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第四章 首都ゲラニ編
第80話 ルチアのルーツ 5人の兄弟
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獣人の部隊がバルチまで2日の場所まで迫ってきている。
俺はラジエル公爵に依頼されて、敵部隊との停戦交渉役を請け負った。
俺達の世界風に言えばネゴシエーターだ。
ドラマや映画で、敵と交渉して、人質を解放させたり、停戦、降伏を呼びかけるネゴシエーターの役どころはある程度理解している。
しかし実際にその役を自分がやるとは思っていなかった。
俺が交渉を成功させるか、失敗するかによって多くの命が左右される。
成功すれば、セプタの多くの住民と、戦争になれば命を失うであろう多くの兵士を救うことができる。
反対に失敗すれば、俺自身の命を含めて多大な被害が出ることは間違いない。
交渉の条件は、獣人の王族たちを含む獣人21人を敵側に引き渡し、セプタの住人達の命の保証をしてもらうこと。
その獣人の王族の中にはルチアが含まれている。
その問題を先に解決しなければならない。
俺はルチアと話し合うことにした。
「ルチア、よく聞け。お前の家族が、お前を待っている。5人の兄弟と会いたいか?」
ルチアは驚いた表情を俺に見せた?
「ルチアのニイニとネエネ?」
「そうだよ。レイム、レイア、ルーザ、ライア、セイラ。ルチアの兄弟だ。」
ルチアは嬉しそうな顔をした。
「会いたい。」
「これから、ルチアの兄弟と会う。ルチアが自分の国で兄弟と暮らしたいなら、一緒に暮らせる。ルチアは、どうしたい?」
ルチアの嬉しそうな顔が少し曇った。
「ワカラナイ」
何がわからないのだろう?
「ルチアは兄弟と暮らしたくないの?」
「クラシタイ。でもピンターやニイニと離れるのイヤ。」
ルチアは本当の兄弟と同等に俺やピンターとの生活が大切なのだろう。
「兄ちゃん、ルチアと別れるの?」
横で話を聞いていたピンターが複雑な表情をしている。
俺はピンターの頭をなでた。
「別れはしない。今までと同じだ。ただ、ルチアは少し遠くで暮らすことになるかもしれない。」
俺だって、ルチアと離れたくなかった。
だから、もしルチアが故郷に帰っても、いつでも会えるように、いつもの手を使うことにしていた。
「ピンター。テランとリーザは何処に住んでいる?」
「アウラ様の神殿。」
「アウラ様の神殿は、遠いか?近いか?」
「遠いけど、近い。」
アウラ神殿は距離的には遠いが、ゲートで繋がっているので、時間的には近い。
「な、そういうことだ。」
おれが微笑むと、ピンターもルチアも安心したように微笑み返した。
その様子を見守っていたテルマさんもドランゴさんも二人につられて笑顔を見せた。
俺はラジエル公爵の馬車にルチアを乗せてラジエル公爵の屋敷に向かった。
「この子が、ルチアか。可愛い子じゃの。」
ラジエル公爵が話しかけてきたが、ルチアは怯えて俺の影に隠れた。
「ルチア、怖くないよ。このオジサンは、俺と仲が良いんだ。テルマさんのアンパンも好きなんだよ。」
テルマさんのアンパンと言う言葉が効いたのか、ルチアが恐る恐る顔を出した。
ラジエル公爵は微笑んでいる。
「怖がらなくて良いぞ、もうすぐ兄弟にあわせてやるからの。」
ルチアは軽くうなずいた。
ラジエル公爵の屋敷では、ルチアの兄弟5人が待っていた。
いずれも奴隷として売買されていたが、ラジエル公爵の公式な命令で、キノクニ情報部が中心となって、行先を探し出した。
いずれの兄弟も労働奴隷として、工場や農村の地主に買い取られていたのを公的資金で買い戻したのだ。
サルトさんの案内で、屋敷の一室に入った。
ドアが開くと、すぐにルチアが駆け出した。
5人の成人男女が椅子に腰かけていたが、5人ともルチアの姿を見ると、一斉に立ち上がり、一番背の高い女性が、駆け寄ってくるルチアを抱き上げると、他の4人が二人を取り囲み、全員が抱き合った。
