異世界修学旅行で人狼になりました。

ていぞう

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第二章 奴隷編

第30話 ブンザ・キノクニ 手前、生国は・・・

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ルチアが仲間になってから一週間が過ぎようとしていた。

その間、俺はドランゴさんの鍛冶屋の二階で引きこもり、黙々とダイヤを作成していた。

ブルナのことも、テルマさんのことも心配だったが、先に立てた計画のとおり行動するには、

『行動計画1の金策』

を進めることが必須だった。
しかし金策は、思うように進んでいなかった。

ダイヤは最初に作った1個の他、毎日1個作成して合計7個が手元にあったが、希少価値が高すぎて、販売先に困っていたのだ。

頼みはドランゴさんの伝手だけ。

現地人のドランゴさんを頼るしか、金策のあてがなかったのだ。

鍛冶屋の二階で、今日もダイヤを造ろうとしていたところ、

「師匠、師匠、まずいことになりやしたよ。」

とドランゴさんが慌てて上がってきた。

ドランゴさんは、手に何か紙切れを持っていて、それを俺に差し出した。

俺がその紙切れを受け取ると、ドルムさん、ピンター、ルチアが一斉に覗き込んだ。

「ソウだ。」
「あ、兄ちゃん。」
「ニイニ」

俺を「ニイニ」と呼んだのは、ルチアだ。

最初怯えていたルチアも最近では俺に懐いて、俺にまとわりつき離れようとしない。

夜寝るときも、いつのまにか俺の毛布の中に忍び込んで、俺にかきついて寝ている。

ピンターが焼きもちを焼くほどだ。

今まで、よほど寂しかったのだろう。

ドランゴさんが持ってきた紙は、俺の指名手配書だった。

指名手配書には

俺の顔写真・・正確に言えば似顔絵が大きく書かれ、その絵の上部には

凶悪   強盗殺人犯人

ソウ・ホンダ

見かけたら、即通報。
報奨金 金貨100枚

と書かれている。

ドルムさんは、手配書に顔を近づけ

「よく似ているな・・・腕の良い絵師だな。うむ。」

と感心していた。

「感心している場合じゃないですよ。これで、素顔のまま街を歩けなくなった。困ったな。」

「獣化すりゃいいじゃないか、素のソウと獣化のソウじゃ見た目が全然違うぞ。わかりゃしねえって。」

「そりゃ、そうですけど、獣化はしんどいのですよ。普通に歩くだけでファイヤーボールを打ち続けるのと同じくらいの魔力が必要ですからね。」

「そうなのか・・ま、外での用事は俺かドランゴが済ませるよ。な、ドランゴ」

最近、ドルムさんは、ドランゴさんと仲が良い。
酒飲みなところやギャンブル好きなところ等、共通点が多いらしい。

ドランゴさんが、表情を明るくする。

「そうでがすよ。師匠はここでのんびりしてくだしあ。・・そりゃそうと、ダイヤ売れるかもしれやせんよ。」

「お、そうなの?誰に売るの?」

「実は、首都ゲラニから毎月一度、大きなキャラバンが来るんでがんすが、それが昨日到着しやんした。そのキャラバンの隊長ってのが、ワッシの飲み友達のブンザってやつなんでやすよ。そいつに頼めば売れると思うでがんす。手数料はかなり取られると思いやすが、いかがでやんしょ?」

「信用できるのか、そのブンザって男」

ドルムさんが口をはさんだ。

「ブンザは男じゃないでがす。女でがすよ。ブンザの姉が幼くして亡くなったので、親が男のような名前をつけたらしいんでやんすよ。名前は別にして、ブンザは信用できるでがんす。100名の大キャラバン隊長をまかされるほどでやすし、キャラバンを仕立てた大商人「キノクニ」の孫娘でやんすからね。」

(ブンザ・・・キノクニ・・どこかで聞いたような名前だな。・・)

