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プロポーズ
きっかけ
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郁人と初めて出会ったのは、実は俺が大学1年で郁人が高校3年生の頃だ。
その日は友達に誘われて入った天文サークルで、星を見た帰りだった。
夏だったので開始時間が遅く、終わったのは22時すぎ。そんな時間に公園のブランコで空を見上げる少年がいたので声をかけた。
「星、好きなのか?」
「...........」
今でこそ犬のように人懐っこいが、初めて会ったときは真逆だった。話かけても何も答えない。顔すらこちらへ向けず、ただぼーっと上を見上げるだけ。
今思えば家庭環境がそれほど良くなかったのだろう。
少し心配になって俺は一方的に話しかけた。
「あ、俺○○大学の1年花咲伊織。天文サークル入って今まさに星見てきたんだけど、すっごい綺麗だった!もし星好きなら絶対望遠鏡で見てみた方がいいよ。なんか心洗われた」
そんな感じで本当に他愛もない話を続けていると、ようやくこちらに顔を向けた。
わ、整った顔の子だな...。
「......なにが目的?」
「ん?目的?なんの話?」
せっかく話しかけてくれたのに意味がわからない。首を傾げて聞き返すとため息をつかれてしまった。
「.......はぁ...。あんた、一人暮らし?」
「うん。そうだけど....?」
「なら今日泊めて」
「えっ?」
俺の家に?初対面なのに不用心じゃないか?まだ高校生....だよな?
答えられずにいると嫌ならいい、と言ってブランコから降りて歩き出したので慌てて呼び止めた。
「ま、待って!家帰るの?」
「........帰りたくない」
帰りたくないってことは家はある、ってことだよな?親子喧嘩でもして家出してきたとか?
うーん.....。
「....わかった。泊まってもいいよ。ただし、一つ条件がある」
「..............」
「俺のところに居るってこと、誰でもいいから連絡すること」
「は.....?」
side 郁人
あの頃の俺は、なにもかもめんどくさくて誰も彼も同じだと思っていた。
家と学校という狭い世界でしか生きていなかったから当然と言えば当然かもしれない。
両親は俺が小さい頃から喧嘩ばかりで、離婚すればいいものを体裁を気にしてか別れることはしなかった。
そして2人は当たり前のように外に恋人をつくり、俺には見向きもしなくなった。
父親の方はほとんど家に帰ってこず、母親も金だけ置いてすぐに男と出て行く。
まあ、よくある話だ。
その日は久しぶりに父親が知らない女と一緒に帰って来た。
なにをしに来たのかは知らない。
女がうるさくて逃げたのに部屋にまでついてきて、かっこいいね、などと言って太ももを撫でられた。
こいつも同じか、と好きにさせていたらフェラをされ、上に跨られた。
そこを父親に見られ、腹を殴られた。
顔を殴らない冷静さがあるのなら俺が襲われている方だとわかっただろうに。いや、抵抗してなかった時点で同じことか。
出てけと言われたので素直に従った。
初めは俺に話しかけているとは思わなかった。
誰とも喋らない日なんてざらにあったから。
でも、隣のブランコに座って尚も喋り続けるのでさすがに俺に話しかけてるんだろう。
鬱陶しい。目的を聞いてもはぐらかす。
泊まらせろと言ったら条件を出してきた。
ああ、やっぱりこいつも同じか。
なんだ?金か?セックスか?
だが、思いもよらない条件に間抜けな声が出た。
もちろん連絡する相手などおらず、連絡したふりをして伝えれば容易く信じた。
こいつ大丈夫か?
部屋で、2人きりになったら本性を表すかもしれない。
そう思ったのに風呂にも入らせてくれ、ご飯も用意してくれた。手料理なんていつぶりだろう。
こんなに温かいものだったか。
結局なにも言ってこず、なにも要求されずに朝を迎えた。
久しぶりにゆっくり寝れた気がする。
あの人が起きる前に部屋を出て、すぐに大学を調べた。
幸い、超難関大学ではなく、これから勉強すれば入れそうなところだった。もともと、頭は悪い方ではない。やらなかっただけで。
大学には行けと言われていたが、行くつもりはなかった。早くこの家から出たかったし、早く縁を切りたかったから。
図らずも親の言いなりになるのは嫌だったが、今思えば多少は感謝している。
あのまま就職したとしてもたぶん長くは続かなかっただろうし、ろくな仕事にも就けなかっただろう。
だから大学費用は全額返した。縁を切るために色をつけて。
株が当たって予定よりも早く返せたのは嬉しい誤算だ。
入学式の後、サークルの勧誘でごった返す中、必死であの人を探した。
たくさん声をかけられたが全て無視。紙すら受け取らなかった。だって入るところはもう決まってる。
ようやく見つけた時は、人酔いして少し気分が悪くなった時だった。
見つけた瞬間に気分が悪かったことも忘れて一気に近づく。
「あの!天文サークル入りたいんですけど!」
心臓がどきどきとうるさい。自分がなぜこんなにも興奮しているのか、この時はまだわからなかった。
俺のことは、覚えてないと思った。何ヶ月も前のことだったから。それなのに。
「あれっ、君ってあの時の.....?」
覚えててくれたんだ!