いずれも涙を流している。
「生きて全員、揃うとは夢みたいだ。」
一番年長らしき男が、つぶやいた。
「そうだな、アニキ、ルチアまで生きていたなんて・・・」
「そうよ。これほどうれしいことは無いわ。」
「ルチア、ルチア・・・ぁぅ」
ルチアを抱きしめている女性が、言葉にならない言葉を発している。
ルチアも泣いている。
「ニイニ、ネエネ、ルチア嬉しい。」
それを見て俺も少し泣いた。
俺とラジエル公爵、サルトさんは、その光景を少しの間見守った。
その場が落ち着いてから、年長の男がラジエル公爵に近づいた。
「レイムと申します。家族に再会させていただいて、ありがとうございます。ある程度の話は聞いておりますが、これから私たちは何をすればよろしいのでしょうか?」
礼儀正しい態度だ。
「うむ。隠し事をせずに正直に話そう。我が国・・ヒュドラ教の宣教活動により、そなたたちに苦労をかけた。その報復にジュベル国が動いて、一つの街を殲滅し、住民を人質に取っておる。その住民と、そなたたちを交換する。無事に故郷へ帰すから、協力してもらいたい。」
その言葉を聞いた2番目に年長の男が
「苦労だって?両親を殺されたことを苦労の一言で片づけるのか?」
怒気を含んだ言葉に、俺が一歩前へ出ようとしたところ、レイムが2番目の男を制した。
「ルーザ、今は何も言うな。故郷へ帰れるのだ。それが一番肝心なことだ。」
2番目の男は『ルーザ』と言う名前のようだ。
「公爵様、無礼な真似をお許しください。我々が揃って故郷へ帰れるのなら、何でも協力致します。」
「うむ、よい。わかっておる。この男、『ソウ・ホンダ』に交渉役を任せてあるので、この男のいう事を聞いて欲しいのだ。」
ルチアを含めた6人が一斉に俺を見た。
「はじめまして。ソウ・ホンダです。訳あってルチアと半年以上一緒にいました。これから皆さんが、故郷に帰れるよう努力します。よろしくお願いします。」
ルチアと一緒に暮らしていたという言葉を聞いて、何かを誤解したのかルーザとその下の弟らしき男が、こちらを睨んだ。
その様子を見たルチアが俺に駆け寄り俺に抱き着いた。
「ルチアのニイニ、仲良くスル。」
ルチアのその行動でその場の空気がすぐに和んだ。
それから、その場に居た全員で、現状の再確認をした。
俺が、一番気になっていたのは、この6人が本当の王族なのかどうかということだ。
それは長男レイムの説明で納得がいった。
現在ジュベル国の国王は、獅子王と呼ばれる「ライガン」だが、その妻、王妃は猫人の「レイリア」だ。
レイリアには3人の妹と2人の弟が居たが、2番目の妹「ルチル」がルチア達の母親だというのだ。
ルチルの夫ライエンは、元々王族だったが、獅子王となにか確執があったらしく、王都住まいを嫌い、下野してネリア村に移り住んだ。
兄弟全員がネリア村で生まれたので、なぜ家族が王都を後にしたのかは知らず、長男のレイムだけが家族のルーツを知っていたというのだ。
「我が国は、ジュベル国の王族を奴隷にしていたのだな。獅子王が怒るのも無理はないの。謝って住むことではないかもしれぬが、一国の王族に大変失礼なことをした。」
ラジエル公爵が深々と頭を下げた。
この国では獣人は家畜以下の存在だ。
領民の命がかかっているとはいえ、公爵様が獣人に頭を下げるなど、異例中の異例だ。
俺はラジエル様を益々尊敬した。
レイム達も驚いているようだ。
ルチア達が王族だという事はわかったが、もう一つ気になることがあった。
ブラックドラゴンの事だ。
「ジュベル国に、ドラゴンを操る能力を持つ人は居ますか?」
レイムが答えた。
「いや、そんな話は聞いたことが無い。竜族の中には魔獣を操る者がいるが、ドラゴンなどと言う高等な種族を操るほどの能力は無い。」
そうなると、やはりヒュドラ教の関係者がドラゴンを操っているという事になる。
