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第三章 キャラバン編
第45話 ガルダ村 ピアノの音色
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キノクニキャラバンは、魔物の大群に襲われた後、何事もなく順調に歩を進めた。
明日には砂漠を走破し終えて、補給地でもあるガルダ村に到着の予定だった。
途中、何度かサソリが出たが、ウルフの機銃掃射で一撃だった。
俺は、親睦も兼ねてブンザさんのテントで催される宴会に招かれていた。
出席者は、俺、ドルムさん、ドランゴさん、ブンザさんと、その部下6名だ。
(たまには羽をのばしてもいいだろう・・)
俺は酒を飲まなかったが、酒を酌み交わすドランゴさん達を見るだけでも楽しかった。
ピンターもルチアも連れて来たかったが、テルマさんがキューブに残りたがったので、留守番をさせた。
テルマさんは、
(もしブンザさんの部下に昔の客がいたら困る。)
と考えたのかもしれない。
あの執事の件依頼、テルマさんはあまり外に出ようとしない。
移動中はウルフの中だし、野営中はキューブの中に居る。
ゲラニに到着すれば、見知らぬ土地だし、安心するかもしれない。
今はそっとしておこうと思っている。
「シン副隊長、改めてよろしくな。俺はケンタ・キノクニだ。」
30歳手前だろうか、黒髪で東洋風の顔立ちの男がブンザさんの隣に座っている俺に話しかけてきた。
法被の袖に二本線の金の刺繍が入っている。
つまり副隊長だ。
俺は姿勢を正して返事した。
「ケンタ副隊長殿、こちらこそよろしく頼む。」
ブンザさんが酒を飲みながら顔をこちらに向ける。
「シン殿、ケンタは私の従弟だ。戦士としての腕は、そこそこある。女癖が悪いのが玉に瑕だがな。ハハ」
「ねーちゃん、ひでぇぜ。それに腕はそこそこじゃねぇよ。たっぷりあるぞ。ガハハ」
「人前でねーちゃんは、止めろといってるだろ。ここでは隊長だ。隊長」
傍から見れば仲の良い姉弟がじゃれあっているようにも見える。
(俺とヒナのような関係だろうか?そう言えばヒナはどうしているだろう。)
その頃、ヒナはブテラの城の牢獄に居た。
次のキャラバンが仕立てられるまで、逃走防止の為に投獄されていたのだ。
「おい。飯だぞ。」
牢番が鉄格子の向こうから、声をかける。
「おい。いつものやってくれねぇか。」
ヒナは鉄格子越しに牢番に対してヒールをかけた。
「おめーみてぇな。若い子がここにいちゃだめだ。早く娑婆に出られるよう頑張れよ。」
「はい。」
牢番は見た目によらず優しい言葉をヒナにかけた。
ヒナは食後、鉄格子の窓から、赤い月を眺めた。
「ソウちゃん。・・・」
ブンザの催した宴は深夜まで続いた。
明日は久しぶりの集落だ。
旅の垢も落とせるだろう。
警戒を怠っていたわけではないが、少し油断してたのは事実だ。
ジャーン、ジャン、ジャン、ジャン
敵襲を知らせる銅鑼が激しく鳴った。
「何事だ!!!」
ブンザ隊長が立ち上がる。
全員盃を、その場に置いて、外へ駆け出した。
外へ出ると何人かの法被を着た男が空を見上げている。
俺もつられて上を見上げた。
上空には驚いたことに
『ドラゴン』
がキャラバンの円陣の上を旋回していた。
「大きい!!」
副隊長のケンタが叫ぶ。
キャラバンの上空10メートル位を赤くて巨大なドラゴンが悠々と旋回している。
全身が赤銅色で、いかにも固そうな鱗で覆われている。
首は、大きな頭を支えるのに十分な太さだ。
口は大きく裂けていて、いくつもの牙が見えている。
