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第五部 王国統一 編

第三話 シェイリーン 結婚を迫る

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デイランはロミオの居館を出ると、客殿《きゃくでん》へ馬を走らせる。

 客殿とは、一応、外交使節などが宿泊する為の場所だ。
 これもまたヴェッキヨの遺産の一つである。

 出入り口は衛兵が守りを固めていた。

 衛兵に挨拶をし、アミーラに会いたい旨《むね》を告げて、取り次ぎを頼んだ。

 すぐに了解が取れ、姿を見せたのは。

「マックス?」

 姿を見せた、友の姿に面食らってしまう。

 マックスは笑みを見せる。
「ようやく戻って来たわね、デイラン。
さあ。アミーラがお待ちよ」

 マックスに案内され廊下を進む。
 さすがに外交使節の宿泊場所として整備されただけあって、調度品は幾つか残されている。
 正直、ロミオの居館よりもずっと華やかだ。

「盗賊の方はどう?」

「まあ小粒なのは変わらないな。まるでこそ泥のような連中ばかりさ。
良い訓練相手として重宝《ちょうほう》してる」

「帝国の動きのほうは?」

「ロミオから聞いた。神星王国の動きがないのが少し気になるな。
マックス。
神星王国と帝国は共同で打って出ると思うか?」

「私だったら、そうするわね。
だって同盟をしてから最初の戦いなのよ。
今度の同盟に関して神星王国内の不満はまだまだ根強い。
それを共同で出兵し、私たちを完膚《かんぷ》無きまでに叩きのめす――両国雪解けムードを演出したいところね」

「そうか……まあ、それは、これからの情報次第か。
ところでマックス、お前、どうしてここにいるんだ?」

「そりゃあ、我が国の大切なお客様だもの。
歓迎はしっかりしなくちゃね」

「お前、シェイリーンとは仲が良くないと思ったんだけど」

 マックスは足を止め、振り返り、じーっと見つめてくる。

 デイランは少しぎょっとする。
「な、何だよ……」

「はあ」
 溜息《ためいき》をつかれた。

「失礼な奴だな。人の顔見て……」

「戦いの時の洞察力はどこへいっちゃったわけ?
小物を相手にするうちに、どっかに落としちゃった?」

「どういうことだ」

「まあ良いわ。――ほら、ついたわよ。
さあ、入って」

「お前は入らないのか?」

「まあ。ライバルには少しくらいサービスしないとね」

 また何か言えば、溜息を飛ばされるかもしれないと、扉をノックする。
 すると、シェイリーンにいつもついている女エルフが応対に出た。

 デイランを見ると、すぐに招き入れてくれる。

 女エルフに導かれ、奥の部屋へ向かう。
 居間でシェイリーンが優雅にお茶を飲んでいた。

「おお! デイラン!
帰ってきたのかっ!」

「ああ、すまなかった」

 デイランは膝を折り、シェイリーンと目線を合わせる。

「いやいや、良いのぢゃ!
妾《わらわ》が勝手に押しかけてきたようなもの、ぢゃからのう。
どこも怪我をしておらぬか?」

「安心してくれ。
あの程度の盗賊風情にやられるほど柔《やわ》じゃない。
良い運動さ」

「ほっほっほー。
頼もしいのう。
お前さんの子どもも強き者になるであろう」

「いや、俺に子どもはいない」

「今は、ぢゃろ?
妾とデイランの子ぢゃ」

「……は?」

「良いか、デイラン。
今や種族を越えた絆が重要なのぢゃ。
となれば、妾《わらわ》たちの婚姻が、種族の垣根を越えたものになるのではないか」

「……いや、そういう意味で結婚をするのは……。
結婚というもの、もっとしっかりとした気持ちがいるだろう」

 シェイリーンがクスクスと笑う。
「デイラン。おぬし、生娘《きむすめ》のような純朴《じゅんぼく》さぢゃのう」

「そうか?

「ぢゃが、そんなところも妾は好きぢゃ。
それに、心配無用ぢゃ。妾の気持ちはあるぞ。
妾はお前のように強い男に憧れるのぢゃ」

「いや、だが……」
 デイランは、側近の女エルフに目を向けるが、彼女は我関せずと言った風でたたずんでいる。

「まもなく戦争ぢゃろう。
となれば、その前に、結婚式を挙げ、国内中への紐帯《ちゅうたい》を……」

「――シェイリーン様。
何をとんでもないことを堂々と言ってるの?」

 デイランは驚く。
「ま、マックス」

 シェイリーンは鼻を鳴らした。
「なんぢゃ、マックス。
不躾《ぶじつけ》な奴ぢゃのう。盗み聞きでもしておったのか」

「デイランは我が国の重要人物ですので。
そのような私的なことは、また後日、改めてお願いいたします」

「私的ではないぞ。これは種族を越えて……」

「とにかく、デイランは忙しいので」

「うるさい奴ぢゃ。これは高度な政治的な判断なんぢゃぞ。
それを分からぬお前ではあるまい」

 デイランは盛り上がっているシェイリーンをなだめる。
「シェイリーン。
お前の気持ちは嬉しい。しかし今は色恋を考える余裕はない。
今、我が国は神聖王国と帝国の板挟みにある。
国が存続できるかどうかなんだ。だから」

「……よう分かった」

「そうか。良かった」

「しかし、ぢゃ!
妾の気持ちもしっかりと覚えておいて欲しい。
返事は今は求めぬが、気持ちくらい覚えておいて欲しいのぢゃ」

「……わ、分かった。
シェイリーンの気持ちは覚えておく」

 マックスが目を見開く。
「デイラン!?」

「死ぬなよ。何せ、おぬしは妾の夫になるのぢゃからな」

「こんなところじゃ死ねないさ。
じゃあ、俺は仕事があるので失礼する」

「うむ!
妾もここにいて、お前の武運を祈っておるぞ」

「ありがとう」
 デイランは頭を下げ、部屋を辞去した。

 館を出ると、マックスが「結婚しちゃえばよかったのに」と呟いた。

「何を言ってるんだ。
今はそんな余裕はない」

「ふうん。余裕があったら結婚はするのね?
あーそー。
あんたが、幼女好きだとは知らなかったわ。
はたからみたら、子どもと誘拐犯って感じよ?」

「そういうことじゃなくてだな」

「ま、別に言い訳をしなくて良いからー」

「マックス。何でお前が怒るんだよ」

「べっつにー」

「お、おい」
 デイランはマックスの反応に参りつつ、どんどん先を行くマックスに追いつこうと走った。
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