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第三章 キャラバン編
第48話 イリヤ様 龍神の妻
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俺は、アウラ様の背中に乗ってアウラ様の神殿へやってきた。
アウラ様の自宅は、俺が想像していた『ドラゴンの巣』とは全く違って、まさしく
『龍神様の神殿』
という名称がぴったりの豪華な宮殿だった。
後から聞いた話だが、この宮殿は2万年以上前にアウラ様を信仰する当時の信者が建てた『龍神様の神殿』らしい。
2万年以上も当時と変わらない姿を残しているのは、アウラ様が建物全体を何かのスキルで保護しているのだろう。
「さあ、入れ、入れ。」
アウラ様の言葉に従って、正面から神殿に入った。
入ってすぐの場所は大きく開けていて、半円のすり鉢状になっている。
すり鉢の底、玄関正面には大きなステージがあり、ステージの上には巨大なドラゴンの彫像があった。
昔の信者がここへ祈りに来て供え物をしたり、アウラ様の許しを得た神官が説教をした場所だそうだ。
「こっちや」
アウラ様の手招きに従ってステージ右横の人間向けのドアを通ると大きな廊下が建物の奥まで続いていた。
廊下の左側には幾つかのドアがあるので、ドアの向こうには何かの部屋があるのだろう。
ドアの数は5つくらいあった。
俺はアウラ様の案内で一番奥の部屋へ入った。
「ワイらの寝室や。ここへワイの家族以外の者がはいんのは、ソウが初めてや。」
おれも他人のベッドルームへ入るのは、初めてだ。
「・・恐縮です。」
アウラ様は部屋の中のカーテンを開いた。
「ワイの嫁はん、イリヤや。」
カーテンの向こうには、巨大なベッドが二つあり、その一つに、シーツにくるまり背を向けている女性の姿があった。
「おい、かあちゃん、おきんか、ほれ。」
アウラ様が、女性を揺り起こそうとするが、女性は全く反応しない。
アウラ様が女性を強く揺すったので、女性が横向けの姿勢から、顔を天井向ける姿勢になった。
「女神様・・・」
思わず口に出した。
ドラゴンの奥さんだから、当然この女性もドラゴンなのだろうが、人化している姿はまさしく『女神』と言っていいほどの美しさだ。
髪は金色で長いストレート、細く長い眉毛、目はつぶっているので目の色は判らないが、まつ毛は長く、天然にカールしている。
鼻は女性らしい整った形で西洋人風だ。
唇は細めだが弾力がありそうで、顔のサイズにピッタリな形をしている。
肌は、ほんのりピンク色をしているが、透き通るように美しく滑らかだ。
顔全体の印象はまさしく
『女神様』
そうとしか言いようのない美しさだ。
「かあちゃん。どないしたんやろな。魔法で眠らさているのはわかるんやが、魔法にしては、その効力が長すぎるわ。それに、かあちゃんの魔法抵抗は高いはずやけどなぁ。」
アウラ様が寝ている女性の髪の毛をかきあげる。
「アウラ様、イリヤ様を診察したいのですが、よろしいですか?」
「おう、やってくれ。」
俺はマジックバッグからメディを取り出してその場で展開した。
「お、メディカルマシンやな。まだ残っとったんか。」
意外だった。
俺は、アウラ様も今までメディを見た現地人同様、驚くと思っていた。
「これをご存じなのですか?」
「ああ、知っとるで。戦場を見に行った時、信者の軍施設で何度か見たことがある。大戦で全部壊れたと思うとった。」
「それじゃ話が早いです。イリヤ様を診察台へ載せて下さい。」
「よっしゃ。」
アウラ様は、イリヤ様を抱き上げ、診察台に乗せた。
「メディ、スキャンして。この女性が目覚めない原因を探せ。」
『了解しました。』
(全裸にしろとは言わないんだな・・・)
アウラさまがチラリとこちらを見たような気がした。
