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第四章 首都ゲラニ編
第59話 カヘイ・キノクニ やたのカガミ
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宴会の翌日、俺は寄宿舎の寝床で目覚めた。
今日はいよいよ、ブルナの行方を探す日だ。
ブルナの行方の手掛かりは、奴隷商『ベスタ』が握っている。
ベスタの経営する奴隷売買の店はキノクニから北にある繁華街の外れにあることはあらかじめ調べていた。
宿舎を出る際にピンターが一緒に行きたがったが、俺は奴隷商へピンターを連れて行く気にならず、ピンターには留守番をさせた。
姉の事が気になるのは当然だが、ピンターにはこの世の中の汚さ、暗さを、できるだけ体験させたくなかったのだ。
ドルムさんも「ついて行こうか?」と言ってくれたが、留守番をお願いした。
集積所から住宅街を通り、下町の中心部にある繁華街を過ぎたところに『ベスタの店』があった。
誰かの旧邸跡を買って再利用したのか、建物の造りは立派だった。
入り口には2人の門番が居た。
門番が立ち塞がった。
「今日は競売の無い日です。またお越しください。」
言葉は丁寧だが、どこかの荒くれどもと同じような態度、匂いだ。
競売と言うのは、奴隷のオークションだろう。
決まった日に奴隷の競り市が開かれるとは聞いていた。
「奴隷を買いに来たのではない。ベスタに用がある。通してくれ。」
「予約はありますか?」
「予約はしてないが、これがある。」
俺はブテラの奴隷商『グブタ』に書いてもらった紹介状を出した。
門番の一人が俺から書状を受け取りながめた。
「確かに、グブタさんの紹介状です。少し待ってください。」
門番の一人が紹介状を持って屋敷に消えた。
何分か門で待った後、屋敷内へ通された。
「どうぞ。」
屋敷内は、入ってすぐステージのある大広間、大広間の左右に扉がある。
おそらくここで、奴隷の競売が行われているのだろう。
オークションの様子を想像してしまい、俺は少し気分が悪くなった。
ステージ右側の客間に通されると、そこには眼鏡をかけた小ぶりな中年の男が居た。
その男は燕尾服を着て、手にステッキを持っていた。
(あれ?どこかで見たよう男だな・・・)
「ようこそ、お客様、当主のベスタでございます。ブテラでは弟がごひいきにあずかったそうで、お礼申し上げます。」
ベスタはブテラの奴隷商人『グブタ』の兄だった。
二人は瓜二つ。
双子かもしれない。
俺のツインズに比べたら月とスッポンだが。
「書状を確認いたしました。ブルナという奴隷をお求めだそうで。先ほどさっそく確認しましたが、確かに帳簿にございます。
これより転売交渉に入りますが、ご予算はいかほどで?」
金に糸目は付けない。
と言いたかったが、それではいくらでもむしられそうな気がしたので、とりあえず。
「金貨500枚までなら出せる。それ以上なら相談してくれ。」
「わかりました。それではさっそく転売交渉に入りますが、相手様の都合をおうかがいしておりませんので、とりあえず一週間ほどの猶予を下さい。
成功したか否かにかかわらず、ご報告は致します。万が一早期に交渉が決着した場合は、どちらにお知らせすればよろしいでしょう?」
「俺はキノクニのシンだ。社屋へ知らせてくれ。」
ブンザさんに甘えて良かった。
無職のホームレスだと面倒なことが多いだろう。
「わかりました。つきましては諸費用として金貨10枚。前金でお願いいたします。
なお、成功すれば交渉額の一割をいただきます。」
俺は無言で金貨10枚をベスタに渡した。
「毎度ありがとうございます。それでは一週間後に・・」
「念のために聞いておく、ブルナはこの街に居るのか?」
「特別サービスでお教えしましょう。この街におります。裕福な暮らしをしておいでですよ。」
裕福な暮らし?
どういうことだ?
