異世界修学旅行で人狼になりました。

ていぞう

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第四章 首都ゲラニ編

第66話 ピンター 人狼の眷属

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カオルンにある孤児院で麻薬の取引が行われるという情報に基づいて、俺達は刑事ドラマのように張り込みをした。

その結果、ドレンチの配下タンジ達と、教会関係者二人が麻薬を取引する現場を俺が押さえた。

応援の急襲部隊が到着し、タンザ達や教会関係者を取り囲んだが、タンザはいち早く急襲部隊を察知し屋外へ出た。
教会関係者もタンザに続いて奥へ出たが、そのうちの一人が懐から何かを出して口にくわえた。

ピィィィー、ピィィィー、ピィィィー

夜空にホイッスルの音が鳴り響く。
俺はフォナシス火山で行われたアウラ様とブラックドラゴンの死闘を思い出した。

あの時も教会関係者が吹いたホイッスルでブラックドラゴンが出現したからだ。
空から何かが舞い降りてきた。

(ブラックドラゴンか?)

空から舞い降りた大きな影は3つあった。

しかし、ブラックドラゴンの影よりは小さい。
灰色のワイバーン3匹だった。

ワイバーンは教会関係者の前に舞い降りると、急襲隊員を襲い始めた。
責任者のサルトが言っていた。

「ヤクザごときには、負けない。」

それは、そうだろう訓練された兵士が数十名いれば、ヤクザごときに引けをとるはずもない。
しかし、フラグは回収された。

現場で対峙しているのは亜種とは言えドラゴンだ。

生身の人間が、かなう相手ではない。
兵士達はワイバーンの口や足による攻撃から逃げ回るので精いっぱいだ。
中には魔法や槍で攻撃する強者もいるが、やはりワイバーンには攻撃が通じない。

タンジ達はその隙を縫って現場から離脱しようとしている。
俺はタンジを負うのか、ワイバーンと戦うのか迷ったが、やはり隊員の命の方が大事だ。

雷鳴剣2を持ち、隊員とワイバーンの間に立ちはだかった。
そこへエリカが来た。

「エリカ、タンジを逃がすな。」

「はい。」

俺は、自分の掌を空に向けて、ファイヤーボールを打ち上げた。
応援を呼んだのだ。
エリカは忍者姿だ。
タンジの前に魔剣を持ったエリカが立ちはだかる。
エリカの魔剣は炎の魔剣で、俺が貸与えたものだ。

タンジの体から魔力が伸びて、エリカを包む。
タンジはエリカの力量を図っているのだろう。
俺は俺で、ワイバーンにパラライズやファイヤーボールを打っているが、ダメージは通るものの倒すには至らない。

ウルフのミサイルなら倒せるだろうが、俺がこの場を離れている間に隊員が殺されたり、敵が逃げ出すかもわからないので、動けない。

雷鳴剣2をタイミグ良く振り下ろして一匹のワイバーンの翼を切り落とせた。
翼を切り落とされたワイバーンは、その場をのたうち回っているが、死なない。

後2匹のワイバーンは隊員を追いかけまわしている。
幸いなことにワイバーンはブレス攻撃の能力が無いようだ。
俺が、その2匹に向き直った時、教会関係者が再び、ホイッスルを吹いた。

(今度こそ、ブラックドラゴンか?)

と思ったが、ブラックドラゴンは現れず、ホイッスルを聞いたワイバーンが教会関係者の元へ駆け寄った。

教会関係者2人は素早くワイバーンの背に乗り、タンジ達をその場に残して、上空へ逃げた。

俺は、ウルフへ駆け戻り、上空へ逃げたワイバーンを画面上で追跡したが、ワイバーンは街の上スレスレを飛行していた。

ミサイルで撃ち落とすことも可能だったが、住人への被害を恐れてミサイルを撃てなかった。
ワイバーンは射程圏内を逃れて教会関係者と共に南へ消えた。

孤児院へ戻ると状況が一変していた。
タンジの手下の一人が、どさくさに紛れて、孤児院の母屋に入り、獣人の子供を人質にして孤児院に立てこもったのだ。
手下のうち3人はその場に倒れている。
残るはタンジと、建物内に立てこもる一人だ。