「ソウ、その話はまた次にせよ。ワシにも少し思いあたることがある。」
ラジエル公爵が目くばせをしたわけではないが、ブラックドラゴンに関しては、この場で話すことではないと感じた。
それから後は俺とルチアの事を中心に話した。
ルチアは、俺に助けられたくだりと、ピンターやテルマさん、ツインズのことを熱心に説明していた。
ルチアの説明は獣人言葉なので、いつもの片言ではなく流暢に話していた。
「ソウ様、ルチアを救って下さって。本当にありがとうございます。」
長女のレイアが深々と頭を下げた。
それを見た他の兄弟も一緒になって頭を下げた。
ルチアはその光景を嬉しそうに見ている。
「いえ、礼は必要ないです。俺だって自分の都合でルチアを引き取ったのですから。それより、今後もルチアと家族として接することを許してください。」
レイアが俺の目を見た。
「もちろんですわよ。ルチアがこんなに懐いているのですから。こちらからお願いしたいくらいですわ。」
ルチアの兄弟とは仲良くなれそうだ。
「それでは、具体的な計画ですが、獣人国の軍隊は、あと2日でバルチへ到着します。それまでに貴方たちの無事を伝え、交渉に入ります。獣人の部隊長は豹頭の軍人ですが、何か心当たりがありますか?」
レイムとルーザが顔を見合わせた。
「それは、おそらく豹頭将軍「ライジン」様でしょう。ジュベル国では有名な武人です。」
「冷静に話が出来る人でしょうか?」
「ええ、沈着冷静を絵にかいたような人です。部下の信頼も厚く、誠意には誠意をもって答える方だと聞いています。ちなみにジュベルの国立闘技場では10年負けなし、剣の達人です。」
(冷静な武人なら交渉の余地があるな。)
「わかりました。交渉の用意に入ります。それまでの間、皆さんは、我が家でくつろいでください。ルチアともゆっくりと話したいでしょうし。」
俺はルチアの兄弟5人をキューブへ案内して、俺一人がバルチへ戻った。
バルチではドルムさん達が俺の帰りを待っていた。
「どうだった?」
「はい。ルチアを兄弟に合わせところ、とても喜んでいました。交渉の結果にもよりますが、ルチアは兄弟と共に故郷へ帰そうと思います。」
「そうか。ピンターが寂しがるな。」
「いえ、れいによってゲートでルチアの故郷とキューブを繋ぐと説明したら、全く問題なかったです。」
「ナルホド」
準備は整った。
後は、ライジン将軍にコンタクトを付けて、交渉するのみだ。
それまで何も起こらなければいいのだが・・
俺はラジエル公爵に依頼されて、敵部隊との停戦交渉役を請け負った。
俺達の世界風に言えばネゴシエーターだ。
ドラマや映画で、敵と交渉して、人質を解放させたり、停戦、降伏を呼びかけるネゴシエーターの役どころはある程度理解している。
しかし実際にその役を自分がやるとは思っていなかった。
俺が交渉を成功させるか、失敗するかによって多くの命が左右される。
成功すれば、セプタの多くの住民と、戦争になれば命を失うであろう多くの兵士を救うことができる。
反対に失敗すれば、俺自身の命を含めて多大な被害が出ることは間違いない。
交渉の条件は、獣人の王族たちを含む獣人21人を敵側に引き渡し、セプタの住人達の命の保証をしてもらうこと。
その獣人の王族の中にはルチアが含まれている。
その問題を先に解決しなければならない。
俺はルチアと話し合うことにした。
「ルチア、よく聞け。お前の家族が、お前を待っている。5人の兄弟と会いたいか?」
ルチアは驚いた表情を俺に見せた?
「ルチアのニイニとネエネ?」
「そうだよ。レイム、レイア、ルーザ、ライア、セイラ。ルチアの兄弟だ。」
ルチアは嬉しそうな顔をした。
「会いたい。」
「これから、ルチアの兄弟と会う。ルチアが自分の国で兄弟と暮らしたいなら、一緒に暮らせる。ルチアは、どうしたい?」
ルチアの嬉しそうな顔が少し曇った。
「ワカラナイ」
何がわからないのだろう?