メディがイリヤ様を半透明のシールドで覆う。
イリヤ様の頭から足方向にシールドが光った。
『患者の昏睡原因が判明しました。背部に異物があります。脊柱の第12椎骨と第13椎骨の間の軟骨から針金状の物が椎体に差し込まれて麻痺原因となる物質が注入されています。
麻痺物質は髄液を介して脳に直接作用しています。これが患者の昏睡原因です。』
メディの説明は難しくてよくわからない。
「メディもう少し簡単に説明できないか?」
『了解しました。』
メディの上部、イリヤ様の頭の上方向にスクリーンが出現した。
そのスクリーンにはイリヤ様の背骨の様子を拡大した映像が写し出されている。
背骨の中ほどの部分に矢印のアイコン「←」が現れた。
その矢印の先にはベアリング球程度の黒い影があり、その玉から細い針金のようなものが5センチ位伸びていて、イリヤ様の背骨に刺さっている。
『矢印の部分に人工的な異物があります。その異物は注射器の役目をしているようで、注射針が背骨の中まで達しています。常時麻痺作用のある薬物が、患者の脊髄に注入されているのです。』
イリヤ様が昏睡している原因は、魔法ではなく何か高度な技術によるものだった。
誰かが、イリヤ様の体内に異物を埋め込んだのだ。
アウラ様が、映像を見てつぶやいた。
「誰やねん・・・」
アウラ様から怒気が溢れる。
俺は、その怒気を感じて反射的に獣化してしまった。
それにしても誰がこんな事を・・
「アウラ様、アウラ様が奥様を見つけた時の状況をお話しください。」
アウラ様の目は怒ったままだ。
「ワイが狩りから帰ってきたら。かあちゃんはベッドで寝ていた。今見たままの状態じゃ。ただ気になるのは、表の神殿に供え物があった。
めったにないことやが、今でも極まれに旅人が供え物をすることがある。それやと思うてたんやが、その供え物をした奴が怪しいな。」
「建物の入り口は解放したままだったんですか?」
「せや、人なんてめったにけぇへんからな。どっこも鍵なんてかけてないわ。」
不用心だな・・
「ともかく原因はわかりました。メディ、異物は取り出せるか?」
『異物の取り出しは、容易です。成功率99,98%です。0,2%のリスクがありますが、命に別状はありありません。』
「アウラさん、どうしますか?」
「どうしますも、こうしますもあれへんがな、やるしかないやろ。」
「わかりました。」
「メディ、異物を除去してくれ。」
『了解しました。患者を全裸にしたうえ、背面で寝かせてください。』
やっぱり・・・
アウラ様と俺は、3秒程みつめあった。
「あ、あ、すみません。後ろ向きになるので、メディの指示に従って下さい。」
「あたりまえじゃボケ」
俺はイリヤ様に背を向けた。
「用意でけたで。」
「はい。メディ、異物を排除しろ。」
『了解しました。術式の所要時間は5分です。再確認します。0,02%の確率で患者の身体に障害が残る可能性がありますが、実行しますか。』
「メディ、実行しろ。」
『実行します。』
5分が経過した。
『術式、成功しました。患者は昏睡状態から、睡眠状態へ移行しています。』
「アウラ様、振り向いてもいいですか?」
「おお、ええぞ」
俺は振り向いてイリヤ様を見た。
イリヤ様は診察台の上でシーツにくるまれて寝ている。
メディの義手にはベアリングの球位の銀色に光る球が摘まれている。
その球からは長さ30センチくらいの糸状のものが出ていてウネウネと動いている。
「かあちゃん。かあちゃん。起きろ。」
アウラ様がイリヤ様を揺り動かす。
イリヤ様の目が開いた。
「あら、あなた、おはよう。」
「おはようやあらへんがな。お前一週間も寝とったんやぞ。」
「え、そんなに・・・あ、子供たちは?」
イリヤ様が突然、あわて始め、寝台から飛び起きた。
全裸のまま・・・
イリヤ様は、最初イリヤ様が寝ていたベッドの隣のベッドにかけより、シーツをめくった。
