ボスルートがあるなんて聞いてない!

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閑話.その後の2人 ロベルト視点

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慌ただしく部屋から出ていくサクヤを見送って、気づかれないように小さくため息をつく。
だが、目ざといアウレスにはバレてしまったようだ。

「追わなくていいのか?」

「.....別に。あいつのところなら1人で何度も行ってる」

「ふーん。そんなに大事にしてるのに自分が貴族だった事は言ってないんだな?」

「.......ってだけだ。今は違うし言う必要もないだろ」

元々、家族の仲はあまり良くなく、貧乏貴族に生まれた俺は剣の才能があったようで騎士になれ、と毎日のように言われていた。騎士になれる事はそれほど名誉あることなのだ。
剣を振ること自体は好きだったし、騎士学校に通えたことは良い経験だったと思う。それについては感謝もしている。

だが、貴族社会が俺には無理だった。
常に顔色を読み、言葉の裏を探り、笑顔を貼り付けていなければならない。そんな窮屈な生活を一生続けるなんて地獄だ。

だから騎士学校を卒業した際、騎士にはならなかった。

なにも言わずに辞めたので、当然騎士になると思っていた両親は激怒。育てた恩を仇で返しやがって、と散々怒鳴られた。それについては確かにその通りだ。だから廃籍されたことにも納得している。

その時にはもう冒険者になりたいと思っていたので、むしろ好都合であることはさすがに口にはしなかったが。

俺にとっては過去のことだ。今後も言うつもりはない。

「だがお前がこれほど執着するのは初めてだろう?」

執着.....。傍から見たらそう見えるのか....。

「....そんなんじゃない。...ただ、危なっかしいから放っておけないだけだ」

「本当にそれだけか?」

「他になにがある」

「好きなんだろう?」

「..............」

好きじゃないと言えば嘘になる。
快楽でトロけた顔も見てみたいし、どんな声で啼くのかも知りたい。ただ、付き合うとか結婚となると話は別だ。あまりそういったものに縛られたくない。

かと言って、そういう半端なのはサクヤの方が無理だろう。そもそもあいつは俺のことを親の様にしか思ってない。母親かと言われた時は、さすがに落ち込んだ。

だから、今あいつが笑って幸せに過ごせていればそれでいい。欲を言えばもう少し触らせてほしいが。

「.....お前もようやく落ち着くと思ったんだが違うのか」

「そんな予定は今後もねえよ。ってかそれを言うならお前もだろ、貴族サマ」

むしろ俺なんかよりよっぽど重要だ。きっと急かされているだろうに、いつまで経っても結婚するという話は聞こえてこない。

「私は一途だからな」

「は.....?お前、好きな奴いたのか?」

そんな話は一度も聞いた事がない。
一途っていつから?俺の知ってる奴か?浮ついた話が一切なかったのは好きな奴がいたからか。

だが、こいつに口説かれて落ちない奴なんているのか?騎士団長という地位もあり、実力もある。年頃の令嬢なんて一発で落ちるだろうに。

「ああ。相手は私に興味がないようだがな」

「そんな奴いるのか?」

訝しげに見ると、何が面白いのか喉の奥でくつくつと笑う。

「それがいるんだ。目の前にな」

「は..........?」

目の前?目の前には俺しかいねえぞ.....?

「....おい、まさか.......」

「ああ。そのまさかだよ」

嘘つけ。反射的にそう答えた。

くならもっとましな嘘をけ」

明らかに揶揄われている。俺なんかを揶揄っても面白くもなんともないだろうに。

ため息をついて頭をがしがしと掻いた一瞬で、アウレスが思ったよりも近づいて来ていた。
......さすが騎士団長。気配を消すのが上手い。

真剣な面持ちで隣に座る。.....なんか雰囲気怪しくないか?

「冗談でも、嘘でもない」

「っ、........なんでだよ。今までそんな雰囲気微塵もさせなかったろ」

「お前が大事にしている彼でさえ繋ぎ止めることが無理なら、私が貰ってもいいだろう?」

なんだその暴論は。意味がわからん。
嘘をついている様子はないが、嘘だと言われた方がまだ信じられる。
答えられずにいると、アウレスが俺の顎に手をかけた。

「待て待て待て!何するつもりだ!」

「口付けだが?」

さも当然、といった様子で近いてくる。

「なんでだ馬鹿!やめろ!」

「まだ信じられないようだからな。こうすれば信じられるだろう?」

「わ、わかった!信じたから!」

慌ててそう言うと、満足げな顔で離れた。
くっそ、馬鹿力め......。

「ま、気長に口説くよ」

さらりとキザな台詞を吐いたかと思えば、もう仕事の話になっている。
先程の告白は夢だったんじゃないかと思ったくらいあっさりだ。

冗談じゃない....!
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