「ルチアは兄弟と暮らしたくないの?」
「クラシタイ。でもピンターやニイニと離れるのイヤ。」
ルチアは本当の兄弟と同等に俺やピンターとの生活が大切なのだろう。
「兄ちゃん、ルチアと別れるの?」
横で話を聞いていたピンターが複雑な表情をしている。
俺はピンターの頭をなでた。
「別れはしない。今までと同じだ。ただ、ルチアは少し遠くで暮らすことになるかもしれない。」
俺だって、ルチアと離れたくなかった。
だから、もしルチアが故郷に帰っても、いつでも会えるように、いつもの手を使うことにしていた。
「ピンター。テランとリーザは何処に住んでいる?」
「アウラ様の神殿。」
「アウラ様の神殿は、遠いか?近いか?」
「遠いけど、近い。」
アウラ神殿は距離的には遠いが、ゲートで繋がっているので、時間的には近い。
「な、そういうことだ。」
おれが微笑むと、ピンターもルチアも安心したように微笑み返した。
その様子を見守っていたテルマさんもドランゴさんも二人につられて笑顔を見せた。
俺はラジエル公爵の馬車にルチアを乗せてラジエル公爵の屋敷に向かった。
「この子が、ルチアか。可愛い子じゃの。」
ラジエル公爵が話しかけてきたが、ルチアは怯えて俺の影に隠れた。
「ルチア、怖くないよ。このオジサンは、俺と仲が良いんだ。テルマさんのアンパンも好きなんだよ。」
テルマさんのアンパンと言う言葉が効いたのか、ルチアが恐る恐る顔を出した。
ラジエル公爵は微笑んでいる。
「怖がらなくて良いぞ、もうすぐ兄弟にあわせてやるからの。」
ルチアは軽くうなずいた。
ラジエル公爵の屋敷では、ルチアの兄弟5人が待っていた。
いずれも奴隷として売買されていたが、ラジエル公爵の公式な命令で、キノクニ情報部が中心となって、行先を探し出した。
いずれの兄弟も労働奴隷として、工場や農村の地主に買い取られていたのを公的資金で買い戻したのだ。
サルトさんの案内で、屋敷の一室に入った。
ドアが開くと、すぐにルチアが駆け出した。
5人の成人男女が椅子に腰かけていたが、5人ともルチアの姿を見ると、一斉に立ち上がり、一番背の高い女性が、駆け寄ってくるルチアを抱き上げると、他の4人が二人を取り囲み、全員が抱き合った。
いずれも涙を流している。
「生きて全員、揃うとは夢みたいだ。」
一番年長らしき男が、つぶやいた。
「そうだな、アニキ、ルチアまで生きていたなんて・・・」
「そうよ。これほどうれしいことは無いわ。」
「ルチア、ルチア・・・ぁぅ」
ルチアを抱きしめている女性が、言葉にならない言葉を発している。
ルチアも泣いている。
「ニイニ、ネエネ、ルチア嬉しい。」
それを見て俺も少し泣いた。
俺とラジエル公爵、サルトさんは、その光景を少しの間見守った。
その場が落ち着いてから、年長の男がラジエル公爵に近づいた。
「レイムと申します。家族に再会させていただいて、ありがとうございます。ある程度の話は聞いておりますが、これから私たちは何をすればよろしいのでしょうか?」
礼儀正しい態度だ。
「うむ。隠し事をせずに正直に話そう。我が国・・ヒュドラ教の宣教活動により、そなたたちに苦労をかけた。その報復にジュベル国が動いて、一つの街を殲滅し、住民を人質に取っておる。その住民と、そなたたちを交換する。無事に故郷へ帰すから、協力してもらいたい。」
その言葉を聞いた2番目に年長の男が
「苦労だって?両親を殺されたことを苦労の一言で片づけるのか?」
怒気を含んだ言葉に、俺が一歩前へ出ようとしたところ、レイムが2番目の男を制した。
「ルーザ、今は何も言うな。故郷へ帰れるのだ。それが一番肝心なことだ。」
2番目の男は『ルーザ』と言う名前のようだ。
「公爵様、無礼な真似をお許しください。我々が揃って故郷へ帰れるのなら、何でも協力致します。」
「うむ、よい。わかっておる。この男、『ソウ・ホンダ』に交渉役を任せてあるので、この男のいう事を聞いて欲しいのだ。」
ルチアを含めた6人が一斉に俺を見た。
「はじめまして。ソウ・ホンダです。訳あってルチアと半年以上一緒にいました。これから皆さんが、故郷に帰れるよう努力します。よろしくお願いします。」
ルチアと一緒に暮らしていたという言葉を聞いて、何かを誤解したのかルーザとその下の弟らしき男が、こちらを睨んだ。
その様子を見たルチアが俺に駆け寄り俺に抱き着いた。
