上 下
34 / 37

32.希望の光!

しおりを挟む
あの後すぐに服を届けてくれ、お礼を言うとお金はロベルトが払ってくれたと言う。だが、渡そうとしても全然受け取ってくれず、それなら俺も、受け取ってくれないなら要らない。着替えない。と言えば渋々受け取ってくれた。

すぐに着替えると、ミーアさんに美容院に連れて行かれ、乱雑だった髪も綺麗に整えてもらった。本当はいつ戻ってくるかわからないヴァルクを待っていたかったのだが、ロベルトに「当分戻って来ないから行ってこい」とせっつかれたので仕方なく。

でも、整えられた髪の毛を見て行ってよかったと思った。自分では見えていなかったので気にならなかったのだが、結構酷い状態だったのだ。そりゃあみんなも心配するよ。


そして、ロベルトの言った通りヴァルクが戻って来たのは日が沈んでからだった。

ギルドの営業も終わっているため、この場にいるのは俺とヴァルク、ロベルトと団長さん、それからミーアさんだ。

戻って来てすぐにどうなったか聞くと、団長さんはすぐに答えてくれず、「とりあえず中に入ってから話そう」と言われた。二階の部屋で、ロベルトを含む全員が座っているが、空気は少し重い。
もしかして、駄目だったんだろうか。ドキドキしながら団長さんの言葉を待つ。


「....結論から言うと、街に住めることになった」

「え!?本当ですか!?」

無理だったのかも、という思いが強くなっていたため、思わず立ち上がった。勢いよく立ち上がったせいで倒れそうになった椅子は、隣のヴァルクが支えてくれたので倒れずに済んだ。
団長さんが片手で座るよう促したため、ヴァルクにお礼を言って席につく。

「ただし、条件がある」

「条件......」

膝の上に置いていた手をぐっと握りしめると、その上に手が置かれた。ハッとしてヴァルクを見れば、安心させるかのように微笑んでくれる。

「まず、ヴァルクは雉羽騎士団で預かることになった。その上で、騎士学校に通ってもらう」

「騎士学校!?」

「ああ。彼の実力なら学校に通わずとも騎士団に入れはするがな。余計なやっかみを買わずに済むだろう。まあ、二年間は大変だと思うが」

騎士学校は二年間、長期休暇もなくその上全寮制のため、この街にあるとはいっても完全に隔離された状態になる。多少わかってくれる人が増えたが、学校はヴァルクのことを知らない人の集まりだ。そんな隔離された、フォローもできない場所には正直あまり行ってほしくない。

だってヴァルクが傷ついても助けることができないなんて。無駄に傷つくくらいならここを出て、自由気ままに暮らした方が良くない?

ヴァルクは、どう思っているんだろう。俺1人がぐるぐると悩んだって意味がない。
ちらりと隣を見れば、ヴァルクはずっとこちらを見ていたのか目が合った。その瞳に、迷いはない。

「.........ヴァルクは、もう決めてるんだな」

「ああ。通うよ。学校に」

「っ.....」

ヴァルクなら、なんとなくそう言うんじゃないかと思っていた。

「.....でも、辛いかもよ?やっぱり行かなければよかったって思うかも.....」

「それは行かなくても同じ事だ。それに、いつまでもサクヤに助けてもらうわけにもいかない」

「そんな事っ、俺の方が助けてもらってるのに!」

ヴァルクは静かに首を横に振った。

「サクヤが隣にいるだけで、俺は助けられていた」

隣にいるだけで?そんな馬鹿な。そう思うがヴァルクの顔は真剣だ。

「だから、堂々と、胸を張ってサクヤの隣に立ちたい」

ヴァルクの目は、もう未来を見据えている。
........そうだ。街に住むことはヴァルクの夢だったじゃないか。それなのに俺が足を引っ張ってどうする。

「......わかった。応援するよ。....けど、無理はしないで」

「ああ。ありがとう。...そんな顔をするな」

そう言われて頬を撫でられる。
俺は今どんな顔してるんだろう。笑いたいのに、涙が出そうだ。頬を撫でられるのが気持ちよくて思わず手に擦り寄せると、咳払いが聞こえた。

「2人の世界に入るのはもう少し待ってくれないか。まだ話したい事があるんだ」

「っ!?」

そうだった!みんないるんだった!!恥ずかしっ...!
羞恥のあまり顔を伏せたまま謝る。団長さんはくすりと笑って話し始めた。

「騎士学校を卒業したら雉羽騎士団うちに入団してもらう。黒のイメージを回復させるには丁度いいからな。それで問題無しと見なされれば、騎士団を辞めても構わない。後のことは自由だ。何年後、と正確に言ってやれないのは申し訳ないが」

