異世界修学旅行で人狼になりました。

ていぞう

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第三章 キャラバン編

第56話 アンパン 一生ついていきます。

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ガンドール遺跡、旧神族の施設から攻撃を受けて、ピンターが負傷した。
怪我の程度は大きかったが、俺の血液を輸血することで、大事には至らなかった。

二日ほど野営をしたが、その間にピンターは、ほぼ回復した。

俺達はいつものようにウルフでキャラバンの殿を務めていたが、進行方向から騎馬が一騎近づいてきた。

伝令のアヤコだ。

俺はウルフを停車させた。

「どうしたアヤコ」

「シン副隊長、隊長からの伝言です。あと30分でグラダに到着するので、一番馬車と2番馬車に乗り換えるようにとのことです。」

アヤコの腰には俺がやった雷鳴剣があった。

「わかった。・・アヤコ、似合ってるぞ。」

俺は、アヤコの剣を持つ姿を誉めただけだが、なぜかアヤコは顔を赤らめた。

「ウェヘヘ ・・そうですか。嬉しいです。」

(アヤコは可愛いが、笑い方がちょっとな・・・)

俺はウルフを走らせ、先頭に追い付いた。
ウルフを畳み、仲間を1番馬車と2番馬車に乗り換えさせた。
30分程で、グラダの入り口に着いた。

グラダの入り口は思ったよりも小規模な検問所で、キャラバンはすんなりと街へ入ることができた。
グラダの街は人口1万人くらいの、中規模の街だ。

リバーツ大河を挟んで、南北に二つの街がある。
河の南岸は『リワナ』と呼ばれる農作を中心とする集落で、河の北岸は『セルレ』と呼ばれる商業地帯だ。

『リワナ」』と『セルレ』、この二つの集落が併さって『グラダ』という街を形成している。

リバーツ大河には石造りの橋があって、その北端に検問所があり、通行税を徴している。
この検問所は国防と税務署を兼ねているようで、橋を取り囲むように石造りの塀があり、塀の中央には、大きな扉がある。

警戒は厳重で、村の番所の数倍の兵士と、砦と言えるほどの待機所が出入国を管理している。
南岸の『リワナ』への入り口がさほど厳重ではない理由がわかった。

キャラバンは河の南岸『リワナ』で小規模な商売を行った後、橋を渡って、河の北岸『セルレ』へ入るため、検問所の敷地へ入った。

騎乗のブンザ隊長が先頭を務める。

「キノクニキャラバン、まかりとおる。」

ブンザ隊長が、検問所の門番に声をかける。

「ご苦労様です。お通り下さい。」

門番は礼儀正しかった。

さすがブンザ隊長、貫禄がある。
国の大臣が挨拶にくるだけのことはあって、門番もそのことを十分承知しているのだろう。
一番馬車が検問所を通り過ぎようとした時

「ブンザ殿、しばしお待ちを。」

検問所の奥から、上品な服を着た男が、ブンザ隊長を止めた。

ブンザ隊長は馬から降りた。

「これは、チクタ所長。わざわざの出迎え、ありがとうございます。」

『チクタ所長』と呼ばれた男は、少したじろいだ。

「あ、いや、出迎えと言うほどの事ではないが、少しお尋ねしたい。ウホン、これも役目にて・・・」

「はて、何でしょう?」

「実は、遺跡の調査隊から、報告があり、遺跡でキノクニキャラバンに助けられたと。その際、隊員の何名かが、『馬が無くても走る馬車を見た。神器に違いない。』と言っておる。」

ウルフのことだ。
俺は1番馬車で、成り行きを見守っていた。

「それが、もし神器ならば、国への届け出が必要であろう。それなりに課税もせねばならない。そのことを尋ねたいのだ。」

俺の殺人指名手配の件ではなかった。
神器を国へ持ち込むならば、届け出と税を納める義務が発生するらしい。

「確かに、神器を操る者をキャラバンの護衛として、雇っております。しかし、キノクニキャラバンに関しては、国の仕事も兼ねていることから、届け出はゲラニの検問所で行うべきもの。税も首都に納めるものと思っておりましたが、法が変わったのですかな?」

国の仕事と言うのは、塩の運搬の事だ。

「法は、変わっておらぬが、ほれ、戦争がまもなくはじまるので、警戒を強めておるだけじゃ。キャラバンも我らの庇護があれば、なにかと便利じゃろう?」

検問所長の挙動が不審だ。
落ち着きがない。

「左様ですね。お気持ちありがたく存じます。後で配下の者に田舎の饅頭でも持たせましょう。」

検問所長がにこやかな顔になった。

「そうか、いつもすまぬの。饅頭を楽しみにしておるぞ。」

(饅頭の箱の下には金貨が入ってるやつね・・・)

何処の世界でも腐った奴はいる。
検問所を通過して、町はずれの空き地にキャラバンの野営準備を始めた。
俺は、ブンザ隊長を探した。

「隊長、すみません。ウルフで迷惑を掛けましたね。」

隊長とアヤコが隊長のテントを設営していた。

「いえいえ、かえって手間が省けましたよ。ゲラニへあのウルフを正式に持ち込むには、結局許可証が必要でしたからね。饅頭ひと箱で、それが済めば安いものです。」

「さぞ、高い饅頭なのでしょうね。その費用、俺に任せてもらえませんか?」

「副隊長、これはキャラバンの必要経費です。お気遣いなく。ウルフの件が無くても、なにやかにやとせびられていたでしょうから。」

「そうですか・・」

「それより、シン副隊長、アヤコに大変な物を。私からもお礼申し上げます。」

雷鳴剣のことだろう。

「いいえ、アヤコにはピンターやルチアの世話など親切にしてもらっていますから、気になさらないで下さい。」

アヤコがニコニコしている。

「ウェヘヘ。アヤコの一生の宝物です。」

(だから、その笑い方、なんとかならない?)

