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13.飲み過ぎ注意!

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そんな恐ろしい約束をさせられてから5日が過ぎたところで、小さな変化が現れた。

早いものでこの世界に来てから1か月と...少し?が経って、その間ずっと同じ宿屋に泊まっていたら店主さんともだいぶ仲良くなった。おはようやおやすみの挨拶はもちろん、お帰りなども言ってくれて結構嬉しい。

今日も夜ご飯を宿屋で食べていると、店主のハルクさんが話しかけてくれた。

「おい、お前さん知ってるか?」

「ん?なにが?」

最初は1人で食べるのに寂しさもあったのだが、こうやって話しかけてくれるから退屈もしない。たまにお客さんも話しかけてくれたりする。

「黒の悪魔だよ。最近なんか雰囲気が変わったらしい」

「雰囲気が?」

「ああ。なんでも遠目じゃ黒の悪魔だとわからなかったらしい」

おお!早速効果が!

「やっぱり服変えるだけでも違うんだな~」

ロベルトすごいや。

「なんだ、知ってたのか?」

「うん。だってあの服俺が選んだもん」

「は.....?」

ハルクさんは目を大きく見開きながら動きまで止めている。
そんな驚く?

「黒の悪魔に会ったのか....?」

「あれ?言ってなかったっけ?ヴァルクに助けられたって」

「ヴァルクって....黒の悪魔のことだったのか!?」

あ、そか!みんな名前知らなかったよね!うっかりしてた!

「....それじゃあ、助けられたやつがいるっていう噂は本当だったのか....」

えっ、信じてなかったの!?嘘ぉ!他のみんなもそう思ってんのか!?
他の人にも聞いてみようと、後ろを振り向いた時、丁度お客さんに話しかけられた。

「なんだぁ?坊主、黒の悪魔に会ったってぇ?」

酒臭っ!
まだ夜もそこまで深いわけではないのに、男からはかなりの臭いが放たれている。右手には飲みかけのエール(日本で言うビール)を持ちながら、左腕を俺の肩に回した。

「ちょ、おっさん臭い!どんだけ飲んでんだよ!」

「うるせー!こんな日に飲まないでやってられるか!坊主も付き合え!」

「絡み酒やめろよな!俺はまだ飲めないの!」

このゲーム内でも、お酒が飲めるのは日本と同じ20歳ハタチからだ。どうせなら20歳ハタチにしておけばよかったと思ったが、こうなるなんて予想は出来なかったから仕方ない。

周りで、
「おい、あいつって知らないんじゃないか?」
「教えてやった方がいいだろ」
「あいつ殺されるぞ」
などとぶつぶつ聞こえるがなんでもいいから助けてほしい。

「んなの律儀に守らなくったっていいんだよ!おら!飲め!」

肩に回した左手で顎を開かれ、閉じられないように指まで入れられた。

「んぁ!?ふあへんあ!やえお!」

ふざけんな!やめろ!ともがくも、左手は外れずエールを持った右手が近づく。

ブルー!盾になってくれ!

『はい、マスター』

俺の言葉で瞬時に盾になったブルーを顔の前へ移動させた直後、ガンっとエールのジョッキが盾に当たった。

あ、危なー!ブルーに盾取り込んどいてもらってよかったー!
こんなことがあるとは想定していなかったが、持っておいて損はないだろうとロベルトに言われ、ほんの2日前に取り込んでもらったばかりの物だ。

ジョッキが割れることはなかったが、思ったより大きな音が出た。どんだけの勢いで俺に飲ませようとしてたんだよっ。
その音で金縛りが解けたかのように、皆んなが一斉に動きだした。ハルクさんがエールを取り上げ、他のお客さんたちが俺と男をべりべりと剥がす。

「ばか!飲み過ぎだ!」
「謝れ!誠心誠意謝れ!」
「すんません!こいつ今日彼女に振られたばっかで...!」
「どうかギルド長には言わないでもらえると...!」

男の友人らしき人たちが口々になんか言ってくるけど......俺そんな怒ってないよ?ってかなんでロベルトが出てくんの?
俺としても今回のことは、気が緩んでるからだと怒られる気しかしないので、ロベルトに言うつもりはない。
.......もしかして、俺って自分で思ってるより恐い顔してるのかな......。気をつけよう。

「あー、いいっていいって。彼女に振られたばっかなら荒れる気持ちわかるし....」

まっ、彼女いたことないけどね!

「ほら!お前も早く謝れ!」

友人にせっつかれた男は、両脇を支えられながらぼんやりとした目つきで俺を見る。すると、その目からぽろぽろと涙が溢れだした。

え?え?泣くほど恐い!?
自分の顔をペタペタと触ってみるが、どんな顔をしているのかわからない。

「おれの....おれのどこがダメだったんだよぅー.....」

涙を零し続けながら男がぼそぼそと呟いた。

「...............」

どうやら俺の顔が恐かったわけではないらしい。それはよかったのだが......そういうところじゃない?
結局、おっちゃんを慰める会みたいなものになってしまい、それ以上ヴァルクのことは聞けなかった。


なので翌朝、ハルクさんにもう一度聞いてみた。朝は夜と違って宿屋に泊まった人しか利用できないため、昨夜のような酔っ払いもいないし、時間にも余裕がある。

「ハルクさん、昨日のことだけどさ、他のみんなもヴァルクに助けられたって話信じてないのかな?」

「ん?ああ、そうだな。半信半疑の奴の方が多いんじゃないか?一回だけなら偶然って言われた方が納得がいくしな」

そんなぁ....。

「でもお前さんが言うには本当なんだろ?」

「うん!本当!信じてくれる?」

「そりゃあな。1か月以上接してきてお前さんがそんな嘘をつくようには見えん」

「ハルクさん....!」

「だが、他の奴にはあまり言わない方がいいかもしれん」

「なんで?」

「嘘つき呼ばわりされる可能性もあるからな。最悪、黒の悪魔の仲間だと思われかねん」

「仲間っていうか、友達だからそれは別にいんだけど、嘘つきって思われるのは嫌だなぁ...」

今後の発言力がなくなるのは困る。まあ、今もあるわけじゃないけど。

「そういう意味で言ったんじゃ——って、友達!?」

それはさすがに嘘だろう!?と昨日よりも驚くハンスさんに、俺は胸を張って答えた。

「本当です!なんせ本人にも確認したんだから」

俺の言葉にハンスさんはフリーズしてしまい、見開かれた目は零れ落ちてしまいそうだ。
そんな驚くか?とも思ったが、ここでは日本だと"お化けと友達になった"くらいの衝撃があるのかもしれない。.....ちょっと違うか?

「......変わった子だとは思っていたがここまでとは.....」

ちょっと失礼じゃないですか?
呆然としたまま呟く様子は、声に出ていることが自分でわかっているかどうかさえ怪しい。

「...怖くはなかったのかい?」

「ん?うーん...、最初はちょっと怖かったけど...、喋ってみたら普通だったし。それに、助けてもらったのに怖がるなんて器用なことできないしなぁ」

ハンスさんは目をぱちぱちとしばたたかせたかと思ったら、自嘲気味に笑った。

「ふっ....、ギルド長が惚れ込むのもわかる気がするよ」

「はい?」

ハンスさん、なに気持ち悪いこと言ってんの?ロベルトはあれだよ。俺のこと揶揄って遊んでるだけだよ?
そう訂正しようとしたが、二階から下りてきた宿泊客によってタイミングを逃してしまった。
ま、いっか。いつでも訂正する機会はあるし。
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