目は鋭い眼光をはなっていて、なぜだか知的なものを感じる。
胴体はテレビや映画でよく見るティラノザウルスのようだ。
尻尾は胴体の2倍くらいの長さ、足は太く短く二足歩行ができそうだ。
腕は短いが5本の指があって人一人なら軽く掴めるだろう。
翼を広げた状態ならばテニスコート一面には収まらないくらいだ。
ドラゴンは何度か上空を旋回するとキャラバン円陣の中央部で少しホバリングした後、空地へ着地した。
恐ろしすぎて誰も近寄れない、攻撃できない。
ただただ、呆然としている。
(やばい・・・)
俺があわててキューブへ戻ろうとした時、ドラゴンは何かの匂いを嗅ぐように鼻を地面につけて、鼻孔をヒクヒクさせた。
そしてドラゴンから強い思念が届いた。
『リーザ・・・・テラン・・・・』
ドラゴンはギロリと俺を見たかと思った途端、翼を羽ばたかせて、上空へ消え去った。
後には、ドラゴンが羽ばたいた余波で倒れたテントと土煙が残った。
法被を着た男たちが呆然と佇み上空を見つめている。
素面に戻ったドルムさんが俺に近づく
「なんだったんだ、あれ」
これまた酔いのさめたケンタ副隊長がつぶやく。
「ドラゴンを見たのはこれで3度目だが、あんな大きいのは初めてだ。」
「何にしても、被害が無くて良かったです。おい!見張りを倍に増やせ。酒は終わり、これ以上誰も飲むな。」
ブンザ隊長がてきぱきと指示をする。
結局、その日、再びドラゴンが姿を現すことは無かった。
翌日、早々に出発して、俺はウルフの中でドルムさんに質問した。
「ドルムさん、ドラゴンってちょくちょく出現するものですか?」
ドルムさんは顔を捻っている。
「いや、俺も詳しいわけじゃないが、ドラゴンは普通、人里離れたところで生活しているはずだ。人里に降りてくるのはあまり聞いたことが無い。
ドラゴンにもいろいろいて、年をとったドラゴンは、竜人と言われて、知性もあり、人語を解するそうだ。」
俺は昨晩のドラゴンが、遠話で、誰かの名前を呼んだのを覚えていた。
確か
『リーザ』とか『テラン』とか言っていたはずだ。
「ドルムさん、昨日のドラゴンの遠話、聞こえましたか?」
「遠話?いいや、俺には聞こえなかったぞ。遠話も心が合わないと通話できんからな。あのドラゴン話をしたのか?」
ドルムさんの話の中の「心が合う」という意味は俺達の世界で言うところの電波の周波数のような感覚だ。
「ええ、誰かの名前を呼んでました。」
(マザー、お前はドラゴンの声が聞こえたか?)
『はい。聞こえました。私とソウ様の通話周波数に近い思念でしたから。』
(やっぱり、勘違いじゃなかったな。)
キャラバンは、夕刻前に今日の目的地ガルダ村に到着した。
このガルダ村は、ゴビル砂漠の北側、レニア山脈の南側に位置する。
キルト辺境伯が管理する人口3、000人程度の村だ。
首都からは遠く離れているが、首都からのレニア山脈越えの街道と、レニア山脈南側の街道の交差点で、それなりに栄えている。
村には村役場や、宿屋、歓楽街等、一通りの施設が整っていて、キャラバンはここで商売をすると同時に休息をとり、食糧補給等もするそうだ。
村とは言っているが、そこそこの規模の宿場町なのだ。
街の入り口には、税務署を兼ねた検問所があり、通行人から通行税を徴収していた。
一般の旅人は、長い列を作ってこの検問所で通行手形を確認の上、徴税されていたが、キノクニキャラバンは特別で、キノクニの法被を着た人の人数を数えるだけで、ほぼフリーパスだった。
「へー、キノクニの威力ってすごいですね。」
