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第四章 首都ゲラニ編
第63話 ドローン 枢機卿の部下
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俺は今、商店街外れの丘にある墓地に居る。
こんな夜遅く、墓地に居るのは嫌だが、仕事だから仕方ない。
情報部隠密、エリカの報告により、ドレンチ達の動きを察知して、偵察をしているのだ。
「エリカ、味方の見張りは、どこに居る。」
「はい。事務所近くのマイヤ食堂の上から1名、反対側の空き家から1名、それぞれ、正面入り口と、勝手口を見張らせています。」
「わかった。それでは、見張りを解除しろ、誰も監視に付けるな。それからダンゾウとドウジュンをここへ呼んで来い。」
「はい。すぐに」
見張る対象は主にドレンチの部下「タンジ」だ。
タンジは、「探知」というスキルを持っている。
おそらく対人レーダーのような能力だろう。
見張りに気が付けば、絶対に動かない。
尾行はドローンで十分だろう。
「ナビ、これからの画像は全て録画しろ。」
『了解しました。』
10分程で、ダンゾウ、ドウジュン、エリカの忍者三人衆がウルフに揃った。
「ここは?」
ダンゾウ、ドウジュンがエリカと同じ反応をした。
「俺の武器だ。深くは質問するな。」
「「「はい。」」」
「事務所内には、ドレンチ、タンジ、それに組員以外の部外者3人組がいるのだな?」
エリカが答えた。
「はい事務所は、二方向から24時間監視していましたので間違いありません。」
「わかった。」
「ナビ、画面を2分割して地図も表示しろ。」
『了解。』
ダンゾウとドウジュンがナビの声に驚いている。
俺は地図上、事務所から少し離れた2か所を指でポイントした。
「ナビ、この2か所にドローン2号と3号を追加配置、指示があるまで待機させろ。」
『了解。』
事務所からチンピラ以外の誰かが出てくれば追跡させるつもりだった。
待つこと10分、事務所の正面から男らしき人影が出てきた。
俺は画面上でその人影を右親指と人差し指で広げた。
画面が拡大されて、男の顔が映る。
「これは誰だ?」
俺の声にエリカが答える。
「ドレンチです。」
ドレンチは待たせていた馬車に乗った。
「ナビ、この男を2号機で追跡しろ。画面は二分割だ。」
『了解しました。』
画面が二分割され、一方は事務所、一方はドレンチの乗った馬車を追跡する。
ドレンチは馬車を貴族街へ向けて走らせ、大きな屋敷前で下車して、建物の中へ消えた。
「ここは?」
「ドレンチの自宅でござる。」
今度はダンゾウが答えた。
(ござる?・・・時代劇ファン?)
「ナビ、2号機引き上げ、元の場所に配置。画面分割解除。」
『了解』
ドレンチが自宅へ帰りつくと同時位に、事務所から、複数の人影が現れた。
画面を拡大したところ、タンジと見知らぬ男一人だった。
タンジは周囲を見回して、少し立ち止まった後、見知らぬ男と共に馬車に乗った。
タンジが立ち止まったのは「探知」スキルで周囲に尾行がないかどうか探っていたのだろう。
続いて、2人の男が出てきて、タンジとは別の馬車に乗った。
二つの馬車は、別方向に走り始めた。
タンジの乗る馬車を指でポイントした。
「ナビ、この馬車をマーキング、呼称は「タンジ」1号機で追跡開始。」
『了解』
もう一方の馬車もポイントした。
「ナビこの馬車をマーキング、呼称は「アンノウン」3号機で追跡開始」
『了解』
「ナビ、画面2分割」
『了解』
俺が「アンノウン」と呼び名をつけた馬車の方が、先に目的地に着いたようだ。
目的地は街中の
「教会」