覚えてなくてもいいと思ってたけど、やっぱり嬉しい。
「はい!あの時のお礼を言いたくて....。ありがとうございました」
「そっか!よかったー!ちょっと気になってたんだよね。朝起きたらいなくなってたし」
ぱっと花が咲いたような笑顔に心臓がどくんと跳ねた。
綺麗———
たぶん、この時、恋に落ちた。
いや、もしかしたら初めて会った時にはもう落ちていたかもしれない。
最初は純粋な興味だけでここまで来たつもりだったけど。
だって、初めてだったんだ。
容姿のことを言われなかったのも、名前を聞かれなかったのも、名前を言ってもなにも詮索してこなかったのも。
気づいたらどんどん好きになっていた。
柊、と言えばそこそこ有名な会社で俺はその1人息子。父親は子育ての能はないが、経営の能力はあったようだ。
あんなのが社長の会社には死んでも就職したくないが。
だから自己紹介をすると必ず聞かれるのだ。
「え、柊ってあの会社の?」
と。
大学に入ってからは全て否定した。その方が早く終わるし、どうせ縁も切るつもりだ。
笑顔でスルーする技術も身につけた。
だけど、伊織先輩だけはなにも言ってこなかった。俺に興味がなかったと言ってしまえばそうなのかもしれないが、後にそれとなく聞いてみたところ、
「自分から言ってこないなら俺は聞かないかなー。だって言いたくないこともあるだろ?」
容姿に関しては
「あー、顔って周りがいいって思ってても自分は嫌いだってこともあるだろ?その逆もしかりだし。俺もよく女顔って揶揄われたから容姿のことは言わないようにしてる」
と言っていた。
どんだけ人思いなんですか。もう好き。大好き。
その日は友達に誘われて入った天文サークルで、星を見た帰りだった。
夏だったので開始時間が遅く、終わったのは22時すぎ。そんな時間に公園のブランコで空を見上げる少年がいたので声をかけた。
「星、好きなのか?」
「...........」
今でこそ犬のように人懐っこいが、初めて会ったときは真逆だった。話かけても何も答えない。顔すらこちらへ向けず、ただぼーっと上を見上げるだけ。
今思えば家庭環境がそれほど良くなかったのだろう。
少し心配になって俺は一方的に話しかけた。
「あ、俺○○大学の1年花咲伊織。天文サークル入って今まさに星見てきたんだけど、すっごい綺麗だった!もし星好きなら絶対望遠鏡で見てみた方がいいよ。なんか心洗われた」
そんな感じで本当に他愛もない話を続けていると、ようやくこちらに顔を向けた。
わ、整った顔の子だな...。
「......なにが目的?」
「ん?目的?なんの話?」
せっかく話しかけてくれたのに意味がわからない。首を傾げて聞き返すとため息をつかれてしまった。
「.......はぁ...。あんた、一人暮らし?」
「うん。そうだけど....?」
「なら今日泊めて」
「えっ?」
俺の家に?初対面なのに不用心じゃないか?まだ高校生....だよな?
答えられずにいると嫌ならいい、と言ってブランコから降りて歩き出したので慌てて呼び止めた。
「ま、待って!家帰るの?」
「........帰りたくない」
帰りたくないってことは家はある、ってことだよな?親子喧嘩でもして家出してきたとか?