「ドランゴさん、お任せします。手数料はいくらかかってもかまいませんので、ドランゴさんが決めてください。」

「いいんですかい?ワッシに全てを任せて?ワッシと師匠は師弟関係になって日が浅い。裏切ることは考えないんでやんすか?」

「裏切りはしないと、わかっています。裏切るなら、その手配書を持って番屋へ駈け込んでいるでしょ。しかし、ドランゴさんは、今ここにいる。それだけで十分ですよ。」

「師匠・・・」

ドランゴさんは少し涙ぐんでいる。

「そうだぜ、ドランゴ、言葉に出さないが、俺達全員、ドランゴに感謝してるんだぜ、危険を顧みず、俺達をかくまってくれている。なっピンター、ルチア。」

ピンターが笑顔を向ける。

「うん。ドランゴさん優しい。」

ルチアは、俺の首筋に腕をまとわりつかせながら。

「ドランゴ、ゴハン、オイシイ」

と喉をゴロゴロ鳴らす。

「じゃ、早速、ブンザに会ってきやす。」

「うん。お願いします。ドランゴさん。」

ドランゴは鍛冶屋を後にした。

その日の夕方。

ドランゴさんが帰って来た。

「師匠、話がまとまったでやんす。7つのダイヤのうち、3個を金貨5000枚で買ってくれるそうでやんす。ただ条件があって・・」

「何です?条件は」

ドランゴさんは少し困った顔をした。

「それが、大金のかかった取引だし、今後の付き合い方も考えたいから、売主、つまり師匠に会いたいって言ってるんでやんすよ。」

ドランゴさんが困っている理由はわかった。

顔写真付きで指名手配のかかっている俺が、おいそれと外出し、他人と会うわけにはいかないからだ。

しかし、ある程度は冒険しないと、計画は前に進まない。

「良いですよ。どこへ行けばいいですか?」

「いいんでがすか?危なくないでやんすか?」

「大丈夫ですよ。獣化して行きますし。夜なら然程危険は無いでしょう。」

「出来たら今日の夜、領主邸近くのに張ったキャラバンキャンプまで来てほしいそうでがす。ワッシもお供するでやんす。」

ドルムさんが近づいてきた。

「ソウ、俺も行こうか?」

「いや、ドルムさんは、ここで留守番をお願いします。ピンター達を守ってください。もし何かあれば、遠話で知らせます。」

おれとドルムさんは、行動を共にしているうちにお互いが持つスキル「遠話」をリンクさせて通信ができるようになっていた。

「わかった。何か危ないことがあったら、すぐに知らせろよ。」

「わかってます。」

俺とドランゴさんは、ドルムさん達を鍛冶屋に残して、領主邸方向へ歩き始めた。
もちろん、俺は獣化した。

獣化は常時魔力を消費するが、今の俺なら2時間くらいは継続できるはずだ。

鍛冶屋から領主邸までは、徒歩20分くらい、往復40分だから、ブンザとの会合は余裕をもって1時間以内に切り上げなければならない。

獣化すると俺の顔は30歳位のいかつい男に見える。

体格も一回り大きくなるから、大きめの作業着を着用し、更には変装用に鍛冶場の煤を顔や腕になすりつけて、作業終了後の鍛冶屋を装った。

ドランゴさんと並んで歩けば、鍛冶屋の師弟が並んで歩いているようにも見える。

もちろん師匠はドランゴさんだ。

まだ夜は浅く、あちこちに人気がある。
俺は用心して無言で歩き続けた。

予定通り、約20分で目的地に到着した。

領主邸のすぐそばの空き地にキャラバンキャンプが張られている。

大人数だから、宿屋には止まらずキャンプをして節約しているのだろうか。

ドルムさんはキャンプ中ほど、他のテントより一回り大きなテントに俺を案内した。

「ここでやんす。」

「ブンザ~ 入るでやんすよ。~」

テントの中から

「おお、ドランゴ、入れ入れ。」

俺はドランゴさんに引き続きテントの幕を潜った。

テントの中央には植物で編んだ四角い敷物が何枚か敷かれ、その敷物の中央には、高さ50センチ位、縦30センチ、横60センチ、くらいの四角い金属製の置物がある。

置物の上にはヤカンが置かれていて、湯気を出している。

ヤカンの下は火鉢のようだ。

ものすごく親近感がある。

まるで畳の上に置かれた江戸時代の火鉢だ。

火鉢の前の人物が

「コーン、コン」

と音を立ててキセルの灰を火鉢に落とした。

(パチンコの激熱シーンのようだな。ハハ)

なぜ、俺がその激熱シーンを知っているのかは、深く追求しないでほしい。・・・

畳に座るブンザ。女性にしては結構大柄、年齢は30代後半だろうか、今はくつろいでいるのか、ゆったりとした布をまとって柔らかな帯で締めている。

まるで、浴衣のような衣装だ。

ブンザの顔つきは、凛々しく、どちらかと言えば美人と言える顔つきだろう。

眉は濃く、切れ長で、黒色の眼は眉毛の大きさとあいまって意思の強さを表している。

唇は厚く、うっすらと紅を引いている。

髪の毛は黒髪で長髪を無造作に束ねて、後ろへ垂らしている。

「ブンザ、つれてきやしたよ。この方が俺の、し・・俺の知り合い。ダイヤの売主さんでやんす。」

ドランゴさんは、師匠の「し」を言いかけて止めた。
約束は守ってくれているようだ。


「お初にお目にかかります。私、訳あってドルムさん方に居候している『シン』と申します。よろしくお願い致します。」

と言いながらブンザに対して会釈をした。

(手配書が出回っているので、偽名を使わざるを得なかったが、ネットのハンドル名くらいに考えれば、問題ないよね?)