俺達は村に入る前にウルフを畳んで、一番馬車、ブンザさんの馬車と2番馬車ケンタ副隊長の馬車に同上させてもらっていた。
ブンザさんとケンタ副隊長は騎馬で馬車を誘導したり、役人とかけあったりしている。
「そうでがんすな。なにせキノクニは他国との貿易も国から任されてやんすから。信用度は高いでやんしょうな。」
「それじゃ、ブンザさんって偉いんですね。」
「ワッシも良くは知りやせんが、国の大臣が挨拶に来るなんてことを、言っておりやんしたよ。」
(うへー もうちょっと言葉使いに気を付けようかな・・・)
キャラバンは全ての馬車と人員が無事検問所を通過した。
あとから聞いた話だが、キノクニキャラバンは、キャラバン一隊につき、いくらという方式で税を払っているそうだ。
馬車から降りると、街中は久しぶりの人込みだった。
村の中央には広場があって、その周囲は屋台や見世物小屋でにぎわっている。
酒場や宿屋も多く立ち並んでいて、人口のわりに栄えている感じがする。
俺達はキューブを仕舞って、久しぶりに宿屋に泊まることにした。
キューブは目立つからできるだけ人目に触れさせたくなかったのだ。
宿をとってから、ドルムさんとドランゴさんは、さっそく飲みに出かけ、俺とピンター、ルチアは屋台巡り。
テルマさんも誘ったが、やはり留守番を希望した。
無理に誘うことはしなかった。
宿から外へ出て広場へ至る前にピンターとルチアが
「にーく、にくにく♪ おにくだよー♪」
「ニクグシ、ニクグシ、♪イッパイ、イッパイ♪」
とピンター作詞、ルチア作曲のニクグシ音頭を歌い、踊り始めた。
遠くから、肉の焼ける香ばしい匂いが漂ってきている。
久しぶりの買い食いだ。
「おやじさん。この子たちが持てるだけ」
「あいよー、まいどあり、お大臣。」
肉串大臣にされそうだ。
屋台をあちこちのぞいているうちに、アクセサリーを売っている屋台が目についた。
いくつかのアクセサリーを見ていると店主のおばちゃんが
「兄さん、弟さんと妹さんに、何か買ってやりなよ。これなんかいいよ。お揃いでどうだい?」
俺達の世界のカメオに近い首飾りをおばさんが差し出した。
おそらく大理石か何かの硬い石に彫刻を施したものだろう。
二つで銀貨4枚だという。
銀貨10枚で金貨一枚だから高くはない。
彫刻されているのは女性の顔だ。
美しいとは言い難いが、ふくよかで優しい顔をしている。
なんとなく気に入ったので、ピンターとルチアに買ってあげた。
二人は喜んでいる。
ピンターは過去にも竹馬をプレゼントしたことがあるが、ルチアには初めてのプレゼントだ。
ルチアは人から何かをプレゼントされた経験がないようだ。
俺がルチアの首にカメオをかけてやると。
俺に抱き着いた。
「ずるい。おいらもー」
ピンターも抱き着いた。
(おまえら、俺が絶対守ってやるからな・・・)
ピンターが抱き着いた時に肉串の汁がたっぷりと俺の服に染み付いた。
買い食いをしながら散歩を続けていたところ、街の少し外れ、閑静な住宅街へ出た。
宿へ帰ろうと帰り道を探している時に、どこからかピアノの音が聞こえた。
その音を追い掛けたところ、一際大きな家にたどり着いた。
あいかわらずピアノがなっている。
なんだか聞き覚えのある曲だ。
ピアノの音色に耳を傾ける。
・・・・「別れの曲」だ。
俺は、クラシック音楽に興味はなかったが、この曲には聞き覚えがある。
イツキの家へ遊びに行った時、イツキの姉がよく弾いていた曲だ。
イツキの姉が弾く曲の名はイツキから聞かされていた。
「ショパンの別れの曲」
という有名な曲だと。
(この世界にショパン?それとも俺の同級生?イツキか?)
