異世界修学旅行で人狼になりました。

ていぞう

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第四章 首都ゲラニ編

第74話 朝からデート レニア山脈走破

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ラジエル公爵にブルナ救出の相談をしたところ、ブルナを国有化して、兵士にし、その後脱走させるという案を持ち出された。

その際、ラジエル公爵の領地を偵察する依頼を受けた。
その領地はゲラニから東に約800キロの場所にあるセプタという場所だ。
今からエリカを連れて偵察に出る。

キューブの地下室へ案内したところ、エリカは目を丸くしている。

キューブの地下室は、現代風に言えばコンピューターのサーバールームのような感じだ。
所狭しに機械類が並び、幾何学的な光が点滅している。

俺がタイチさんの台の前を通ったところ、

ブオン♪

タイチさんのフォログラムが現れた。

「よう、朝からデートか?」

タイチさんはニヤニヤ笑っている。

「デートなわけないでしょ。今から偵察任務です。」

エリカは驚いた様子でタイチさんを見ている。

「あの・・・こちら様は?」

「ああ、俺のご先祖様だ。たぶん。・・」

タイチさんは2万年前に生きていた人狼族だ。
俺とタイチさんの関係を説明するのは面倒なので、誰かにタイチさんと俺の関係を説明する時には「ご先祖様」と説明している。

「はじめまして、エリカと申します。シン様にはお世話になっております。」

『はいはい。よろしく。ウルフの目で時々見ていますよ。頑張ってね。』

ウルフの目と言うのは、ナビのことだ。
ナビの機能とタイチさんはリンクしているので、ナビの知覚する情報は全てタイチさんも知っている。

俺は地下室で準備を整え、地下室の壁に設置されているゲートの前に立った。

「エリカ準備は良いか?行くぞ。」

「え?どこへ?」

エリカは地下室へ降りてきたのは装備を整えるためだと思っているらしい。

「こっちだよ。」

俺はエリカの手を取り、ゲートをくぐった。

ゲートをくぐれば、そこはアウラ様の神殿だ。
アウラ様の神殿に到着してエリカが驚くだろうと思っていたら、エリカは驚くより顔を赤くして恥ずかしがっている。

「ん?どうした?」

「あの、その・・・」

エリカが手元を見た。
俺と手を繋いだままだ。

「あ、すまん。怖がるだろうと思って手を繋いだが、失礼だったかな?」

エリカは顔をブンブンと横に振る。
俺は手を放して、アウラ様の寝室をノックした。

「はーい。」

イリヤ様がドアから出てきた。

「あら、おはよう。アウラは狩りに出かけていますよ。」

「そうですか、山脈の向こうに用事があって、立ち寄らせてもらいました。」

「そうなの、どこか景色の良い場所でデート?」

エリカがモジモジしながらイリヤ様に頭を下げた。

「いえ、違います。仕事ですよ、仕事。」

「わかっているわよ。うふふ。」

イリヤ様はアウラ様よりウィットに富んでいる。

「山は強い魔物も出るから、気を付けていってらっしゃい。」

「はい。行ってきます。」

俺とエリカは神殿の正面玄関から外に出た。
エリカは神殿を眺めている。

「ここは?」

「ここは龍神様の神殿だよ。今の人は龍神様の奥様。イリヤ様だ。」

エリカの瞳は驚きで満ちている。

「龍神様・・・龍神様とお知り合いなのですね。シン様。」

「まぁな、いろんな偶然が重なって、知り合いになっちゃった。アハハ。」

アウラ様の神殿は、ゴブル砂漠の北東、レニア山脈の麓にある。
レニア山脈を超えてバリーツ大河へ至るには、常人の足で5日程かかるが、獣化した俺と忍者のエリカなら1日か2日で走破できるだろう。

神殿を出ると針葉樹林だが、2~3分で白い岩肌が点在するカルスト地帯になる。

その岩肌を縫って走るとすぐに険しい崖路になった。
地形的にウルフは走行できない。
俺は、エリカを気遣ってゆっくり目に走ったが、さすが隠密、エリカは余裕をもってついてきた。

今のエリカは黒装束で、背中にはナップザックと刀を背負っている。
忍者姿だ。

ドレス姿のエリカは優雅で綺麗だが、今の黒装束姿も凛々しくて良い。
4時間ほど、走ったり崖をよじ登ったりしたところ、少し開けた場所に出たので、休憩をとることにした。

「エリカ、休憩だ。昼食にしよう。」

「はい。お待ちを、すぐに支度します。」

エリカはナップザックから水筒と何かの包みを取り出した。
包みの中には正露丸を大きくしたような小さな球が何個か入っていた。

「これは?」

「はい。兵糧丸です。滋養のある野菜や肉を乾燥させて丸めた物です。」

「そうか。すまん。先に説明しておくべきだったな。休憩は自宅でする。」

「え?」

俺は懐のマジックバッグからポータブルゲートを取り出してその場に展開した。
遠話でドルムさんを呼ぶ。

『ドルムさーん。交代。』

『はいよ。ゆっくりしてきな。』

ゲートからドルムさんが現れた。
エリカは、もはや、何も言わなかった。

ドルムさんを山中に残し、俺とエリカはキューブへ戻った。
食堂でテルマさんが作ってくれた昼食を取って一息ついた。
食事中、エリカが静かだ。

「どうしたエリカ、元気ないな。」

「いえ、そうではなくて、驚きすぎて、心がついて行かないというか、なんというか・・」

要するに、エリカはカルチャーショックを受けたようだ。

「そうか。俺と一緒にいると、いろんなことが起こるからな。ついてこれるか?」

エリカは真顔になった。

「も、もちろん。ついて行きます。何があってもシン様について行きます。」

なんかニュアンスが違う様な・・
昼食を済ませて、少し休憩した後、再び山中に戻ってドルムさんには帰ってもらった。

「なんだか、不思議ですね。一瞬前までゲラニ、今はレニア山中でシン様と二人きり。うふふ」

何がおかしいのかな?

