異世界修学旅行で人狼になりました。

ていぞう

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第四章 首都ゲラニ編

第61話 ケンゾウ・ハットリ キノクニ情報部長

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不動産屋で子供をいたぶるチンピラ共と喧嘩になったが、子供達を救ってやることは出来なかった。

いたぶられていたのは、街頭で物乞いをしていた子供達だ。
おそらく、組織的に子供に物乞いをさせて、その上がりをヤクザ共が巻き上げているのだろう。

その子供達も俺がチンピラ達を相手にしている隙に逃げていた。

腹立たしいし、悔しいが、俺には、その汚い金儲けの仕組みを壊すことは出来ない。
今はまだ・・・

不動産屋を出ると、懐かしい気がする良い匂いが漂ってきた。
目の前の

『マイヤ食堂』

から、そのいい匂いが流れてくる。
特にルチアは、漂っている匂いが気になるのか、さっきから鼻をヒクヒクさせている。

まだ昼前だが、さっきから漂ってくる良い匂いに負けそうだ。
俺はピンターとルチアに顔を向けて

「ご飯食べていこうか?」

と言った。
ピンター達は頷いた。

「「ゴハン、ゴハン♪」」

俺達がマイヤ食堂のドアを開けると、そのいい匂いが俺達の鼻腔をくすぐった。
店の広さはテーブル席が4つ程、カウンターが5席ほどの、こじんまりとした食堂だった。

「はい。いらっしゃい。こちらへどうぞ。」

店員のおばちゃんが、テーブル席へ案内してくれた。

席に着く途中、他の店員がカウンター席の客に運ぶ料理を見て驚いた。
良い匂いの正体は、その料理だった。
ラーメンだ。

俺の心は躍り上った。
もう一年以上ラーメンを食べていない。
いつからそうなったのか知らないが、俺の中で、ラーメンは

『ソウルフード』

となっている。
席について、セルフの水を汲んできてから、店員を呼び止めた。

「すみません、あのお客さんと同じものを3つ下さい。」

店員が調理場向けて

「アイヨ!メンツユ3杯入りました。」

と言うと、調理場から

「アイヨ!メンツユ3杯ライライ」

この世界、この国ではラーメンのことを『メンツユ』というらしい。
わかるような気もする・・・
ほどなくラーメンが運ばれてきた。
スープは透明で黄金色、面は細麺でストレート、具はモヤシ等の現地野菜、キクラゲの様なキノコ、半熟の煮卵、それとチャーシューが3枚。

レンゲでスープを一口すすると、魚貝類のダシが効いたアッサリ醤油系だ。
箸はなくフォークで麺を持ち上げたが、魚貝の良い匂いが広がる。
麺は腰があって、スープを纏った味は最高だ。

「ニイニ、オイシイ。」

「兄ちゃんウマイこれ!」

二人とも気に入ったようだ。
麺とスープも抜群だがチャーシューがこれまた美味かった。

3人でラーメンを食べていると、店員のおばちゃんが、鶏肉の揚げ物が入った小皿をテーブルに置いた。

「店主が、サービスだってさ。」

おばちゃんが、調理場の男を見ながら、そういった。
調理場の男は、こちらを見てニコニコしている。

「なんのサービス?」

俺が不思議に思って、おばちゃんに尋ねた。

「にいちゃん、さっき、あの馬鹿どもを懲らしめただろ?それさ。」

おばちゃんは、小声で囁いた。

さっきの野次馬の中に、ここの店主もいたらしい。
客も少なかったので、おばちゃんが小声で教えてくれた。

あいつらは、不動産業を表に構え、裏では、商店街の各店舗から用心棒代と称して上納金を巻き上げたり、近くの孤児院を借金でがんじがらめにして、子供達に物乞いをさせたりしている地元の鼻つまみだそうだ。

他にも裏でいろいろ悪さをしているらしいが、組織が大きくて地元の警察も手を出せないらしいのだ。

(どこにでもいるダニだな・・・)

「おばちゃん、タイショウ、ごちそうさまでした。また来ます。」

(ラーメン美味かった。また来よう・・)

宿舎に帰りつくと、ドルムさんと、ドランゴさんが、待ち構えていた。

「ソウ、あったぞ、いい物件」

「え、もう見つけたんですか?」

「ブンザに相談したら、一発でやんした。」

俺は、ドルムさん達に案内されて、その物件を見に行った。
その物件は、キノクニ社屋の裏手にあった。
敷地は広く、少し古びていたが、しっかりした2階建てで、一階に部屋が10位は、ありそうだ。

