異世界修学旅行で人狼になりました。

ていぞう

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第四章 首都ゲラニ編

第67話 戦時徴用

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今夜、サルトの部下、それに俺達キノクニ情報部隊で、ドレンチ一味のアジトやカオルンで麻薬取引の現場を急襲した。

その結果、ドレンチ一味を一網打尽にし、大量の麻薬も押収したが、麻薬の売り手、おそらく教会の関係者は取り逃がしてしまった。

俺は、ドレンチ一味を逮捕した際、ドレンチの子分『タンジ』の持つスキル『探知』と『鑑定』を自分にコピーした。

探知は周囲の人を魔力や気配で察知できるスキル、鑑定は、マザーのスキャンニングと同じ効果を持つ。

そして事件終了後、ピンターを対象に『鑑定』を実施したところ、驚いた結果が出た。

ピンターは、元々普通の『人族』で魔力も無かったし、スキルも『竹馬』だけだったはずだ。

ところが、今のピンターは『人狼の眷属』で魔力も持ち、新たなスキル『動物親和』を取得している。

ピンターの肉体が、このところ急激に成長していることは気が付いていた。
しかし、種族が『人狼の眷属』になっているとは、思いもよらなかった。

(マザー)

『はい。』

(ピンターが人狼の眷属になっているけど、どういうこと?)

『推定を交えて回答します。人狼や神族などの上位種族が、自己の支配下にある者に対して、上位種族の肉体の一部を与え、または慈愛を尽くした場合、その者が上位種族の使徒や眷属になる場合があります。

ピンター様は、ソウ様の配下で、先日ソウ様の肉体の一部『血液』を与えられました。さらにソウ様はピンター様に慈愛を尽くされております。その結果がピンター様の眷属化に繋がったものだと思われます。』

つまりアレ?俺がピンターに輸血したことで、ピンターが俺の眷属になっちゃったってこと?

(マザー、ピンターが俺の眷属になったことのメリットとデメリットを分析回答して。)

『はい。ピンター様は、ソウ様に準じて肉体的にも精神的にも強くなるはずです。今後ソウ様が取得してきたスキルの一部は取得可能となります。デメリットはございません。』

ピンターが強くなるのは良いことだ。
もちろん、今後起こるであろう、様々な戦いに、ピンターを参加させるつもりはないが、ピンターの身の守りが強くなるのはありがたい。

しかし、ピンターの両親、ブラニさんとラマさんに、申し訳ないような気もした。
なにしろ、ピンターはもう人族じゃなくなったのだから。

「兄ちゃん、どうしたの?」

ピンターが不思議そうな顔で俺をみつめている。

「ピンター、お前、俺と血のつながった兄弟になっちゃった。」

ピンターは、そんなの当たり前だろ、というような顔をしている。
ピンターがもう少し大きくなったら、詳しく話そうと思う。

翌朝、キューブで、遅い朝食を取っていたところ、エリカが現れた。

「ケンゾウ部長が、お呼びです。」

「わかった。飯食ったら、すぐ行く。」

俺は、食後エリカが載って来た馬車に同上して貴族街にあるキノクニ情報部のある屋敷に向かった。
馬車の中でエリカに尋ねた。

「なんで情報部は、貴族街にあるの?不便じゃね?」

「キノクニが必要な様々な情報は、高位の貴族様が持っている場合が多いです。だからあの屋敷では、お茶会や晩餐会が開かれることが多いです。ラジエル様が後ろ盾の会ですから、多くの貴族様が集まります。貴族様をキノクニの倉庫へお呼びするわけにはまいりませんからね。」

