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結婚五年目
着床
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キツかったのは本当に最初の一ヶ月だけで、それ以降は僅かにお腹の張りを感じるのみだった。
先生曰く、子宮を一から成形する時が一番大変で、それが最初の一ヶ月らしい。
たしかに、本来無い臓器がつくられているんだから当然といえば当然か。
薬を飲み終わり、子宮も問題なく機能しているということで、今日、受精卵を入れてもらうことになった。
エコーで子宮がどこにあるか確認しながら注射するらしい。
準備が進むにつれ、緊張と恐怖で心臓が強く脈打つ。
だ、大丈夫、大丈夫。みんなできてるんだ。俺にだってできる。
冷えた指先を温めるように握ると、その上から郁人の手が重なった。
背後から体ごと抱きしめられ、いつもなら人前でなにやってんだ!と怒る場面でも、その温かさにほっとして振り払えない。
「伊織さん、俺役に立てないけど、そばにいるんで」
「うん...。....手、ずっと握ってて」
「わかりました」
ベッドに横たわるといよいよだ。
お腹にひんやりとしたものが当てられ、先生が「刺しますね~」とのんびりした声で言う。
郁人は俺の頭側にいて、言葉通りずっと手を握っていてくれた。
ぷつ
と、針が刺さったのがわかり、目をぎゅっと瞑って郁人の手を握りしめる。
ぎゃぁぁああぁ!!!(心の叫び)
刺された時ももちろん痛かったが、子宮を探しているのか少し左右に動くような動きをされるのが特に痛い。
なんと表現すればいいのだろう。
刺す時は傷口に針を刺されたかのような一瞬の痛みで(刺したことないけど)、中で針が動くのはその傷口を更に抉るかのような痛みだ(抉ったことないけど)。
あくまで俺の主観。
ちなみにこれは後で冷静になってから例えられただけで、最中はもう痛いしか頭になかった。
唯一の救いは痛む時間が短かった事。体感的には一分くらいだったが、郁人が言うには十数秒だったらしい。
なんにせよ、後は着床するのを待つのみだ。
次は二週間後に診察で、くれぐれもお腹に強い衝撃を与えないように、と先生から注意を受け家に帰った。
「伊織さん、もう痛くないですか?」
家に帰ってきた途端、お腹に手を当てながら聞いてきた。
郁人はただ心配して聞いてるだけなのに、久しぶりに触ってもらった身体は服越しだというのにずくん、と疼く。
我慢できないのは、俺の方かもしれない。
それを隠すために少し明るめに答えた。
「もう全然大丈夫!あ、また自分を責めるなよ?」
「わかってますよ。痛いのに耐えてくれてありがとうございます」
「お礼はまだ早くないか?」
「その都度感謝を伝えたいんです」
そう言って頬に唇を落とす。
「......ちょ、あんま触んないで....」
久しぶりの熱は、我慢している身にとって刺激が強い。
「なんでです?もしかして、どこか痛いんですか!?」
勘違いした郁人があちこち身体を触ってくる。
「ば、馬鹿っ、違うって...!」
「じゃあなんですか?」
「....言わなきゃダメか....?」
「当たり前でしょう」
自分でも無理だろうなと思いつつ聞いてみると即答されてしまった。
.....ですよね。
「.....あんまり触られると、その......、もっと、触ってほしくなる...から....」
あまりの恥ずかしさに両手で顔を覆う。
だが、郁人からの反応がなく、指の隙間から窺うとなぜか自分の右手の人差し指に噛みついていた。
「郁人!?なにしてっ...!」
突然の自傷行為に驚いて、咄嗟に口を開けて指を救出する。血は出ていなかったが、歯の跡がくっきりと残っていた。
どんだけ強く噛んでたんだこいつは。
「........伊織さん、あんまりそういうこと言わないでもらえます?」
「はぁ?言えって言ったのそっちだろ?」
俺だって言いたくなかったわ。
「...そうじゃなくて...。...俺がどれだけ我慢してるかわかってます?」
ギラ、と光る眼光に少し慄く。
けど、俺だって我慢してるんだ。郁人だけじゃない。
「お、俺だって....」
「あー、もう。すぐそうやって可愛い顔する」
顎をとられ、上を向かされると触れるだけのキスを何度もされた。
「~~~!だからっ...、俺だって我慢してんのっ!」
こいつ煽ってんのか!?今はどうしたってできないのに。
「仕返しです」
なんのだよ!俺の場合は完全に不可抗力だろ!むしろお前のせいだろ!
「抱けるようになったら、覚悟してくださいね?」
にっこりと笑う姿はまさしくイケメンなのに、背筋に冷たいものがはしる。
ケ、ケツが裂ける覚悟...とかじゃないよな...?