俺はベスタの屋敷を出て、元来た道を帰った。
「兄ちゃん、どうだった?」
ピンターが駆け寄ってきた。
「ああ、ブルナはこの街に居る。元気だそうだ。」
ピンターの目から涙が零れる。
ピンターとブルナはクチル島で奴隷にされ、塩田で別れ別れになってから1年以上が過ぎている。
その姉が、自分が今いる街で生存している。
そのことだけで涙が出たのだろう。
無理もない。
ピンターは奴隷になってから今まで、あまりブルナや両親の話をしなかった。
泣いたとて、愚痴をこぼしたとて、現状は変わらないし、口に出せば悲しく、また俺の負担になる。
ピンターは幼いながらもそのことを気にかけていたに違いない。
(ピンター、もうすぐ思い切り泣かしてやるからな・・・)
宿舎で出された昼食を取った後、アヤコが来た。
「シン様、カヘイ様がお呼びです。」
カヘイ・キノクニ、この商社の総領、つまり社長だ。
俺達は昨日、正式にキノクニの構成員になったが、カヘイ社長は不在でまだ挨拶をしていなかった。
「わかった。すぐ行く。」
俺はキノクニの正装、キノクニ半纏を羽織った。
袖には金筋3本。
キャラバン隊長格の印だ。
俺のキノクニの役どころは
『相談役』
役員待遇だ。
俺の個人的な事情で、キャラバンへ同行することは出来ないが、その隊長格として雇ってもらったのだ。
将来、なんとしてもこの恩を返そうと思っている。
アヤコの案内で社屋の二階、俺達の世界で言えば企業の会長室のような場所へ案内された。
ドアを開けると広めの土間があった。
そこでいったん立ち止まり、奥の和室にいる人物に対し
「ソウです。入ります。」
と敬礼した後、靴を脱いで部屋へ入った。
「ほうほう。お若いのに礼儀正しい。ブンザの言うとおりですな。カヘイです。よしなに願います。」
カヘイと名乗る老人は80歳前後、白髪の総髪を後ろに束ねている。
眉毛は濃く太く顔は皺だらけだが、威厳のある目をしている。
和風な顔立ちで時代劇に出てくるご隠居様、といった感じだ。
俺は獣化を解いて17歳の俺に戻ってカヘイさんの前で正座した。
「はじめまして、ソウ・ホンダと申します。ブンザ隊長に拾われました。よろしくお願いします。」
俺は素顔で本名を名乗った。
この人達には何も隠し事をしてはいけないと思ったからだ。
アヤコが驚いているが、ブンザさんが信用している部下だ。
問題は無いだろう。
「これは、これはご丁寧に。ブンザが拾ったと申されましたが、拾われたのはキノクニの方だと聞いておりますぞ。事実そのとおりだと思っております。」
「そのように言って頂けると、心が落ち着きます。」
「ブンザから聞きましたが、ご苦労を重ねられたそうですな。」
俺はカヘイさんに対して、飛行機墜落からこの街に到着するまでのいきさつを洗いざらい話した。
「今、お話ししたとおり、私は人殺しの罪で追われています。それでも、ご厄介になってよろしいのでしょうか?」
俺はキノクニ一員として迎えてもらうことの最大の懸念をカヘイさんに伝えた。
「ソウ殿、貴方は、そのダニクという御仁を殺められましたか?」
「いいえ、けっして殺めておりません。」
「ブンザはそのことを確信しております。それだけで十分でございますよ。フォフォ」
ブンザさんが頷いている。
「それに、いよいよとなれば、私が国とかけあいましょう。この国の裁判所には、ブンザと同じ『真偽判定』の加護を持つものが何人かおります。その者たちに確かめさせれば問題ないでしょう。」
いざとなれば正式裁判で無実を証明してくれるというのだ。
ありがたかった。
話題は、俺の故郷の話になった。
俺は日本史をあまり勉強していなかったが、日本という国の成り立ちを、大まかに話した。
「ほう。ソウ殿の話は興味深いですな。私の故郷『ヤマタイ』の成り立ちによく似ている。違うのは世界大戦のくだりでしょうな。その他の歴史文化は、良く似ております。」
カヘイさんは、後ろを振り返った。
そこには『床の間』があって、掛け軸と金属製の円盤が飾られていた。
掛け軸には
『天照大神』
と書かれている。
漢字にうとい俺だが、その字は読めた。
「アマテラス オオカミ」
声に出した。
カヘイさんが、驚いたようだ。
「ほほう。この文字が読めますか。ヤマタイ以外でこの文字を読める者は、ほとんどおりません。」
「その鏡も先祖代々の物ですが、私にはなにやらわかりませぬ。」
俺はカヘイさんに言われて、目の前にある円盤が鏡だと初めて知った。
「カヘイ様、その鏡、手にとってもよろしいでしょうか?」
「どうぞ、どうぞ」
俺は鏡を手に取り眺めた。
鏡からは魔力ではないが大きな力を感じた。
その鏡は中学校の頃、日本史の教科書に載っていた鏡の写真に似ていた。
鏡の大きさは直径45センチ位、鏡の裏には直径が異なる正円の線がいくつも書かれ、中心の飾りを取り囲んでいる。
中心の飾りは椿の花のガクのような模様が放射状に広がり、その真ん中に直径3センチくらいの半球がある。
鏡を立てかけている木製の枠には
『八尺鏡』
と書いている。
(ハッシャク カガミ?)