「いない。・・・どうしましょ。あなた。子供たちが。」
「それやねん。どやら誘拐されたな。」
アウラ様の眉間にしわが寄る。
それはそうと、夫婦そろって全裸だ。
服くらい着て欲しい・・・
俺は二人にお願いした。
「あのー、お二人とも、何かお召になっていただけませんか・・・」
「キャッ」
イリヤ様は服を着て再び俺の前に現れた。
「ところで、こちらはどちら様?」
イリヤ様が俺を見ている。
アウラ様が
「詳しいことは後で話すが、お前を助けてくれた『ソウ』ちゅう人狼や。」
と説明してくれた。
「それは、それは、ありがとうございました。」
イリヤ様は関西弁ではなかった。
二人が服を着て落ち着いたところで状況の再確認をした。
アウラ様が狩りに出た後、イリヤ様が子供の世話をしていたところ、神殿の方に人の気配を感じた。
めったにないことだが、ごく稀に旅人や近くの村の老人が、礼拝に訪れることがあるそうだ。
イリヤ様は訪問者が信者だろうと思い、様子を見に礼拝堂へ行ったところ、10人くらいの人間が、ドラゴン像を拝み、供え物を像の前に置くところだった。
イリヤ様は信者に挨拶をして、供え物を受け取るべく信者に背を向けたところ、突然意識を失ったとのことだった。
気を失ったイリヤ様をベッドに運び、背中の傷を塞いだのは、おそらく犯人達だろう。
犯行の発覚を遅らせて追跡を困難にするためだ。
そして気が付いたら、ベッドに居るはずの子供二人がいなかった。
「状況は、よくわかりました。誘拐に間違いないですね。犯人に心当たりは無いですか。?」
俺は昔見た刑事ドラマのワンシーンを思いだしていた。
イリヤ様は首を振った。
アウラ様が、イリヤ様を向いて言った。
「子供たちは無事か?方向は判るか?」
(イリヤ様に子供たちの様子がわかるのだろうか?)
「ええ、無事です。方角は北東です。少しずつ遠ざかっています。」
二人の会話についていけないので、尋ねた。
「離れているのに、お子さんの様子が判るんですか?」
アウラ様が答えてくれた。
「わかるで、お前たちの言葉でいう『遠話』やな。ワイは距離が離れていると判り辛いが母親のイリヤは判る。なんせイリヤは子供たちがお腹におった時からずっと話しかけとったからな。」
なるほど。
「それじゃ、お子様に、周囲の状況を尋ねてみれば、いかかですか?」
「そりゃ、無理やわ。子供らはまだ卵の中で、外の様子は判らへん。」
アウラ様の説明によると
アウラ様たち龍族の子は、身ごもって3年間、母親の胎内におり、卵の姿で生まれてくる。出産してから約10年でふ化するとのことだ。
「北東へ向かってるんか、ほなら犯人の目的がだいたいわかった。強制ふ化やな。子供らを使役するつもりや。」
アウラ様が更に説明してくれた。
龍族の子供は体内で3年、卵で10年かけて成長を待つが、ふ化の時期前でも、特定の火山の溶岩に卵を浸すと、ふ化する場合がある。
龍族は火山の中から生まれたとの言い伝えもあり、溶岩との親和性が高いのか、それとも命の危険を察知してふ化するのか詳しいことはわかっていないが、特定の場所の溶岩に浸せばふ化するらしい。
また龍族の子供は鳥の雛のように、ふ化した際、最初に見た生物を親と認識する本能が備わっている。
生まれたては魔法抵抗も低いから、各種の魔法にかかりやすい。
すぐにドレイモンで囚われてしまうかもしれない。
と言うことだ。
「北東に、その火山があるのですか?」
「ああ、フォナシス火山や。ワイらの先祖は、その火山の火孔付近に住んどった。いわばワイらの故郷やな。」
「あなた、お願い。」
イリヤ様がアウラ様の腕にすがる。
アウラ様はイリヤ様を見下ろす。
「ああ、わかっとるわい。お前はここで待っとれ。」
アウラ様は子供達を救出に向かうようだ。
「ソウ、いくで」
(え?俺も?)