「ルチアのニイニ、仲良くスル。」
ルチアのその行動でその場の空気がすぐに和んだ。
それから、その場に居た全員で、現状の再確認をした。
俺が、一番気になっていたのは、この6人が本当の王族なのかどうかということだ。
それは長男レイムの説明で納得がいった。
現在ジュベル国の国王は、獅子王と呼ばれる「ライガン」だが、その妻、王妃は猫人の「レイリア」だ。
レイリアには3人の妹と2人の弟が居たが、2番目の妹「ルチル」がルチア達の母親だというのだ。
ルチルの夫ライエンは、元々王族だったが、獅子王となにか確執があったらしく、王都住まいを嫌い、下野してネリア村に移り住んだ。
兄弟全員がネリア村で生まれたので、なぜ家族が王都を後にしたのかは知らず、長男のレイムだけが家族のルーツを知っていたというのだ。
「我が国は、ジュベル国の王族を奴隷にしていたのだな。獅子王が怒るのも無理はないの。謝って住むことではないかもしれぬが、一国の王族に大変失礼なことをした。」
ラジエル公爵が深々と頭を下げた。
この国では獣人は家畜以下の存在だ。
領民の命がかかっているとはいえ、公爵様が獣人に頭を下げるなど、異例中の異例だ。
俺はラジエル様を益々尊敬した。
レイム達も驚いているようだ。
ルチア達が王族だという事はわかったが、もう一つ気になることがあった。
ブラックドラゴンの事だ。
「ジュベル国に、ドラゴンを操る能力を持つ人は居ますか?」
レイムが答えた。
「いや、そんな話は聞いたことが無い。竜族の中には魔獣を操る者がいるが、ドラゴンなどと言う高等な種族を操るほどの能力は無い。」
そうなると、やはりヒュドラ教の関係者がドラゴンを操っているという事になる。
「ソウ、その話はまた次にせよ。ワシにも少し思いあたることがある。」
ラジエル公爵が目くばせをしたわけではないが、ブラックドラゴンに関しては、この場で話すことではないと感じた。
それから後は俺とルチアの事を中心に話した。
ルチアは、俺に助けられたくだりと、ピンターやテルマさん、ツインズのことを熱心に説明していた。
ルチアの説明は獣人言葉なので、いつもの片言ではなく流暢に話していた。
「ソウ様、ルチアを救って下さって。本当にありがとうございます。」
長女のレイアが深々と頭を下げた。
それを見た他の兄弟も一緒になって頭を下げた。
ルチアはその光景を嬉しそうに見ている。
「いえ、礼は必要ないです。俺だって自分の都合でルチアを引き取ったのですから。それより、今後もルチアと家族として接することを許してください。」
レイアが俺の目を見た。
「もちろんですわよ。ルチアがこんなに懐いているのですから。こちらからお願いしたいくらいですわ。」
ルチアの兄弟とは仲良くなれそうだ。
「それでは、具体的な計画ですが、獣人国の軍隊は、あと2日でバルチへ到着します。それまでに貴方たちの無事を伝え、交渉に入ります。獣人の部隊長は豹頭の軍人ですが、何か心当たりがありますか?」
レイムとルーザが顔を見合わせた。
「それは、おそらく豹頭将軍「ライジン」様でしょう。ジュベル国では有名な武人です。」
「冷静に話が出来る人でしょうか?」
「ええ、沈着冷静を絵にかいたような人です。部下の信頼も厚く、誠意には誠意をもって答える方だと聞いています。ちなみにジュベルの国立闘技場では10年負けなし、剣の達人です。」
(冷静な武人なら交渉の余地があるな。)
「わかりました。交渉の用意に入ります。それまでの間、皆さんは、我が家でくつろいでください。ルチアともゆっくりと話したいでしょうし。」
俺はルチアの兄弟5人をキューブへ案内して、俺一人がバルチへ戻った。
バルチではドルムさん達が俺の帰りを待っていた。
「どうだった?」
「はい。ルチアを兄弟に合わせところ、とても喜んでいました。交渉の結果にもよりますが、ルチアは兄弟と共に故郷へ帰そうと思います。」
「そうか。ピンターが寂しがるな。」
「いえ、れいによってゲートでルチアの故郷とキューブを繋ぐと説明したら、全く問題なかったです。」
「ナルホド」
準備は整った。
後は、ライジン将軍にコンタクトを付けて、交渉するのみだ。
それまで何も起こらなければいいのだが・・
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