先生曰く、子宮を一から成形する時が一番大変で、それが最初の一ヶ月らしい。
たしかに、本来無い臓器がつくられているんだから当然といえば当然か。
薬を飲み終わり、子宮も問題なく機能しているということで、今日、受精卵を入れてもらうことになった。
エコーで子宮がどこにあるか確認しながら注射するらしい。
準備が進むにつれ、緊張と恐怖で心臓が強く脈打つ。
だ、大丈夫、大丈夫。みんなできてるんだ。俺にだってできる。
冷えた指先を温めるように握ると、その上から郁人の手が重なった。
背後から体ごと抱きしめられ、いつもなら人前でなにやってんだ!と怒る場面でも、その温かさにほっとして振り払えない。
「伊織さん、俺役に立てないけど、そばにいるんで」
「うん...。....手、ずっと握ってて」
「わかりました」
ベッドに横たわるといよいよだ。
お腹にひんやりとしたものが当てられ、先生が「刺しますね~」とのんびりした声で言う。
郁人は俺の頭側にいて、言葉通りずっと手を握っていてくれた。
ぷつ
と、針が刺さったのがわかり、目をぎゅっと瞑って郁人の手を握りしめる。
ぎゃぁぁああぁ!!!(心の叫び)
刺された時ももちろん痛かったが、子宮を探しているのか少し左右に動くような動きをされるのが特に痛い。
なんと表現すればいいのだろう。
刺す時は傷口に針を刺されたかのような一瞬の痛みで(刺したことないけど)、中で針が動くのはその傷口を更に抉るかのような痛みだ(抉ったことないけど)。
あくまで俺の主観。
ちなみにこれは後で冷静になってから例えられただけで、最中はもう痛いしか頭になかった。
唯一の救いは痛む時間が短かった事。体感的には一分くらいだったが、郁人が言うには十数秒だったらしい。
なんにせよ、後は着床するのを待つのみだ。
次は二週間後に診察で、くれぐれもお腹に強い衝撃を与えないように、と先生から注意を受け家に帰った。
「伊織さん、もう痛くないですか?」
家に帰ってきた途端、お腹に手を当てながら聞いてきた。
郁人はただ心配して聞いてるだけなのに、久しぶりに触ってもらった身体は服越しだというのにずくん、と疼く。
我慢できないのは、俺の方かもしれない。
それを隠すために少し明るめに答えた。
「もう全然大丈夫!あ、また自分を責めるなよ?」
「わかってますよ。痛いのに耐えてくれてありがとうございます」
「お礼はまだ早くないか?」
「その都度感謝を伝えたいんです」
そう言って頬に唇を落とす。
「......ちょ、あんま触んないで....」
久しぶりの熱は、我慢している身にとって刺激が強い。
「なんでです?もしかして、どこか痛いんですか!?」
勘違いした郁人があちこち身体を触ってくる。
「ば、馬鹿っ、違うって...!」
「じゃあなんですか?」
「....言わなきゃダメか....?」
「当たり前でしょう」
自分でも無理だろうなと思いつつ聞いてみると即答されてしまった。
.....ですよね。
「.....あんまり触られると、その......、もっと、触ってほしくなる...から....」
あまりの恥ずかしさに両手で顔を覆う。
だが、郁人からの反応がなく、指の隙間から窺うとなぜか自分の右手の人差し指に噛みついていた。
「郁人!?なにしてっ...!」
突然の自傷行為に驚いて、咄嗟に口を開けて指を救出する。血は出ていなかったが、歯の跡がくっきりと残っていた。
どんだけ強く噛んでたんだこいつは。
「........伊織さん、あんまりそういうこと言わないでもらえます?」
「はぁ?言えって言ったのそっちだろ?」
俺だって言いたくなかったわ。
「...そうじゃなくて...。...俺がどれだけ我慢してるかわかってます?」
ギラ、と光る眼光に少し慄く。
けど、俺だって我慢してるんだ。郁人だけじゃない。
「お、俺だって....」
「あー、もう。すぐそうやって可愛い顔する」
顎をとられ、上を向かされると触れるだけのキスを何度もされた。
「~~~!だからっ...、俺だって我慢してんのっ!」
こいつ煽ってんのか!?今はどうしたってできないのに。
「仕返しです」
なんのだよ!俺の場合は完全に不可抗力だろ!むしろお前のせいだろ!
「抱けるようになったら、覚悟してくださいね?」
にっこりと笑う姿はまさしくイケメンなのに、背筋に冷たいものがはしる。
ケ、ケツが裂ける覚悟...とかじゃないよな...?
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