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第三章 キャラバン編
第55話 ピンター 血を分けた兄弟
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ガンドール遺跡に立ち寄ったところ、遺跡の中から蜘蛛の様な機械が出てきて、攻撃された。
俺が、その機械を迎撃している隙に、ウルフから外へ出ていたピンターが被害を受けてしまったようだ。
ウルフの中では、血まみれのピンターが倒れていた。
「ピンター!ピンター!」
ピンターの意識が無い。
俺は、あわててヒールを施すが、ピンターの顔は蒼白だ。
俺は、その場にキューブを出した。
キューブの中でメディを起動し、ピンターを抱いてメディに載せた。
その間、ドルムさんの説明で、ピンター達は攻撃が始まった時、ウルフから少し離れた所に居て、あわててウルフに戻ろうとしたが、蜘蛛の撃った銃の流れ弾に当たってしまったようだ。
「メディ、この患者を最大限の力で治療しろ。」
『了解しました。』
メディの上のピンターを半透明のシールドが覆う。
上部から下部へ光が走る。
メディ両側の8本の義手がせわしなく動く。
メディは作業を続けながら、アナウンスした。
『患者の左大腿部に銃創確認、弾丸は貫通、左大腿部大動脈損傷、損傷部位の修復は終了していますが、このままでは、出血性ショックを起こす可能性が高いです。』
「メディ、もっと簡単に説明しろ。」
『怪我で血が流れて、患者体内の血液が不足しています。輸血することをお勧めします。』
「メディ輸血しろ。」
『患者に適合する血液のストックがありません。ソウ様の血液が適合しますが、採血に応じますか?』
「メディ、あたりまえだ。俺の血を必要なだけ抜け。ピンターに与えろ。」
『了解しました。』
メディの本体から、簡易ベッドがせり出してきた。
『その台に寝て安静にしてください。』
俺は、メディの指示どおり、上半身裸になってベッドに横たわった。
俺の周りでは、仲間全員が心配そうな面持ちで俺の行動を見守っているが、誰も何も言わない。
ルチアは泣いている。
俺が簡易ベッドに横たわると、メディの義手の一本が伸びてきて、俺の左腕に注射針を刺した。
針に繋がった透明なチューブを俺の血液が流れていく。
メディの義手がピンターの右腕と右太ももの内側に針を刺す。
ピンターに繋がった2本のチューブに俺の血が流れていくのが見える。
「メディ、患者の生存率を教えろ。」
『現時点での生存率は100%です。』
部屋全体に安堵の空気が流れる。
これで、俺とピンターは本当の意味で血肉を分けた兄弟になる。
その先に大きな変化が待っているのだが、この時の俺達は、まだ気が付いてなかった。
10分程で、ピンターの意識が戻った。
ピンターは、周囲を見渡して、隣に俺の顔を見つけると。
「兄ちゃん・・・」
安堵の表情を浮かべた。
「よう、兄弟!」
俺は笑顔で返事した。
俺は、ピンターの意識が戻ったのを確認して、簡易ベッドから降りた。
「ピンター、もう少し、ここで寝てろ。」
ピンターが頷く。
「ドルムさん、ピンターをお願いします。俺、外の様子を見てきます。」
「おう、気をつけてな。」
外へ出る前に、ツインズを安全な神殿に戻した。
ついでにルチアも神殿へ連れて行こうとしたが、ルチアはそれを拒んで、ピンターの傍を離れなかった。
キューブの外へ出てみると、戦闘は完全に終わっていたが、死傷者が多数出て、キャラバン隊員が救護の為にせわしなく動き回っていた。
ブンザさんを見つけたので、近寄った。
「ブンザ隊長、被害の程度は?」
「キノクニ隊員にも怪我人は出ましたが、幸いにも死者は出ませんでした。でも調査隊員が10名程亡くなられたそうです。それよりピンターが怪我したそうで・・・」
「ええ、怪我はしましたが、無事です。命に別状ないです。」
俺とブンザ隊長が話をしていると、ベルンが近づいてきた。
「この度は、調査隊の危機を救って頂き、感謝するのである。ありがとう。」
「いえ、おたがい様です。」
ベルンの話によると、爆破しようとした施設の入り口は無傷だったそうだ。