うーん.....。
「....わかった。泊まってもいいよ。ただし、一つ条件がある」
「..............」
「俺のところに居るってこと、誰でもいいから連絡すること」
「は.....?」
side 郁人
あの頃の俺は、なにもかもめんどくさくて誰も彼も同じだと思っていた。
家と学校という狭い世界でしか生きていなかったから当然と言えば当然かもしれない。
両親は俺が小さい頃から喧嘩ばかりで、離婚すればいいものを体裁を気にしてか別れることはしなかった。
そして2人は当たり前のように外に恋人をつくり、俺には見向きもしなくなった。
父親の方はほとんど家に帰ってこず、母親も金だけ置いてすぐに男と出て行く。
まあ、よくある話だ。
その日は久しぶりに父親が知らない女と一緒に帰って来た。
なにをしに来たのかは知らない。
女がうるさくて逃げたのに部屋にまでついてきて、かっこいいね、などと言って太ももを撫でられた。
こいつも同じか、と好きにさせていたらフェラをされ、上に跨られた。
そこを父親に見られ、腹を殴られた。
顔を殴らない冷静さがあるのなら俺が襲われている方だとわかっただろうに。いや、抵抗してなかった時点で同じことか。
出てけと言われたので素直に従った。
初めは俺に話しかけているとは思わなかった。
誰とも喋らない日なんてざらにあったから。
でも、隣のブランコに座って尚も喋り続けるのでさすがに俺に話しかけてるんだろう。
鬱陶しい。目的を聞いてもはぐらかす。
泊まらせろと言ったら条件を出してきた。
ああ、やっぱりこいつも同じか。
なんだ?金か?セックスか?
だが、思いもよらない条件に間抜けな声が出た。
もちろん連絡する相手などおらず、連絡したふりをして伝えれば容易く信じた。
こいつ大丈夫か?
部屋で、2人きりになったら本性を表すかもしれない。
そう思ったのに風呂にも入らせてくれ、ご飯も用意してくれた。手料理なんていつぶりだろう。
こんなに温かいものだったか。
結局なにも言ってこず、なにも要求されずに朝を迎えた。
久しぶりにゆっくり寝れた気がする。
あの人が起きる前に部屋を出て、すぐに大学を調べた。
幸い、超難関大学ではなく、これから勉強すれば入れそうなところだった。もともと、頭は悪い方ではない。やらなかっただけで。
大学には行けと言われていたが、行くつもりはなかった。早くこの家から出たかったし、早く縁を切りたかったから。
図らずも親の言いなりになるのは嫌だったが、今思えば多少は感謝している。
あのまま就職したとしてもたぶん長くは続かなかっただろうし、ろくな仕事にも就けなかっただろう。
だから大学費用は全額返した。縁を切るために色をつけて。
株が当たって予定よりも早く返せたのは嬉しい誤算だ。
入学式の後、サークルの勧誘でごった返す中、必死であの人を探した。
たくさん声をかけられたが全て無視。紙すら受け取らなかった。だって入るところはもう決まってる。
ようやく見つけた時は、人酔いして少し気分が悪くなった時だった。
見つけた瞬間に気分が悪かったことも忘れて一気に近づく。
「あの!天文サークル入りたいんですけど!」
心臓がどきどきとうるさい。自分がなぜこんなにも興奮しているのか、この時はまだわからなかった。
俺のことは、覚えてないと思った。何ヶ月も前のことだったから。それなのに。
「あれっ、君ってあの時の.....?」
覚えててくれたんだ!
覚えてなくてもいいと思ってたけど、やっぱり嬉しい。
「はい!あの時のお礼を言いたくて....。ありがとうございました」
「そっか!よかったー!ちょっと気になってたんだよね。朝起きたらいなくなってたし」
ぱっと花が咲いたような笑顔に心臓がどくんと跳ねた。
綺麗———
たぶん、この時、恋に落ちた。
いや、もしかしたら初めて会った時にはもう落ちていたかもしれない。
最初は純粋な興味だけでここまで来たつもりだったけど。
だって、初めてだったんだ。
容姿のことを言われなかったのも、名前を聞かれなかったのも、名前を言ってもなにも詮索してこなかったのも。
気づいたらどんどん好きになっていた。
柊、と言えばそこそこ有名な会社で俺はその1人息子。父親は子育ての能はないが、経営の能力はあったようだ。
あんなのが社長の会社には死んでも就職したくないが。
だから自己紹介をすると必ず聞かれるのだ。
「え、柊ってあの会社の?」
と。
大学に入ってからは全て否定した。その方が早く終わるし、どうせ縁も切るつもりだ。
笑顔でスルーする技術も身につけた。
だけど、伊織先輩だけはなにも言ってこなかった。俺に興味がなかったと言ってしまえばそうなのかもしれないが、後にそれとなく聞いてみたところ、
「自分から言ってこないなら俺は聞かないかなー。だって言いたくないこともあるだろ?」
容姿に関しては
「あー、顔って周りがいいって思ってても自分は嫌いだってこともあるだろ?その逆もしかりだし。俺もよく女顔って揶揄われたから容姿のことは言わないようにしてる」
と言っていた。
どんだけ人思いなんですか。もう好き。大好き。
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