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育児
初めてのパパ友
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「助かった、郁人。ありがとう」
二人が去ったのを確認してからお礼を言った。
「いえ。無事でよかったです」
後ろからすり、と頬を寄せられ、いつもなら怒るところだが、助けられたので好きにさせておく。
それでもすぐに離れ、しゃがんで郁人の足にしがみついていた二人の頭を撫でた。
「二人ともよく頑張ったね」
「怖い思いさせてごめんな」
俺もしゃがんで背中をさする。
落ち着くまでしばらくそうしていると、緊張が解けて眠気が襲ってきたようだ。
喜生と來生をそれぞれ郁人と俺で抱っこして、今日はこのまま帰ろうかと廊下を歩く。
「そういえば、さっきの奴どうします?ああいう奴って他の人にも偉そうな態度とってるだろうから、探偵雇って撮ってもらった動画流せば社会的に殺せると思いますけど」
「怖いこと言うなっ。そんなことしなくていいよっ」
「伊織さん優し過ぎません?怪我させられそうになったんですよ?」
「あれは余計な事言った俺も悪いし。それにそんなことしたら子供まで巻き添い食らうだろ」
「........わかりました」
全然納得はしていなさそうだったが、ひとまず頷いてくれた。
というか、俺はそれよりも気になってたことがあるんだよ。
「ってかお前、仕事は?」
助けてくれたことには感謝するが、仕事をほっぽり出してきたんだとしたらいかがなものか。
「丁度外に出てて時間があったんで、気になって来ちゃいました」
ほっぽり出したわけではないようだが、次の予定の時間を聞くとそれほど余裕はなかった。
「すぐ戻んなきゃじゃん!」
「でも、喜生も來生も寝ちゃいましたし、連れて帰るの大変でしょう?」
「起きるまで居させてもらえるか聞くからいいよ!早く仕事戻れ!」
郁人を仕事に戻らせた後、先生の許可をもらって教室で二人が起きるのを待たせてもらった。
丁度お昼寝の時間らしく、どの教室も使われていないので静かだ。
教室の壁に背中を預けて両脇に二人を抱えていると、俺も眠たくなってしまい、いつの間にか眠っていた。
「ん......」
うー....体が痛い.....。こんな格好で寝るんじゃなかった。
どのくらい時間が経ったのか。ぼんやりとした頭で目を開けると、誰かの顔が目の前にあった。
「うわっ!いて!」
驚いて身を引くと、ゴンッ、という音とともに壁で強く頭を打った。俺の声と痛みで動いた所為で喜生と來生も起きてしまったようだ。
「大丈夫ですか...?」
頭を押さえて痛みに耐えていると、頭上から遠慮がちに声がかかった。
あれ、でもおかしいな。
寝起きだったので定かではないが、目の前に居たのは子供のような気がしたのだ。
痛みでぼーっとしていた頭もスッキリして顔を上げれば、無精髭の生えた、お世辞にも上品とは言い難い男の人が立っていた。その後ろには碧くんもいる。ということは、目の前に居た子は碧くんだったんだろうか。
「あー...、すみません。大丈夫です。あれっ、今何時だ」
時計を見るとあれから一時間も経っていた。そろそろお迎えの時間になってしまう。
子供たちはいいにしても、俺は寝過ぎだろ。
「あの...、花咲さん、ですよね?」
「え?あ、はい。そうですけど....、あ!もしかして碧くんのお父様ですか?」
碧くんとは何度か会ったことはあるものの、お迎えの時間が被らず、親御さんとは一度も会ったことがない。
「はい。村西南です。いつも碧がお世話になっているようで...」
「花咲伊織です。こちらこそいつも喜生と來生がお世話になっております。家でもずっとあおくん、あおくんって言ってるんですよ」
目が覚めた喜生と來生は、早速碧くんを誘って遊んでいる。
「あの、村西さん、この後お時間ありますか?少しでもいいんでお話しできたら、と思ったんですけど...」
「ええ。もちろん。実は私もそう思って待ってたんですよ」
「そうなんですか!?起こしてくださればよかったのに...」
それなのにぐーすかと寝ていた自分が恥ずかしい。いつから待っていてくれたんだろうか。
「あ...、でも...誘っといてなんですが..お仕事は大丈夫ですか...?」
疲れた顔をしている上に、身なりにも気を遣えていない。父子家庭だと言っていたし、忙しいんじゃないだろうか。
「あ~...、すみません、締切明けは大抵こんな格好でして...」
「締切?」
「ええ。作家をやらせてもらってまして」
「作家さん!?凄いですね!...あれ、じゃあ締切明けってやっぱり疲れてません!?」
締切前は戦場って聞いた事あるし....。ん?それは漫画だったか...?いや、でもどっちにしろ疲れてるよな!?