イツキがピアノを弾けることはよく知っていた。
俺は奏者が誰か確かめようと思い、その家の玄関をノックした。
直ぐに家の中から初老の男が現れた。
「どなたかな?」
「突然の訪問、失礼する。私はキノクニキャラバン副隊長のシンだ。」
キノクニの法被を着たままでよかった。
「これは、キノクニキャラバンには、いつも村を潤わせていただき、感謝しております。私は、この村の村長ズマトと申します。で、我が家に何用でしょう?」
周囲の家より一際大きく、手入れの行き届いている家なので、著名な人の住まいだろうとは思っていたが、まさか村長宅とは
「これは村長殿、キノクニこそお世話になっております。要件は、たわいもないことです。姉弟を連れて散歩していたところ、美しいピアノの音色が流れてきたもので、どなたが演奏されているのか、興味を持ったしだいです。」
俺は笑顔で答えた。
村長は、俺の顔を見て、次にピンターとルチアを見て、笑顔を返してくれた。
「そうですか、キノクニの方なら、心配ありませんな。事情があって私から演奏者のお名前を告げるわけにはまいりませんが、お取次ぎは致しましょう。まずはお入りください。ご姉弟様にも飲み物等、用意させましょう。」
俺は少しためらったが、奏者を知りたかったので遠慮がちに村長宅へはいった。
俺と比べて、ピンターとルチアは、さも当然と言ったていで、堂々と村長宅へ入った。
(俺より度胸あるな、お前らw)
客間へ通されて、少し待つ間にもピアノの演奏は続く、曲は「別れの曲」から次の曲目に移った。
静かなイントロから始まり穏やかなAメロ、軽快なBメロ、Aメロに戻ってラスサビ、そのラスサビの時、俺は思わず心の中で歌ってしまった。
(しょうぉねんよ、しんわにナレっ♪)
日本人なら誰でも知っているアニソンだ。
明日には砂漠を走破し終えて、補給地でもあるガルダ村に到着の予定だった。
途中、何度かサソリが出たが、ウルフの機銃掃射で一撃だった。
俺は、親睦も兼ねてブンザさんのテントで催される宴会に招かれていた。
出席者は、俺、ドルムさん、ドランゴさん、ブンザさんと、その部下6名だ。
(たまには羽をのばしてもいいだろう・・)
俺は酒を飲まなかったが、酒を酌み交わすドランゴさん達を見るだけでも楽しかった。
ピンターもルチアも連れて来たかったが、テルマさんがキューブに残りたがったので、留守番をさせた。
テルマさんは、
(もしブンザさんの部下に昔の客がいたら困る。)
と考えたのかもしれない。
あの執事の件依頼、テルマさんはあまり外に出ようとしない。
移動中はウルフの中だし、野営中はキューブの中に居る。
ゲラニに到着すれば、見知らぬ土地だし、安心するかもしれない。
今はそっとしておこうと思っている。
「シン副隊長、改めてよろしくな。俺はケンタ・キノクニだ。」
30歳手前だろうか、黒髪で東洋風の顔立ちの男がブンザさんの隣に座っている俺に話しかけてきた。
法被の袖に二本線の金の刺繍が入っている。
つまり副隊長だ。
俺は姿勢を正して返事した。
「ケンタ副隊長殿、こちらこそよろしく頼む。」
ブンザさんが酒を飲みながら顔をこちらに向ける。
「シン殿、ケンタは私の従弟だ。戦士としての腕は、そこそこある。女癖が悪いのが玉に瑕だがな。ハハ」
「ねーちゃん、ひでぇぜ。それに腕はそこそこじゃねぇよ。たっぷりあるぞ。ガハハ」
「人前でねーちゃんは、止めろといってるだろ。ここでは隊長だ。隊長」
傍から見れば仲の良い姉弟がじゃれあっているようにも見える。
(俺とヒナのような関係だろうか?そう言えばヒナはどうしているだろう。)
その頃、ヒナはブテラの城の牢獄に居た。
次のキャラバンが仕立てられるまで、逃走防止の為に投獄されていたのだ。
「おい。飯だぞ。」