だった。
馬車は教会の裏へ回り込み、馬車から二人の男が降りてきた。
「人物を望遠拡大、録画しろ。」
俺の指で拡大もできたが、そうすると画面の粒子が荒くなるので、望遠機能を働かせたのだ。
画面が拡大し、教会へ入ろうとする人物の顔を映し出した。
人物の顔には見覚えが無い。
顔のアップで人物の胸元も見える。
胸元には金属製の鎖が見える。
ペンダントの鎖部分だけが見えているようだ。
二名とも顔の拡大像を撮影したが、三人衆も、その人物に心当たりがなかった。
「ナビ、ドローン3号そのままの位置で待機、画面そのまま。」
『了解』
ドローン1号機が追うタンジは商店街から西にあるスラム街へと向かっている。
どこの国でも同じだが、低所得や流れ者、犯罪者が集まる場所がある。
このゲラニにもそれはあった。
ゲラニの西端、貴族はもちろんのこと、一般住民もあまり近づかない場所がある。
「カオルン」
と呼ばれる場所だ。
雑多な人種がバラックやテント、路上生活をしている。
元々は街のゴミ捨て場だったのが、そのゴミをあさって、生活する人々が住み着き、いつの間にかスラム化したそうだ。
今では、他の場所にゴミの焼却場が出来て、ゴミは運び込まれていないが、人はそのまま残ったのだそうだ。
ここへは、警察も立ち入らない。
警察だとわかった途端に殺される可能性があるからだ。
「やっかいな場所でござるな。」
ダンゾウがつぶやく。
「どうしてだ?」
スラムでも潜入できないことは無いだろうに・・
「ここは特別でござるよ。排他的な人々ばかりだし、住人のほとんどが獣人でござる故、我々でも潜入しがたいのでござる。」
なるほどね。獣人でなければ入りづらいのね。
馬車は、スラム内の古びた建物の前で止まった。
「ここは?」
「おそらく、孤児院でしょう。スラムの身寄りのない子供を面倒見ているらしいです。」
エリカが答えた。
先日、路上で物乞いをさせられていた人犬の子供達を思い出した。
そう言えば、ブンザさんが、ドレンチは「孤児院を借金でがんじがらめにして支配している。」と言っていたな。
孤児院の敷地には、母屋と離れがあったが、タンジは、離れを指さしながら、もう一人の男に何かを説明しているようだ。
「ナビ、音声を拾えないか?」
『音声収集は可能ですが、対象に接近する必要があります。』
「ナビ、接近せずに、この位置から音声を拾え。」
『了解』
(ビユー・あ・・・、こ・・・・だ。(・か・・・こ・・か・)・・まさ・・・で・・・だれも・・・)
なんと言っているかわからなかったが、タンジ達は数秒で、その場を離れて馬車に乗った。
「ナビ、雑音を排除、人の音声のみのデータにして、再生しろ。」
『了解、再生します。』
『あさってのよ・・ここ・、取り引きだ。(わかっ・・・ここ・・、大丈夫か・)・・まさか孤児院で取引・・・だれも・・・』
「きっとこういうことだ『あさっての夜、ここで取引、まさか孤児院で取引とは誰も思わないだろう。』間違いないね。」
三人衆が目を丸くして俺を見ている。
「ん?どうした。?」
「いや、相談役殿の、的確な差配、機転の良さ、頭脳明晰な行動に感服仕ったのでござるよ。」
ダンゾウの言葉にエリカもドウジュンも深く頷いている。
「いや、先祖譲りの道具が良いだけだ。」
「いえいえ、道具を使う者の技量がなければ、意味がありませぬ。相談役殿は指揮能力が人一倍長けてござる。」
そういえば、自分で言うのも可笑しいが、このところの俺は、高校生の能力を超えている。
身体的にもそうだが、頭の回転が早くなった気がする。
前の世界では、ぬるま湯で、のんべんだらりの生活をしてきたが、この世界の熱湯に使って、頭の方も成長したのだろうか?
