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第二章 奴隷編
第18話 情報収集 初めての酒場
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ドレイモンをレジストした俺は、本格的な脱獄の準備をするため街へ出ることにした。
長屋の周囲に見張りはいなかった。
通常、ドレイモンの効果は絶対なので、誰も逃げるはずがなかったからだ。
浜から街へ出るには、城壁の門を通るか、浜辺の崖を登り、山道を通って街の端に出るかだ。
俺は、門を通れないので崖を登り、山道を通って街に出た。
街へ出た目的は、「情報収集」だ。
俺たちにドレイモンをしかけたダニクが何処にいるのか、ピンターを連れて逃げる際の逃走経路。
それにいつも気になっていた、ブルナの行方。
これらの情報を手に入れるまでは、奴隷の身分を捨てないつもりだった。
俺は、まず街の中で雑貨屋か鍛冶屋を探すことにした。
情報収集の為に必要な現金を手に入れるためだ。
自分のスキルで作ったナイフやオノなどを売って現金化するつもりだった。
しばらく、彷徨っているうちに、灯りの点いている鍛冶屋を見つけた。
「すみませーん。こんばんわー。」
俺が入り口から店の中に声をかけた。
店の奥から鍛冶をする音がするが、返事が無い。
「すみませーん。お願いしまーす。」
今度はドアをノックしながら声をだした。
店の奥から背が低い髭だらけの男が出てきた。
「なんでがんすか。店はもう、閉めたでやんすよ。依頼なら明日来てくだしあ。」
ドワーフ?異世界物の設定なら、この人、間違いなくドワーフだよね。
「いえ、依頼じゃないですが、これを買ってもらいたくて。」
懐から自分で作ったナイフを何本か出して作業台の上に並べた。
「バカ野郎、ここは鍛冶屋でやんすよ。鍛冶屋に武器売りつけるバカがいるでがすか。それにそんな駄作、誰が打ったでやんすか。帰れ、帰れ、でやんす。」
けんもほろろにあしらわれた。
「そうですよねー、他に開いてる店がなかったもので。ごめんなさい帰ります。」
(昔やってたゲームなら、鍛冶屋で武器を売り買いするのは常識だったけどなぁ・・)
そんなことを考えながら、自分が出したナイフを仕舞おうとしたところ。
「オイ、ちょっと待つでやんす。、そのナイフ見せるでがんす。」
ドワーフのようなオヤジが身を乗り出した。
俺が、仕舞いかけたナイフのうち一本を渡そうとしたところオヤジは
「それじゃねぇでがす。そっちの赤い方のナイフでやんす。」
俺は、自分の作ったナイフを5本出していたが、そのうちの一本は他の4本に比べて赤味が強かった。
「こりゃぁオメー、あれじゃな、あれ。あれでやんすよ。」
何よ?
「魔法剣でやんすよ、オメー。」
ええー
魔法剣って、あれのこと?アニメでよく見る炎を出しながらドラゴンでも、ぶった切る、魔法の剣?そうなの?