なるほど、貴族の飲み会にドルムさんや、アウラ様が混ざると大変だよな。
アウラ様が貴族相手に暴れる姿を想像して、少し可笑しくなった。

「シンです。入ります。」

「うむ。入ってくれ。」

情報部長室でケンゾウ部長が出迎えてくれた。

「昨夜は、ご苦労じゃったの。ワイバーンまで出たらしいの。」

「はい。2匹と二人を取り逃してしまいました。」

「そりゃ、しかたないて。ドラゴンを相手に戦って死人が出なかっただけでも、儲けものじゃて。」

「それで、どうです?教会側の情報は入りましたか?」

俺の問いに対してケンゾウ部長が渋い顔をした。

「それがなぁ・・・ドレンチが暗殺された。」

ケンゾウ部長の話では、

昨夜タンジを逮捕して、麻薬を押さえると同時に、ドレンチを逮捕しラジエル公爵管理課の牢獄に投獄した。

ところが、今朝、ドレンチは牢の中で死んでいるのが見つかった。
タンジは、別の牢で無事だったが、取り引き相手の教会関係者の事は何も知らされていなかったようだ。

真偽判定のスキルを持つ者が取り調べたので、嘘はついていない。
結局、事実を知るドレンチは口封じのために暗殺されたのだろう。
という事だった。

「ドレンチは十分な監視下にあったのでしょう?それを暗殺って、・・・」

「ドレンチは朝、氷漬け、いや氷になって発見された。つまり暗殺者は魔法攻撃できる範囲に居た。もしかしたら・・」

ケンゾウ部長は、しゃべるのを途中でやめた。
おそらくこう言いたかったのだろう。

『もしかしたら、ラジエル公爵側、内部に裏切者が居るかもしれない・・』

ケンゾウ部長は立ち上がった。

「まぁ、なにはともあれ、麻薬の供給は止まった。キノクニの役目は十分にはたせたはずじゃ。きゃつらもしばらくは動けまいて。相談役、ご苦労じゃった。近いうちにラジエル公爵にも紹介する。しばらくは自由にしていてくれ。」

俺は、いずれこの国を離れる。
だから、貴族と知り合いになる必要もなかったが、キノクニの立場を考えれば無下に断ることもできない。

「ええ、その時には、よろしくお願いします。ところで、ケンゾウ部長。今回、麻薬取引の舞台になったのは孤児院ですが、その孤児院に対する国からの補助が止まっているそうです。何か事情をご存じですか?」

「それは、初耳だが、おそらく宰相の差し金だろう。表向きは戦争に備えての節約だが、実際は、民衆の現国王離反を狙っているのだろう。」

やはり、そうだった。
王室の権力争いが、力のない人々を苦しめる。
どこの世界でも同じだ。

「表向きの名目は戦争ですか。で、戦争は起こりますか?」

ケンゾウ部長の目が厳しくなった。

「起こる。というより、既に始まっている。各国に対する布教活動。実質は侵略戦争じゃ。大きな声でいえんのじゃが、最近のヒュドラ教会、いやヒュドラ教国の勢力拡大はすさまじい。布教活動とは呼べぬ、侵略戦争、奴隷狩り以外の何物でもない。宰相たちも自分の勢力を伸ばすため、ヒュドラ教会へ積極的に近づいておる。その結果、奴隷狩りに兵を差し出さねばならないのじゃ。」

クチル島で奴隷狩りをした兵の中にも国の正規軍がいた。
ヒュドラ教の影響を受けたブテラの領主が差し出した兵隊だろう。

「知っての通り、最近ラーシャの辺境部を攻めておった宣教部隊が帰国した。ラーシャは国自体がヒュドラ教を支持しているから、辺境の地を攻めても問題はなかった。

問題は獣人国『ジュベル国』と魔族が支配する『グリネル国』じゃ。この二か国は敵が強大で手を出さなんだが、近々ヒュドラ教国は、このいずれか、もしくは二か国を同時に攻める予定らしい。
そうなれば、ゲランも出兵せざるを得まいて。大戦争の勃発じゃ。」

ジュベル国はルチアの出身国、グリネル国はドルムさんの出身国、今でもドルムさんの家族は、そこに住んでいる。
戦火が広まる前に、ドルムさんの家族を避難させなければならない。
あまり時間が無いかもしれない。

「戦争の開始時期は何時ごろでしょうね。」

「ジュベルもグリネルも北国で、雪が深い。兵への補給線のことを考えれば、来年の春じゃろうな。」

今、ゲランは晩秋だ。
春の雪解けまで兵は動けないだろうから、あと半年の猶予はある。
それまでに戦争と無縁な場所へ俺達の仲間とドルムさんの家族を避難させなければならない。