その後も監視を続けたが、タンジは事務所に帰り、タンジと一緒だった男も、街の教会へ入って動かなかった。
「ナビ、各ドローン収納、録画データをキューブにも送っておけ。」
『了解』
俺は三人衆をウルフから降ろしてウルフを収納した。
「今日は、もう何もないだろう。念のために事務所の見張りを残して、後は撤収しろ。」
「「「はい。」」」
エリカを残して二人が闇に消えた。
俺はエリカと二人で、旧社屋、つまり俺の現在の家まで帰って来た。
「ご苦労、エリカ帰っていいぞ。」
「はっ」
エリカも帰って行った。
エリカを見送る俺の背中に何か熱い視線を感じた。
「シン様、どこまで行かれてたんです~」
アヤコだ。
「仕事だよ。シゴト」
「そうですか~?ずいぶん遅くまでの残業ですね~」
(なんなんだよ・・ちょっと怖いぞ・・・)
「ああ、そうだな。明日早いから寝るわ、オヤスミ!」
「おやすみなさ~い。・・・」
朝起きて社員食堂で朝食を取っていたところ、ブンザさんが隣に座った。
「相談役、おはようございます。」
「おはようございます。ブンザ隊長。」
「昨日は失礼しました。」
「何です?」
「ケンゾウ部長が、新相談役のことを、なにやら勘違いして・・」
(ああ、あのエロジジイのことね・・)
「いえいえ、俺は何も迷惑していないですよ。それよりブンザ隊長もあのジ・・あの部長の前では、子ども扱いですね。フフ」
「そうなんですよ。幼い頃、オシメも替えてもらっていたほどですから、いくつになっても逆らえないのです。」
ブンザさんは満更でも無いようだ。
あのエロジジイとブンザさんには、俺の知らない、良い歴史があるのだろう。
「ところで、仕事がはかどっているそうですね。」
「ええ、ここでは話せませんが、ある程度のことは、わかりました。詳しくはあのエ・・ケンゾウ部長に聞いてください。」
ケンゾウ部長は俺より階級が上だが、どうしてもジジイとかエロジジイと言いたくなってしまう。
「おはようでがんす。今日も良い天気でやんすな。」
ドランゴさんがやって来た。
ドランゴさんとブンザさんは、親友だが、二人の、どこに接点があったんだろう。
今度酒の場で聞いてみよう。
「ドランゴ、お前また二日酔いだろ。飲みすぎるなよ。」
「何を言ってるでがすか。ブンザこそまだまだ顔が赤いでやんすよ。」
「そんなことはない。昨夜はちょっとしか飲んでないぞ。」
相変わらず二人の仲は良い。
「兄ちゃん、お客さんだよ。」
「ニイニ、オキャク」
ピンターとルチアが迎えに来た。
俺は昨日遅かったので、ゆっくり寝ていたが、二人は先に食事を済ませてキューブへ戻っていたのだ。
(誰だろう?)
キューブへ戻ると、エロジジイが待っていた。
「昨夜はご苦労じゃった。ダンゾウ達から報告を受けたが、タンジの取引相手の『絵』を描いたらしいの。それを見てみたいのじゃ。」
「わざわざ、おいでにならなくても、こちらから、伺いましたのに。」
爺さんが言う「絵」というのは、昨日、ドローンで撮影した録画映像のことだろう。
録画は、ウルフでも、キューブの地下でも見れるが、ウルフを出すのは面倒だし、エロジジイといえども、キノクニの情報部長だ。
口は軽くないだろう。
「いや、カヘイにも用事があったでな。ついでといっちゃなんじゃが、幾つか気になることもあるでな。」
ということで、爺さんをキューブの地下室へ案内した。
この場所へは仲間以外で入った人間はいない。
爺さんを地下室に案内して、タイチさんを呼び出した。
「タイチさん、すみません。」
ブォン
タイチさんのフォログラムが出た。
「うおぃ、久しぶりだな。何の用だ?」
爺さんが驚いている。
「こちら様は?」
「ああ、俺の先祖様です。」
「これはこれは、初めまして、ケンゾウ・ハットリと申しますじゃ。よろしくお願い申し上げます。」
爺さんがかしこまっている。
「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします。」
フォログラムのタイチさんが頭を下げた。
なんだか可笑しかった。
「タイチさん、昨日のウルフの映像みせてくれませんか?」
「いいぞ。」
タイチさんが引っ込んでスクリーンが出た。
事務所から出てきたドレンチ、タンジ、そして見知らぬ3人が次々とアップにして映し出された。
「やはりのぅ。・・・」
「この3人に見覚えがあるのですか?」
爺さんは顔の皺を更に増やした。
「ある。枢機卿『ラグニア』の部下じゃ。」
(枢機卿って教皇の次に偉い教会の幹部のこと?)