「試し切りしてもいいでやんすか?」
「あ、どうぞ。」
オヤジは、店の片隅にあった古びた鉄兜を持ち出し、作業台の上に載せると何か念じた後、手に持ったナイフを突き刺した。
「プス」
と、音はしなかったが、豆腐に箸を刺すような感じで、ナイフは兜を貫通した。
「間違いない。こりゃ火か何かの属性を帯びた魔法剣でがんす。俺のチンケな加護でも増幅されているでやんす。」
ドルムさんが、ナイフを他のナイフで切断した後、自分でもできないか試してみたが、できなかった。
そこで、ナイフ自体を強化してみようと思い、一本のナイフに高熱を持たすイメージを注入してみた。
今オヤジが手に持っているのは、その時のナイフだ。
切れ味が良くなったのは知っていたが、まさか魔法剣になっているとは、思わなかった。
「小僧、オメーこのナイフ、どこで手に入れたでがすか?こりゃ相当な値打ちものでやんす。」
「あ、それ、友達にからもらったんです。値打ちものなら買ってもらえませんか?」
「おう、買うでがすよ。これなら目利きの出来る奴に、相当な値段で売れるでやんす。他には無いでやんすか?」
オヤジは、うって変わって、愛想よく商談を進めてきた。
オヤジから、よくよく話を聞いてみると、親父は金儲けよりも、その魔法剣を研究して、自分でも魔法剣を作ってみたいという願望のほうが強いようだった。
だから、作成者を紹介してくれと何度も頼まれたが、
「作成者については俺も知らない。友達の友達の親戚だ。」
くらいのことを言って誤魔化した。
結局そのナイフは、金貨10枚を手付金として現金で支払ってもらい。
誰かに売ることができれば、その代金の20%をオヤジが手数料として差し引くという商談がまとまった。
また、他に魔法武具があるなら、それもナイフと同じ条件で取引してくれることになった。
オヤジさん。ありがとうね。
鍛冶屋を出てから、まだ開いていた雑貨屋で、衣服を何着か購入して着替えた。
奴隷の作業服のままでは怪しすぎるからだ。
街中をうろついていたところ、酒場が目に入った。
店の中からは、大声で笑う声や、怒鳴りあう様な声が漏れ出ていた。
(情報取集は酒場から。これ基本ね。)
店に入るとテーブル席がいくつかあったが、満席だったので、カウンターの方へ進んだ。
カウンターに向かう途中テーブル席から声がかかった。
「ガキが何の用だ?女目当てなら、少し早いぜ。」
(定番だね。)
俺に声をかけた男は、相当に酔っているようで、目が虚ろだ。
俺がその男を無視すると、その男は更に、からもうとしたのか、よろよろと立ち上がった。
その男の隣の男が酔っ払いを睨んだ。
「ガキ相手に、からんでんじゃねぇよ。リザのケツでも眺めてろ。」
そして、俺にからんできた酔っ払いのズボンを掴んで椅子に座らせた。
俺は、その男を見て、凍り付いた。
その男の顔には右の眉を寸断するような大きな傷跡がある。
クチル島からの船で俺達に水を与えるように、ジグルに命令した男。
ジグルが
「バシク班長」
と呼んでた男だ。
「すまんな、兄ちゃん。」
バシクは、俺に目を向けた。
ここでオドオドするとヤバイ。
俺は、堂々とバシクを見返して
「いやー、何の迷惑も被ってないから。謝罪していただかなくても良いです。」
「そうか、ところで兄ちゃん、見かけない顔だな、どこから来たんだ?」
「ヘルナ村から商用で来てます。大人になったし親元を離れたから、酒場に入ってみたくてね。」
ドルムさんから、
「誰かに出身を聞かれたら、ヘルナ村と答えておけ、辺ぴな村だから、ヘルナ村の者と会うことも無いだろう。」
と、教わっていた。
「そうか、せいぜい楽しめ。大人になった祝いに、一杯おごってやるよ。」
そういうと、カウンターの女性に視線を向けて
「この兄ちゃんに、デミ。」
女性がジョッキを運んできた。
そのジョッキに口を付けて一口飲んでみると、それは、ぬるいビールのような飲み物だった。
これならいける。
俺は、一口付けた後、一気にデミを飲み干した。
「おおー、いい飲みっぷりだな。もう一杯いくか?」
「いえ、ありがとうございました。次はカウンターで女性と話しながら、ゆっくり飲みます。」
俺は、胸の前に握りこぶしの右手を付けて、頭を少し下げた。
この世界の敬礼に近い兵士風のお辞儀だ。
何かのためにと、ドルムさんから教えてもらっていたのが、役に立った。
「おう、挨拶のできる子は好きだぞ。なんかあったら、頼ってこい。」
バシクは、そう言って、仲間との会話に戻った。
冷汗が出た。
バシクは俺のことを覚えていなかった。
俺は、カウンター席に座り、
「デミを、お願いします。」
さっき、名称を覚えたばかりの酒を、カウンター内の女性に注文した。
「あんた、度胸あるね。その年齢でバシクさんと堂々と話せるなんて、たいしたものだわ。」
と、俺にウインクした。
しばらく、その女性とカウンター越しに話をしていたところ、
「ねぇ、そっち座っていい?」
「え?あ?いいですけど?」
女性はカウンターをくぐり、俺の隣に座った。
隣に座るのは良いが、俺の膝に手をのせて摩るのは、止めてほしいな。
俺は16歳だけど、身体的には十分大人ですから。困ります・・・いろいろと
「あんたさぁ、随分とイケメンね。大きな声で言えないけど、ヒュドラ様並みのハンサム君よ。もてて仕方ないでしょ。」
何を言っているのだろう、この人は?