牢番が鉄格子の向こうから、声をかける。
「おい。いつものやってくれねぇか。」
ヒナは鉄格子越しに牢番に対してヒールをかけた。
「おめーみてぇな。若い子がここにいちゃだめだ。早く娑婆に出られるよう頑張れよ。」
「はい。」
牢番は見た目によらず優しい言葉をヒナにかけた。
ヒナは食後、鉄格子の窓から、赤い月を眺めた。
「ソウちゃん。・・・」
ブンザの催した宴は深夜まで続いた。
明日は久しぶりの集落だ。
旅の垢も落とせるだろう。
警戒を怠っていたわけではないが、少し油断してたのは事実だ。
ジャーン、ジャン、ジャン、ジャン
敵襲を知らせる銅鑼が激しく鳴った。
「何事だ!!!」
ブンザ隊長が立ち上がる。
全員盃を、その場に置いて、外へ駆け出した。
外へ出ると何人かの法被を着た男が空を見上げている。
俺もつられて上を見上げた。
上空には驚いたことに
『ドラゴン』
がキャラバンの円陣の上を旋回していた。
「大きい!!」
副隊長のケンタが叫ぶ。
キャラバンの上空10メートル位を赤くて巨大なドラゴンが悠々と旋回している。
全身が赤銅色で、いかにも固そうな鱗で覆われている。
首は、大きな頭を支えるのに十分な太さだ。
口は大きく裂けていて、いくつもの牙が見えている。
目は鋭い眼光をはなっていて、なぜだか知的なものを感じる。
胴体はテレビや映画でよく見るティラノザウルスのようだ。
尻尾は胴体の2倍くらいの長さ、足は太く短く二足歩行ができそうだ。
腕は短いが5本の指があって人一人なら軽く掴めるだろう。
翼を広げた状態ならばテニスコート一面には収まらないくらいだ。
ドラゴンは何度か上空を旋回するとキャラバン円陣の中央部で少しホバリングした後、空地へ着地した。
恐ろしすぎて誰も近寄れない、攻撃できない。
ただただ、呆然としている。
(やばい・・・)
俺があわててキューブへ戻ろうとした時、ドラゴンは何かの匂いを嗅ぐように鼻を地面につけて、鼻孔をヒクヒクさせた。
そしてドラゴンから強い思念が届いた。
『リーザ・・・・テラン・・・・』
ドラゴンはギロリと俺を見たかと思った途端、翼を羽ばたかせて、上空へ消え去った。
後には、ドラゴンが羽ばたいた余波で倒れたテントと土煙が残った。
法被を着た男たちが呆然と佇み上空を見つめている。
素面に戻ったドルムさんが俺に近づく
「なんだったんだ、あれ」
これまた酔いのさめたケンタ副隊長がつぶやく。
「ドラゴンを見たのはこれで3度目だが、あんな大きいのは初めてだ。」
「何にしても、被害が無くて良かったです。おい!見張りを倍に増やせ。酒は終わり、これ以上誰も飲むな。」
ブンザ隊長がてきぱきと指示をする。
結局、その日、再びドラゴンが姿を現すことは無かった。
翌日、早々に出発して、俺はウルフの中でドルムさんに質問した。
「ドルムさん、ドラゴンってちょくちょく出現するものですか?」
ドルムさんは顔を捻っている。
「いや、俺も詳しいわけじゃないが、ドラゴンは普通、人里離れたところで生活しているはずだ。人里に降りてくるのはあまり聞いたことが無い。
ドラゴンにもいろいろいて、年をとったドラゴンは、竜人と言われて、知性もあり、人語を解するそうだ。」
俺は昨晩のドラゴンが、遠話で、誰かの名前を呼んだのを覚えていた。
確か
『リーザ』とか『テラン』とか言っていたはずだ。
「ドルムさん、昨日のドラゴンの遠話、聞こえましたか?」
「遠話?いいや、俺には聞こえなかったぞ。遠話も心が合わないと通話できんからな。あのドラゴン話をしたのか?」
ドルムさんの話の中の「心が合う」という意味は俺達の世界で言うところの電波の周波数のような感覚だ。
「ええ、誰かの名前を呼んでました。」
(マザー、お前はドラゴンの声が聞こえたか?)