どう読むのかわからなかった。
イツキにでも見せれば判るのにな・・・
「この鏡の他に2種類の神器があったそうですが、今ではどこへいったののかわからないのです。」
この鏡の他に2種・・
合計3種・・
3種の神器
(聞いたことあるな。)
「我々の先祖は、この3種の神器を持って、この世にあらわれたと聞いております。まぁ神代の話ですけどな。」
俺は鏡を元に戻しながら、カヘイさんに尋ねた。
「カヘイ様はヤマタイから、ここへ移り住まれたのですか?」
「そうですな。私の記憶にないくらい幼い頃、両親に連れられて、この国へ来ました。
着ましたと言うよりは、船で遭難して、ここへ流れ着いたというのが正解でしょう。
ブテラの東に流れ着いたそうです。」
カヘイさんは、はるか遠くを見るような目をしている。
「ソウ殿、我々には、何か不思議な縁があるように思えますのじゃ。今後もお互い助けおうて、生きていきましょうぞ。ブンザをよろしくお願いいたしまする。」
カヘイさんが正座をして頭を下げた。
俺も正座して頭を下げた。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。」
俺は、ブンザさんとカヘイさんを残して会長室を後にした。
(いずれ、ヤマタイへいってみるべきかもな・・・)
「シン副たいちょ♪」
アヤコがニコニコしている。
「なんだ。アヤコ、にやけて。」
「え、だってシン様、本当は私と同い年くらいでしょ?これで年齢問題も解決です。ウェヘヘ。」
俺は今17歳になっているはずだ。
アヤコは実際の俺の年齢よりも上に見える。
「アヤコ、お前何歳だ?」
「花も恥じらう18歳でーす。」
俺より一コ上だ。
「ところで、年齢問題ってなんだ?」
「あーもう。わかっているくせに。」
(わからねぇよ!)
もしかして、もしかするのか?
