異世界修学旅行で人狼になりました。

ていぞう

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第四章 首都ゲラニ編

第68話 身代わり ブルナの苦悩

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ブルナと別れて約1年、クチル島から奴隷として連れ出されたブルナは苦労をしているはずだ。

ブルナを探し続けてようやく、居場所が判った。
ブルナはこのゲラニの街に居る。
そして、奴隷商ベスタに依頼して、ブルナを取り戻す算段ができていたのだ。
ピンターの喜ぶ顔がみれるはずだった。

ところが、ベスタの事務室でベスタに告げられた。

「相手様は、転売交渉に応じませんでした。」

まさかの回答だった。

「どういうことだ?金が足りないのなら、もっと出せるぞ。」

「いえ、相手様は交渉そのものを拒否されました。つまり金額の問題ではないようです。」

目の前が暗くなった。
今の俺は経済的な不自由はない。
アウラ様から頂いた財産があるし、それが無くてもダイヤを生み出す力が俺にはある。
だから、転売交渉にさへ応じてもらえれば、ブルナを取り戻せるつもりでいたのだ。

「もう一度交渉してくれ、手数料も、倍は出す。」

ベスタは自分の眼鏡を人差し指でずり上げた。

「私も、商売人です。金儲けの為には努力いたします。しかし、今回は無理です。相手方の名前は申せませんが、お金に不自由のない方ですので、金銭は交渉の道具とならないのです。」

「それでは、せめてその相手方が誰なのか教えてくれ。」

俺は懐から白金貨を何枚か取り出して、テーブルの上に置いた。
白金貨1枚は金貨100枚に相当する。

ベスタは、白金貨を横目でチラリと見たが、すぐに視線を元に戻した。

「お客様、残念ですが私の商売は、信用が第一です。お金で他のお客様を売るわけにはまいりません。」

俺は懐から、小さなダイヤを取り出した。
以前、石炭から造り出したブルーダイヤだ。

「そうか、わかった。仕方ないな。」

といって、ダイヤをベスタに差し出した。
ベスタがダイヤを見る。

「これは、世話になったお礼だ。何の見返りも要求しない。受け取ってくれ。」

ベスタがダイヤを受け取り、眺めている。

「これは、青色金剛石ですね。かなりの値打ちかと。これを頂いても相手様の名前は教えることは出来ませんよ?」

「教える必要はない。ただの礼だ受け取れ。」

俺は更に3個の大粒ダイヤを懐から出した。

ベスタの目がダイヤにくぎ付けになった。

「お前の口からは、何も教えてもらわなくて良い。ただ、お前がブルナに関する書類をここにおいて、トイレにでも行けば俺は、このダイヤをここに落としてしまうかもしれない。俺は金持ちだ。落としたダイヤの事なんてすぐに忘れるだろう。書類は、そのままここに残る。何の問題も無いと思うがな。」

ベスタは俺とテーブルに置いたダイヤを見比べている。
そして、事務机の引き出しから何かの書類を取り出して、事務机の上に置いた。

「アイタタタ、急にお腹が・・・」

そう言って部屋を出た。

俺はベスタが部屋を出ると、すぐに事務机の書類を覗き込んだ。
書類には

クチル島出身 ブルナ 15歳
購入元    宣教部隊
購入代金  180 (現金支払い)
販売代金  280 (現金受け取り)

購入者 デルン・メイヤー 様

と書かれていた。
書類にはブルナの身体特徴等、こまごました事も書かれていたが、読み飛ばして、必要なことだけ記憶した。

購入者 デルン・メイヤー 様

俺は、ダイヤ3個を、その書類の上に置いて、事務室を出た。
ダイヤ4個の大出費だが、それほど惜しいとは思わない。
なにしろ、元はドランゴさんが鍛冶に使っていた石炭なのだから。

奴隷屋敷を出てから、その足で、キノクニ情報部へ向かった。
ブルナを購入した『デルン・メイヤー』の身元を調べてもらうためだ。
忍者三人衆に頼めば、調べてもらえるだろう。
私的な用事だが、ケンゾウ部長は許可してくれるだろう。

貴族街の情報部屋敷へ着いた時、使用人たちがあわただしく働いていた。
明日は、ケンゾウ部長主催のパーティーがあるそうだ。

表向きはパーティーと言っても実際は、情報部の情報収集の一環だ。
貴族に飲み食いさせて、キノクニに必要な情報を聞き出すつもりなのだ。
情報部長の部屋へ行こうとしたら、後ろから

「シン様」

と声をかけられた。
ふり返るとエリカだった。
エリカは嬉しそうに微笑んでる。
今朝がた会ったばかりなのに何が嬉しいのだろう?

「おう、エリカ、ちょうどよかった。話がある。」

「はい。何でしょう?」

「ケンゾウ部長は、いるか?」

「いいえ、部長はカヘイ様に用があるとかで、出かけられています。」

ケンゾウ部長は不在だが、後から了解をもらうことにした。

「どこか、話せる場所へ・・」

一階事務室へ入り、事の次第をエリカに話した。

「それなら、改めて調査しなくても良いです。私、知っています。その人。」

ラッキー♪

「誰だ、この『デルン・メイヤー』って。どこに住んでいる?」

「王宮です。」

(え?)