「そんなこと無いですよ、お姉さんこそ、綺麗ですね。」
俺は、お世辞を言った。
その女性は「リザ」と名乗ったが、俺の感性で言えば「美人」ではない。
もっとはっきり言うとブスだ。
でも、性格は良さそうで優しく明るい女性だった。
「そう?お世辞が上手ね。」
と言って俺に体を寄せてきた。
(はい。お世辞です。)
それよりも、俺の肘になにやら柔らかい感触の物が当たってるんデスケド・・・
「リザさん、俺、最近この街に来たばかりの田舎者なので、もしよかったら、この街のコト教えてもらえませんか?」
「いいけど、何を知りたいの?」
「例えば、教会の事とか、僕みたいな田舎者でも利用できる公共施設とか。」
ドレイモンの術者ダニクは、教会関係者に違いない。
教会の場所がわかれば、探ってみるつもりだった。
「あら、熱心な信者さんね、教会なら表の通りを北に真っすぐ行けば、あるわ。神父のグンター様は心の広いかただから、田舎から来た人でも歓迎してくれると思うわ。」
グンター!!
いきなり大当たりだ。
クチル島で、ダニクに命じて村人を奴隷にした張本人だ。
村人二人が殴り合いを命じられ、片方が殺されたシーンは、忘れようとしても、忘れられない強烈な記憶だ。
「そうですか、次の休みに礼拝に行きます。ありがとう。」
もう少し情報収集したかったが、十分な収穫はあったし、ピンター達も心配しているだろうから、今日は切り上げることにした。
「リザさん、ありがとう。また来ますよ。」
「あら、もう帰るの?もっとゆっくりすればいいのに。」
リザは名残おしそうにしたが、長居は無用だ。
俺は店の出口に向かう際、バシクに対して
「ごちそう様でした。」
と礼を言った。
バシクは、こちらを見ずに
「おう、またな。」
と手を上げた。
元来た道を通り、奴隷長屋に帰った。
「どうだった?」
ドルムさんが近寄ってきた。
俺は、街でのいきさつを全て話した。
「そうかーグンターがこの街にいたのか、それならダニクも傍にいるはずだ。」
「ソウ、お前ダニクを殺せるか?」
ドルムさんは、俺の仲間になってからは、俺のことを名前で呼ぶようになっていた。
「やってみないと、わからないですが、殺そうとは思っています。」
俺は、当然のことながら、人を殺したことなどない。
人を殺せば、自我を保てなくなってしまう様な気もする。
それでも、ピンターや奴隷の皆のことを考えれば、殺さなければならないとは、思っているのだ。
ドルムさんに、一応の報告を済ませると、ピンターを呼び寄せた。
「何?兄ちゃん。」
俺は懐から、まだ温かい肉串をピンターに差し出した。
「うわー、肉だ、肉だ!!」
酒場を出た後、屋台の肉串をたくさん買ってお土産にしたのだ。
肉串は、マジックバックに入れていたが、マジックバックの中は、時間の経過が無いようで、肉串は熱いくらいだった。
もちろん、ドルムさんに分け与えたし、その他の奴隷たちにも、「絶対秘密」を条件に分け与えた。
ピンターが泣いている。
「どうした、ピンター、美味しすぎたか?ハハ」
「ブルナねえちゃん。・・・」
ピンターは、肉串が美味しくて、ブルナにも食べさせたいと思ったらしく、しばらく封印していた家族愛が蘇ったようだった。
「ピンター、前に約束しただろ、必ず家族に合わせる。」
俺は、力強く宣言した。
奴隷になった当初は、ピンターを慰めるために、そう言っていたが、今は違う。
俺自身が、実際に強くなっていて、ドレイモンにさえ抵抗できるのだから。
ブルナ達を探し出す自信はあった。
「ソウ、次出た時は酒も頼むよ。」
「駄目ですよ、ドルムさん。酒は翌日も匂うし、それに酒で失敗してるんでしょ。」
「んむ・・ま、それもそうか・・」
ドルムさんはあっさり引き下がった。
長屋の周囲に見張りはいなかった。
通常、ドレイモンの効果は絶対なので、誰も逃げるはずがなかったからだ。