(この問題には触れないでおこう。)
「アヤコ、判っているとは思うが、今の出来事は誰にも言うなよ。」
「わかってますってば。二人の秘密ですよね。ウェヘヘ」
(二人だけの秘密ではないのだが・・・)
それにしても気になるのは、カヘイさんの部屋にあった鏡、何か大きな力を感じるし
「八尺鏡」
という文字も昔見た気がする。
しかし、どこで見たのか、どうしても思い出せない。
いつかイツキと合流したら、イツキに見せてみよう。
俺は、その夜、宿舎の寝床で珍しく夢を見た。
とある街を竜巻が襲う。
その竜巻の渦は黒く中心部は青と赤の光が瞬いている。
あの時、俺達の乗っていた飛行機を襲った渦と同じだ。
多くの人々がその竜巻から逃れようとするが、竜巻の勢いは強く、ほとんどの人が竜巻にのまれた。
俺はそれを、上空から第三者的な目で見ている。
一人の女性が赤ん坊を抱えて逃げる。
その女性と赤ん坊が共に竜巻に飲まれた時、そばにいた男が叫んだ。
「ふみこーぉぉ」
そこで目が覚めた。
(なんだったんだ?今の夢)
今日はいよいよ、ブルナの行方を探す日だ。
ブルナの行方の手掛かりは、奴隷商『ベスタ』が握っている。
ベスタの経営する奴隷売買の店はキノクニから北にある繁華街の外れにあることはあらかじめ調べていた。
宿舎を出る際にピンターが一緒に行きたがったが、俺は奴隷商へピンターを連れて行く気にならず、ピンターには留守番をさせた。
姉の事が気になるのは当然だが、ピンターにはこの世の中の汚さ、暗さを、できるだけ体験させたくなかったのだ。
ドルムさんも「ついて行こうか?」と言ってくれたが、留守番をお願いした。
集積所から住宅街を通り、下町の中心部にある繁華街を過ぎたところに『ベスタの店』があった。
誰かの旧邸跡を買って再利用したのか、建物の造りは立派だった。
入り口には2人の門番が居た。
門番が立ち塞がった。
「今日は競売の無い日です。またお越しください。」
言葉は丁寧だが、どこかの荒くれどもと同じような態度、匂いだ。
競売と言うのは、奴隷のオークションだろう。
決まった日に奴隷の競り市が開かれるとは聞いていた。
「奴隷を買いに来たのではない。ベスタに用がある。通してくれ。」
「予約はありますか?」
「予約はしてないが、これがある。」
俺はブテラの奴隷商『グブタ』に書いてもらった紹介状を出した。
門番の一人が俺から書状を受け取りながめた。
「確かに、グブタさんの紹介状です。少し待ってください。」
門番の一人が紹介状を持って屋敷に消えた。
何分か門で待った後、屋敷内へ通された。
「どうぞ。」
屋敷内は、入ってすぐステージのある大広間、大広間の左右に扉がある。
おそらくここで、奴隷の競売が行われているのだろう。
オークションの様子を想像してしまい、俺は少し気分が悪くなった。
ステージ右側の客間に通されると、そこには眼鏡をかけた小ぶりな中年の男が居た。
その男は燕尾服を着て、手にステッキを持っていた。
(あれ?どこかで見たよう男だな・・・)
「ようこそ、お客様、当主のベスタでございます。ブテラでは弟がごひいきにあずかったそうで、お礼申し上げます。」
ベスタはブテラの奴隷商人『グブタ』の兄だった。
二人は瓜二つ。
双子かもしれない。
俺のツインズに比べたら月とスッポンだが。
「書状を確認いたしました。ブルナという奴隷をお求めだそうで。先ほどさっそく確認しましたが、確かに帳簿にございます。
これより転売交渉に入りますが、ご予算はいかほどで?」
金に糸目は付けない。
と言いたかったが、それではいくらでもむしられそうな気がしたので、とりあえず。
「金貨500枚までなら出せる。それ以上なら相談してくれ。」
「わかりました。それではさっそく転売交渉に入りますが、相手様の都合をおうかがいしておりませんので、とりあえず一週間ほどの猶予を下さい。
成功したか否かにかかわらず、ご報告は致します。万が一早期に交渉が決着した場合は、どちらにお知らせすればよろしいでしょう?」
「俺はキノクニのシンだ。社屋へ知らせてくれ。」
ブンザさんに甘えて良かった。
無職のホームレスだと面倒なことが多いだろう。
「わかりました。つきましては諸費用として金貨10枚。前金でお願いいたします。
なお、成功すれば交渉額の一割をいただきます。」
俺は無言で金貨10枚をベスタに渡した。
「毎度ありがとうございます。それでは一週間後に・・」
「念のために聞いておく、ブルナはこの街に居るのか?」
「特別サービスでお教えしましょう。この街におります。裕福な暮らしをしておいでですよ。」
裕福な暮らし?
どういうことだ?