建物の裏には、キューブがすっぽり入りそうな巨大な倉庫がある。
建物と倉庫は5メートルくらいしか離れていない。

「なんです?ここ」

「キノクニの旧社屋で、今の持ち主はブンザだそうだ。」

「キノクニが事業拡大する前の社屋で、今の社屋が出来てからは、ほとんど使ってないそうでやんす。」

「条件にピッタリですが、いいのかな?」

「いいんじゃねぇか?別にタダでもらおうってんじゃねぇ。しっかり代金払えば、問題ないだろ。」

そうだよね、べつにブンザさんに甘えるわけじゃないよね。
ここなら、子供達お気に入りの社員食堂にも通えるし。

「良いですね、ここに決めましょう。ブンザさんに会ってきます。」

俺は一人で、新社屋へ向かった。
ブンザさんは、一階の応接室に居た。

「シンです。入ります。」

「どうぞ。」

応接室には、ブンザさん、カヘイさん、そして俺の見知らぬ人が居た。

「あ、お客さまでしたか、又後にします。」

「あ、相談役、待って、ちょうど貴方を呼びに行こうとしていたところです。」

何だろう?

見知らぬ男は身長170センチくらい、やせ形で髪を七三に分けて、整った服装をしている。
その男が立ち上がってこちらへ近づいた。

「初めまして、私は『サルト』と申します。ラジエル侯爵の執事をしております。」

「はい。私はキノクニ相談役の『シン』と申します。よろしくお願いします。」

「シン相談役もそこに座って。」

ブンザさんは、俺の事を人前では「相談役」とか「シン相談役」と呼ぶ。

「ちょうどいいところに来た。相談役の力を借りようと思っていたところだ。」

「何でしょう?」

「私からお話ししましょう。」

サルトさんが、話し始めた。

「私が使えるラジエル侯爵は、この国の運営に深く関わっておりまして、その役目の一つに、『街の治安維持』があります。

もちろん、この街には警察機構もあるのですが、うまく機能していません。うまくいかない原因は、いろいろありますが、私の口からは申せません。

今、この街にのしかかる大きな問題があります。それは麻薬です。ここ2~3年、他国から大量の麻薬が流入しています。麻薬は巷にあふれ、若者は、それに溺れています。なんとか麻薬の流入を阻止したく、ご相談にまいったわけです。」

つまり物流の要のキノクニの協力を得て、麻薬の流入を防ぎたいということだ。
俺はブンザさんを見た。

「それで、私の役目は?」

「相談役の役目は、情報部の補佐です。うちの情報部が近々大きな麻薬取引の情報を掴んでいます。
取引前の麻薬の位置情報をつかんで、サルト様に知らせるのが、キノクニの役目、その情報部の補佐をお願いしたいのです。」

「はい。わかりました。」

俺は迷うことなく引き受けた。
敵が魔物であろうと、ドラゴンであろうと(アウラ様級なら少し考えるが・・)大恩あるキノクニのためなら、体を張ることなどなんでもない。

ましてや、相手は犯罪組織といえども魔物より力のない人間だ。
返事をためらう要素が何もない。

「シン相談役の返事は、いつも心地良いの。フォフォ」

カヘイさんが笑っている。

「ありがとうございます。さっそく主人に報告いたします。詳しいことはまた後程」

サルトさんは、礼を言って部屋を出た。

「ソウ様、無理なお願いをしたのではないですか?」

ブンザさんが少し心配そうな顔をしている。

「何も無理ではないです。大恩あるキノクニの為に働ける機会を与えてもらい、感謝しているくらいです。」

俺の言葉が、お世辞や、おべんちゃら、ではないことをブンザさんならわかっているはずだ。

「そう言っていただけると助かります。」

「キノクニとラジエル公爵とは持ちつ持たれつの関係じゃ、ソウ殿が良い返事をくれて助かっているよ。」

カヘイさんが頭を下げた。

「ところで敵の目星はついているのですか?」

「ええ、だいたいのことは判っています。街で麻薬を売っているのは、ドレンチの手下ですから、ドレンチを辿れば、敵の全体像が見えてくるはずです。」

「ドレンチって、不動産屋の?」

「あら、ドレンチをご存じですか?さすがソウ様。」

俺は今日あった出来事をブンザさん達に話した。

「そうですか。あの子供たちは、本来「タタル」という姓の老夫婦が営んでいる孤児院の子供達なんですが、質の悪い借金に引っかかって、子供たちが無理やり働かされているそうなんです。」

俄然やる気が湧いてきた。

「警察は何をしているのですか?」

「さっきサルト様が言えなかったことですが、警察は上層部が買収されていて、ドレンチ達に手が出せないそうなのです。ドレンチの上には貴族が控えているとも噂されています。」

ますますやる気が湧いてきた。

「それで俺は具体的に何をすればいいのですか?」

「はい、後で引き合わせますが、キノクニ情報部の「ケンゾウ」部長の指揮下に入ってもらえませんか?」

キノクニの組織は金筋5つがカヘイさん、金筋4つが、情報部長、経理部長、営業部長、交渉部長、の4人、金筋3本が俺と、ブンザさん達キャラバン隊長12人、各部の次長級4人だ。