浜から街へ出るには、城壁の門を通るか、浜辺の崖を登り、山道を通って街の端に出るかだ。
俺は、門を通れないので崖を登り、山道を通って街に出た。
街へ出た目的は、「情報収集」だ。
俺たちにドレイモンをしかけたダニクが何処にいるのか、ピンターを連れて逃げる際の逃走経路。
それにいつも気になっていた、ブルナの行方。
これらの情報を手に入れるまでは、奴隷の身分を捨てないつもりだった。
俺は、まず街の中で雑貨屋か鍛冶屋を探すことにした。
情報収集の為に必要な現金を手に入れるためだ。
自分のスキルで作ったナイフやオノなどを売って現金化するつもりだった。
しばらく、彷徨っているうちに、灯りの点いている鍛冶屋を見つけた。
「すみませーん。こんばんわー。」
俺が入り口から店の中に声をかけた。
店の奥から鍛冶をする音がするが、返事が無い。
「すみませーん。お願いしまーす。」
今度はドアをノックしながら声をだした。
店の奥から背が低い髭だらけの男が出てきた。
「なんでがんすか。店はもう、閉めたでやんすよ。依頼なら明日来てくだしあ。」
ドワーフ?異世界物の設定なら、この人、間違いなくドワーフだよね。
「いえ、依頼じゃないですが、これを買ってもらいたくて。」
懐から自分で作ったナイフを何本か出して作業台の上に並べた。
「バカ野郎、ここは鍛冶屋でやんすよ。鍛冶屋に武器売りつけるバカがいるでがすか。それにそんな駄作、誰が打ったでやんすか。帰れ、帰れ、でやんす。」
けんもほろろにあしらわれた。
「そうですよねー、他に開いてる店がなかったもので。ごめんなさい帰ります。」
(昔やってたゲームなら、鍛冶屋で武器を売り買いするのは常識だったけどなぁ・・)
そんなことを考えながら、自分が出したナイフを仕舞おうとしたところ。
「オイ、ちょっと待つでやんす。、そのナイフ見せるでがんす。」
ドワーフのようなオヤジが身を乗り出した。
俺が、仕舞いかけたナイフのうち一本を渡そうとしたところオヤジは
「それじゃねぇでがす。そっちの赤い方のナイフでやんす。」
俺は、自分の作ったナイフを5本出していたが、そのうちの一本は他の4本に比べて赤味が強かった。
「こりゃぁオメー、あれじゃな、あれ。あれでやんすよ。」
何よ?
「魔法剣でやんすよ、オメー。」
ええー
魔法剣って、あれのこと?アニメでよく見る炎を出しながらドラゴンでも、ぶった切る、魔法の剣?そうなの?
「試し切りしてもいいでやんすか?」
「あ、どうぞ。」
オヤジは、店の片隅にあった古びた鉄兜を持ち出し、作業台の上に載せると何か念じた後、手に持ったナイフを突き刺した。
「プス」
と、音はしなかったが、豆腐に箸を刺すような感じで、ナイフは兜を貫通した。
「間違いない。こりゃ火か何かの属性を帯びた魔法剣でがんす。俺のチンケな加護でも増幅されているでやんす。」
ドルムさんが、ナイフを他のナイフで切断した後、自分でもできないか試してみたが、できなかった。
そこで、ナイフ自体を強化してみようと思い、一本のナイフに高熱を持たすイメージを注入してみた。
今オヤジが手に持っているのは、その時のナイフだ。
切れ味が良くなったのは知っていたが、まさか魔法剣になっているとは、思わなかった。
「小僧、オメーこのナイフ、どこで手に入れたでがすか?こりゃ相当な値打ちものでやんす。」
「あ、それ、友達にからもらったんです。値打ちものなら買ってもらえませんか?」
「おう、買うでがすよ。これなら目利きの出来る奴に、相当な値段で売れるでやんす。他には無いでやんすか?」
オヤジは、うって変わって、愛想よく商談を進めてきた。
オヤジから、よくよく話を聞いてみると、親父は金儲けよりも、その魔法剣を研究して、自分でも魔法剣を作ってみたいという願望のほうが強いようだった。
だから、作成者を紹介してくれと何度も頼まれたが、
「作成者については俺も知らない。友達の友達の親戚だ。」
