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プロポーズ

プロポーズ

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「伊織先輩、俺と結婚してください」

「..................は?」


花咲伊織はなさきいおり28歳、男、独身。彼氏彼女共になし。

ひとつ下の後輩であるひいらぎ郁人いくとに、仕事の帰りに寄った半個室の居酒屋で突然プロポーズをされた。





2×××年。同性婚が認められて早いもので10年ほど経った現在。

認められた当時はまだまだ少なかった同性カップルも、今ではあまり人目を気にする事なく過ごしているのをよく目にするようになった。

そんな風景が当たり前になりつつある中で、ふと思った事がある。


案外多くの人が隠していたんだな、と。


学生の頃は、よく同性に顔も名前も女みたいだと揶揄われていたこともあり、恋愛対象として見たことはなかった。
告白もされたことはないし、俺とは無縁の世界なんだと思う。まあ女性にも自分より綺麗な人はちょっと、とか意味のわからない理由でフラれることが多かったので単に俺がモテないということでもあるのだが。

だだ、身近な人にもいなかったのでこれほどいるとは思わなかった。


SNSなどでは賛否両論あり、"生理的に無理"や"視界にすら入れたくない"などの否定的な意見もあれば、"ご馳走様です"や"リアルBLまじサイコー"などの肯定的な意見もあるようだ。



......さて、そろそろ冒頭の話に戻ろうと思う。







「先輩?聞いてます?」

......聞いてるよ、聞いてるけど........。

「......そもそも、俺たち付き合ってないだろ」

なんでそこすっ飛ばして結婚なんだ。

「先輩そういうの気にする方ですか?どうせ結婚するんだから意味ないと思うんですけど」

「いや、なんで結婚する前提なんだよ」

「だって、俺が先輩手放すわけないじゃないですか」

にっこり笑ってなに怖いこと言ってんの?
こいつこんな奴だったか?

郁人は大学の後輩でもあり、その頃から慕ってくれてよくつるんでいた。
バイト先も同じで一番仲が良かったかもしれない。
就職してから少し疎遠にはなったが月1は会っていたし、郁人が同じ所に就職してからはまた毎日顔を合わせている。

でもそれは友人としてであって、郁人からもそんな雰囲気を感じたことは1回もなかった。

......いつからそんな風に思ってたんだ....?

「あー....、気持ちは嬉しいけどな?郁人のことそういう風に見たことなかったから....」

「大丈夫ですよ。伊織先輩は絶対俺のこと好きになるんで」

その自信はどこからくるんだ。

「あのな、郁人。俺は男を好きになったこともないし、お前のことは友人としか....郁人?」

向かい側に座っていた郁人がおもむろに立ち上がり俺の隣に座ってきた。

「そんなの今から意識してくれたらいいですよ」

「ちょ、待て待て!近いって!」

「当たり前じゃないですか。今からキスするんですから」

「は!?何言って....!」

「伊織先輩、もう少し静かにしないと周りに気づかれちゃいますよ?」

「お前がバカなことしてるからだろ!?」

「ま、俺は別にいいですけど」

「や、やめろって——んっ!っ....!」

静止も虚しく、恐ろしく整った顔が近づき唇に柔らかい感触が当たった。
すかさず舌が唇を割って入り込み口を開けろと言わんばかりに歯をノックされるが、開けるもんかと食いしばる。

背中をドンドンと叩くが離れてくれる気配はない。それどころか入り込んだ舌は諦めることなく歯列をなぞり、唇をはみはみと啄まれ、最後にぺろりと舐められてようやく離れていった。

「ふふ、先輩かわいい♡」

「お....、お前.....!」

離れたくてもすでに限界まで下がってしまっている。

「何やってんだよ....!」

「キスですけど?」

そうじゃない!そこじゃない!

「いやそれも意味わからんけど!こんなとこですることでもないだろ!」

「ここじゃなければいいって事ですか?」

再びぐいっと顔が近づく。

違ーう!

「でも先輩だって本気で嫌がらなかったじゃないですか。殴ろうと思えば殴れましたよね?」

「そ!それは.....」

「それは?」

「........殴れるわけないだろ....。付き合い長いし...、でも!次やったら殴るからな!」

「先輩のそういうとこ大好き」

「う、うるさい。早く離れろ」

ようやく離れてくれ、ほっとため息をついてから少しぬるくなったビールを呷った。

「....だいたい、なんで俺なんだよ....。社内一イケメンで仕事もできるお前ならよりどりみどりだろ....」

「え、先輩俺のことかっこいいって思ってくれてるんですか?」

「だからそこじゃなくて!受付の滝川さんだって絶対お前のこと狙ってるだろ」

「タキガワ....?そんな人知りませんよ。俺は伊織先輩一筋なんで」

うっ、こいつ本気なのか....?
好意は純粋に嬉しいが今は驚きの方が大きい。

「ごめん、郁人。気持ちは嬉しいけど....」

「先輩、デートしません?」

「は?」

話聞いてます?

「いや、だから....」

「デートしてから返事ください」

ダメですか?と子犬のようなしゅんとした顔をするもんだから、まあデートくらいならいいか...と承諾した。
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