「いえ。今回はわりと余裕があったので大丈夫ですよ」
「本当ですか....?断りづらくて嘘ついてるとかじゃ....」
「ふふっ。本当ですよ。それに、嫌だったらわざわざ起きるのを待ったりしないですから。....あ、でもこの格好だと説得力ないですかね?」
服装はかろうじてちゃんとしているが、少し長めの髪はボサボサで無精髭も生えており、おまけに目の下にはうっすらと隈まで見える。
....うん。確かに説得力ないかも。
そう思ったところで目が合ってしまい、なんだかおかしくなって二人とも吹き出した。
いい人そうで良かったー!
送り迎えだけでは親しい人など全くできず、少し寂しく思っていたのだ。ただでさえ女性の方が多く、話しかけづらい。男性もいるにはいるが、用が済めばすぐに帰ってしまう人が多い。
「場所はどうしましょうか....。私、お店にはあまり詳しくなくて...」
正直、俺もそこまで詳しくはない。子供も入れる所は何軒か知っているが、どこもゆっくり話せる感じではなかった気がする。
.....うーん、どうするか....。あ、そうだ。
「良かったら、家に来ませんか?」
「え....。花咲さんの....?」
「はい。コーヒーくらいしかお出しできませんけど、家ならゆっくり話せますし」
「ですが...ご迷惑では?」
「いえ。全く。喜生も來生も喜ぶと思います」
すると、耳ざとく聞いていた二人が、「「あおくんおうちくるの!?」」と既に喜んでいる。
「あ!もちろん嫌でしたら断ってくださいね?」
若干強制的な感じになっちゃったかな、と慌てて付け加える。
だが、村西さんは「ならお言葉に甘えて」と微笑んでくれた。
二人が去ったのを確認してからお礼を言った。
「いえ。無事でよかったです」
後ろからすり、と頬を寄せられ、いつもなら怒るところだが、助けられたので好きにさせておく。
それでもすぐに離れ、しゃがんで郁人の足にしがみついていた二人の頭を撫でた。
「二人ともよく頑張ったね」
「怖い思いさせてごめんな」
俺もしゃがんで背中をさする。
落ち着くまでしばらくそうしていると、緊張が解けて眠気が襲ってきたようだ。
喜生と來生をそれぞれ郁人と俺で抱っこして、今日はこのまま帰ろうかと廊下を歩く。
「そういえば、さっきの奴どうします?ああいう奴って他の人にも偉そうな態度とってるだろうから、探偵雇って撮ってもらった動画流せば社会的に殺せると思いますけど」
「怖いこと言うなっ。そんなことしなくていいよっ」
「伊織さん優し過ぎません?怪我させられそうになったんですよ?」
「あれは余計な事言った俺も悪いし。それにそんなことしたら子供まで巻き添い食らうだろ」
「........わかりました」
全然納得はしていなさそうだったが、ひとまず頷いてくれた。
というか、俺はそれよりも気になってたことがあるんだよ。
「ってかお前、仕事は?」
助けてくれたことには感謝するが、仕事をほっぽり出してきたんだとしたらいかがなものか。
「丁度外に出てて時間があったんで、気になって来ちゃいました」
ほっぽり出したわけではないようだが、次の予定の時間を聞くとそれほど余裕はなかった。
「すぐ戻んなきゃじゃん!」
「でも、喜生も來生も寝ちゃいましたし、連れて帰るの大変でしょう?」
「起きるまで居させてもらえるか聞くからいいよ!早く仕事戻れ!」
郁人を仕事に戻らせた後、先生の許可をもらって教室で二人が起きるのを待たせてもらった。
丁度お昼寝の時間らしく、どの教室も使われていないので静かだ。
教室の壁に背中を預けて両脇に二人を抱えていると、俺も眠たくなってしまい、いつの間にか眠っていた。
「ん......」
うー....体が痛い.....。こんな格好で寝るんじゃなかった。
どのくらい時間が経ったのか。ぼんやりとした頭で目を開けると、誰かの顔が目の前にあった。
「うわっ!いて!」
驚いて身を引くと、ゴンッ、という音とともに壁で強く頭を打った。俺の声と痛みで動いた所為で喜生と來生も起きてしまったようだ。