俺はベスタの屋敷を出て、元来た道を帰った。
「兄ちゃん、どうだった?」
ピンターが駆け寄ってきた。
「ああ、ブルナはこの街に居る。元気だそうだ。」
ピンターの目から涙が零れる。
ピンターとブルナはクチル島で奴隷にされ、塩田で別れ別れになってから1年以上が過ぎている。
その姉が、自分が今いる街で生存している。
そのことだけで涙が出たのだろう。
無理もない。
ピンターは奴隷になってから今まで、あまりブルナや両親の話をしなかった。
泣いたとて、愚痴をこぼしたとて、現状は変わらないし、口に出せば悲しく、また俺の負担になる。
ピンターは幼いながらもそのことを気にかけていたに違いない。
(ピンター、もうすぐ思い切り泣かしてやるからな・・・)
宿舎で出された昼食を取った後、アヤコが来た。
「シン様、カヘイ様がお呼びです。」
カヘイ・キノクニ、この商社の総領、つまり社長だ。
俺達は昨日、正式にキノクニの構成員になったが、カヘイ社長は不在でまだ挨拶をしていなかった。
「わかった。すぐ行く。」
俺はキノクニの正装、キノクニ半纏を羽織った。
袖には金筋3本。
キャラバン隊長格の印だ。
俺のキノクニの役どころは
『相談役』
役員待遇だ。
俺の個人的な事情で、キャラバンへ同行することは出来ないが、その隊長格として雇ってもらったのだ。
将来、なんとしてもこの恩を返そうと思っている。
アヤコの案内で社屋の二階、俺達の世界で言えば企業の会長室のような場所へ案内された。
ドアを開けると広めの土間があった。
そこでいったん立ち止まり、奥の和室にいる人物に対し
「ソウです。入ります。」
と敬礼した後、靴を脱いで部屋へ入った。
「ほうほう。お若いのに礼儀正しい。ブンザの言うとおりですな。カヘイです。よしなに願います。」
カヘイと名乗る老人は80歳前後、白髪の総髪を後ろに束ねている。
眉毛は濃く太く顔は皺だらけだが、威厳のある目をしている。
和風な顔立ちで時代劇に出てくるご隠居様、といった感じだ。
俺は獣化を解いて17歳の俺に戻ってカヘイさんの前で正座した。
「はじめまして、ソウ・ホンダと申します。ブンザ隊長に拾われました。よろしくお願いします。」
俺は素顔で本名を名乗った。
この人達には何も隠し事をしてはいけないと思ったからだ。
アヤコが驚いているが、ブンザさんが信用している部下だ。
問題は無いだろう。
「これは、これはご丁寧に。ブンザが拾ったと申されましたが、拾われたのはキノクニの方だと聞いておりますぞ。事実そのとおりだと思っております。」
「そのように言って頂けると、心が落ち着きます。」
「ブンザから聞きましたが、ご苦労を重ねられたそうですな。」
俺はカヘイさんに対して、飛行機墜落からこの街に到着するまでのいきさつを洗いざらい話した。
「今、お話ししたとおり、私は人殺しの罪で追われています。それでも、ご厄介になってよろしいのでしょうか?」
俺はキノクニ一員として迎えてもらうことの最大の懸念をカヘイさんに伝えた。
「ソウ殿、貴方は、そのダニクという御仁を殺められましたか?」
「いいえ、けっして殺めておりません。」
「ブンザはそのことを確信しております。それだけで十分でございますよ。フォフォ」
ブンザさんが頷いている。
「それに、いよいよとなれば、私が国とかけあいましょう。この国の裁判所には、ブンザと同じ『真偽判定』の加護を持つものが何人かおります。その者たちに確かめさせれば問題ないでしょう。」
いざとなれば正式裁判で無実を証明してくれるというのだ。
ありがたかった。
話題は、俺の故郷の話になった。
俺は日本史をあまり勉強していなかったが、日本という国の成り立ちを、大まかに話した。
「ほう。ソウ殿の話は興味深いですな。私の故郷『ヤマタイ』の成り立ちによく似ている。違うのは世界大戦のくだりでしょうな。その他の歴史文化は、良く似ております。」
カヘイさんは、後ろを振り返った。
そこには『床の間』があって、掛け軸と金属製の円盤が飾られていた。
掛け軸には
『天照大神』
と書かれている。
漢字にうとい俺だが、その字は読めた。
「アマテラス オオカミ」
声に出した。
カヘイさんが、驚いたようだ。
「ほほう。この文字が読めますか。ヤマタイ以外でこの文字を読める者は、ほとんどおりません。」
「その鏡も先祖代々の物ですが、私にはなにやらわかりませぬ。」
俺はカヘイさんに言われて、目の前にある円盤が鏡だと初めて知った。
「カヘイ様、その鏡、手にとってもよろしいでしょうか?」
「どうぞ、どうぞ」
俺は鏡を手に取り眺めた。
鏡からは魔力ではないが大きな力を感じた。
その鏡は中学校の頃、日本史の教科書に載っていた鏡の写真に似ていた。
鏡の大きさは直径45センチ位、鏡の裏には直径が異なる正円の線がいくつも書かれ、中心の飾りを取り囲んでいる。
中心の飾りは椿の花のガクのような模様が放射状に広がり、その真ん中に直径3センチくらいの半球がある。
鏡を立てかけている木製の枠には
『八尺鏡』
と書いている。
(ハッシャク カガミ?)