「なんや、不満そうやの?」
「いいえ、けっしてそんなことは。・・・」
「ワイ一人でも大丈夫やが、敵はイリヤを眠らせた武器をもっとるさかいにな。万が一ワイが寝てもうたら、ワイをどついて起こしてくれ。」
(龍神様をどつくなんて、出来ないですよ。・・・)
アウラ様は、そう言ってまた全裸になった。
龍化するためだ。
(面倒だな・・漫画みたいに変身しても服着たままにならないのかな・・・)
「なんぞ、言うたか?」
「いえ、なにも・・」
「ほな、かあちゃん、子供ら取り返してくるわ。」
アウラ様は龍化し、俺を乗せて再び大空へ舞い上がった。
アウラ様の自宅は、俺が想像していた『ドラゴンの巣』とは全く違って、まさしく
『龍神様の神殿』
という名称がぴったりの豪華な宮殿だった。
後から聞いた話だが、この宮殿は2万年以上前にアウラ様を信仰する当時の信者が建てた『龍神様の神殿』らしい。
2万年以上も当時と変わらない姿を残しているのは、アウラ様が建物全体を何かのスキルで保護しているのだろう。
「さあ、入れ、入れ。」
アウラ様の言葉に従って、正面から神殿に入った。
入ってすぐの場所は大きく開けていて、半円のすり鉢状になっている。
すり鉢の底、玄関正面には大きなステージがあり、ステージの上には巨大なドラゴンの彫像があった。
昔の信者がここへ祈りに来て供え物をしたり、アウラ様の許しを得た神官が説教をした場所だそうだ。
「こっちや」
アウラ様の手招きに従ってステージ右横の人間向けのドアを通ると大きな廊下が建物の奥まで続いていた。
廊下の左側には幾つかのドアがあるので、ドアの向こうには何かの部屋があるのだろう。
ドアの数は5つくらいあった。
俺はアウラ様の案内で一番奥の部屋へ入った。
「ワイらの寝室や。ここへワイの家族以外の者がはいんのは、ソウが初めてや。」
おれも他人のベッドルームへ入るのは、初めてだ。
「・・恐縮です。」
アウラ様は部屋の中のカーテンを開いた。
「ワイの嫁はん、イリヤや。」
カーテンの向こうには、巨大なベッドが二つあり、その一つに、シーツにくるまり背を向けている女性の姿があった。
「おい、かあちゃん、おきんか、ほれ。」
アウラ様が、女性を揺り起こそうとするが、女性は全く反応しない。
アウラ様が女性を強く揺すったので、女性が横向けの姿勢から、顔を天井向ける姿勢になった。
「女神様・・・」
思わず口に出した。
ドラゴンの奥さんだから、当然この女性もドラゴンなのだろうが、人化している姿はまさしく『女神』と言っていいほどの美しさだ。
髪は金色で長いストレート、細く長い眉毛、目はつぶっているので目の色は判らないが、まつ毛は長く、天然にカールしている。
鼻は女性らしい整った形で西洋人風だ。
唇は細めだが弾力がありそうで、顔のサイズにピッタリな形をしている。
肌は、ほんのりピンク色をしているが、透き通るように美しく滑らかだ。
顔全体の印象はまさしく
『女神様』
そうとしか言いようのない美しさだ。
「かあちゃん。どないしたんやろな。魔法で眠らさているのはわかるんやが、魔法にしては、その効力が長すぎるわ。それに、かあちゃんの魔法抵抗は高いはずやけどなぁ。」
アウラ様が寝ている女性の髪の毛をかきあげる。
「アウラ様、イリヤ様を診察したいのですが、よろしいですか?」
「おう、やってくれ。」
俺はマジックバッグからメディを取り出してその場で展開した。
「お、メディカルマシンやな。まだ残っとったんか。」
意外だった。
俺は、アウラ様も今までメディを見た現地人同様、驚くと思っていた。
「これをご存じなのですか?」
「ああ、知っとるで。戦場を見に行った時、信者の軍施設で何度か見たことがある。大戦で全部壊れたと思うとった。」
「それじゃ話が早いです。イリヤ様を診察台へ載せて下さい。」
「よっしゃ。」
アウラ様は、イリヤ様を抱き上げ、診察台に乗せた。
「メディ、スキャンして。この女性が目覚めない原因を探せ。」
『了解しました。』
(全裸にしろとは言わないんだな・・・)
アウラさまがチラリとこちらを見たような気がした。
メディがイリヤ様を半透明のシールドで覆う。
イリヤ様の頭から足方向にシールドが光った。
