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一章
34話 デート④/告白
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「ねぇ、水族館に戻らないで少し遠くに行かない?」
「え?水族館楽しみにしてたんじゃ…」
「なんか、すごく遠くに行きたくなったの」
遠い目をして桜さんはそういう。
指さした先は、確か海の方だったような。
「わかった。じゃあ水族館はまた今度?」
「ありがとう」
とりあえず具体的にどこに行くか決めて、電車に乗る。
さっき桜さんが指さしていた通り海に行くことになった。
一体海で何をするのか、と思い聞いてみたがそれは内緒だという。
「ここから海までって意外と近いんだね」
海に最も近い駅までおよそ30分ほどだ。
自分の家からと考えると1時間と長いが、水族館から30分だと短く感じる。
「そういえば、蔭西くんは今日写真撮ったの?」
「…忘れてた。桜さんみたいに楽しんでたからかなぁ」
桜さんの写真を撮るためにカメラは一応持って来たのだが、自分が水族館を楽しんでいたことと
キラキラとしている桜さんの姿を肉眼に焼き付けていたこともあり、カメラのことをすっかり忘れていた。
「楽しかったの?すっごい疲れた顔してるけど」
「楽しかったから疲れたんだよ。いつもより少しはしゃいで」
「それならよかった」
いつものような周りまで元気になる笑顔を浮かべてこちらを見た。
「あ、着いたよ」
気づいたら、目的の駅に着いていた。
桜さんと話していると時間の進みが速い。
それに、とても楽しくて面白い。
駅を降り、肺いっぱい空気を吸うとほんのりと潮の匂いが鼻をかすめた。
耳をすませばざざんという波の音が聞こえてくる。
「んーっ、気持ちいい」
桜さんは伸びをすると、ゆっくりと歩き始めた。
その横を俺は歩くスピードを揃えて並ぶ。
「たまにはこういうのんびりと、おおらかなところに来るのもいいよね」
「そうだね。すごく落ち着く」
「ふふっ、私も」
何の目的もなく、ただ流されるままに俺と桜さんは砂浜へと足を運んだ。
少し歩きにくい砂の上を歩いていると、たまにぎりぎりまで波が迫ってくる。
「あそこのお店に入らない?」
少し先にコテージのような建物が見える。
「すごい美味しいお店なの」
「いいと思うよ。入ろうか」
そのコテージはとても隠れ家っぽくておしゃれだった。
一歩踏み込んだら、別世界に来たような感覚に陥る。
どうやらカフェのようで、コーヒーやスイーツが揃っていた。
このコテージでは桜さんと緩く、談笑しながら過ごした。
波の音を聞きながら、お互いの事について語り合う。
俺はその中でいくとも本音を言ってしまった。
「俺の家は、基本的に父も母もいないから。少し寂しいかな」
「そうなんだ。うちはおばあちゃんが他界してて…」
少し湿っぽい話もした。
こんな話をするのは桜さんが初めてた。
これまで秘めていたことを少しだけ桜さんに言っただけなのに、少し泣きそうになってしまい
あぁ、自分は無理をしているんだな。と考えてしまう。
このコテージは空がオレンジ色に染まってきたぐらいの時に出た。
波に夕焼けが反射してとても美しい。
思わず、今日初めてカメラを構えてしまう。
波に正面を向いている桜さんを枠に入れ、
「桜さん」
と呼んだ。
すると、くるりとこちらを振り向いた。
丁度良く肌に心地の良い風が吹き桜さんの髪がなびく。
ぱしゃっ
とシャッターを切った。
とても綺麗な一枚だ。
「蔭西くん」
撮った写真に満足していると、次は俺の名前が呼ばれた。
その声はどこか緊張している。
「はい」
思わず敬語になってしまう。
「とっても言いにくいんだけど…。その、私と付き合ってくれない?」
「…え?」
突然の事に理解が追い付かない。
「まだ会ってから半年も経ってないけど、蔭西くんのことが好きで。大好きで。だから…」
呼吸が浅くなる。
「…ちょっと待ってくれないか?考える時間が欲しい」
考えるより先に口から言葉が出てくる。
「えっあっ、いいよ」
「ありがとう。そしてその間にもどかしい思いをさせてごめん」
「いや、そんな。別に…」
桜さんは1回うつむいた後、引きつっていて無理に作ったことがよくわかる笑顔を浮かべた。
「大丈夫だよ。いくらでも待つ」
「そっ、か。じゃあ帰ろうか」
帰るまでのおよそ1時間弱、会話は何一つとして起こらなかった。
そこにあるのは緊張と期待がまざった独特な空気。
とても息が詰まりそうだ。
「じゃあ、返事待ってるね」
「あ、ああ。また明日」
それだけ言ってドアが閉まった。
俺は思わずそこにもたれかかり、深く息を吐く。
「いきなりすぎるよ…」
今になってとても恥ずかしく、嬉しい感情が湧いてくる。
なんであの時、すぐに「はい」と言わなかったのだろうか。
自分はなんて馬鹿なんだ!
