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第五部 王国統一 編

第十五話 未だ戦は終わらず

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キャスリーから南に三キロ行ったところにある街に、マックスを初めとして今度の戦で出た傷病者が運び込まれていた。
 そこにキャスリーから避難した人々がいた。
 そこには医者も常駐《じょうちゅう》している。

 デイランは病院代わりに使われている、幕舎に入る。

「マックス」

 マックスの顔色は悪くは無い。
 青痣は残り、憔悴《しょうすい》の色も深いが、それでも目の光は強い。

「……デイラン」
 マックスは身体を起こそうとしたが、痛みに顔をしかめた。

「無理はするな。
まだ傷が癒《い》えていないんだ」

 医者によると、打撲や打ち身、痣《あざ》などが目立つが、命や身体の機能には問題ないようだった。

「ずっと戦場を駆け回ってた奴に心配されるなんて、ね」

「お前は囚われの身だったんだろ。それに比べれば、楽なもんさ」

「怪我は?」

「軽いもんさ。
……水は?」

「ちょうだい」

 デイランはマックスの背中を起こさせ、水差しから水を注いだ器を口元に近づける。
 小さく喉が動いた。

「……戦いは」

「敵はどうにか、退けた」

 しかしマックスの表情は晴れない。
「これからよ。
連中は近いうちに……」

「分かってる。
その準備は進めている。
お前のお陰で勝ち取った勝利は、この国を生かす」

「当たり前よ。
私が珍しく身体を張ったんだから、負けたらただじゃおかないわ」
 マックスは冗談めかして言う。

 デイランは促し、そっと寝台に寝かせる。

「とにかく休んでくれ。
お前が必要になる時が絶対に来る。
その時にしっかりと動けるように……」

「人使いが荒いリーダーだこと」

「そんなのは今更だろ?
俺とマックス、そしてアウル。三人だけ路地をかけずり回って来ていた時のことを考えろよ。
誰が死んでもおかしくないギリギリをいつも走っていた。
そうでなかったら生きていけなかったからだ。
その時に比べれば……」

 マックスは苦笑する。
「……そうね。
なんだか、どうして自分がこんなところにいるか分からなくなってくる。
長い夢を見てるんじゃないかって時々思うわ。
うまく運び過ぎて……」

「今もぎりぎりさ。
それを俺やお前、他の多くの人々が身体を張ることで、うまく運ばせてるんだ」

「そう……そうね……。
私たちはたくさんの死の上にいるのよね」
 マックスは独りごちた。

「また来る」
 デイランは席を立った。

                       ※※※※※
 王都リュエンス。
 ヨーゼフ一世(元宮宰《もときゅうさい》・ルードヴィッヒ)の私室に、枢機卿《すうききょう》、ビネーロ・ド・トルスカニャはいた。

 周りの人間は下がらせていて、王と二人きりだ。
 そしてヨーゼフ一世の顔色は優《すぐ》れない。

 すでに王都には今回の遠征軍を率いたフリードリッヒの副官、コンラッドが帰還し、事態の全てを報告していた。

「これは大変なことになったぞ。
王国が帝国に牙を剥き、異端者を取り逃がすなど……」

 ヨーゼフ一世は苦悶の表情だ。
「分かっている」

「帝国は莫大《ばくだい》な賠償金を要求してくるだろうな。
多くの兵が討たれた。
同盟軍によって――」

「今、我が国にそのような金はない。
分かっているはずだ」

「ならば、土地の割譲《かつじょう》か」

「帝国にか!?
そんなことをすれば、また反帝国の動きが活発になるぞ!?」

「それだけのことをしたということだ」

「敵の術中に嵌《は》まったのだ……」

「だが、そのことについては心配することはない。
賠償金に関しては、教団が肩代わりしよう」

「ほ、本当か」
 ヨーゼフは身を乗り出した。

「無論だ。
せっかく両国が手をたずさえたというのに、それを破談するのは我らの欲するところではない」

「ならば」

「代わりに、教団に領土の一部を寄付、という形にすれば良い。
西方二州ではどうか?」

「今はそのようなことをしている場合ではない。
このまま異端者どもを勢いづかせられない!
すぐにでも軍を起こすのだっ!」

「しかしそのような軍資金がどこにある?
今回の費用とて教団が援助しているのに」

「……そ、それは」

「異端者討伐は教団の為でもある。
費用をだすのはやぶさかでもない。
しかし今度の出兵は帝国の援助は求められぬ。
となれば、だ。
我々教団の勇敢なる星騎士たちを出そう」

「ありがたいっ!」

「ただし、軍権は教団の人間が握る。
王国の騎士にそれを周知させてもらいたい。
――さらに、異端者どもを討ち果たした時の教団の取り分は、六にしてもらいたい」

「何だと!
そのようなこと……。
将兵たちが納得しない……」

「納得させるのが王の役目では?」

「だが」

「戦が起こせねば、そもそも絵に描いた餅。
ルードヴィッヒ。
お前とて、ロミオが生きたままでは安心出来ないだろう。
不満をもった貴族たちがロミオの元に集まれば、神星アリエミール王国は崩壊しかねない」

「脅すのか」

「事実を言っているだけだ。
――王がそんな浅ましい顔をするな。情けない。
恨むのであれば、無能な将軍どもを恨め。
――で、どうするのだ。
軍資金もなく兵も少ない。
その状況の中、単独で異端者どもを討てるのか?」

 ヨーゼフは目を背《そむ》けた。
「…………分かった」

「賢明だ」
 ビネーロはにやりとほくそ笑んだ。
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