「これは、思ったより闇が深いのぅ・・・」
こんな夜遅く、墓地に居るのは嫌だが、仕事だから仕方ない。
情報部隠密、エリカの報告により、ドレンチ達の動きを察知して、偵察をしているのだ。
「エリカ、味方の見張りは、どこに居る。」
「はい。事務所近くのマイヤ食堂の上から1名、反対側の空き家から1名、それぞれ、正面入り口と、勝手口を見張らせています。」
「わかった。それでは、見張りを解除しろ、誰も監視に付けるな。それからダンゾウとドウジュンをここへ呼んで来い。」
「はい。すぐに」
見張る対象は主にドレンチの部下「タンジ」だ。
タンジは、「探知」というスキルを持っている。
おそらく対人レーダーのような能力だろう。
見張りに気が付けば、絶対に動かない。
尾行はドローンで十分だろう。
「ナビ、これからの画像は全て録画しろ。」
『了解しました。』
10分程で、ダンゾウ、ドウジュン、エリカの忍者三人衆がウルフに揃った。
「ここは?」
ダンゾウ、ドウジュンがエリカと同じ反応をした。
「俺の武器だ。深くは質問するな。」
「「「はい。」」」
「事務所内には、ドレンチ、タンジ、それに組員以外の部外者3人組がいるのだな?」
エリカが答えた。
「はい事務所は、二方向から24時間監視していましたので間違いありません。」
「わかった。」
「ナビ、画面を2分割して地図も表示しろ。」
『了解。』
ダンゾウとドウジュンがナビの声に驚いている。
俺は地図上、事務所から少し離れた2か所を指でポイントした。
「ナビ、この2か所にドローン2号と3号を追加配置、指示があるまで待機させろ。」
『了解。』
事務所からチンピラ以外の誰かが出てくれば追跡させるつもりだった。
待つこと10分、事務所の正面から男らしき人影が出てきた。
俺は画面上でその人影を右親指と人差し指で広げた。
画面が拡大されて、男の顔が映る。
「これは誰だ?」
俺の声にエリカが答える。
「ドレンチです。」
ドレンチは待たせていた馬車に乗った。
「ナビ、この男を2号機で追跡しろ。画面は二分割だ。」
『了解しました。』
画面が二分割され、一方は事務所、一方はドレンチの乗った馬車を追跡する。
ドレンチは馬車を貴族街へ向けて走らせ、大きな屋敷前で下車して、建物の中へ消えた。
「ここは?」
「ドレンチの自宅でござる。」
今度はダンゾウが答えた。
(ござる?・・・時代劇ファン?)
「ナビ、2号機引き上げ、元の場所に配置。画面分割解除。」
『了解』
ドレンチが自宅へ帰りつくと同時位に、事務所から、複数の人影が現れた。
画面を拡大したところ、タンジと見知らぬ男一人だった。
タンジは周囲を見回して、少し立ち止まった後、見知らぬ男と共に馬車に乗った。
タンジが立ち止まったのは「探知」スキルで周囲に尾行がないかどうか探っていたのだろう。
続いて、2人の男が出てきて、タンジとは別の馬車に乗った。
二つの馬車は、別方向に走り始めた。
タンジの乗る馬車を指でポイントした。
「ナビ、この馬車をマーキング、呼称は「タンジ」1号機で追跡開始。」
『了解』
もう一方の馬車もポイントした。
「ナビこの馬車をマーキング、呼称は「アンノウン」3号機で追跡開始」
『了解』
「ナビ、画面2分割」
『了解』
俺が「アンノウン」と呼び名をつけた馬車の方が、先に目的地に着いたようだ。
目的地は街中の
「教会」
だった。
馬車は教会の裏へ回り込み、馬車から二人の男が降りてきた。
「人物を望遠拡大、録画しろ。」
俺の指で拡大もできたが、そうすると画面の粒子が荒くなるので、望遠機能を働かせたのだ。