自由.....。凄い.....。本当に叶うんだ.....。
俺は立ち上がって腰を折った。

「団長さま、それからロベルトも。この度は私とヴァルクのためにご尽力くださり本当にありがとうございました」

一瞬静寂が訪れたが、団長さんがそれを破った。

「それならこちらもお礼を言わなくては」

「え?」

なんで団長さんが?

「黒を持つ者が必ずしも悪ではないとわかったことは、この国にとっても有益だ。第二第三の彼らを出さないように動くことができる。ありがとう」

そっか。他にも黒い髪と目を持った人がいても不思議じゃない。ここはゲームとは違うんだ。この先も、ずっと続く。

「私情が役に立ったのならよかったです」

ほんと、ただの私情以外のなにものでもないのに、お礼を言われるなんて素直に喜んでいいものなのだろうか。なんて言っていいかわからないから思った事を言っちゃったけど、団長さんは笑ってくれたのでよしとしよう。あの人いつも笑ってるけど。

「あの...、それで入学試験はいつなんですか?」

「明日だ」

「明日!?」

「正規の入学試験は一カ月程前に終わったんだが、あそこは随時募集しているんだ。ま、入学が遅れる分、試験は難しいがな」

なるほど....。じゃあ明日から二年間は全く会えないんだ....。

「それで、ここからが重要なんだが」

えっ、まだ重要なことあんの!?

「これから二年間はもちろん、騎士団にいる間もプライベートはないと思った方がいい。ていのいい監視だからな」

うわぁ、それは大変そう.....。

「なに他人事のような顔をしている?サクヤに言っているんだぞ」

「えっ?」

俺ですか?でもなんで.....。

「本当は今日も騎士団の宿舎に入れろとうるさかったんだが、恋人になったばかりだろう?流石に可哀想だと思ってな。今夜だけ私が監視するということで話をつけてきた」

さらりと言われた言葉に目を見開く。
.....えっ、えっ?待って、今恋人って言わなかった?なんで知ってんの!?

「えっ、えっと、あの.....」

頭の中が真っ白になって、顔が熱くなる。後半に言われたことなど全く入ってこず、わたわたと狼狽えながら隣を見れば、ヴァルクはどこ吹く風だ。ヴァルクが自分から言うとは思えないけど、聞かれたら普通に答えそう。いや、別にいいんだけどね?

「私とロベルトはに監視しているから、今夜くらいしなさい」


........なんか、ゆっくり、に含みがなかったか.....?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。 僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。 だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。 子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。   ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。 指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。 あれから10年近く。 ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。 だけど想いを隠すのは苦しくて――。 こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。 なのにどうして――。 『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』 えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。

春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。  新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。  ___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。  ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。  しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。  常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___ 「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」  ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。  寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。  髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?    

転生したらいつの間にかフェンリルになってた〜しかも美醜逆転だったみたいだけど俺には全く関係ない〜

春色悠
BL
 俺、人間だった筈だけなんだけどなぁ………。ルイスは自分の腹に顔を埋めて眠る主を見ながら考える。ルイスの種族は今、フェンリルであった。  人間として転生したはずが、いつの間にかフェンリルになってしまったルイス。  その後なんやかんやで、ラインハルトと呼ばれる人間に拾われ、暮らしていくうちにフェンリルも悪くないなと思い始めた。  そんな時、この世界の価値観と自分の価値観がズレている事に気づく。  最終的に人間に戻ります。同性婚や男性妊娠も出来る世界ですが、基本的にR展開は無い予定です。  美醜逆転+髪の毛と瞳の色で美醜が決まる世界です。

神獣の僕、ついに人化できることがバレました。

猫いちご
BL
神獣フェンリルのハクです! 片思いの皇子に人化できるとバレました! 突然思いついた作品なので軽い気持ちで読んでくださると幸いです。 好評だった場合、番外編やエロエロを書こうかなと考えています! 本編二話完結。以降番外編。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

処理中です...