その後2時間程走り続けていたところ、山頂に出た。
山頂から山の北側が見渡せる。
3つくらいの低い山の向こうに川が見える。
バリーツ大河だろう。

その川の向こう岸に集落がある。
エリカがその集落を指さした。

「あれが、バルチです。」
エリカの故郷だ。

「エリカの家族が住んでいるのか?」

「はい。両親は亡くなっていますが、祖母が一人で住んでいます。あとの姉妹はゲラニに居ます。」

目的地は、セプタだが、その途中の街バルチにエリカの祖母が住んでいるという。
急ぎ仕事だが、少しぐらいの時間をエリカの為に費やしても構わないだろう。

「そうか、おばあちゃんに顔だけでも見せてやれよ。」

「え、しかし、急ぎの任務が・・・」

エリカは真面目だ。
公私混同を避けたいらしい。

「命令だ、お前の親族に会って、近隣の情報収集をしろ。」

「はい。ありがとうございます。」

その日は、山の頂上で一泊した。
と言っても、れいによってドルムさんと俺が交互にポータブルゲートの見張りをし、エリカはキューブの2階で宿泊させた。

エリカは自分だけが、ゆっくりベッドで寝ることを嫌がったが、俺が『寝て体力を温存するのも任務だ』と説得した。
エリカは女性だから、トイレとかいろいろと不便だろうしね。

翌朝、速足で残りの山を越え、正午前にはバリーツ大河南岸に到着した。
バリーツ大河は、首都ゲラニの南側を流れる大河で、ゲラニあたりでは川幅も50メートルに満たないが、この付近ではゆうに100メートルを超えていた。
エリカが

「これくらいなら、余裕で泳げます。」

と言ったが、俺は泳ぎが苦手だ。
今の俺なら泳ぎ切ることはできるだろうが、できるなら水に入りたくない。
滝から落ちて大海原を漂流した時のことを思い出しそうだ。

「泳がないよ。」

「え?この付近に橋は無いですよ?」

「船を出すさ。」

俺はマジックバックから『魔導船』を出して、川面に展開した。
この『魔導船』は魔導車ウルフと共にタイチさんからもらったボートだ。

魔導船の大きさは縦12メートル。幅5メートル。
甲板の上には二基の魚雷発射装置と艇の前後に機銃が一座ずつ搭載されている。

この任務に就く前に、この船のユーザー登録は済ませていた。
操縦方法はウルフと同じで、音声命令とマニュアル操作が出来るものだった。
船の型式名は

『小型魚雷艇シーサーペント26』

だったので、ナビゲーションの固有名は『サーペント』にした。

「サーペント対岸まで安全速度で行け。」

『了解』

ナビゲーションの声は女性型だった。

ものの5分もしないうちに対岸に到着した。
エリカがサーペントの収納を黙って見ている。

「どうしたエリカ?」

「いえ、やはり本当なのですね。シン様が異世界の人だというのは。」

エリカには、ここ最近の出来事、この世界の人間では起こせない様な出来事を直に見て、俺がこの世界の人間ではないように思えたのだろう。
俺は、エリカには異世界人だという事を直接打ち明けたことは無かったが、キノクニの一部の人間には、その事実が知れているし、噂にもなっている。

「ああ、そうだよ。エリカになら本当の事を言ってもいいだろう。俺は月が一つしかない世界の日本という国から来た。本当の名前はソウ・ホンダと言う。」

俺は、いずれ殺人犯の汚名をそそぐ。
その時には、知り合った全ての人に本名を告げたい。
今まだその時期では無いが、エリカには、本名を告げておきたかった。

「ありがとうございます。私を信用して下さったのですね。その信頼にお応えするよう頑張ります。」

エリカは片膝をついて頭を下げた。
俺は獣化を解いて17歳の俺に戻った。

「エリカ、キノクニの役職関係は重要だが、俺が本名を告げた人は全て俺の友達だ。だからお前も俺の友達だよ。よろしくね。」

エリカは少し驚いた表情になったが、直ぐに顔を引き締めた。

「はい。よろしくお願いします。」

俺はエリカに右手を差し出した。
この世界に握手の習慣はないので、エリカは戸惑っている。
俺は左手でエリカの右手を取り、握手の形を作って力強くエリカの手を握りしめて上下に振った。
エリカの手は、柔らかい。

「俺達の世界の『握手』という挨拶だ。」

エリカは頬を染めて俺の目を真っすぐ見ている。
河の向こう岸へ着いてからウルフを展開し、2時間程走った。

ナビの地図でエリカの故郷『バルチ』の手前10分位のところで、ウルフを収納した。
見知らぬ人がウルフを見れば大騒ぎになるだろうからだ。
ウルフを降りて俺とエリカはキノクニの半纏を羽織り、徒歩でバルチに向かった。

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