ケンゾウ部長は更に険しい顔つきで言った。

「宣戦布告がなされれば、このキノクニもただでは済まん。戦時徴用でキノクニごと軍事組織に編成されてしまう。兵士への補給部隊じゃ。だから何としても戦争は回避したい。キノクニがラジエル様についているのは、その為じゃ。」

戦時徴用とは戦時下の一時期、人が徴兵されるのと同様、企業も国の指揮下に入り、国営企業のような立場で、戦争を補助するのだ。

キノクニがラジエル公爵側についてる理由が飲み込めた。
戦争になれば、商売どころかキノクニそのものが戦争に巻き込まれる。
それを回避するために反戦派の貴族を応援しているのだ。

エロジジイとはいえ、さすが情報部長、先を見通せている。
俺はケンゾウ部長を少し見直した。

「ケンゾウ部長、俺は戦争に巻き込まれたくないです。しかしキノクニが危ないなら、いつでも火の中に飛び込みましょう。その時には命じてください。」

ケンゾウ部長は微笑んだ。

「うむ、その心意気や良し!頼りにしておる。シン相談役」

エリカも笑顔だ。

情報部を出てエリカにキューブまで送ってもらった。

「じゃ、エリカまたな。しばらく会うことは無いが、元気でやってろよ。」

俺がそう言うと、なぜだかエリカは悲しそうな顔をした。

「またすぐに、お会いできます。用が無くても遊びに来てください。」

「ああ、気が向いたらな。」

エリカは馬車で帰って行った。

「シン様、シ・ン・さ・ま。♪」

悪寒がした。

「何だ?アヤコ?」

「終わったのですか?」

「ああ、今日の仕事はもうないぞ。」

「そうじゃなくて~ ウェヘヘ。」

アヤコは未だに何か誤解をしているようだ。
キューブに戻るとドランゴさんが出迎えてくれた。

「師匠、さっき、ベスタの使いという男が師匠を尋ねてきてやんしたよ。」

ベスタ・・・奴隷商の『ベスタ』だ。
ブルナを買い戻せたのだろうか?

「それで、その男、何て言ってました?」

「ワッシが要件を尋ねても、『本人にしか言えない』の一点張りで、要件はわかりやせんでした。」

「わかりました。ありがとう、ドランゴさん」

俺は厩舎へ走り、自分の馬に乗ってベスタの奴隷屋敷へ向かった。
ベスタの奴隷屋敷はキューブから馬で10分程の距離だ。

今日は、奴隷のオークションの日らしく、奴隷屋敷の前には何台もの馬車が止まっていた。
門番に名前と要件を告げたが、オークションが終わるまでベスタと面会できないと言われた。
しかたなく屋敷内でオークションの様子を眺めていた
オークションの舞台は屋敷一階の大広間だ。

入ってすぐに客席、椅子が30程あって、そのほとんどが埋まっている。
客のほとんどは男だが、中には中年の女性も混ざっている。
客席の正面はステージで、そのステージへ奴隷が上げられ、ステージを一周、歩かされた後、その場でターンさせられている。

まるでファッションショーのようだが、売られるのは服ではなく、人そのものだ。
女性奴隷の中には、客の要望に応じて、辱めを受ける奴隷もいた。

どんな辱めを受けたのかは、胸糞が悪すぎて言いたくない。

ピンターやルチアには絶対に見せたくなかった。
しかし、観客は、その辱めを楽しみながら見ている。
ここにいる客は奴隷オークションを一種の娯楽と考えているようだ。

ますます胸糞が悪い。

それ以上見たくなくなったので、オークション会場から出て、ベスタの事務室の前で待つことにした。
1時間ほどで全てのオークションが終わり、ようやくベスタと面会できた。

「ベスタさん。どうだった?」

ベスタは表情を変えずにこう言った。

「相手様は、転売交渉に応じませんでした。」

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