俺は今、組織的には営業部長の配下だが、金筋5つのカヘイさんの命令で、一時的に情報部長「ケンゾウ」さんの指揮下に入るわけだ。

「わかりました。一時的に情報部所属になるわけですね。指示に従います。・・それはそうと、ブンザさん、旧社屋、いいのですか?」

「ええ、解体するかどうか迷ってたくらいですから、何の問題も無いです。というより助かります。ソウ様達が近くに住んでくれて。」

「それで、いくらお支払いすれば。」

「そうですね。タダでは居心地が悪いでしょうから、金貨100枚でどうです?」

安すぎる。

少なく見積もっても金貨3、000枚の価値はある。

「安すぎます。金貨3、000枚でどうです?」

「いや高すぎます。」

二人のやり取りを見てカヘイさんが笑っている。

「ふぉっふぉ。買い手が値上げをもちかけ、売り手が値下げを乞う。こんな商売、生まれてこの方見たこと無いわい。
埒があかないから、こうしたらどうじゃ?今回のソウ殿の任務で報奨金1、000枚をワシが出す。
ソウ殿は自腹で1、000枚出す。ブンザは相場3、000の所を2、000で売るがよい。だれも損得なしじゃ。」

名案だ。

「「そうしましょう。」」

契約成立だ。

「それでは、さっそく情報部へ案内しましょう。」

俺は、社屋内のほぼ全ての部屋をまわって挨拶はすませてあるが、情報部へ入るのは初めてだ。
そもそも情報部ってこの社屋にあったっけ?
ブンザさんは社屋を出て、厩舎へ向かった。
情報部は遠いのだろうか?

「遠くにあるのですか?情報部」

「ええ、情報本部は、貴族街にあります。部員は各地にちらばっていますけどね。」

貴族街というのは、ゲラニの中心部の石垣で囲まれた一帯で、金持ちの平民も住んでいるが、主に、高級貴族の住宅街だ。
城に近くなるほど、高貴な人々が暮らしている。
貴族街への門扉はキノクニの半纏を見ただけで開いた。

「ここです。」

ブンザさんは、高級住宅街の一角の屋敷を指さした。
外見は周囲に溶け込んだ綺麗な住宅で、門番などはいなかった。
ブンザさんが、正面玄関をノックして

「ブンザだ。」

と名乗ると扉が開いた。
扉の内側には、動きに隙の無い男二人が立っていた。

「ケンゾウ部長は、おいでか?」

「はい。二階の事務室においでです。」

俺とブンザさんは、二階へ上がり、二階の一番奥の部屋をブンザさんがノックした。

「ブンザです。」

「どうぞ。」

中から老人らしき声がした。
部屋の中に入ると、80歳前後の白髪頭の身なりが整った老人が出迎えてくれた。
身なりは整っているが、見てくれはなんとなく、田舎の爺さんといった感じだ。

「お嬢、久しぶりじゃて。元気にしとったか?」

そう言いながら爺さんは俺を見た。

「こっちは?・・・おう。いよいよか?良い男を見つけたか?」

爺さんは何か勘違いをしているようだ。

ブンザさんは顔を赤らめた。

「違いますよ。ケンゾウ様、こないだからお話ししているシン殿ですよ。何勘違いしているんですか。」

爺さんは、突然ブンザさんの尻をなでた。

「こんな良い尻をしてるのにのう。」

ブンザさんは爺さんの手を叩いた。

「ケンゾウ様!!」

さして嫌がってはいない。
なれているようだ。

爺さんが俺に向き直った。

「ワシがケンゾウ・ハットリじゃ。ブンザが世話になったらしいのう。ワシからも礼を言うぞい。」

あらかじめ聞いていたが、ケンゾウ・ハットリは、カヘイさんとキノクニを立ち上げた創業者の一人で、ブンザさんは、幼い頃から、このハンゾウさんに世話をしてもらっていたそうだ。

「ま、かけなさい。」

爺さんの進めるソファーに腰かけた。

「要件は既に聞いておる。麻薬じゃな。ここ2~3年、で急激に大量の麻薬がこの街に流れてきた。流入ルートはだいたいわかっとる。証拠がないが元締めも目星がついとる。」

ブンザさんが身を乗り出す。

「誰です?」

「大声では話せん。近こう寄れ。」

ブンザさんが爺さんに顔を近づける。

「ぶちゅ」

爺さんがブンザさんのほっぺにキスをした。

さっき言った『田舎の爺さん』は訂正する『田舎のエロジジイ』だ。

「もう~」

ブンザさんは怒らない。
日常の行事なのか?

「アハハ、あいかわらず、柔らかいのう。」

(そんなこといいから早く話せよ爺さん。)

「話を勧めよう。黒幕は、おそらく『ゼニス』じゃ。」

ブンザさんが息をのむ。
ゼニスというのは、このゲラン国宰相「ゼニス・フォルド」のことだ。

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