くらいのことを言って誤魔化した。
結局そのナイフは、金貨10枚を手付金として現金で支払ってもらい。
誰かに売ることができれば、その代金の20%をオヤジが手数料として差し引くという商談がまとまった。
また、他に魔法武具があるなら、それもナイフと同じ条件で取引してくれることになった。
オヤジさん。ありがとうね。
鍛冶屋を出てから、まだ開いていた雑貨屋で、衣服を何着か購入して着替えた。
奴隷の作業服のままでは怪しすぎるからだ。
街中をうろついていたところ、酒場が目に入った。
店の中からは、大声で笑う声や、怒鳴りあう様な声が漏れ出ていた。
(情報取集は酒場から。これ基本ね。)
店に入るとテーブル席がいくつかあったが、満席だったので、カウンターの方へ進んだ。
カウンターに向かう途中テーブル席から声がかかった。
「ガキが何の用だ?女目当てなら、少し早いぜ。」
(定番だね。)
俺に声をかけた男は、相当に酔っているようで、目が虚ろだ。
俺がその男を無視すると、その男は更に、からもうとしたのか、よろよろと立ち上がった。
その男の隣の男が酔っ払いを睨んだ。
「ガキ相手に、からんでんじゃねぇよ。リザのケツでも眺めてろ。」
そして、俺にからんできた酔っ払いのズボンを掴んで椅子に座らせた。
俺は、その男を見て、凍り付いた。
その男の顔には右の眉を寸断するような大きな傷跡がある。
クチル島からの船で俺達に水を与えるように、ジグルに命令した男。
ジグルが
「バシク班長」
と呼んでた男だ。
「すまんな、兄ちゃん。」
バシクは、俺に目を向けた。
ここでオドオドするとヤバイ。
俺は、堂々とバシクを見返して
「いやー、何の迷惑も被ってないから。謝罪していただかなくても良いです。」
「そうか、ところで兄ちゃん、見かけない顔だな、どこから来たんだ?」
「ヘルナ村から商用で来てます。大人になったし親元を離れたから、酒場に入ってみたくてね。」
ドルムさんから、
「誰かに出身を聞かれたら、ヘルナ村と答えておけ、辺ぴな村だから、ヘルナ村の者と会うことも無いだろう。」
と、教わっていた。
「そうか、せいぜい楽しめ。大人になった祝いに、一杯おごってやるよ。」
そういうと、カウンターの女性に視線を向けて
「この兄ちゃんに、デミ。」
女性がジョッキを運んできた。
そのジョッキに口を付けて一口飲んでみると、それは、ぬるいビールのような飲み物だった。
これならいける。
俺は、一口付けた後、一気にデミを飲み干した。
「おおー、いい飲みっぷりだな。もう一杯いくか?」
「いえ、ありがとうございました。次はカウンターで女性と話しながら、ゆっくり飲みます。」
俺は、胸の前に握りこぶしの右手を付けて、頭を少し下げた。
この世界の敬礼に近い兵士風のお辞儀だ。
何かのためにと、ドルムさんから教えてもらっていたのが、役に立った。
「おう、挨拶のできる子は好きだぞ。なんかあったら、頼ってこい。」
バシクは、そう言って、仲間との会話に戻った。
冷汗が出た。
バシクは俺のことを覚えていなかった。
俺は、カウンター席に座り、
「デミを、お願いします。」
さっき、名称を覚えたばかりの酒を、カウンター内の女性に注文した。
「あんた、度胸あるね。その年齢でバシクさんと堂々と話せるなんて、たいしたものだわ。」
と、俺にウインクした。
しばらく、その女性とカウンター越しに話をしていたところ、
「ねぇ、そっち座っていい?」
「え?あ?いいですけど?」
女性はカウンターをくぐり、俺の隣に座った。
隣に座るのは良いが、俺の膝に手をのせて摩るのは、止めてほしいな。
俺は16歳だけど、身体的には十分大人ですから。困ります・・・いろいろと
「あんたさぁ、随分とイケメンね。大きな声で言えないけど、ヒュドラ様並みのハンサム君よ。もてて仕方ないでしょ。」
何を言っているのだろう、この人は?
