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第三章 キャラバン編

第51話 ありふれた日常 竹とんぼ

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俺は、ガルダ村に設置したキューブの自室で目覚めた。

昨日は一睡もしていなかったので、熟睡したようだ。

一昨日、ガルダ村の広場に現れた龍神様、アウラ様の頼みを聞き入れ、はるか遠くのフォナシス火山でヒュドラ教の使徒やブラックドラゴンと戦い、アウラ様の子供達を救出した。

俺は大怪我を負ったが、アウラ様から頂いた『龍神丹』のおかげで、回復しつつある。
意図した事ではないが、アウラ様の子供達から『父ちゃん。父様。』と呼ばれるようになってしまった。

ベッドから起き上がる際、怪我した足を見たところ、右足の指が5本生えていた。
爪までは完成していないが、指として機能している。
左足は、くるぶしまで出来ている。

(龍神丹て、すごいな・・・)

ベッドを抜け出して杖を頼りに部屋を出た。
今、松葉杖代わりに使っている杖はアウラ様の宝物庫から借りたものだ。

杖の頭には龍の彫刻が施されている。
俺の身長と大差ない大きな杖だ。

一階の居間から笑い声が聞こえる。
俺が居間のドアを開けると。

「父ちゃん」
「父様」

ツインズが飛んできて、俺の肩に止まった。

「あら、おはよう。ソウさん。怪我の具合はいかが?」

イリヤ様が、コーヒーカップ片手に微笑んでいた。
居間にメンバー全員が揃っている。

「お見舞いに参りましたけど、お休みのようでしたので。目覚めるのをお待ちしていました。」

「それは、わざわざ、ありがとうございます。まだ完治までは遠いですが、気分は良いです。」

「それは、ようございました。アウラも来ておりましたが、先ほど帰りました。

ところで、ソウさんの、お仲間は良い方ばかりですわね。ソウさん達の今までのことを色々お聞きしましてよ。ウフフ」

昨夜、アウラ様の神殿から帰って来た時、疲れ果てていて、仲間達には簡単な説明しかしていなかった。

しかし、このすっかり打ち解けた様子だと、アウラ様夫婦が、俺に替わって昨日の出来事を説明してくれたようだ。

イリヤ様は、人語を解するようだ。

「ソウ、おめぇ、すごいなブラックドラゴンをやっつけたんだって?」

ドルムさんが、目を輝かせている。

「やっつけてはいないです。ウルフで追い払っただけですよ。」

「それでも、スゲーよ。龍神様の手助けなんて、誰でも出来ることじゃねぇ。」

イリヤ様は少しの間俺と雑談した後、神殿へ帰って行った。
俺はみんなと昼食を取りながらドランゴさんに尋ねた。

「ドランゴさん、キャラバンの出発は何時ですか?」

「明日には出発するそうでがす。それと、師匠が無事帰ってきたことは、ブンザに伝えてありやんす。心配してたので、一度ブンザに顔をみせてやってくだしあ。」

「あ、わかりました。ご飯食べたら、顔出してきます。」

食後、キューブを出て、ブンザさんのテントへ向かう際、ドルムさんが、

「おぶっていこうか?それともブンザを呼ぼうか?」

と言ってくれたが、ブンザさんのテントは隣だし、隊長を呼びつけるのもなんなので、自分で訪問することにした。

キューブを出ると、ツインズが当然のように俺の後を付いてくる。
というよりは、俺の周りで浮かんでいる。

ツインズを見る隊員の目が気にはなるが、ドラゴンに乗って飛び立ったり、キューブを出現させたり、俺の奇行は今に始まったことじゃないので、気にしないことにした。

「ブンザ隊長。シンです、入ります。」

ブンザさんのテントの入り口で、声をかけた。
ほんのちょっとの間があいて

「どうぞ、お入りください。副隊長殿」

ブンザさんとは違う女性の声がした。
暖簾をかき分けたのは、『アヤコ』だった。
一昨日、俺の伝令役をしてくれた平隊員だ。

俺がテントの中へ入ると、ブンザさんは布で口を拭っていた。
食事中だったようだ。

「あ、食事中でしたか、すみません。出直します。」

「いえ、もう終わりました。どうぞお入りください。」

俺はテントへ入り、右足の靴を脱いで、畳へ上がった。
左足は布でまいたままだ。
ブンザさんは、俺の足を見て

「たいへんだったようですね。大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫です。龍神様からもらった丸薬が効いて、今、足が生えてきているところです。」

ブンザさんとアヤコが驚いている。

「足が生えるのですか?」

「ええ、実際に生えてきています。」

「しかし、龍神様からもらった薬のことは、内緒にしておいてください。」

龍神丹は優れモノだ。

もし龍神丹の効果効能が世の中に知れ渡ると、龍神丹を求める人が押し寄せることは間違いない。
もしかしたら、ゲラン国、いや世界中の国が龍神丹を求めてやってくるだろう。

そうなると龍神様に迷惑がかかってしまう。
龍神丹は一粒作るのに1000年かかる。
アウラ様の持つ龍神丹の在庫も数えるほどしかないはずだ。

このことは、俺のメンバーにも説明してある。
メンバー以外では、ブンザさんにしか話すつもりはなかった。

「はい。承知しました。その薬のことが世間に広まれば、大変なことになるでしょうからね。場合によっては戦争さへ起こりかねません。」

ブンザさんは、そう言った後アヤコに顔を向けた。

「アヤコ、わかってるわよね。」

「ひゃい。誰にも言いません。」

俺とブンザさんが話をしている間、ツインズは物珍しそうに俺達の周りを飛んでいる。

「カワイイ♪」

アヤコがテランに手を伸ばそうとした。

『父ちゃん、やっつけていい?』

テランが遠話で尋ねてきた。
テランの口からはチョロチョロと赤い火が零れている。

(だめだ、テラン、その人は、父ちゃんの仲間だ。)