あれ以上の俺達に対する攻撃は無いが、見張りをたてて警戒は続けている。
負傷者の救護が済み次第、近くの集落へ避難することが決定したらしい。
2時間ほどで、調査隊は撤収した。
俺は、キューブの中でタイチさんに相談をした。
あの施設がタイチさんの時代の物に思えたからだ。
「タイチさん、あの遺跡は、何でしょう?」
『詳しく調べないとわからないが、おそらく俺達の時代の戦争遺物だろう。それも俺達の敵、神族の物だと思う。』
「どうして神族の物だと?」
『人狼族の周波数で、あの遺物に呼びかけたが、反応が無い。つまり敵側の施設と言うことさ。魔法攻撃にセキュリティーが反応したのだろう。
あの兵力からして、何かの貯蔵庫かもしれんな。重要施設だともっと大きな攻撃があるはずだ。』
何を貯蔵しているのか気にはなるが、ピンターの怪我の事もあるし、長居は無用と判断した。
調査隊の撤収に合わせて、キャラバンも移動を開始した。
ピンターは移動中のウルフの後部座席で、寝ている。
呼吸を確かめたが、安定しているようだ。
ピンターの隣ではルチアも寝ている。
ピンターの無事を見て安心したのだろう。
俺は二人の寝顔を見て改めて思った。
(俺の家族は、俺が守る。なんとしても・・)
その夜は、遺跡から出来るだけ離れた場所に野営した。
警戒はいつもより厳重だ。
アヤコが歩哨に立っていた。
「よう、アヤコ、当番か?」
「シン副隊長!お疲れ様です。」
アヤコが敬礼したので、俺も返礼した。
「シン副隊長、昼間は大変でしたね。ピンター君、大丈夫ですか?」
「ああ、ありがとう。お陰様で命に別状ない。今は元気になっているよ。」
「それは、良かったです。しかし副隊長殿は強いですね。私なんか怖くて物陰に隠れていたのに。あっと言う間にあの蜘蛛を・・」
「いや、武器が良いだけさ、大したことは無い。」
「武器だけじゃないですよ。でも副隊長の剣すごいですね。雷が出る剣なんて初めて見ました。」
アヤコは俺の事を憧れの目で見ているような気がする。
(雷鳴剣にあこがれているのだろうな・・)
「アヤコ、欲しいか?」
「何をです?」
「これだ。」
懐から雷鳴剣の試作品を取り出した。
俺は雷鳴剣2を作る前に試作した雷鳴剣モドキを何本か持っていた。
雷鳴剣2があるので、これはいらない。
誰かにあげようと思っていたのだ。
雷鳴剣モドキに魔力を流すと剣先がスパークした。
「ええー、いいんですか?こんな貴重な剣を、・・私なんかに。」
「いいよ、やるよ。でも使い手に魔力が無いと、あまり意味ないぞ。」
俺は、アヤコのことを身体能力が優れているだけで魔力は無いだろうと思っていた。
「意外かもしれませんが、私『速駆』という加護を持っています。だから一般の人より早く走れるし、魔力もあるんです。」
意外だったが、魔力があるなら、雷鳴剣を持つ資格がある。
俺は、雷鳴剣モドキをアヤコに渡した。
「アヤコ、それに魔力を流してみろ。」
「はい、やってみます。」
アヤコは剣を受け取り、中段に構えた。
アヤコが2~3秒唸ると、剣先に線香花火程のスパークが発生した。
「アヤコ、たいしたもんだ。お前ならその剣を持つ資格があるよ。その剣はよく切れるから、気を付けて使えよ。」
「は、はい。ありがとうございます。私、私、一生、副隊長についていきます。」
(アヤコ、ドランゴさんに似て来たな・・・)
アヤコに雷鳴剣モドキをやった後、ブンザ隊長のテントへ行った。
「隊長、シンです。入りますよ。」
「どうぞ。」
ブンザ隊長は、晩酌をしていた。
「シン副隊長も一杯いかがですか?」
「ありがとうございます。いただきます。」
俺は酒が好きと言うわけではなかったが、この世界へ来て、ビールくらいなら付き合いで飲めるようになっていた。
ブンザ隊長の勧めを無下に断るのも失礼なので、一杯だけいただくことにしたのだ。
畳に座り、ブンザ隊長の酒を受けた。
盃に注がれたのは、無色透明な液体で、日本酒の匂いがする。
一口含んでみたが、それはやはり日本酒、清酒だった。
「これは、美味しいです。原料は米ですか?」
「さすがシン副隊長。このあたりではあまり出回っていない、米を原料とした酒です。祖父からのもらい物ですよ。」
