わせた翌日の早朝、俺は敵軍から約10キロ離れた場所から敵軍の様子を見ていた。

敵軍はバルチまで約1日の場所でキャンプを張っている。
まだ動きはない。

友軍もバルチまであと少しの所まで来ている。
今日の正午にはバルチに到着するだろう。

ドルムさんとエリカ、サンダさんをウルフに待機させて、俺は単身徒歩で敵キャンプへ向かった。

交渉を開始するつもりだ。

人間の姿では接触さえできないだろうと思って、体中を狼の毛で覆い、上半身裸で敵地に向かった。

この顔まで毛で覆う、『人狼Ⅱ』の姿はけっこうきつい。
最近俺は、キューブに居る時以外は常に獣化しているが、単純な獣化は何時間でも平気になって来た。

『人狼Ⅱ』は頑張って1時間というところか。
それだけ魔力消費量が多い。

敵キャンプの入り口まではなんの問題なく近づけた。
キャンプの入り口には竜人の見張りが居たが、俺が手を上げて

「お疲れ」

と獣人言葉で言うと、すんなりと通してくれた。
キャンプの中で将校のいそうな場所を探したところ、他のテントより大きく、門番のいるテントを見つけた。
ゆっくりと門番に近づいた。

「ライジン将軍はおいでか?」

「ああ、今お目覚めになられた。何の用だ?」

「ゲラン国の使いで来た。ライジン将軍におめにかかりたい。」

門番の顔色が変わった。
門番二人はすぐに槍を構えて攻撃態勢を取った。

「いいのか、俺を殺したいなら殺せばいいが、お前たちのせいで戦争になるぞ?」

門番二人は顔を見合わせた。

「動くなよ。そこで待て。」

門番の一人がテントに消えた。

テントに入った門番はすぐに出てきた。

「少し待て。」

と言い残しどこかへ出かけた。
1~2分待ったところ、竜族、オーク、ゴブリン、3人の男がやって来た。

身なりからして、それぞれの種族の将校といったところか。
3人は俺を睨みつける。

「入れ。」

門番の声でテントの中に入った。
表情は冷静を装っているが、俺の心臓は高速で動いている。
生まれてこのかた、これほど緊張したことは無い。

今から、17歳の少年が一人で、戦争を止めるために獣人相手に交渉をするのだ。

とても多くの命がかかっている。
緊張するなといってもそれは無理だ。

テントに入ると身なりの整った豹頭の男が俺を出迎えた。
俺と違って、とても落ち着いているように見える。

「君は誰かね?人ではないようだが?」

豹頭の男、ライジンにジロリとみられただけで、少し身が縮んだ。

いわゆる「ビビった。」という状態だ。
それだけライジンのオーラはスゴイ。
あと一歩でも近づけば切り殺されそうな気がする。

「俺は人狼族のソウ・ホンダ。故合ってラジエル公爵の使者を務める。」

「その人狼が何の用だ?」

「停戦の申し入れをしに来た。獣人を返すから、そちらも領民を開放して欲しい。」

竜人が横から口を出した。

「停戦だと?笑わすな。お前たちはただ黙って子供たちを返せばいいのだ。」

ライジンが竜人を睨んだ。

「セト、黙っていろ。」

竜人は何かモゴモゴ言いながら引き下がった。

「要件はわかった。子供たちは全員無事か?」

「ああ、王族6人他、合計21人、全員無事だ。」

ライジンの顔色が少し変わった。

「ほほう。そのことを知っておるか。あなどれぬのう・・」

その事とは、ルチア達が王族だということだ。
ルチア達が王族だという事は要求書には書かれておらず、俺が偵察行動で把握したものだ。

王族がこちらの手にあることは交渉が有利に進む条件になるはずだ。

「王族6人、怪我一つない状態で返す。だから領民を返し、国へ撤退してくれ。」

ライジンが睨んできた。
少し、怖い。

「せっかく攻め取った土地も無償で返せとはムシが良すぎはせんか?」

「無償ではないだろう。領民を金鉱山で働かせて、相当量の金を得たはずだ。」

「それも知っておったか。ハハハ」

なぜかライジンが笑った。

「いいだろう。元々の目的は王族の救出だからな。」

竜族の男が口をはさんだ。

「ライジン将軍、それは甘すぎやしませんか?せっかく攻め取った領地を返すなんて。」

「セト、獅子王様の命令は何だ?言ってみろ。」

竜族の男は口ごもりながら言った。

「王族の救出・・・」

「王族救出より土地や金を優先しろと言ったか?」

「いいえ・・」

「それでは、問題ないな?」

ライジンが他の将校を見回した。
誰も異議を唱えなかった。

「王族の救出第一、土地など必要ない。必要になればまた奪えばいいさ。今の俺達なら、なんの問題なく奪える。」

おそらくブラックドラゴンのことが頭にあるのだろう。

「人狼よ、ゲラン国王に伝えろ。交渉に応じてやると。王族や同朋の安全を確認次第、引き上げてやる。」

「わかった。そのように伝える。」
俺は心の中で胸をなでおろした。
なんとか戦争にならずに済みそうだ。

「ところで、人狼よ。お前はなぜ、神族や、人族の味方をする?特に神族はお前達祖先の仇だろうが?」

大昔に神族と人狼が大戦を起こしたことはタイチさんから聞いて知っていた。

「俺は神族の味方ではない。むしろ敵だ。しかし人族には命の恩がある。だから使者をしている。」

俺は飛行機が墜落した後、滝から落ちて、クチル島のブラニさん達に命を助けられた。
その恩は忘れてはいない。

「それに、獣人だろうと、人だろうと、命は同じく貴重で大切だ。どちらの命も安易に失うところを見たくないだけだ。」

「ふむ。お前のいう事、わからないでもないぞ。」