『はい。聞こえました。私とソウ様の通話周波数に近い思念でしたから。』
(やっぱり、勘違いじゃなかったな。)
キャラバンは、夕刻前に今日の目的地ガルダ村に到着した。
このガルダ村は、ゴビル砂漠の北側、レニア山脈の南側に位置する。
キルト辺境伯が管理する人口3、000人程度の村だ。
首都からは遠く離れているが、首都からのレニア山脈越えの街道と、レニア山脈南側の街道の交差点で、それなりに栄えている。
村には村役場や、宿屋、歓楽街等、一通りの施設が整っていて、キャラバンはここで商売をすると同時に休息をとり、食糧補給等もするそうだ。
村とは言っているが、そこそこの規模の宿場町なのだ。
街の入り口には、税務署を兼ねた検問所があり、通行人から通行税を徴収していた。
一般の旅人は、長い列を作ってこの検問所で通行手形を確認の上、徴税されていたが、キノクニキャラバンは特別で、キノクニの法被を着た人の人数を数えるだけで、ほぼフリーパスだった。
「へー、キノクニの威力ってすごいですね。」
俺達は村に入る前にウルフを畳んで、一番馬車、ブンザさんの馬車と2番馬車ケンタ副隊長の馬車に同上させてもらっていた。
ブンザさんとケンタ副隊長は騎馬で馬車を誘導したり、役人とかけあったりしている。
「そうでがんすな。なにせキノクニは他国との貿易も国から任されてやんすから。信用度は高いでやんしょうな。」
「それじゃ、ブンザさんって偉いんですね。」
「ワッシも良くは知りやせんが、国の大臣が挨拶に来るなんてことを、言っておりやんしたよ。」
(うへー もうちょっと言葉使いに気を付けようかな・・・)
キャラバンは全ての馬車と人員が無事検問所を通過した。
あとから聞いた話だが、キノクニキャラバンは、キャラバン一隊につき、いくらという方式で税を払っているそうだ。
馬車から降りると、街中は久しぶりの人込みだった。
村の中央には広場があって、その周囲は屋台や見世物小屋でにぎわっている。
酒場や宿屋も多く立ち並んでいて、人口のわりに栄えている感じがする。
俺達はキューブを仕舞って、久しぶりに宿屋に泊まることにした。
キューブは目立つからできるだけ人目に触れさせたくなかったのだ。
宿をとってから、ドルムさんとドランゴさんは、さっそく飲みに出かけ、俺とピンター、ルチアは屋台巡り。
テルマさんも誘ったが、やはり留守番を希望した。
無理に誘うことはしなかった。
宿から外へ出て広場へ至る前にピンターとルチアが
「にーく、にくにく♪ おにくだよー♪」
「ニクグシ、ニクグシ、♪イッパイ、イッパイ♪」
とピンター作詞、ルチア作曲のニクグシ音頭を歌い、踊り始めた。
遠くから、肉の焼ける香ばしい匂いが漂ってきている。
久しぶりの買い食いだ。
「おやじさん。この子たちが持てるだけ」
「あいよー、まいどあり、お大臣。」
肉串大臣にされそうだ。
屋台をあちこちのぞいているうちに、アクセサリーを売っている屋台が目についた。
いくつかのアクセサリーを見ていると店主のおばちゃんが
「兄さん、弟さんと妹さんに、何か買ってやりなよ。これなんかいいよ。お揃いでどうだい?」
俺達の世界のカメオに近い首飾りをおばさんが差し出した。
おそらく大理石か何かの硬い石に彫刻を施したものだろう。
二つで銀貨4枚だという。
銀貨10枚で金貨一枚だから高くはない。
彫刻されているのは女性の顔だ。
美しいとは言い難いが、ふくよかで優しい顔をしている。
なんとなく気に入ったので、ピンターとルチアに買ってあげた。
二人は喜んでいる。
ピンターは過去にも竹馬をプレゼントしたことがあるが、ルチアには初めてのプレゼントだ。
ルチアは人から何かをプレゼントされた経験がないようだ。
俺がルチアの首にカメオをかけてやると。
俺に抱き着いた。
「ずるい。おいらもー」
ピンターも抱き着いた。
(おまえら、俺が絶対守ってやるからな・・・)
ピンターが抱き着いた時に肉串の汁がたっぷりと俺の服に染み付いた。
買い食いをしながら散歩を続けていたところ、街の少し外れ、閑静な住宅街へ出た。
宿へ帰ろうと帰り道を探している時に、どこからかピアノの音が聞こえた。