俺が、ここに来たのは、そろそろ俺の身の上、日本から来た異邦人だということをブンザ隊長に話しておこうと思ったからだ。
あと2~3日で首都のゲラニへ入る。
その際、ブンザ隊長は、俺達一行をキノクニの一員として検閲を通そうとしてくれている。
俺が殺人手配を受けているにも関わらず。
もしそのことが、司法機関にばれると、ブンザ隊長だけでなく、キノクニ全体に迷惑をかけることになる。
だから、俺が今隠して・・いや、喋ってないことを話しておこうと思うのだ。
「ブンザ隊長、実は俺、まだ話してないことがあります。」
ブンザ隊長が俺の目を見つめ返す。
「日本のことですか?」
驚いた。
俺はブンザ隊長には俺が日本という異世界から来たことは話してなったはずだ。
「どうして、そのことを・・・」
「私の先祖はヤマタイという国から来たという話をしたと思いますが、そのヤマタイの始祖が『ニホン』という異世界から来た人だそうなのです。
ヤマタイの国に伝承されている畳や清酒の文化は、その日本人から受け継がれたものです。」
ブンザ隊長は俺に酒を注いできた。
俺は、盃を突き出してそれを受ける。
「ソウ様は畳や日本酒、竹トンボ等々、ニホン独自の文化に詳しく、我々と同じ血脈を持つようにお見受けします。だから、なんとなくそう思ったのです。」
ブンザ隊長の推察力は鋭い。
俺が畳や清酒のことを知っていること、俺が日本人としての遺伝子持つ容貌等から、俺が日本人だと推察したのだ。
「それならば、話は早いです。俺はこことは違う世界、月が一つしかない世界から来た日本人です。」
「不思議なことがあるものですね。シン様が嘘を言っていないのは良くわかります。」
ブンザ隊長は『真偽判定』スキルの持ち主だ。
「もうまもなく、ゲラニへ入ります。その前に、ブンザさんには全てを話しておきたかったのです。」
ブンザ隊長は自分の盃の酒を飲みほした。
「ありがとうございます。それほどまでに私を、ブンザ・キノクニを信用していただいて。
これからもよろしくお願いします。」
ブンザ隊長が姿勢を正して頭を下げた。
俺も畳に正座して
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
と、頭を下げた。
あと2日で次の街『グラダ』だ。
そしてその次は、いよいよブルナの待つゲラン国首都、ゲラニだ。
俺が、その機械を迎撃している隙に、ウルフから外へ出ていたピンターが被害を受けてしまったようだ。
ウルフの中では、血まみれのピンターが倒れていた。
「ピンター!ピンター!」
ピンターの意識が無い。
俺は、あわててヒールを施すが、ピンターの顔は蒼白だ。
俺は、その場にキューブを出した。
キューブの中でメディを起動し、ピンターを抱いてメディに載せた。
その間、ドルムさんの説明で、ピンター達は攻撃が始まった時、ウルフから少し離れた所に居て、あわててウルフに戻ろうとしたが、蜘蛛の撃った銃の流れ弾に当たってしまったようだ。
「メディ、この患者を最大限の力で治療しろ。」
『了解しました。』
メディの上のピンターを半透明のシールドが覆う。
上部から下部へ光が走る。
メディ両側の8本の義手がせわしなく動く。
メディは作業を続けながら、アナウンスした。
『患者の左大腿部に銃創確認、弾丸は貫通、左大腿部大動脈損傷、損傷部位の修復は終了していますが、このままでは、出血性ショックを起こす可能性が高いです。』
「メディ、もっと簡単に説明しろ。」
『怪我で血が流れて、患者体内の血液が不足しています。輸血することをお勧めします。』
「メディ輸血しろ。」
『患者に適合する血液のストックがありません。ソウ様の血液が適合しますが、採血に応じますか?』
「メディ、あたりまえだ。俺の血を必要なだけ抜け。ピンターに与えろ。」
『了解しました。』
メディの本体から、簡易ベッドがせり出してきた。
『その台に寝て安静にしてください。』
俺は、メディの指示どおり、上半身裸になってベッドに横たわった。
俺の周りでは、仲間全員が心配そうな面持ちで俺の行動を見守っているが、誰も何も言わない。
ルチアは泣いている。
俺が簡易ベッドに横たわると、メディの義手の一本が伸びてきて、俺の左腕に注射針を刺した。
針に繋がった透明なチューブを俺の血液が流れていく。