俺は、ブラックドラゴンが神族の使役を受けていると思っている。

「俺に神族の仲間だというわりには、お前たちが、神族の援助を受けているのはなぜだ?」

ライジンは不思議そうな顔をした。

「なんのことだ?」

「惚けるなよ。ブラックドラゴンは神族が操っているのだろう?」

「ふん。そのことか。操ってるのは俺達だよ。ドラゴンの使い手ごとな。フフ」

ライジンはそれ以上のことをしゃべらなかったが、どうやら、ブラックドラゴンを操っている者をライジンがドラゴンごと支配下に置いているようだ。

俺は、ライジンに見送られて、敵キャンプを後にした。
交渉の結果、今日の夕方までに王族の子供6人を含む獣人21名の無事な姿をライジン達に確認させる。

ライジン達は王族の無事を確認次第、セプタまで後退する。
セプタで人質の交換を行い、ライジン達は国へ引きげる。
そういう手はずになった。

もちろん俺もラジエル公爵の同意を得ている。

その日の正午前にラジエル公爵の部隊1万人が、バルチに到着した。

部隊を率いているのは、『ランデル』という、ラジエル公爵の息がかかったゲラン国軍の将軍だ。

到着したばかりの部隊の先頭で俺はランデル将軍に面会を求めた。

「キノクニのシンです。ランデル将軍におめにかかりたい。」

俺は軍隊のことにうといが、そこそこ高級な装備をした将校らしき男が答えた。

「商売人ごときが将軍に何の用だ?」

その男は若い男で騎乗から偉そうにこちらを睨んでいる

またこれだ。

「私はラジエル公爵の密命を帯びた者です。ランデル将軍にお目にかかって、話をしたい。」

「商人がラジエル様の密命を受けているだと?」

そこへサンダさんが割って入った。

「ミューラー様、ラジエル公爵様からの伝言でございます。『そこにいるシンの要件を最優先せよ。さもなければ、ハミエットとの仲人はしてやらぬ。』とのことでございます。」

ミューラーという将校は、驚いていた。
そしてすぐに馬から降りて。

「なぜ、そのことを?」

サンダさんが軽く会釈をした。

「私はラジエル様の目であり、耳であります。ミューラー様もサンダとガイダの名前をお聞きになったことがあるのではございませんか?」

将校はあわてた。

「すまぬ。職務上、質問しただけだ。すぐに案内する。」

サンダさん、有名人のようだ。
それに、なかなか切れる。
まるで、この場の状況をラジエル様が実際に見ているかのような対応だ。

俺はミューラーに案内されて金属で補強された一際大きな馬車でランデル将軍と面会した。
馬車の中には立派な口ひげを生やした貫禄のある男が居た。
ランデル将軍だ。

「話は聞いておる。具体的にどのようにするつもりだ。」

「はい。村長宅に獣人21名を待機させております。そこへ獣人軍の将校数名がやってきて獣人達の無事を確認する手はずです。それと、獣人側の人数に合った、こちら側の将校を獣人のキャンプに派遣する予定です。」

つまり、獣人側が人質を確認する間、こちらの攻撃を受けないように、人族側も獣人側に人質を差し出しておくということだ。

「たかが、獣人ごときに、そこまでせねばならぬのか。ラジエル様にしては弱気じゃな。」

この男は理解していない。
その、たかが獣人にセプタの街がほぼ抵抗なく攻め落とされ、死傷者数千人の被害が出ていることを、ブラックドラゴンの脅威を。

「おおせの通りでございますな。我らが本気を出せば獣人ごとき、鼻息で蹴散らせることができましょう。」

隣で話を聞いていたミューラーが誇らしげに言った。

「お言葉を返すようですが、敵にはブラックドラゴンが控えております。ドラゴンを舐めては痛い目に遭いますよ。」

ミューラーがこちらを見た。

「ふん。我々が何の用意も無く、ノコノコと来たと思っておるのか。これだから商人は・・・」

サンダさんがミューラーを見返したら、ミューラーはそれ以上しゃべらなかった。
代わりにランデル将軍が言った。

「ドラゴン対策に、魔術大隊500名を連れてきておる。我が国の最強部隊じゃ。たとえドラゴンでもひとたまりもなく倒せるじゃろう。」

ブラックドラゴンの魔法抵抗値は極めて高い。
人族の魔法攻撃など、蚊がさした程度の被害も受けないだろう。
蚊が500匹いたところで、やはり蚊には違いない。

「ブラックドラゴンに魔法は効果がありません。たとえ1万人の魔法師団が戦ったとしても勝てないでしょう。」

ランデル将軍も、ミューラーも目を見開いてこちらを見た。

「ほう。まるでドラゴンと戦ったようなくちぶりじゃの。」

ランデル将軍が俺を睨む。

「ええ、戦いました。勝てませんでした。」

ミューラーが疑いの眼差しでこちらを見る。

「いくらラジエル様の密偵でも、嘘はいかんぞ、嘘は。たかだか商人風情がドラゴンと戦って、しかも生きて帰って来たなど。大ぼらもいいところだ。ハハハ」

「嘘ではございません。しかし誠だと証明する方法もございませんので、ご自由にお考え下さい。」

ここでフォナシス火山の出来事を話している余裕は無い。
ランデル将軍が、ミューラーを向いた。

「まぁ、いいだろう。いずれにしても、ラジエル様は和平の道を選ばれた。それには従わなければならない。ただし、敵の攻撃に応戦することまでは禁じられておらん。そこのところは、兵士に徹底しておけ。」

「承知。」

ミューラーは頭を軽く下げた。
ランデル将軍の方が少しは、話が分かりそうだ。
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