どう読むのかわからなかった。
イツキにでも見せれば判るのにな・・・
「この鏡の他に2種類の神器があったそうですが、今ではどこへいったののかわからないのです。」
この鏡の他に2種・・
合計3種・・
3種の神器
(聞いたことあるな。)
「我々の先祖は、この3種の神器を持って、この世にあらわれたと聞いております。まぁ神代の話ですけどな。」
俺は鏡を元に戻しながら、カヘイさんに尋ねた。
「カヘイ様はヤマタイから、ここへ移り住まれたのですか?」
「そうですな。私の記憶にないくらい幼い頃、両親に連れられて、この国へ来ました。
着ましたと言うよりは、船で遭難して、ここへ流れ着いたというのが正解でしょう。
ブテラの東に流れ着いたそうです。」
カヘイさんは、はるか遠くを見るような目をしている。
「ソウ殿、我々には、何か不思議な縁があるように思えますのじゃ。今後もお互い助けおうて、生きていきましょうぞ。ブンザをよろしくお願いいたしまする。」
カヘイさんが正座をして頭を下げた。
俺も正座して頭を下げた。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。」
俺は、ブンザさんとカヘイさんを残して会長室を後にした。
(いずれ、ヤマタイへいってみるべきかもな・・・)
「シン副たいちょ♪」
アヤコがニコニコしている。
「なんだ。アヤコ、にやけて。」
「え、だってシン様、本当は私と同い年くらいでしょ?これで年齢問題も解決です。ウェヘヘ。」
俺は今17歳になっているはずだ。
アヤコは実際の俺の年齢よりも上に見える。
「アヤコ、お前何歳だ?」
「花も恥じらう18歳でーす。」
俺より一コ上だ。
「ところで、年齢問題ってなんだ?」
「あーもう。わかっているくせに。」
(わからねぇよ!)
もしかして、もしかするのか?
(この問題には触れないでおこう。)
「アヤコ、判っているとは思うが、今の出来事は誰にも言うなよ。」
「わかってますってば。二人の秘密ですよね。ウェヘヘ」
(二人だけの秘密ではないのだが・・・)
それにしても気になるのは、カヘイさんの部屋にあった鏡、何か大きな力を感じるし
「八尺鏡」
という文字も昔見た気がする。
しかし、どこで見たのか、どうしても思い出せない。
いつかイツキと合流したら、イツキに見せてみよう。
俺は、その夜、宿舎の寝床で珍しく夢を見た。
とある街を竜巻が襲う。
その竜巻の渦は黒く中心部は青と赤の光が瞬いている。
あの時、俺達の乗っていた飛行機を襲った渦と同じだ。
多くの人々がその竜巻から逃れようとするが、竜巻の勢いは強く、ほとんどの人が竜巻にのまれた。
俺はそれを、上空から第三者的な目で見ている。
一人の女性が赤ん坊を抱えて逃げる。
その女性と赤ん坊が共に竜巻に飲まれた時、そばにいた男が叫んだ。
「ふみこーぉぉ」
そこで目が覚めた。
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