メディの義手がピンターの右腕と右太ももの内側に針を刺す。
ピンターに繋がった2本のチューブに俺の血が流れていくのが見える。
「メディ、患者の生存率を教えろ。」
『現時点での生存率は100%です。』
部屋全体に安堵の空気が流れる。
これで、俺とピンターは本当の意味で血肉を分けた兄弟になる。
その先に大きな変化が待っているのだが、この時の俺達は、まだ気が付いてなかった。
10分程で、ピンターの意識が戻った。
ピンターは、周囲を見渡して、隣に俺の顔を見つけると。
「兄ちゃん・・・」
安堵の表情を浮かべた。
「よう、兄弟!」
俺は笑顔で返事した。
俺は、ピンターの意識が戻ったのを確認して、簡易ベッドから降りた。
「ピンター、もう少し、ここで寝てろ。」
ピンターが頷く。
「ドルムさん、ピンターをお願いします。俺、外の様子を見てきます。」
「おう、気をつけてな。」
外へ出る前に、ツインズを安全な神殿に戻した。
ついでにルチアも神殿へ連れて行こうとしたが、ルチアはそれを拒んで、ピンターの傍を離れなかった。
キューブの外へ出てみると、戦闘は完全に終わっていたが、死傷者が多数出て、キャラバン隊員が救護の為にせわしなく動き回っていた。
ブンザさんを見つけたので、近寄った。
「ブンザ隊長、被害の程度は?」
「キノクニ隊員にも怪我人は出ましたが、幸いにも死者は出ませんでした。でも調査隊員が10名程亡くなられたそうです。それよりピンターが怪我したそうで・・・」
「ええ、怪我はしましたが、無事です。命に別状ないです。」
俺とブンザ隊長が話をしていると、ベルンが近づいてきた。
「この度は、調査隊の危機を救って頂き、感謝するのである。ありがとう。」
「いえ、おたがい様です。」
ベルンの話によると、爆破しようとした施設の入り口は無傷だったそうだ。
あれ以上の俺達に対する攻撃は無いが、見張りをたてて警戒は続けている。
負傷者の救護が済み次第、近くの集落へ避難することが決定したらしい。
2時間ほどで、調査隊は撤収した。
俺は、キューブの中でタイチさんに相談をした。
あの施設がタイチさんの時代の物に思えたからだ。
「タイチさん、あの遺跡は、何でしょう?」
『詳しく調べないとわからないが、おそらく俺達の時代の戦争遺物だろう。それも俺達の敵、神族の物だと思う。』
「どうして神族の物だと?」
『人狼族の周波数で、あの遺物に呼びかけたが、反応が無い。つまり敵側の施設と言うことさ。魔法攻撃にセキュリティーが反応したのだろう。
あの兵力からして、何かの貯蔵庫かもしれんな。重要施設だともっと大きな攻撃があるはずだ。』
何を貯蔵しているのか気にはなるが、ピンターの怪我の事もあるし、長居は無用と判断した。
調査隊の撤収に合わせて、キャラバンも移動を開始した。
ピンターは移動中のウルフの後部座席で、寝ている。
呼吸を確かめたが、安定しているようだ。
ピンターの隣ではルチアも寝ている。
ピンターの無事を見て安心したのだろう。
俺は二人の寝顔を見て改めて思った。
(俺の家族は、俺が守る。なんとしても・・)
その夜は、遺跡から出来るだけ離れた場所に野営した。
警戒はいつもより厳重だ。
アヤコが歩哨に立っていた。
「よう、アヤコ、当番か?」
「シン副隊長!お疲れ様です。」
アヤコが敬礼したので、俺も返礼した。
「シン副隊長、昼間は大変でしたね。ピンター君、大丈夫ですか?」
「ああ、ありがとう。お陰様で命に別状ない。今は元気になっているよ。」
「それは、良かったです。しかし副隊長殿は強いですね。私なんか怖くて物陰に隠れていたのに。あっと言う間にあの蜘蛛を・・」
「いや、武器が良いだけさ、大したことは無い。」
「武器だけじゃないですよ。でも副隊長の剣すごいですね。雷が出る剣なんて初めて見ました。」
アヤコは俺の事を憧れの目で見ているような気がする。
(雷鳴剣にあこがれているのだろうな・・)
「アヤコ、欲しいか?」
「何をです?」
「これだ。」
懐から雷鳴剣の試作品を取り出した。
俺は雷鳴剣2を作る前に試作した雷鳴剣モドキを何本か持っていた。
雷鳴剣2があるので、これはいらない。
誰かにあげようと思っていたのだ。