『患者の昏睡原因が判明しました。背部に異物があります。脊柱の第12椎骨と第13椎骨の間の軟骨から針金状の物が椎体に差し込まれて麻痺原因となる物質が注入されています。
麻痺物質は髄液を介して脳に直接作用しています。これが患者の昏睡原因です。』
メディの説明は難しくてよくわからない。
「メディもう少し簡単に説明できないか?」
『了解しました。』
メディの上部、イリヤ様の頭の上方向にスクリーンが出現した。
そのスクリーンにはイリヤ様の背骨の様子を拡大した映像が写し出されている。
背骨の中ほどの部分に矢印のアイコン「←」が現れた。
その矢印の先にはベアリング球程度の黒い影があり、その玉から細い針金のようなものが5センチ位伸びていて、イリヤ様の背骨に刺さっている。
『矢印の部分に人工的な異物があります。その異物は注射器の役目をしているようで、注射針が背骨の中まで達しています。常時麻痺作用のある薬物が、患者の脊髄に注入されているのです。』
イリヤ様が昏睡している原因は、魔法ではなく何か高度な技術によるものだった。
誰かが、イリヤ様の体内に異物を埋め込んだのだ。
アウラ様が、映像を見てつぶやいた。
「誰やねん・・・」
アウラ様から怒気が溢れる。
俺は、その怒気を感じて反射的に獣化してしまった。
それにしても誰がこんな事を・・
「アウラ様、アウラ様が奥様を見つけた時の状況をお話しください。」
アウラ様の目は怒ったままだ。
「ワイが狩りから帰ってきたら。かあちゃんはベッドで寝ていた。今見たままの状態じゃ。ただ気になるのは、表の神殿に供え物があった。
めったにないことやが、今でも極まれに旅人が供え物をすることがある。それやと思うてたんやが、その供え物をした奴が怪しいな。」
「建物の入り口は解放したままだったんですか?」
「せや、人なんてめったにけぇへんからな。どっこも鍵なんてかけてないわ。」
不用心だな・・
「ともかく原因はわかりました。メディ、異物は取り出せるか?」
『異物の取り出しは、容易です。成功率99,98%です。0,2%のリスクがありますが、命に別状はありありません。』
「アウラさん、どうしますか?」
「どうしますも、こうしますもあれへんがな、やるしかないやろ。」
「わかりました。」
「メディ、異物を除去してくれ。」
『了解しました。患者を全裸にしたうえ、背面で寝かせてください。』
やっぱり・・・
アウラ様と俺は、3秒程みつめあった。
「あ、あ、すみません。後ろ向きになるので、メディの指示に従って下さい。」
「あたりまえじゃボケ」
俺はイリヤ様に背を向けた。
「用意でけたで。」
「はい。メディ、異物を排除しろ。」
『了解しました。術式の所要時間は5分です。再確認します。0,02%の確率で患者の身体に障害が残る可能性がありますが、実行しますか。』
「メディ、実行しろ。」
『実行します。』
5分が経過した。
『術式、成功しました。患者は昏睡状態から、睡眠状態へ移行しています。』
「アウラ様、振り向いてもいいですか?」
「おお、ええぞ」
俺は振り向いてイリヤ様を見た。
イリヤ様は診察台の上でシーツにくるまれて寝ている。
メディの義手にはベアリングの球位の銀色に光る球が摘まれている。
その球からは長さ30センチくらいの糸状のものが出ていてウネウネと動いている。
「かあちゃん。かあちゃん。起きろ。」
アウラ様がイリヤ様を揺り動かす。
イリヤ様の目が開いた。
「あら、あなた、おはよう。」
「おはようやあらへんがな。お前一週間も寝とったんやぞ。」
「え、そんなに・・・あ、子供たちは?」
イリヤ様が突然、あわて始め、寝台から飛び起きた。
全裸のまま・・・
イリヤ様は、最初イリヤ様が寝ていたベッドの隣のベッドにかけより、シーツをめくった。
「いない。・・・どうしましょ。あなた。子供たちが。」
「それやねん。どやら誘拐されたな。」
アウラ様の眉間にしわが寄る。
それはそうと、夫婦そろって全裸だ。
服くらい着て欲しい・・・
俺は二人にお願いした。
「あのー、お二人とも、何かお召になっていただけませんか・・・」
「キャッ」
イリヤ様は服を着て再び俺の前に現れた。
