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第三部 王国動乱~逃避行編

第十六話 夜盗討伐

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 日も暮れかけていた。
 夜、森の中で動くのは危険だとデイランたちはひとまず、一夜を村で明かすことになった。

 傭兵たちが巣窟にしているのは、森の奥にある洞窟だという。
 ここから二、三キロの距離らしい。

 村長の好意で、空き家を貸してくれることになった。

「この家を使って良いのか?」
 そうデイランが聞けば、

「この家の者は街へ行った。
このまま村にいてもただ殺されるだけだとな」

「あんたたちはそうしないのか?」

「街へ行ってどうなる。
確かに賊どもから逃げる事は出来る。
ぢゃが、それでどうなる? 勝手も分からぬ街で何が出来る?
儂《わし》らは山の恵みで生かされておる……。
場所を移したところで、別な問題に直面するだけぢゃ。
それに、先祖から伝えられた土地を捨てることは出来ん」

「感謝する」

 村長が出て行く。

 デイランはロミオの元へ行く。
 彼はさっきから根を詰めた顔をしていた。

 デイランは片膝を付く。
「痛むのか?」

 ロミオはデイランの存在に今気づいた様子ではっとする。
「デイラン殿……。
いえ、傷ではありません」

「傭兵どものことか?」

 ロミオはうなずく。
「私はそんなことも知りませんでした。
確かに考えてみればその通りなんですよね。
戦の時にどこからともなく集まってくる傭兵団、彼らは戦争のない時にはどこで何をしているのか……。
私は愚かです」

「そんなことはないさ。
どんな高見に昇っても、見えないものはある。
それを恥じる必要はないんだ。
俺たちに見えないものを、お前は代わりに見ているってことなんだからな。
罪深いのは見て見ぬふりをすることだ」

「見て見ぬふり……」

「お前は変えられる立場にある。
今は流浪《るろう》の身だがな、絶対にお前を王様に戻してやるさ。
お前には俺の忠誠心もやるって契約だしな。
いつまでも雇い主が文無しじゃ、こっちの格好もつかん」

 ロミオは微笑む。
「デイラン殿。
明日は頼みます。村の人たちの為に」

「もちろん」

 そこに村人が尋ねてきた。
 デイランを囲んだ若者の一人だ。

(確か、ヨータとか呼ばれてたな)

 ヨータは、食べ物を運んで来た。
「これ、村長と、村のみんなからです」

 マックスが驚く。
「ねえ、ちょっと。
これ、あなたたちの食べる分も入ってるんじゃないの?」

「村長からのせめてもの気持ちです。
このままいけば、村は遅かれ早かれ賊どもに潰されてしまいます……。
ですから、あなたたちは俺たちの最後の望み……。
だから、食べて下さいっ」

 デイランは頭を下げる。
「重ね重ね、色々とすまん。
俺達に賊のことは任せろ」

「はい!
ありがとうございますっ!
それから、すみません……」

「ん?」

「いきなり、あんなことをして」

 デイランは苦笑する。
「別に気に病むことはない。
お前立ちの気持ちはよく分かった。
だが、これからは用心した方が良い。
下手をすると皆殺しにされるぞ」

「は、はい。気を付けます」
 ヨータは頭を下げて出て行く。

                   ※※※※※

 空が中天に輝く。

 “死の牙団”こと、山賊たちは今や遅しと村からの貢ぎ物を待ち受けていた。
 総勢、二十人ほどである。

 洞窟の奥で酒を飲み、獣肉を食らっていた隊長、ホーゲンの元に部下が走ってくる。
「隊長!」

 全員、鎧は脱いで、半裸である。
 武器は傍らにおいてあるが、鎖帷子《よろいかたびら》や鎧など普段からなど着てはいられない。
 何より、自分たちを倒しに王国が動くはずもない。
 なぜなら、死の牙団こそ王国軍だからだ。
 ホーゲンたちを追いやれば、似たような盗賊稼業に励んでいる同業者たちは王国を見限り、帝国につく。
 だから王国は手を出せない。

(王国と帝国が争ってくれて、俺たちは万々歳だぜ)

 そこへ、荷車を転がす村人が現れる。
 荷車の上には見目の美しい少女がいた。
 金髪だ。

 ホーゲンは目を見開き、「ぬぉっ」と阿呆な声を出す。

「隊長、あれっ……」

「あんなのは村にゃいねえな」

「まさか連中、どっからか攫《さら》ってきたんじゃ……」

「かもなあ。連中も生き残る為には必死ってことよっ」

 ホーガンはだらしない顔で近づいてくる。

 荷車を引いていた男がさっと横にどく。

「へへ、嬢ちゃん。安心しな。俺がたっぷり可愛がって……」

 瞬間、金髪の子どもが顔を上げたかと思えば、ホーガンの目に向かって、手の中に握りしめていた砂を思いっきりぶちまけたのだ。

「ぎいいいあああああっ!?」
 まともに目つぶしを食らわされ、ホーガンはうめいた。

 さらに次の瞬間(視界を奪われていたホーガンは一切気づかなかったが)。
 荷車を引いていた男が、荷車に乗せられていた剣を手に取るや、一刀の下にホーガンを袈裟懸《けさが》けに切り裂いたのだ。

 血が飛び散り、ホーガンはもんどり打って倒れた。

 ホーガンは意識はそこで途絶えた。

                   ※※※※※

 デイランはホーガンだけではなく、立て続けに周りにいた部下たちを次々と斬り伏せた。
 村人たちが相手と、なめてかかった賊は武器を携帯していなかったのだ。

 遅ればせながら他の部下達が剣を手に取り、デイランに迫ってくる。
 それを数人相手をして軽々と切り伏せる。

 デイランが手練れと気づいた賊たちは、身を引いた。

 デイランは踵《きびす》を返して森へ駆けだした。

 同時に、金髪の子ども――クロヴィスもまた同じように駆け出し、森の茂みへ姿を消した。

「ええい、二人とも追いかけるんだ!

 賊たちは二手に分かれて追いかける。

 だが激情に駆られた男達はたかが、ガキ一人と罠の中に自ら入っていった。
 頭上より跳ぶ矢に、自分がいつ死んだかすら分からないほど呆気なく、命を落としていった。

 次々と身体を射貫かれたのだ。

 デイランの後を追った賊たちも、背後より切り伏せられ、ただ屍《しかばね》を野にさらすばかりだった。
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