画面が拡大し、教会へ入ろうとする人物の顔を映し出した。
人物の顔には見覚えが無い。
顔のアップで人物の胸元も見える。
胸元には金属製の鎖が見える。
ペンダントの鎖部分だけが見えているようだ。
二名とも顔の拡大像を撮影したが、三人衆も、その人物に心当たりがなかった。
「ナビ、ドローン3号そのままの位置で待機、画面そのまま。」
『了解』
ドローン1号機が追うタンジは商店街から西にあるスラム街へと向かっている。
どこの国でも同じだが、低所得や流れ者、犯罪者が集まる場所がある。
このゲラニにもそれはあった。
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「カオルン」
と呼ばれる場所だ。
雑多な人種がバラックやテント、路上生活をしている。
元々は街のゴミ捨て場だったのが、そのゴミをあさって、生活する人々が住み着き、いつの間にかスラム化したそうだ。
今では、他の場所にゴミの焼却場が出来て、ゴミは運び込まれていないが、人はそのまま残ったのだそうだ。
ここへは、警察も立ち入らない。
警察だとわかった途端に殺される可能性があるからだ。
「やっかいな場所でござるな。」
ダンゾウがつぶやく。
「どうしてだ?」
スラムでも潜入できないことは無いだろうに・・
「ここは特別でござるよ。排他的な人々ばかりだし、住人のほとんどが獣人でござる故、我々でも潜入しがたいのでござる。」
なるほどね。獣人でなければ入りづらいのね。
馬車は、スラム内の古びた建物の前で止まった。
「ここは?」
「おそらく、孤児院でしょう。スラムの身寄りのない子供を面倒見ているらしいです。」
エリカが答えた。
先日、路上で物乞いをさせられていた人犬の子供達を思い出した。
そう言えば、ブンザさんが、ドレンチは「孤児院を借金でがんじがらめにして支配している。」と言っていたな。
孤児院の敷地には、母屋と離れがあったが、タンジは、離れを指さしながら、もう一人の男に何かを説明しているようだ。
「ナビ、音声を拾えないか?」
『音声収集は可能ですが、対象に接近する必要があります。』
「ナビ、接近せずに、この位置から音声を拾え。」
『了解』
(ビユー・あ・・・、こ・・・・だ。(・か・・・こ・・か・)・・まさ・・・で・・・だれも・・・)
なんと言っているかわからなかったが、タンジ達は数秒で、その場を離れて馬車に乗った。
「ナビ、雑音を排除、人の音声のみのデータにして、再生しろ。」
『了解、再生します。』
『あさってのよ・・ここ・、取り引きだ。(わかっ・・・ここ・・、大丈夫か・)・・まさか孤児院で取引・・・だれも・・・』
「きっとこういうことだ『あさっての夜、ここで取引、まさか孤児院で取引とは誰も思わないだろう。』間違いないね。」
三人衆が目を丸くして俺を見ている。
「ん?どうした。?」
「いや、相談役殿の、的確な差配、機転の良さ、頭脳明晰な行動に感服仕ったのでござるよ。」
ダンゾウの言葉にエリカもドウジュンも深く頷いている。
「いや、先祖譲りの道具が良いだけだ。」
「いえいえ、道具を使う者の技量がなければ、意味がありませぬ。相談役殿は指揮能力が人一倍長けてござる。」
そういえば、自分で言うのも可笑しいが、このところの俺は、高校生の能力を超えている。
身体的にもそうだが、頭の回転が早くなった気がする。
前の世界では、ぬるま湯で、のんべんだらりの生活をしてきたが、この世界の熱湯に使って、頭の方も成長したのだろうか?