その音を追い掛けたところ、一際大きな家にたどり着いた。
あいかわらずピアノがなっている。
なんだか聞き覚えのある曲だ。
ピアノの音色に耳を傾ける。
・・・・「別れの曲」だ。
俺は、クラシック音楽に興味はなかったが、この曲には聞き覚えがある。
イツキの家へ遊びに行った時、イツキの姉がよく弾いていた曲だ。
イツキの姉が弾く曲の名はイツキから聞かされていた。
「ショパンの別れの曲」
という有名な曲だと。
(この世界にショパン?それとも俺の同級生?イツキか?)
イツキがピアノを弾けることはよく知っていた。
俺は奏者が誰か確かめようと思い、その家の玄関をノックした。
直ぐに家の中から初老の男が現れた。
「どなたかな?」
「突然の訪問、失礼する。私はキノクニキャラバン副隊長のシンだ。」
キノクニの法被を着たままでよかった。
「これは、キノクニキャラバンには、いつも村を潤わせていただき、感謝しております。私は、この村の村長ズマトと申します。で、我が家に何用でしょう?」
周囲の家より一際大きく、手入れの行き届いている家なので、著名な人の住まいだろうとは思っていたが、まさか村長宅とは
「これは村長殿、キノクニこそお世話になっております。要件は、たわいもないことです。姉弟を連れて散歩していたところ、美しいピアノの音色が流れてきたもので、どなたが演奏されているのか、興味を持ったしだいです。」
俺は笑顔で答えた。
村長は、俺の顔を見て、次にピンターとルチアを見て、笑顔を返してくれた。
「そうですか、キノクニの方なら、心配ありませんな。事情があって私から演奏者のお名前を告げるわけにはまいりませんが、お取次ぎは致しましょう。まずはお入りください。ご姉弟様にも飲み物等、用意させましょう。」
俺は少しためらったが、奏者を知りたかったので遠慮がちに村長宅へはいった。
俺と比べて、ピンターとルチアは、さも当然と言ったていで、堂々と村長宅へ入った。
(俺より度胸あるな、お前らw)
客間へ通されて、少し待つ間にもピアノの演奏は続く、曲は「別れの曲」から次の曲目に移った。
静かなイントロから始まり穏やかなAメロ、軽快なBメロ、Aメロに戻ってラスサビ、そのラスサビの時、俺は思わず心の中で歌ってしまった。
(しょうぉねんよ、しんわにナレっ♪)
日本人なら誰でも知っているアニソンだ。
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『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

異世界無宿
ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。
アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。
映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。
訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。
一目惚れで購入した車の納車日。
エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた…
神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。
アクション有り!
ロマンス控えめ!
ご都合主義展開あり!
ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。
不定期投稿になります。
投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
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掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
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