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お付き合い

地雷

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朝起きて隣に郁人が寝ている日常には全く慣れることはないものの、一緒に暮らすことにはある程度慣れてきた。
なんでもできる奴だと思っていたが、朝は少し弱いらしい。特に平日の朝なんかはぼーっとしていることが多い。
同棲してから新たに知れる一面が可愛くて、こんなにも嬉しいものだとは思わなかった。

最初は全て郁人がやろうとしていた家事も今では上手く分担できていると思う。
そして、順調だからこそ思うところがある。


結婚ってする必要ある?


もちろん、したくないというわけでは断じてない。
ただ、男同士だと子供のことを考える必要もないし、今のままでも十分幸せで結婚することで何かが変わるとも思えない。

だから親からの結婚はまだかという電話がきたときに聞いてみた。

「結婚ってなんですんの?」

『なにあんた、そんなこと悩んでたの?』

「いや....、今と何が違うのかなって」

『......郁人くん、ご両親とあまり仲が良くないでしょう?』

「....知ってたんだ」

『前に少しね....。だから、帰れる場所になれたらと思ったの」

「帰れる場所....?」

『そう。実家に帰ってくるのに理由なんていらないでしょう?そりゃあ、あんたの隣が一番の帰る場所なんでしょうけど、喧嘩するかもしれないしね?』

「............」

帰れる場所、か.....。
たしかに、郁人の実家は気軽に帰れる場所ではないはずだ。俺の実家が郁人にとっても同じような場所になるのならそれはとても良い事ではないだろうか。

『伊織?』

「....ああ、ありがとう。ちゃんと考えてみるよ」

『いい報告まってるわね』


そんなやりとりをして、俺なりに結婚について考えた。考えた上で結婚をする前にどうしても解決しておきたい事がある。

「郁人ー、朝ごはんできたぞ」

朝ごはんは俺の担当だ。
まだ少し眠そうな顔をした郁人が「おはようございます」と言って俺の頬にキスをした。これも未だに慣れないが習慣となっている。
ちなみに、俺からはしない。前に一度だけ返したら「朝からムラムラするんで伊織さんからはなしでください」と言われたからだ。平日の朝からムラムラされたらこっちも困る。

俺も挨拶を返して食卓についた。
いただきます、と手を合わせて朝ごはんを食べる郁人を見ながらずっと考えていたことを口にした。

「郁人、一度郁人のご両親に挨拶させてくれないか?」

俺の言葉に、郁人の顔が思いっきり歪んだ。

「.......必要ないでしょう」

「別に和解しろって言ってるわけじゃない。ただ、結婚の挨拶くらいはした方がいいだろ...?」

「必要ないです。俺の両親は死んだと思ってくれていいですから」

「郁人!」

郁人はさっさと朝食を食べ、取り付く島もなく話を切り上げてしまう。

「伊織さんも早く食べないと遅刻しますよ」

...たしかに、今する話ではなかった。朝の短い時間で説得できるほど単純な問題ではない。
朝食を手早く食べ終え、準備を急いだ。









そして夜、ご飯も食べ終わり、お風呂にも入ってあとは寝るだけの状態でソファで寛ぐ郁人に改めて話を持ちかけた。

「郁人、朝はごめん。話すタイミング間違えた」

「.....俺も大人気なかったです。でも、何度言われても答えは変わりませんよ」

「郁人!」

ソファから立ち上がろうとする肩を押さえ、無理矢理座らせた。

「ちゃんと話を聞いてほしい。聞いた上でそれでも嫌なら俺も諦めるから」

「........わかりました」

渋々、といった感じだが話を聞く体勢になってくれたので俺も郁人の隣に座る。

「朝も言ったけど、和解して欲しいとかじゃないんだ。でも、前みたいに弱みに付け込んでくるかもしれないだろ?俺は、郁人の弱みになりたくない」

郁人の瞳が少しだけ揺れた。
俺はそのまま目を逸らさずに言葉を重ねる。

「結婚した後にごたごたするよりも、結婚前に片付けておいた方がいいだろ?郁人が行きたくないなら俺だけでも構わないから」

頼む、と郁人の手に自分の手を乗せ、ぎゅっと握る。郁人は少し考えてから躊躇いがちに口を開いた。

「.....でも、やっぱり会ってほしくないんです。あいつらと家族だと思われたくない。もしあいつらと少しでも似ているところがあったらと思うと、それを知られるのが怖いんです....」

自由な方の手で自身の目を覆い、泣きそうな声でそう言った。

「.....ばかだな」

郁人の両頬を手で包み、こちらへ向ける。

「郁人、手どけて」

「....嫌です。今絶対情けない顔してるんで」

「そういうのも全部見せて。俺だって郁人のどんな姿も、言葉も、感情も全部受け止める覚悟はできてる」

以前郁人に言われた事を同じように言うとゆっくりと手が離れた。

うん、確かに情けない顔だ。眉尻が下がり、二重でぱっちりとした目は半分しか開いてない。

「俺は伊織さんに嫌われるのが一番怖いんです」

郁人の頬に添えている俺の左手に手を重ねながらそう言った。
そんな辛気臭い面にデコピンをお見舞いしてやると「痛っ」っと言って額を押さえる。

「嫌いになるわけないだろ」

そんな顔すらも愛おしいと思うのに。

「....本当に?」

「ああ。絶対」

さっきデコピンした額に軽く唇を寄せた。

「..........わかりました。連絡してみます。でも、返事は来ないかもしれませんよ」

「ありがとう!連絡来なかったらその時また考えよう。郁人は行くのやめとくか?」

「何言ってるんですか。伊織さんだけ行かせるわけないでしょう。俺も行きますよ」

「そっか。それなら心強いな」


だが、郁人の予想に反して返事は意外とすぐにきて、来週の金曜日の夜8時に会うことになった。
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