「デルン・メイヤーは宰相ゼニスの側近の一人です。たしか、王宮に住んで、王族のお世話係をしているはずです。」

以前、奴隷商人のベスタが、ブルナに関して「裕福な暮らしをしています。」と口を滑らしたことがある。
ブルナの持ち主のデルンが王宮に住んでいるのなら、ブルナも王宮で暮らしているかもしれない。

(ベスタが言っていたのは、このことだったのか・・・)

ブルナの居場所は、ほぼ見当が付いた。
しかし、場所が場所だけに、様子を見に行くこともできない。

「エリカ、王宮の様子を探りたいが、何かいい手立てはないか。」

「シン様の欲しい情報は、そのブルナ様の居場所ですよね。宮中の料理人にキノクニの協力者がいます。手配しましょうか?」

おそらくブルナは、宮中で雑用係か何か、下っ端の仕事をしているはずだ。
だとしたら、料理人と面識があるかもしれない。

「頼む、その料理人を紹介してくれ。」

希望が出てきた。

「わかりました。その料理人は、ウンケイ・マイヤと言います。夜は自宅へ帰るはずですので、連絡してみます。」

「わかった。頼む。ケンゾウ部長には俺から、報告しておく。」

エリカの知り合いらしいが、キノクニの協力者ならば、ケンゾウ部長にも報告しておくべきだろう。


ソウが探しているブルナは、想像どおり宮中にいた。

「ブルナ、これを食べなさい。」

12歳くらいの女の子が、豪華な料理が並んでいるテーブルの、豪華な飾りつけのある椅子に座り、何かの小皿を後ろで控えていたブルナに差し出した。

ブルナは綺麗なメイド服姿だ。
ブルナは、クチル島に居た時よりは、いくぶん背が伸びたようだ。
血色も良く、メイド服姿のせいもあって見掛けは奴隷のように見えない。

「はい。いただきます。」

小皿には、調理された野菜が載っていた。
ブルナは小皿を受け取ると、フォークで口に運んだ。
味は良い。
毒も何も入っていない、普通の野菜料理だ。

テーブルの周りには、3名ほどのメイドと一人の執事が居る。
12歳くらいの少女は、食事をする間、何度かブルナに料理を差し出して、食べさせた。
ブルナは少女に差し出された料理を全て食べた。
食事が終わると、執事が少女に話しかけた。

「今日は、3度、野菜などの料理をお食べになりませんでした。野菜は、お体によろしいものです。次回はお召し上がりになりますよう、お願い申し上げます。」

「わかってるわよ。だっておいしくないんですもの。私が食べない分、ブルナが食べるからいいでしょ。」

「はい。承知しております。しかし、セレイナ様がお食べにならないと、私共が罰を受けます。いつものように、お仕置きさせていただきます。」

「どうぞ、でも、お仕置きしても、嫌いなものは食べないわよ。デルン」

「承知しておりまする。」

少女は『セレイナ』という名前だ。
執事の名前は『デルン』だ。
デルンはブルナを引き連れ、その部屋を出た。
食事をしている別の部屋へブルナを連れて行き、ドアを閉めた。

「おい。お仕置きだ。」

「はい。」

ブルナは上半身裸になって、背中をデルンに向けた。
デルンは、部屋の隅に置かれた竹製の鞭を手に持ち、ブルナの背中を鞭打った。

バシン!! バシン!! バシン!!

ブルナは3度鞭打たれた。
ブルナの背中には、過去に鞭打たれたであろう沢山の傷跡が生々しく残っていた。
その古傷の上に新しい傷が出来て血をにじませている。

『ドレスを汚すなよ。』

「はい。」

ブルナは布を使い自分で背中を拭いている。
デルンとブルナは、元の部屋へ戻った。
セレイナがブルナを見つめた。

「お仕置きするはいいけど、あまりきつくしないでね。こないだの子みたいに壊れると嫌だわ。」

「承知しておりまする。」

どうやら、ブルナは、セレイナの身代わりとしてお仕置き、鞭打ちを受けたようだ。

このように、王族の子供を叱る際、王族の子供の身代わりに、使用人を鞭打つ制度は、過去の日本にもあった。

将軍の子供を教育係が叱る際に、将軍家の人間を傷つけることはできないので、使用人の中から、将軍家の人間に替わって体罰を受ける係があったのだ。

ブルナは、その役目をするために奴隷として買われたのだろう。
セレイナはブルナを気に入っており、手放そうとしないのだ。

セレイナがブルナのことを気に入っている一番の理由は、ブルナが『美しくない』ということだった。
この世界の美的感覚で言えば、ブスなのだ。

セレイナは外見を気にするタイプで、自分より美的に劣っているブルナを傍に置いておきたいのだ。
セレナイナは前王カルエルと、その側室、エリイナの長女、現王と勢力争いをしている第一王子、ガブラルの妹だ。
つまり、キノクニが支持するラジエル公爵の敵対勢力と言える。

「ブルナ、かわいがってあげるから、壊れないでね。」

「はい。」

ブルナの手首には黒い腕輪の様な入れ墨があった。
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