タンジは人質を見ながら言った。

「よくやった。・・・お前ら動くな、犬コロと飼い主を殺すぞ。」

エリカと対峙していたタンジも孤児院に入っていった。

「すみません。タンジにだけ気を取られていました。」

エリカが謝る。

「仕方ないさ。お前のせいじゃない。」

俺がエリカと話していると、隊員の一部が孤児院に突入をしようとした。
俺がそれを制した。

「待て、何をする気だ!」

突入しようとした隊員が俺を振り返る。

「なにするって、突入するんだよ。お前こそ何を突っ立てる?」

襲撃隊の部隊長だろう。
俺は部隊長を睨みつけて言った。

「子供が人質なんだぞ?」

「それが、どうした。人質は獣人じゃねぇか。探偵屋はひっこんでろ。」

俺は怒気を纏って言い返した。

「その探偵屋に助けられたのは、どこのチンピラだよ。」

この男は、俺がワイバーンと戦う姿を見ていなかったのだろうか。

「なんだと、サルト様の命令を無視するのか?」

「子供達を見殺しにするような命令なら、無視どころか、お前らの敵にだってなってやるよ。」

部隊長が身構えた。
俺も雷鳴剣2を構えた。
エリカが俺と、部隊長の間に入った。

「お待ち下さい。今は味方同士で争っている場合ではないはずです。」

エリカの言うことは正しい。
おそらく部隊長の言うことも作戦上は正しいのかもしれない。
俺達の任務は敵を捕まえる事、証拠品の麻薬を押収する事だ。
ここでまごまごしていると、麻薬をどこかへ捨てられるかもしれない。

しかし、俺は獣人だからと子供達の命をないがしろにすることは出来ない。
それが、この国の為、キノクニの為であってもだ。

この世界の価値観では、獣人の命よりも麻薬の密売人を捕まえる方が大事なのだろう。
俺は、その価値観がとても嫌いだったし、許せなかった。

「少し時間をくれ、俺が何とかする。」

部隊長は黙っている。
隊員もそれを見守っている。
俺は頭を下げた。

「このとおりだ、頼む。」

部隊長は少し、考えたが

「5分だけやる。その後、突入だ。」

エリカが俺を見つめる。

「シン相談役・・・」

俺は正面を隊員に任せて、裏の勝手口へ向かった。

おそらくタンジは、探知スキルで周囲の様子を探っているはずだ。
俺が勝手口から入れば、探りを入れてくるはず。

そこに俺の狙いがあった。

勝手口のドアを開けて建物の中へ入ろうとした時、俺の体に魔力がまとわりついた。

タンジの探知スキルだろう。
俺は、その魔力を辿り、逆にタンジの位置を魔力や気配で察知した。
そして、タンジの放つ魔力を遡るように、俺の魔力を乗せた。

「パラライズ」

建物の奥で

ガタン、ドサ

と誰かが倒れるような音がした。

「アニキ!!」

俺は全速力で声のする方向へ走り、チンピラを見つけると、右足でチンピラの顎を蹴りぬいた。

チンピラは空中で2~3回転して落下し、息をしなくなった。
殺したかもしれない。
俺はチンピラをヒールして、命だけは助けてやった。

後で黒幕についての証言をさせるためもあった。

チンピラの傍にはタンジが倒れている。
俺は正面玄関を開けた。
隊員が武器を片手に身構えている。

「終わったぞ。」

隊員が建物になだれ込んだ。
部隊長が俺に近づく。

「さっきは、すまなかったな。任務優先だからな。俺だって獣人とはいえ、子供を殺したくはねぇよ。」

「わかっている。こちらこそ侮辱して、すまなかった。」

俺は部隊長を『チンピラ』と罵ったことを少し後悔していた。
部隊長は少し笑った。

「お互い様だ。」

部隊長が拳骨を俺に付きだしたので、俺も自分の拳骨を、それに合わせた。
エリカが傍で微笑んでいる。

「さすがですね。」

教会関係者は取り逃がしてしまったが、タンジ以下6名の男を麻薬取引の現行犯でとらえることが出来た。
肝心の麻薬も、離れの机の下と、タンジが持っていたマジックバッグから大量に押収できた。

縛り上げたタンジの肩に触れた。
何事かとタンジが俺を見つめる。

(マザータンジのスキャンを頼む。)

『了解しました。』

氏名 タンジ・グエラム
年齢 38歳
種族 人間

魔力  670

    RP 218/290
    BP 187/380

スキル
 
 探知 LV13
 鑑定 LV18
 剣技 LV 8

(マザー、探知と鑑定のスキルを俺に移植してくれ。それにそれぞれの能力説明も)

『了解しました。』

『探知は、周囲の生命反応や魔力を感知する能力です。LVが上がれば、対象の感情も感知できるようになります。鑑定は、無機物、有機物を問わず、対象の能力や効能を感知できます。私のスキャンニングに近いスキルです。・・・これで益々私の出番が・・・』

(ん?)