「大丈夫ですか...?」
頭を押さえて痛みに耐えていると、頭上から遠慮がちに声がかかった。
あれ、でもおかしいな。
寝起きだったので定かではないが、目の前に居たのは子供のような気がしたのだ。
痛みでぼーっとしていた頭もスッキリして顔を上げれば、無精髭の生えた、お世辞にも上品とは言い難い男の人が立っていた。その後ろには碧くんもいる。ということは、目の前に居た子は碧くんだったんだろうか。
「あー...、すみません。大丈夫です。あれっ、今何時だ」
時計を見るとあれから一時間も経っていた。そろそろお迎えの時間になってしまう。
子供たちはいいにしても、俺は寝過ぎだろ。
「あの...、花咲さん、ですよね?」
「え?あ、はい。そうですけど....、あ!もしかして碧くんのお父様ですか?」
碧くんとは何度か会ったことはあるものの、お迎えの時間が被らず、親御さんとは一度も会ったことがない。
「はい。村西南です。いつも碧がお世話になっているようで...」
「花咲伊織です。こちらこそいつも喜生と來生がお世話になっております。家でもずっとあおくん、あおくんって言ってるんですよ」
目が覚めた喜生と來生は、早速碧くんを誘って遊んでいる。
「あの、村西さん、この後お時間ありますか?少しでもいいんでお話しできたら、と思ったんですけど...」
「ええ。もちろん。実は私もそう思って待ってたんですよ」
「そうなんですか!?起こしてくださればよかったのに...」
それなのにぐーすかと寝ていた自分が恥ずかしい。いつから待っていてくれたんだろうか。
「あ...、でも...誘っといてなんですが..お仕事は大丈夫ですか...?」
疲れた顔をしている上に、身なりにも気を遣えていない。父子家庭だと言っていたし、忙しいんじゃないだろうか。
「あ~...、すみません、締切明けは大抵こんな格好でして...」
「締切?」
「ええ。作家をやらせてもらってまして」
「作家さん!?凄いですね!...あれ、じゃあ締切明けってやっぱり疲れてません!?」
締切前は戦場って聞いた事あるし....。ん?それは漫画だったか...?いや、でもどっちにしろ疲れてるよな!?
「いえ。今回はわりと余裕があったので大丈夫ですよ」
「本当ですか....?断りづらくて嘘ついてるとかじゃ....」
「ふふっ。本当ですよ。それに、嫌だったらわざわざ起きるのを待ったりしないですから。....あ、でもこの格好だと説得力ないですかね?」
服装はかろうじてちゃんとしているが、少し長めの髪はボサボサで無精髭も生えており、おまけに目の下にはうっすらと隈まで見える。
....うん。確かに説得力ないかも。
そう思ったところで目が合ってしまい、なんだかおかしくなって二人とも吹き出した。
いい人そうで良かったー!
送り迎えだけでは親しい人など全くできず、少し寂しく思っていたのだ。ただでさえ女性の方が多く、話しかけづらい。男性もいるにはいるが、用が済めばすぐに帰ってしまう人が多い。
「場所はどうしましょうか....。私、お店にはあまり詳しくなくて...」
正直、俺もそこまで詳しくはない。子供も入れる所は何軒か知っているが、どこもゆっくり話せる感じではなかった気がする。
.....うーん、どうするか....。あ、そうだ。
「良かったら、家に来ませんか?」
「え....。花咲さんの....?」
「はい。コーヒーくらいしかお出しできませんけど、家ならゆっくり話せますし」
「ですが...ご迷惑では?」
「いえ。全く。喜生も來生も喜ぶと思います」
すると、耳ざとく聞いていた二人が、「「あおくんおうちくるの!?」」と既に喜んでいる。
「あ!もちろん嫌でしたら断ってくださいね?」
若干強制的な感じになっちゃったかな、と慌てて付け加える。
だが、村西さんは「ならお言葉に甘えて」と微笑んでくれた。
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