「そんなこと無いですよ、お姉さんこそ、綺麗ですね。」
俺は、お世辞を言った。
その女性は「リザ」と名乗ったが、俺の感性で言えば「美人」ではない。
もっとはっきり言うとブスだ。
でも、性格は良さそうで優しく明るい女性だった。
「そう?お世辞が上手ね。」
と言って俺に体を寄せてきた。
(はい。お世辞です。)
それよりも、俺の肘になにやら柔らかい感触の物が当たってるんデスケド・・・
「リザさん、俺、最近この街に来たばかりの田舎者なので、もしよかったら、この街のコト教えてもらえませんか?」
「いいけど、何を知りたいの?」
「例えば、教会の事とか、僕みたいな田舎者でも利用できる公共施設とか。」
ドレイモンの術者ダニクは、教会関係者に違いない。
教会の場所がわかれば、探ってみるつもりだった。
「あら、熱心な信者さんね、教会なら表の通りを北に真っすぐ行けば、あるわ。神父のグンター様は心の広いかただから、田舎から来た人でも歓迎してくれると思うわ。」
グンター!!
いきなり大当たりだ。
クチル島で、ダニクに命じて村人を奴隷にした張本人だ。
村人二人が殴り合いを命じられ、片方が殺されたシーンは、忘れようとしても、忘れられない強烈な記憶だ。
「そうですか、次の休みに礼拝に行きます。ありがとう。」
もう少し情報収集したかったが、十分な収穫はあったし、ピンター達も心配しているだろうから、今日は切り上げることにした。
「リザさん、ありがとう。また来ますよ。」
「あら、もう帰るの?もっとゆっくりすればいいのに。」
リザは名残おしそうにしたが、長居は無用だ。
俺は店の出口に向かう際、バシクに対して
「ごちそう様でした。」
と礼を言った。
バシクは、こちらを見ずに
「おう、またな。」
と手を上げた。
元来た道を通り、奴隷長屋に帰った。
「どうだった?」
ドルムさんが近寄ってきた。
俺は、街でのいきさつを全て話した。
「そうかーグンターがこの街にいたのか、それならダニクも傍にいるはずだ。」
「ソウ、お前ダニクを殺せるか?」
ドルムさんは、俺の仲間になってからは、俺のことを名前で呼ぶようになっていた。
「やってみないと、わからないですが、殺そうとは思っています。」
俺は、当然のことながら、人を殺したことなどない。
人を殺せば、自我を保てなくなってしまう様な気もする。
それでも、ピンターや奴隷の皆のことを考えれば、殺さなければならないとは、思っているのだ。
ドルムさんに、一応の報告を済ませると、ピンターを呼び寄せた。
「何?兄ちゃん。」
俺は懐から、まだ温かい肉串をピンターに差し出した。
「うわー、肉だ、肉だ!!」
酒場を出た後、屋台の肉串をたくさん買ってお土産にしたのだ。
肉串は、マジックバックに入れていたが、マジックバックの中は、時間の経過が無いようで、肉串は熱いくらいだった。
もちろん、ドルムさんに分け与えたし、その他の奴隷たちにも、「絶対秘密」を条件に分け与えた。
ピンターが泣いている。
「どうした、ピンター、美味しすぎたか?ハハ」
「ブルナねえちゃん。・・・」
ピンターは、肉串が美味しくて、ブルナにも食べさせたいと思ったらしく、しばらく封印していた家族愛が蘇ったようだった。
「ピンター、前に約束しただろ、必ず家族に合わせる。」
俺は、力強く宣言した。
奴隷になった当初は、ピンターを慰めるために、そう言っていたが、今は違う。
俺自身が、実際に強くなっていて、ドレイモンにさえ抵抗できるのだから。
ブルナ達を探し出す自信はあった。
「ソウ、次出た時は酒も頼むよ。」
「駄目ですよ、ドルムさん。酒は翌日も匂うし、それに酒で失敗してるんでしょ。」
「んむ・・ま、それもそうか・・」
ドルムさんはあっさり引き下がった。
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