その後も監視を続けたが、タンジは事務所に帰り、タンジと一緒だった男も、街の教会へ入って動かなかった。
「ナビ、各ドローン収納、録画データをキューブにも送っておけ。」
『了解』
俺は三人衆をウルフから降ろしてウルフを収納した。
「今日は、もう何もないだろう。念のために事務所の見張りを残して、後は撤収しろ。」
「「「はい。」」」
エリカを残して二人が闇に消えた。
俺はエリカと二人で、旧社屋、つまり俺の現在の家まで帰って来た。
「ご苦労、エリカ帰っていいぞ。」
「はっ」
エリカも帰って行った。
エリカを見送る俺の背中に何か熱い視線を感じた。
「シン様、どこまで行かれてたんです~」
アヤコだ。
「仕事だよ。シゴト」
「そうですか~?ずいぶん遅くまでの残業ですね~」
(なんなんだよ・・ちょっと怖いぞ・・・)
「ああ、そうだな。明日早いから寝るわ、オヤスミ!」
「おやすみなさ~い。・・・」
朝起きて社員食堂で朝食を取っていたところ、ブンザさんが隣に座った。
「相談役、おはようございます。」
「おはようございます。ブンザ隊長。」
「昨日は失礼しました。」
「何です?」
「ケンゾウ部長が、新相談役のことを、なにやら勘違いして・・」
(ああ、あのエロジジイのことね・・)
「いえいえ、俺は何も迷惑していないですよ。それよりブンザ隊長もあのジ・・あの部長の前では、子ども扱いですね。フフ」
「そうなんですよ。幼い頃、オシメも替えてもらっていたほどですから、いくつになっても逆らえないのです。」
ブンザさんは満更でも無いようだ。
あのエロジジイとブンザさんには、俺の知らない、良い歴史があるのだろう。
「ところで、仕事がはかどっているそうですね。」
「ええ、ここでは話せませんが、ある程度のことは、わかりました。詳しくはあのエ・・ケンゾウ部長に聞いてください。」
ケンゾウ部長は俺より階級が上だが、どうしてもジジイとかエロジジイと言いたくなってしまう。
「おはようでがんす。今日も良い天気でやんすな。」
ドランゴさんがやって来た。
ドランゴさんとブンザさんは、親友だが、二人の、どこに接点があったんだろう。
今度酒の場で聞いてみよう。
「ドランゴ、お前また二日酔いだろ。飲みすぎるなよ。」
「何を言ってるでがすか。ブンザこそまだまだ顔が赤いでやんすよ。」
「そんなことはない。昨夜はちょっとしか飲んでないぞ。」
相変わらず二人の仲は良い。
「兄ちゃん、お客さんだよ。」
「ニイニ、オキャク」
ピンターとルチアが迎えに来た。
俺は昨日遅かったので、ゆっくり寝ていたが、二人は先に食事を済ませてキューブへ戻っていたのだ。
(誰だろう?)
キューブへ戻ると、エロジジイが待っていた。
「昨夜はご苦労じゃった。ダンゾウ達から報告を受けたが、タンジの取引相手の『絵』を描いたらしいの。それを見てみたいのじゃ。」
「わざわざ、おいでにならなくても、こちらから、伺いましたのに。」
爺さんが言う「絵」というのは、昨日、ドローンで撮影した録画映像のことだろう。
録画は、ウルフでも、キューブの地下でも見れるが、ウルフを出すのは面倒だし、エロジジイといえども、キノクニの情報部長だ。
口は軽くないだろう。
「いや、カヘイにも用事があったでな。ついでといっちゃなんじゃが、幾つか気になることもあるでな。」
ということで、爺さんをキューブの地下室へ案内した。
この場所へは仲間以外で入った人間はいない。
爺さんを地下室に案内して、タイチさんを呼び出した。
「タイチさん、すみません。」
ブォン
タイチさんのフォログラムが出た。
「うおぃ、久しぶりだな。何の用だ?」
爺さんが驚いている。
「こちら様は?」
「ああ、俺の先祖様です。」
「これはこれは、初めまして、ケンゾウ・ハットリと申しますじゃ。よろしくお願い申し上げます。」
爺さんがかしこまっている。
「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします。」
フォログラムのタイチさんが頭を下げた。
なんだか可笑しかった。
「タイチさん、昨日のウルフの映像みせてくれませんか?」
「いいぞ。」
タイチさんが引っ込んでスクリーンが出た。
事務所から出てきたドレンチ、タンジ、そして見知らぬ3人が次々とアップにして映し出された。
「やはりのぅ。・・・」
「この3人に見覚えがあるのですか?」
爺さんは顔の皺を更に増やした。
「ある。枢機卿『ラグニア』の部下じゃ。」
(枢機卿って教皇の次に偉い教会の幹部のこと?)
「これは、思ったより闇が深いのぅ・・・」
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