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第五部 王国統一 編

第三十四話 一騎打ち

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 エリキュスは、フィリッポス・ド・サンフェノと対峙《たいじ》していた。
 周囲では、奇襲を受けた敵兵たちが次々と追い立てられ、阿鼻叫喚の地獄絵図が広がる。

 フィリッポスは顔を真っ赤にして叫ぶ。
「エリキュス!
異端者に味方する愚か者めっ!
貴様……自分がなにをしているのか、分かっているのか!?」

「無論です。サンフェノ卿《きょう》」

「貴様は、神《アルス》に背いたのだぞ!
星騎士だった男が!」

「卿。
私は神に背いたことなど一度たりともありません。
私が背いたのは、教団なのです」

「同じ事だ!
教団は神の遣《つか》いなのだ。神の意思を体現し、地上に神の王国を……」

 エリキュスは、言葉を遮《さえぎ》る。

「もう、神の名を騙《かた》るのはやめましょう。
神の王国という名の私利私欲の牙城を築きたいのは、枢機卿たちでしょう。
もっともっとと、際限の無い欲望を満たすために……。
あなたはその走狗《そうく》だ。
神の使いなどではないっ!」

「エリキュス。
貴様は、異端者どもに清らかなる心を売り渡した。
異端者よりもずっと罪深い、悪魔に成り果てたっ!」

「……私の行いが間違っているのなら、その裁きは、神に任せます。
今はただ、信念に従い……あなたを討つっ!」

「ふざけたことを抜かすなぁっ!」

 フィリッポスが突っ込んでくる。

 エリキュスも馬腹を蹴り、駆けた。

 馳《は》せ違う。
 うなりをあげる剣同士が火花を散らした。

 再びぶつかる。
 たがいの剣と剣が交錯する。

 フィリッポスはかなりの剣の遣い手だ。

 騎士団に入って間もなく、フィリッポスから何度も打ちすえられた。
 彼は剣の師であり、星騎士としての心構えを教わった。
 兄であり、尊敬に値するべき人物だ。

 だが、負けられない。
 新しい世界の為に、この地の人々の為に。

「はああああああああああああああ!!!」

 馬腹を蹴り、切り結ぶ。
 馳せ違わず、ぶつかる。

 交差した剣の向こうにフィリッポスの形相がある。
 顔が真っ赤になっている。

 フィリッポスが叫ぶ。
「ぅるらぁああああああっ!」

 押し切ろうとする力に、エリキュスは膂力《りょりょく》を上げて対抗する。

 フィリッポスの顔が歪む。

「はあっ!」

 エリキュス剣を、左側に向けて大きく振り切った。
 瞬間、フィリッポスの態勢もまた左に傾き、体勢を崩す。
 そのままフィリッポスの剣を跳ね上げた。

 彼の剣はくるくると弧《こ》を描いて、宙を舞った。

 フィリッポス馬首を返し、背を見せ、逃げようとする。

「逃がさんっ!」

 エリキュスは自らその背に飛びかかった。
 そのままフィリッポスを巻き込み、馬から落ち、ゴロゴロと絡み合いながら転がる。

 もみ合いが終わった時、エリキュスはフィリッポスに馬乗りにしていた。

 フィリッポスは自分に何が起きていのか、自覚していないかのように目を瞠《みは》り、顔面は蒼白だった。

「や、やめろ、エリキュス!
お、俺のおかげで、今のお前があるんだぞっ!?」

「裁かれるのならば、共に業火に焼かれましょう。
サンフェノ卿」

「貴様――」

 エリキュスはフィリッポスの首筋めがけ剣を突き立てた。
 温かな飛沫《ひまつ》が、頬を濡らした。

 そのまま剣に力を入れ、エリキュスはフィリッポスの頭をかかげた。
「フィリッポス・ド・サンフェノ、討ち取った!」

 味方が歓声を上げた。

                   ※※※※※※

(こんな……こんなこと……あって良い訳がないっ!)
 マンフレートは崩れていく自軍を唖然《あぜん》として見ていた。

 敵軍に襲われた味方は、乾いた土塊《つちかい》のようにぼろぼろと崩れていく。

「フィリッポスは……どうした」

 かすれた息遣いが口から漏れ出るだけであった。

 幕僚が告げる。
「サンフェノ卿は、乱戦の中で行方知れずでございます」

「――わ、我々は神の使い……星騎士団は負けぬ……」

 その譫言《うわごと》を、周囲の人間たちは表情を曇らせながら聞く。

「今は兵を引くべきで御座います」
 幕僚の一人が言う。

 マンフレートはそれで初めて我に返ったように叫んだ。
「揺るさんっ!
後退だと!?
サロロンはもう目と鼻の先なんだぞっ!?」

「食糧も水もありません。傭兵部隊も次々と戦線を離脱しております。
もはや軍の維持は不可能。ましては、戦闘など……」

「この異端者めっ!
貴様、異端者どもを生かすのか!
誰か! この者を捕らえ、火あぶりに――」

 しかし幕僚も兵も誰も動かなかった。

「何をしておるっ!
私の言うことが聞けないのか!?」

 誰かが言う。
「ひとまず、コンラッド将軍と合流しよう」

 幕僚たちはうなずきあう。

「おい、何を……」

「ダンジュー様、お許し下さい」

 マンフレートを挟むように兵士たちが両脇を押さえた。
「貴様ら……っ!」

「撤退だっ!」
 幕僚の一人は叫び、次々と周りも動いていた。

「お前ら、全員、異端者だ!
お前も、お前も、お前もぉっ!!
星都《サン・シグレイヤス》に帰り着いた時には、覚悟しておけっ!!」

 マンフレートの叫びはたちまちかき消される。

 騎馬隊が乱入し、背を向けて逃げていく兵士たちを次々と《な》薙ぎ倒していくのだ。

「うりゃああああ!
くそったれどもめえええええっ!」
 鉄棒を振り回した男が、幕僚や兵士たちの頭を次々とかち割っていく。

 マンフレートが逃げようとした時には、すでに騎兵によって退路を遮《さえぎ》られた。

 敵兵に遠巻きにされる中、騎兵の一人が馬を下りた。
 まだ十代、二十代くらいの、黒髪黒瞳の青年だ。

「い、異端者めぇえっ!」

 マンフレートが剣を振りかざしたその時、男が剣を握りしめた腕を閃《ひらめ》かせる。

 マンフレートが握りしめていた剣が宙を舞った。

「あ、あああ……っ」
 マンフレートはその場に尻もちをついて、男を見上げた。

「捕らえろ」
 男は――デイランマンフレートを冷ややかに一瞥《いちべつ》し、言った。
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みんなの感想(15件)

セイメイ
2018.11.29 セイメイ

面白い作品だ

解除
naturalsoft
2018.05.25 naturalsoft

おや?大将は捕縛するのですね。

逃げた傭兵団がまた野党化するのが心配です。



報告
34話での誤字が幾つかございました。

エリキュスの対決の会話で
「もっとも【っとと、】」

エリキュス(は)剣を左側に

マフレートの会話で
「揺(許さん)」


最後、デイラン(は)マフレート

m(_ _)mではないかと思います。

解除
naturalsoft
2018.05.25 naturalsoft

おや?大将は捕縛するのですね。

逃げた傭兵団がまた野党化するのが心配です。



報告
34話での誤字が幾つかございました。

エリキュスの対決の会話で
「もっとも【っとと、】」

エリキュス(は)剣を左側に

マフレートの会話で
「揺(許さん)」


最後、デイラン(は)マフレート

m(_ _)mではないかと思います。

解除
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