(ありがとう、マザー)

『いいえ、どういたしまして。』

俺はマザーの力を借りて、探知と鑑定のスキルを獲得した。
探知と鑑定、便利そうだからね。
俺が、タンジ達をとらえて、麻薬も押収したことを作戦本部のドルムさんに遠話したところ、サルトがドレンチとその部下20名を捕らえたそうだ。

これで、この周辺に流れる麻薬は止まるだろう。
問題は黒幕だが、今の時点では、明らかになっていない。
今後のドレンチ達の取り調べが進むのを待つしかない。

「オジサン。」

孤児院の子供『ガイ』と『ルイ』が俺に近づいてきた。

「何があったの?」

「とてもいいことさ、明日から君たちは物乞いをする必要がなくなったのさ。」

タタルとその妻であろう女性も近寄ってきた。

「なにやら、ようわかりませんが、貴方が悪者をやっつけて下さった。そのことは判りまする。ありがとうございました。」


「いいんだ。タタルさん、ドレンチ達も逮捕したから、明日から子供たちを働かせなくていいよ。借金は無しだ。もしこのことで誰かに脅かされたら、俺に言え、俺はキノクニのシンだ。」

タタル夫婦は驚いている。

「借金のこともご存じとは。」

元々、この孤児院は国の援助を受けて経営していたが、昨年、王位が変わると、突然、その補助が打ち切られた。

子供たちを食べさせるのに、タタル個人の財産も売り払ったが、それでは足りず、子供たちが餓死寸前になった。
やむを得ずドレンチに金を借りたが、借りた額の数倍を請求され、あげくに子供達を物乞いに駆り出されてしまった。

子供たちを働かせるのは忍びなかったが、ドレンチは一日一食の食料を約束してくれたので、いやいやながらもドレンチに従っていた。

タタルの説明で現状が理解できた。

ここで俺が大金を出せば、この子たちの未来は明るいだろう。
しかし、ここに限らず不遇な人達はいる。

この世界の全ての貧しい子供たちに施すことは出来ない。
俺の役目ではないかもしれないが、まずは補助金が打ち切られた原因を探ってみようと思った。

孤児院の外へ出てみると、人だかりができていた。
物見だかい連中がいると思ったが、野次馬の目的は事件の見物ではなかった。
孤児院から少し外れたところにワイバーンの死体がある。
人々はその死骸に、たかって肉をそぎ落としていた。

あれよあれよという間に、ワイバーンは骨だけになり、更にはその骨も解体されて持ち運ばれた。

(逞しい・・・)

ここでは死骸も残らないのだ。
孤児院を後にして指揮本部のあるキノクニ倉庫へ戻ってきた。

「お疲れさまでした。」

サルトが挨拶してくれた。

「すまない。教会関係者を逃がしてしまった。」

「いえいえ、それは私共の役目でした。相談役は的確に情報を流してくれました。おかげでドレンチ以下は一網打尽です。礼を言います。」

サルトは頭を下げると、事件指揮に戻った。

ブンザさんとドルムさんがサルトとの話が終わるのを待っていた。
ブンザさんが先に話しかけてきた。

「お疲れさまでした。ワイバーンが出たそうですね。」

「ええ、なんとか1匹は殺しましたが、あとの2匹に逃げられました。」

「人の身で亜種とは言え、ドラゴンを倒せるのはシン様くらいのものですよ。」

ドルムさんが割り込む

「ソウはもう人間じゃないな。どちらかと言えば俺に近い。ハハハ」

ドルムさんに近いと言えば、悪魔に近いということだ。
喜んでいいのやら・・・
あらかたの用事は済んだので、俺はキューブへ帰った。
ピンター達が出迎えてくれた。

「兄ちゃんおかえりー」

「ニイニ、オカエリー」

(ん?ピンター朝より逞しくなった気がする。)

俺は今さっき取得した
『鑑定スキル』をピンターで試してみた。

ピンターの頭に手を乗せ、『鑑定』と唱えた。
俺の頭の中にピンターのステータス情報が浮かぶ

氏名 ピンター
種族 人狼の眷属
年齢 8歳

魔力 112
   BP 58/58
   RP 54/54


スキル
   竹馬   LV3
   動物親和 LV 17

ピンターに魔力が・・・
それよりピンターの種族名に驚いた。

『人狼の眷属』

どういうこと?

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