するとブンザは驚いた様子を見せたが、すぐに、くつろいだ姿勢から衣を正し、正座して

「これは丁寧なご挨拶いたみいります。手前、生国はゲランのはるか北、ラーシャの西メルドでございます。祖父『カヘイ』の元、商人として修行中の身であります。『ブンザ・キノクニ』と申します。なにとぞ良しなに願います。寝巻姿の恥ずかしい恰好で、出迎えてしまい。まことに申し訳ございませんでした。」

ブンザは、最初の様子と打って違って姿勢を正し、丁寧な挨拶をしてくれた。

「ドランゴ! 来るなら来るで、ちゃんと連絡よこさねぇか。客人に失礼なことをしてしまったじゃないか。」

「へ?ブンザの言う通り、連れてきたんでやんすが?」

「何言ってんだ。私は、『売主の同意があれば、おもてなししたいから、返事をもらってきてくれ』と言っただろ。バカ」

「そうでやんしたか?」

「そうでやんしたよ。!!」

ドランゴさんの説明とは、ずいぶん違ったがブンザさんの言い分が正しいようだ。

金貨5000枚もの大口の取引相手を、ぞんざいに扱うはずもなく、ブンザは俺とアポイントメントを取ったうえで、もてなすつもりだったようだ。

「少しお待ちを」

ブンザさんは、テント内の衝立の内側へはいり、乗馬ズボンのような厚手のズボンをはき、薄いブラウスの上に半纏のような上着を羽織って出てきた。

半纏の背中部分には「キノクニ」と書かれている。

「遠路にもかかわらず、ようこそ、おいで下さいました。どうぞ敷物の上へおあがりください。」

ブンザが畳の上へ手招きした。

ドランゴさんが、靴のまま畳へ上がろうとしたので、俺が慌てて

「ドランゴさん、待って!!靴脱いで。」

とドランゴさんを止めた。

「へ?」

「この敷物は土足厳禁だよ。」

ブンザさんの目が和らぐ。

「お客人、・・シン様は、博識でございますな。この敷物をご存じなのですね。」

「ええ、僕の故郷でも、この敷物が使われていました。『タタミ』ですよね。」

「そうです。これは愛用の畳で、祖父「カヘイ」の故郷から取り寄せたものです。」

「失礼ですが、カヘイ様のご出身は、どちらですか?もし、よろしければ」

「私は行ったことが無いのですが、カヘイが言うには、はるか東の国「ヤマタイ」という国だそうです。」

(ヤマタイ・・・ヤマタイコク?・・・)

少し間が空いた・・

「どうかされましたか?」

「いえいえ、私の国は元々『ヤマタイコクという国の出身者で構成されている。』ということを聞いたことがありまして、少し考え込んでしまいました。」

この世界の『ヤマタイ』と元の世界の『ヤマタイコク』何か関係があるのかもしれない、もっと色々質問したいが、今は時間が無い。

俺は商談に入った。

「ブンザさん。ドランゴさんから、お話は伺いました。ダイヤをお買い上げいただけるそうで。ありがとうございます。」

「いえいえ、礼を言うのはこちらの方です。この街には首都から商品を運んできて、利益を出しています。帰路で仕入れる商品は、本来なら塩なのですが何故か今は塩が品薄です。魚介類の干物では、あまり利益になりません。そこへドランゴの話。実物を見せてもらいましたが、間違いなく一級品、売値は申せませんが、買値が3個で金貨5000枚なら、キャラバンとして十分な利益が生み出せます。」

俺は、テントへ入ってからのブンザさんの立ち振る舞いや言葉の丁寧さ等から、もう既にブンザさんを信用していた。

それに現金で支払ってくれるというのだから、何も心配することはない。

それよりもブンザさんの方こそ、ダイヤの入手先など気にならないのだろうか?

「ブンザさん、私から言うのも変ですが、これほど簡単に私を信用してもらっていいのでしょうか?」

ブンザさんは、少し考えたが

「おっしゃりたいことは良くわかりますよ。『ダイヤの入手先』でしょう。しかしその心配はしていません。商品のダイヤは『原石』です。既に加工されたダイヤなら私も少し、躊躇したでしょう。しかし原石は、この国では産出されませんし、原石が盗難にあったという話も聞いていません。商人は情報が命です。怪しいと思ったら警戒していますよ。だからご安心ください。」

ブンザさんは更に話を続けた。

「確かにダイヤの入手先は、私も気になります。しかしそれはシン様の保守すべき情報なのでしょう。その情報に無理やり手を出すようなことをすれば私共「キノクニ」の屋号が汚れます。

 失礼ながら、もしこのダイヤが犯罪にかかわっていたとしても、第三者の私共に何の咎めもないはずです。その心配をするよりは、今後のシン様との取引を優先させるべきと、判断しました。今は現金が手元に無くて3個しか買い取れませんが、今後、もし取引できるなら、私共『キノクニ』をひいきにしていただければ幸いです。」

ブンザさんは正しい商人のようだ。
利益を優先しつつ、顧客を大切にしようとしている。

(今後ダイヤ以外でも何か商品を開発すれば、ブンザさんと取引しよう。)

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