雷鳴剣モドキに魔力を流すと剣先がスパークした。
「ええー、いいんですか?こんな貴重な剣を、・・私なんかに。」
「いいよ、やるよ。でも使い手に魔力が無いと、あまり意味ないぞ。」
俺は、アヤコのことを身体能力が優れているだけで魔力は無いだろうと思っていた。
「意外かもしれませんが、私『速駆』という加護を持っています。だから一般の人より早く走れるし、魔力もあるんです。」
意外だったが、魔力があるなら、雷鳴剣を持つ資格がある。
俺は、雷鳴剣モドキをアヤコに渡した。
「アヤコ、それに魔力を流してみろ。」
「はい、やってみます。」
アヤコは剣を受け取り、中段に構えた。
アヤコが2~3秒唸ると、剣先に線香花火程のスパークが発生した。
「アヤコ、たいしたもんだ。お前ならその剣を持つ資格があるよ。その剣はよく切れるから、気を付けて使えよ。」
「は、はい。ありがとうございます。私、私、一生、副隊長についていきます。」
(アヤコ、ドランゴさんに似て来たな・・・)
アヤコに雷鳴剣モドキをやった後、ブンザ隊長のテントへ行った。
「隊長、シンです。入りますよ。」
「どうぞ。」
ブンザ隊長は、晩酌をしていた。
「シン副隊長も一杯いかがですか?」
「ありがとうございます。いただきます。」
俺は酒が好きと言うわけではなかったが、この世界へ来て、ビールくらいなら付き合いで飲めるようになっていた。
ブンザ隊長の勧めを無下に断るのも失礼なので、一杯だけいただくことにしたのだ。
畳に座り、ブンザ隊長の酒を受けた。
盃に注がれたのは、無色透明な液体で、日本酒の匂いがする。
一口含んでみたが、それはやはり日本酒、清酒だった。
「これは、美味しいです。原料は米ですか?」
「さすがシン副隊長。このあたりではあまり出回っていない、米を原料とした酒です。祖父からのもらい物ですよ。」
俺が、ここに来たのは、そろそろ俺の身の上、日本から来た異邦人だということをブンザ隊長に話しておこうと思ったからだ。
あと2~3日で首都のゲラニへ入る。
その際、ブンザ隊長は、俺達一行をキノクニの一員として検閲を通そうとしてくれている。
俺が殺人手配を受けているにも関わらず。
もしそのことが、司法機関にばれると、ブンザ隊長だけでなく、キノクニ全体に迷惑をかけることになる。
だから、俺が今隠して・・いや、喋ってないことを話しておこうと思うのだ。
「ブンザ隊長、実は俺、まだ話してないことがあります。」
ブンザ隊長が俺の目を見つめ返す。
「日本のことですか?」
驚いた。
俺はブンザ隊長には俺が日本という異世界から来たことは話してなったはずだ。
「どうして、そのことを・・・」
「私の先祖はヤマタイという国から来たという話をしたと思いますが、そのヤマタイの始祖が『ニホン』という異世界から来た人だそうなのです。
ヤマタイの国に伝承されている畳や清酒の文化は、その日本人から受け継がれたものです。」
ブンザ隊長は俺に酒を注いできた。
俺は、盃を突き出してそれを受ける。
「ソウ様は畳や日本酒、竹トンボ等々、ニホン独自の文化に詳しく、我々と同じ血脈を持つようにお見受けします。だから、なんとなくそう思ったのです。」
ブンザ隊長の推察力は鋭い。
俺が畳や清酒のことを知っていること、俺が日本人としての遺伝子持つ容貌等から、俺が日本人だと推察したのだ。
「それならば、話は早いです。俺はこことは違う世界、月が一つしかない世界から来た日本人です。」
「不思議なことがあるものですね。シン様が嘘を言っていないのは良くわかります。」
ブンザ隊長は『真偽判定』スキルの持ち主だ。
「もうまもなく、ゲラニへ入ります。その前に、ブンザさんには全てを話しておきたかったのです。」
ブンザ隊長は自分の盃の酒を飲みほした。
「ありがとうございます。それほどまでに私を、ブンザ・キノクニを信用していただいて。
これからもよろしくお願いします。」
ブンザ隊長が姿勢を正して頭を下げた。
俺も畳に正座して
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
と、頭を下げた。
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