翌朝、少し涼しい気候で、晴天だったことから、ピンター達を連れて散歩に出た。
めずらしいことにテルマさんもついてきた。
ここ2~3日のテルマさんは明るい。

野営地を出ると、すぐに朝市があった。
野菜や陶磁器、香辛料、等が売られている。

朝市を眺めながら歩いていると、いい香りが漂ってきた。
焼きたてのパンの匂いだ。
その匂いにつられて、パン屋へ入った。

俺は、元の世界で、学校帰り地元のパン屋で菓子パンを買って、近くの公園でイツキ達と、そのパンを食べるのが、楽しみだった。

パン屋には、元の世界でいう菓子パンはなく、フランスパンのような固いパンばかりが並べられていた。
そのフランスパンを買って、みんなで食べた。
美味いには美味いが、もう一つという感じだった。
俺は無性にアンパンが食べたくなった。

「兄ちゃん、美味くないか?」

ピンターが俺の表情見て察したのか声をかけて来た。

「いや、美味しいよ。それでもテルマさんの手作りのパンにくらべればね。」

テルマさんが嬉しそうに笑っている。

(手作り・・そうだ、なければ作ればいいじゃないか。)

俺は朝市で、小豆と砂糖を買った。

小豆は安かったが砂糖はけっこうな高値だった。

クチル島周辺では、サトウキビを栽培していたので、それほど高価なものではなかったが北上してきたこの辺りでは、サトウキビは栽培できそうにない。

おそらく砂糖はぜいたく品なのだろう。
散歩を早々に切り上げて、キューブへ戻った。

キューブの台所には調理器具が揃っている。
元々キューブ内にあったものと、テルマさん用に後から買い足したものだ。

「ニイニ、ナニスル?」

俺が調理器具をいじっているとルチアが覗き込んできた。
ピンターもツインズも興味深そうに見ている。

「何を作るんですか?」

テルマさんがにこやかに話しかけてきた。

「今から、アンコと言う物を作ります。それをパン生地に包んで焼いてくれませんか?」

「まぁ、アンコというのが何か知りませんが、どんな味のか楽しみだわ。」

俺は元の世界で、おばあちゃんが作ってくれる『お汁粉』が大好きだった。

田舎でおばあちゃんが「お汁粉」を作るところを何度も見ていたし、作るのを手伝ったこともある。

アンパンのアンコは「お汁粉」を固めに作ればいいだけだと思う。
たぶん・・

鍋に湯を沸かし、洗った小豆を入れて、丁寧にアクを取りながら、小豆が柔らかくなるのを待つ。
小豆が柔らかくなったら、湯を捨て、新たに水を足し沸騰させる。

小豆と同量の砂糖と少量の塩を入れて、水分が少なくなるまで煮込む。
本当はもっと複雑な手順だったが、思い出せない。
30分程で、アンコが出来上がった。

味見をしてみたところ、少し小豆の渋みが残っている。
それでも、十分にアンコと言えるものが出来た。
ピンターとルチア、テルマさんに一口ずつ味見をしてもらった。

「あまーい。♪」

「ニイニ、オイシイ♪」

「美味しいです。」

「「キュア、キュア」」

ツインズが欲しそうに泣いたので、ツインズにも味見をさせた。

「「キュゥ・・・」」

ツインズの口には合わなかったようだ。

「テルマさん、このアンコをパンの生地に包んで焼いてもらえませんか?」

「はい。やってみます。」

1時間ほどで、それは出来上がった。
キューブ中にパンの香ばしい匂いが漂う。

「なんだか、良い匂いだな。」

「美味そうなにおいでやんす。」

ドルムさんとドランゴさんが台所に顔を出した。
そうなるだろうと思って、多めにパンを焼いてもらった。

「どうぞ、」

テルマさんが、焼きたてのアンパンを皆に配った。

一口食べた。

涙が出そうだった。

「美味い。」

「美味いでやんす。」

「兄ちゃん、ウマーい。」

「ニイニ、モット」

学校帰りにレンやイツキと一緒に食べた、あのアンパンの味が蘇る。

「こりゃ、商売にできるくらいうめーぞ、こんなパンくったことねぇ」

ドルムさんが驚きの表情でテルマさんを見る。
アンコを造ったのは俺だが、そのアンコの味が活きるようにパンを焼いたのは、テルマさんだ。

俺は、焼きたてのアンパンを持ってブンザ隊長のテントを訪れた。

「これは・・」

「ウエヘヘ・・・」

ブンザ隊長とアヤコが驚いている。

「このようなパンは食したことが無いです。これ、売れますよ。かなりの値段で。」

ブンザ隊長は商売人だ。
その商売人が言うのだから、テルマさんの焼いたアンパンは商品として成り立つのだろう。

「美味しいです。こんなおいしいものが食べられるなら、私、副隊長に一生ついていきます。」

(だから、ついてこなくていいってば・・・)

キューブに帰って、もう一度アンパンを食べた。

アンパンを食べて、レンやイツキ、ヒナのことを思い出していた。
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