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一章

29話 恋愛相談②

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「で、具体的に私は何をすればいいんですか?」
「そう、ですね。例えば望くんの恋愛事情を私に教えるとか、きっと成長して好きなタイプとか変わっていると思うので好きなタイプとかですね」
「…タイプに関しては1つだけ言えることがありますよ」
「えっ!なんですか!?」

多分それは誰が見てもわかる。
このそろそろ夏になるという時期に長袖長ズボン、首にはマフラーを巻いていて、外ではコートを着ている人間を
見て普通の人間なら「気になる」程度の感情しかわかない。
ましてや「好き」という感情に発展すらしないだろう。

「その格好ですよ。熱くないんですか?」
「熱いですよ。ですが私はあまり自身のボディラインに自身がなくて…」

ボディラインに自身がない?
そんなに厚着をしているのになぜかわかるスタイルの良さ。
それを自覚していないのだろうか。
なぜだか、ものすごく面倒臭くなってきた。

「別に坂ノ宮さんと付き合いたくないのなら、そのままでいいですが」
「え、いや、じゃ、じゃあちょっと待っててください」
「は、はぁ」

そう言われ、御崎さんは部屋を出てどこかに行ってしまった。
俺は携帯を取り出して桜さんとのチャット画面を表示する。
新着メッセージはなく、当然のことだがまだ坂ノ宮さんと皆月さんとは交換していない。
しなければ、とは思っているがなかなかタイミングを掴めないでいる。

「お待たせしました。これを見てください」
「はぁ、わかりました」

御崎さんは手に持っているアルバムを広げると、去年のものだと思われる水着の写真を見せてきた。

「恥ずかしいのですが、これを見ればわかるかな、と」
「ええ、わかりましたよ」

透き通るような白い肌に、女性らしいしなやかな体つき。
黒い髪の毛とその整っている顔がよく映える。
客観的に見て、こんな美貌を持っていながら「自身がない」などと言っている。

「とても美しいと思いますよ。少なくともモデルぐらいには」
「ほ、本当ですか?でも、蔭西さんの表情はぴくりとも変わりませんよ?」
「なんででしょうかね。でも、モデルくらいにスタイルがいいのは事実ですので自信を持ってください」
「ですが、それなら、なぜ私には友達ができないのでしょうか。皆私の容姿をバカにして離れていくんです」

自信がない理由はそれか。
これまでの、もしかしたらこれからの自分に似ている。
面倒な感情である「嫉妬」のせいで人間関係がこじれてしまう。
そしてそれが「嫉妬されている」と気づく出来事がなければ永遠に自分に自信が持てなくなるのだ。

俺は御崎さんの「一人でいる」という気持ちが痛いほどわかってしまった。
そのせいで、せめて自分のいるところまで引き上げてあげたいと考えてしまう。
俺が桜さんにしてもらったように。

「…最初は誰もが自信がないものですよ。これから自信をつけていけばいいのでは?」
「そういうものですか。なんだか少し気持ちが軽くなりました。ありがとうございます」
「ああ、えっと、どういたしまして」

ありがとうございます、と言われ嬉しかった。
が、それと同時に不安が俺を襲う。

気が抜けすぎてはいないか?

最近はずっとフワフワとして、いわゆる地に足がついていないような感覚だ。
しかしそれが人間として正常なのだろう。
ぐちゃぐちゃ考えるよりも、自分の事よりも、相手の事を考える。
それが最も人間らしいかもしれない。
何せ、相手の事を考えて動き相手が喜んでくれるととても嬉しくなる。
桜さんと出会うまでは理解できない感情だった。

「で、では私に協力してくれるということですか?」
「ええ、まぁ」
「ありがとうございます!」

その喜ぶ姿は名家の人間とは思えないぐらいに平凡で純粋だった。
ちゃんとした感情を知っていて、とても人間らしい。
それがとてつもなく羨ましい。

その笑顔を見て、ふと桜さんの笑顔が脳裏をよぎった。
途端に胸が締めつけられるような感覚に陥る。
そして急に「桜さんは今何をしているのだろうか」と無意識のうちに考てしまう。

「どうしました?」
「いえ、ではまた今度」
「はい。メアドはすでに望くんに教えてもらってるので」
「え、はい。わかりました。何かあったら連絡します」

俺はそう言い、御崎家を後にした。
すっかり暗くなっており流石に桜さん達は帰ってしまっただろうと思い、そのまま家に帰ろうと思う。
しかし改札前で携帯に着信があった。
メールを開くと桜さんからで、「この後時間ある?」といった内容で、
「あるよ」と送るとすぐに、「じゃあ私の家に最寄駅に来て」と返ってきた。

それを確認し、改札を通り桜さんのいつも降りている駅へと向かった。
時間はすでに18時を回っており家には誰もいないはずなのになぜだか少し焦る。


駅に着くと、改札を出た待合スペースのようなところに桜さんはいた。

「お待たせ」
「急に呼び出しちゃってごめんね」
「大丈夫だよ」

なぜだか妙に桜さんを意識してしまう自分がいる。
これまでに増してドキドキとしていた。

「……………」
「……………」

気まずい空気が流れる。
それも妙に緊張した空気が。

「少し歩こ」
「ん、わかった」

俺は桜さんに歩幅を合わせるようにして車道側を歩く。
暗くなってからの散歩は普通の散歩とは違い、なぜだか特別感がある。

「あのさ、蔭西くん」
「はい」
「…テスト終わったら、一緒にどこかに行かない?」

なんだ?この前回誘われた時とは違う、妙に気恥ずかしいような感じは。
そう思ったが、それはこちらも同じで言葉が喉に突っかかってなかなか出てこない。
そのせいでいつもよりも、焦っているような、恥ずかしがっているような声が出てしまう。

「もちろん、いいですよ」

思わず敬語になる。

「そ、そう。じゃあ、また明日ね。テスト明け楽しみにしてるよ」
「また明日…」

俺がそう言う前に桜さんは駆け出して遠ざかってしまった。
その時にちらりと見えたのだが耳や頬、が真っ赤だった。
それに「いいですよ」と言った時にいつもとは違う、嬉しくも恥ずかしいような笑みを浮かべていた。

こちらまで恥ずかしくなってくる…。

きっと今の俺は頬がだらしなく緩み、だらしない笑みを浮かべているだろう。
この気持ちをなんて表現すればいいのか。
嬉しい?違うな。恥ずかしい?これも違う。では面白い?それは絶対にない。
そうだな、そう。この気持ちは、とても、とても


甘酸っぱい

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