『わかった、父ちゃん。』

いつの間にか俺もツインズの父親を自称してしまっている。

「アヤコ」

「はい?」

「お前今、死にかけたぞ。」

「え?」

実際黒焦げになる寸前だった。

「その子は小さくても龍神様の子だ。つまりドラゴン。むやみに手を出せば、黒焦げだぞ。」

「ヒエ・・」

しかし、アヤコに対する言葉とは裏腹に、ツインズはアヤコの両肩に止まる。
俺が

「アヤコは仲間」

と言ったことでツインズもアヤコに気を許したのだろう。
ツインズが両肩に乗ったアヤコは、金縛りにあったように、瞬き一つすることなく青ざめて直立不動の姿勢になった。

俺はアヤコのその姿がおかしくて笑ってしまった。

「アヤコ。」

「ハイ・・」

「ツインズが両肩に止まったのはお前を仲間と認めたからだ、楽にしなよ。アハハ」

アヤコはその場に座り込んだ

「おしっこ、漏れそうでした。・・・」

アヤコは半泣きだった。

「すみません。この子はこんな性格で、でも真面目で優しい子なんです。身体能力も高いです。シン様も可愛がってあげてください。」

ブンザさんがとりなす。

「ええ、わかってますよ。」

俺もアヤコのことが少し気にいっていた。

「ところで、ブンザ隊長、明日以降の大まかな予定を教えてください。」

「はい。明朝出発して、3日くらいで、次の村「レグラ」で商いします。

それから5日間でレニア山脈の西端を東に折り返しで「グラダ」の街。グラダの北のバリーツ大河を渡れば、首都ゲラニです。残りの行程を10日くらいで行う予定です。」

(全行程で約20日くらいか、ん?確かドランゴさんは、月に一度のキャラバンと言っていたような・・)

「ブンザ隊長、このキャラバンがゲラニとブテラを往復するのは2か月に一度ですか?」

「はい、私達の隊は、2か月に一度です。しかし、キノクニの別部隊「キンタ隊」が今頃、ゲラニを出発して、ブテラへ向かっているはずです。ですから、ブラニを訪れるキノクニのキャラバンは、月に一度ということになります。」

なるほどね、意味がわかった。

「ですから、次の村レグラあたりで、キンタ隊とすれ違うかもしれません。」

「わかりました。ありがとうございます。ちなみにキンタ隊長はブンザ隊長のご親戚かなにかですか?」

「おや、よくご存じで。キンタは私の甥で、ケンタ副隊長の兄です。」

やっぱりね。

ケンタ、キンタ、いずれの名前も和風なので、その呼び名の響きからも、なんとなく想像がついた。

ブンザ隊長の周囲には、和風の名前や、和風の物が多い。

いずれブンザ隊長の祖父カヘイ・キノクニと面会して、いろいろと聞いてみたいと思っている。

そんなことを考えながら、テントの中を見回したところ、半径10センチくらい。長さ50センチくらいの半分に割られた竹がテントに立てかけられていた。

(青竹ふみ?)

「ブンザさんあの竹は何ですか?」

「ああ、あれは、祖父がくれた。『アオタケフミ』という健康維持のための道具です。なんでもあれを一日何度か踏めば、健康になるそうで。」

俺は、あることを思いついた。

「ブンザ隊長、あの竹、一本いただけませんか?」

「どうぞ、どうぞ、あんな物でよければ。竹なんて旅の途中いくらでも生えていますし。」

俺は竹をもらってブンザさんのテントを出た。

すぐにキューブへ帰り、一階の自室に居たところ、ルチアとピンターが甘えに来た。

「ニイニ 遊んで」

「兄ちゃん、ここに居ていいか?」

「おう、遊んであげるけど、俺動けないからな、・・・ちょっと待っいてろ。」

俺はマジックバッグから、さっきもらったばかりの竹と、ナイフを取り出した。

「兄ちゃん、またなにか作ってくれるのか?」

以前、ピンターには竹馬を作ってやったことがある。

「ニイニ ナニ?」

俺の作業をルチアが覗き込む。
ツインズも俺の周りを離れず、プカプカ浮いている。

10分程でそれは、出来た。
俺は、それを飛ばした。

竹トンボだ。

俺の飛ばした竹トンボを4人が一斉に追いかける。

「ウワー。すげぇ」

「ニイニ、スゴイ」

「キュイ、キュイ♪」

テランの鳴き声だ。

「キャウ、キャウ♪」

リーザが喜ぶ

もう一度飛ばす。
今度は天井に当たって、落ちた。

(ここじゃ狭すぎるな。・・・)

俺達はキューブの外へ出た。
俺が飛ばした竹トンボは高く飛んだ。
俺が少し重力操作をしたのだ。

何度か飛ばした後、ピンターとルチアに飛ばし方を教えて、4人で自由に遊ばせた。
途中、ピンターとルチアが竹とんぼの取り合いで喧嘩しそうになったので、もう一本追加で作ってやった。

子供たちが無邪気に遊ぶ姿を見ていると、心が落ち着いた。
子供たちが遊んでいる姿を眺めているうちに日が傾いた。

今日は、命を懸けた戦いも無く、他人の血を見ることも無い喉かな一日だった。

(こんな日がずっと続けばいいのに・・・)
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