「ところで、こちらはどちら様?」
イリヤ様が俺を見ている。
アウラ様が
「詳しいことは後で話すが、お前を助けてくれた『ソウ』ちゅう人狼や。」
と説明してくれた。
「それは、それは、ありがとうございました。」
イリヤ様は関西弁ではなかった。
二人が服を着て落ち着いたところで状況の再確認をした。
アウラ様が狩りに出た後、イリヤ様が子供の世話をしていたところ、神殿の方に人の気配を感じた。
めったにないことだが、ごく稀に旅人や近くの村の老人が、礼拝に訪れることがあるそうだ。
イリヤ様は訪問者が信者だろうと思い、様子を見に礼拝堂へ行ったところ、10人くらいの人間が、ドラゴン像を拝み、供え物を像の前に置くところだった。
イリヤ様は信者に挨拶をして、供え物を受け取るべく信者に背を向けたところ、突然意識を失ったとのことだった。
気を失ったイリヤ様をベッドに運び、背中の傷を塞いだのは、おそらく犯人達だろう。
犯行の発覚を遅らせて追跡を困難にするためだ。
そして気が付いたら、ベッドに居るはずの子供二人がいなかった。
「状況は、よくわかりました。誘拐に間違いないですね。犯人に心当たりは無いですか。?」
俺は昔見た刑事ドラマのワンシーンを思いだしていた。
イリヤ様は首を振った。
アウラ様が、イリヤ様を向いて言った。
「子供たちは無事か?方向は判るか?」
(イリヤ様に子供たちの様子がわかるのだろうか?)
「ええ、無事です。方角は北東です。少しずつ遠ざかっています。」
二人の会話についていけないので、尋ねた。
「離れているのに、お子さんの様子が判るんですか?」
アウラ様が答えてくれた。
「わかるで、お前たちの言葉でいう『遠話』やな。ワイは距離が離れていると判り辛いが母親のイリヤは判る。なんせイリヤは子供たちがお腹におった時からずっと話しかけとったからな。」
なるほど。
「それじゃ、お子様に、周囲の状況を尋ねてみれば、いかかですか?」
「そりゃ、無理やわ。子供らはまだ卵の中で、外の様子は判らへん。」
アウラ様の説明によると
アウラ様たち龍族の子は、身ごもって3年間、母親の胎内におり、卵の姿で生まれてくる。出産してから約10年でふ化するとのことだ。
「北東へ向かってるんか、ほなら犯人の目的がだいたいわかった。強制ふ化やな。子供らを使役するつもりや。」
アウラ様が更に説明してくれた。
龍族の子供は体内で3年、卵で10年かけて成長を待つが、ふ化の時期前でも、特定の火山の溶岩に卵を浸すと、ふ化する場合がある。
龍族は火山の中から生まれたとの言い伝えもあり、溶岩との親和性が高いのか、それとも命の危険を察知してふ化するのか詳しいことはわかっていないが、特定の場所の溶岩に浸せばふ化するらしい。
また龍族の子供は鳥の雛のように、ふ化した際、最初に見た生物を親と認識する本能が備わっている。
生まれたては魔法抵抗も低いから、各種の魔法にかかりやすい。
すぐにドレイモンで囚われてしまうかもしれない。
と言うことだ。
「北東に、その火山があるのですか?」
「ああ、フォナシス火山や。ワイらの先祖は、その火山の火孔付近に住んどった。いわばワイらの故郷やな。」
「あなた、お願い。」
イリヤ様がアウラ様の腕にすがる。
アウラ様はイリヤ様を見下ろす。
「ああ、わかっとるわい。お前はここで待っとれ。」
アウラ様は子供達を救出に向かうようだ。
「ソウ、いくで」
(え?俺も?)
「なんや、不満そうやの?」
「いいえ、けっしてそんなことは。・・・」
「ワイ一人でも大丈夫やが、敵はイリヤを眠らせた武器をもっとるさかいにな。万が一ワイが寝てもうたら、ワイをどついて起こしてくれ。」
(龍神様をどつくなんて、出来ないですよ。・・・)
アウラ様は、そう言ってまた全裸になった。
龍化するためだ。
(面倒だな・・漫画みたいに変身しても服着たままにならないのかな・・・)
「なんぞ、言うたか?」
「いえ、なにも・・」
「ほな、かあちゃん、子供ら取り返してくるわ。」
アウラ様は龍化し、俺を乗せて再び大空へ舞い上がった。
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