あぁ、駄目だ。まだ感情の整理ができていない。
過去の自分に腹を立てながらも、気持ちを整えていく。
きっと桜さんが彼女だったら毎日が明るくて、楽しくて、愉快なものになるのだろう。
家に帰り、俺は幸せな気持ちを抱えたまま身支度を済まして布団に入った。
その日はとてもぐっすりと寝れた。
今日は、とても楽しくて、幸せで、ちょっぴり甘酸っぱかった。
「え?水族館楽しみにしてたんじゃ…」
「なんか、すごく遠くに行きたくなったの」
遠い目をして桜さんはそういう。
指さした先は、確か海の方だったような。
「わかった。じゃあ水族館はまた今度?」
「ありがとう」
とりあえず具体的にどこに行くか決めて、電車に乗る。
さっき桜さんが指さしていた通り海に行くことになった。
一体海で何をするのか、と思い聞いてみたがそれは内緒だという。
「ここから海までって意外と近いんだね」
海に最も近い駅までおよそ30分ほどだ。
自分の家からと考えると1時間と長いが、水族館から30分だと短く感じる。
「そういえば、蔭西くんは今日写真撮ったの?」
「…忘れてた。桜さんみたいに楽しんでたからかなぁ」
桜さんの写真を撮るためにカメラは一応持って来たのだが、自分が水族館を楽しんでいたことと
キラキラとしている桜さんの姿を肉眼に焼き付けていたこともあり、カメラのことをすっかり忘れていた。
「楽しかったの?すっごい疲れた顔してるけど」
「楽しかったから疲れたんだよ。いつもより少しはしゃいで」
「それならよかった」
いつものような周りまで元気になる笑顔を浮かべてこちらを見た。
「あ、着いたよ」
気づいたら、目的の駅に着いていた。
桜さんと話していると時間の進みが速い。
それに、とても楽しくて面白い。
駅を降り、肺いっぱい空気を吸うとほんのりと潮の匂いが鼻をかすめた。
耳をすませばざざんという波の音が聞こえてくる。
「んーっ、気持ちいい」
桜さんは伸びをすると、ゆっくりと歩き始めた。
その横を俺は歩くスピードを揃えて並ぶ。
「たまにはこういうのんびりと、おおらかなところに来るのもいいよね」
「そうだね。すごく落ち着く」
「ふふっ、私も」
何の目的もなく、ただ流されるままに俺と桜さんは砂浜へと足を運んだ。
少し歩きにくい砂の上を歩いていると、たまにぎりぎりまで波が迫ってくる。
「あそこのお店に入らない?」
少し先にコテージのような建物が見える。
「すごい美味しいお店なの」
「いいと思うよ。入ろうか」
そのコテージはとても隠れ家っぽくておしゃれだった。
一歩踏み込んだら、別世界に来たような感覚に陥る。
どうやらカフェのようで、コーヒーやスイーツが揃っていた。
このコテージでは桜さんと緩く、談笑しながら過ごした。
波の音を聞きながら、お互いの事について語り合う。
俺はその中でいくとも本音を言ってしまった。
「俺の家は、基本的に父も母もいないから。少し寂しいかな」
「そうなんだ。うちはおばあちゃんが他界してて…」
少し湿っぽい話もした。
こんな話をするのは桜さんが初めてた。
これまで秘めていたことを少しだけ桜さんに言っただけなのに、少し泣きそうになってしまい
あぁ、自分は無理をしているんだな。と考えてしまう。
このコテージは空がオレンジ色に染まってきたぐらいの時に出た。
波に夕焼けが反射してとても美しい。
思わず、今日初めてカメラを構えてしまう。
波に正面を向いている桜さんを枠に入れ、
「桜さん」
と呼んだ。
すると、くるりとこちらを振り向いた。
丁度良く肌に心地の良い風が吹き桜さんの髪がなびく。
ぱしゃっ
とシャッターを切った。
とても綺麗な一枚だ。
「蔭西くん」
撮った写真に満足していると、次は俺の名前が呼ばれた。
その声はどこか緊張している。
「はい」
思わず敬語になってしまう。
「とっても言いにくいんだけど…。その、私と付き合ってくれない?」
「…え?」
突然の事に理解が追い付かない。
「まだ会ってから半年も経ってないけど、蔭西くんのことが好きで。大好きで。だから…」
呼吸が浅くなる。
「…ちょっと待ってくれないか?考える時間が欲しい」
考えるより先に口から言葉が出てくる。
「えっあっ、いいよ」
「ありがとう。そしてその間にもどかしい思いをさせてごめん」
「いや、そんな。別に…」
桜さんは1回うつむいた後、引きつっていて無理に作ったことがよくわかる笑顔を浮かべた。
「大丈夫だよ。いくらでも待つ」
「そっ、か。じゃあ帰ろうか」
帰るまでのおよそ1時間弱、会話は何一つとして起こらなかった。
そこにあるのは緊張と期待がまざった独特な空気。
とても息が詰まりそうだ。
「じゃあ、返事待ってるね」
「あ、ああ。また明日」
それだけ言ってドアが閉まった。
俺は思わずそこにもたれかかり、深く息を吐く。
「いきなりすぎるよ…」
今になってとても恥ずかしく、嬉しい感情が湧いてくる。
なんであの時、すぐに「はい」と言わなかったのだろうか。
自分はなんて馬鹿なんだ!
あぁ、駄目だ。まだ感情の整理ができていない。
過去の自分に腹を立てながらも、気持ちを整えていく。
きっと桜さんが彼女だったら毎日が明るくて、楽しくて、愉快なものになるのだろう。
家に帰り、俺は幸せな気持ちを抱えたまま身支度を済まして布団に入った。
その日はとてもぐっすりと寝れた。
今日は、とても楽しくて、幸せで、ちょっぴり甘酸っぱかった。
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