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哀
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これで、五枚中三枚の写真と同じ場面の夢を見たことになる。まだ夢を見ていない二枚の写真を眺めながら、次はどっちが見られるのだろう、と期待で胸が膨らんでいた。ここまできたら残りの二枚も絶対に見れるだろう。
泣いている方なら慰める時に触りたい放題だし、プールの方だったらまた可愛いいお君がたくさん見れる。どちらにせよ、美味しいことに変わりはないので楽しみだ。
ニヤニヤと写真を眺めていたら、また見ているのか、と伊織さんに呆れられてしまった。
◇◇◇
.......慰める時に触りたい放題だとか、どちらにせよ美味しいだとか思っていた自分を殴ってやりたい。
泣いているいお君を前に、激しく自分を責めた。悲痛な泣き声が胸に突き刺さる。
今回も無事写真の夢を見れたのだが、出迎えてくれたのは耳を劈くような声だった。
立って泣くいお君をぎゅっと抱きしめてなだめるが、泣き止むどころか悪化したような気がする。声をかけても、泣いている声が大きすぎて聞こえていない。いお君は俺の体に腕を回してくれたが、それを喜ぶ余裕はなかった。
背中を撫でてなだめ始めてから、どれくらい経っただろう。段々落ち着いてきたものの、泣き疲れて寝てしまったようだ。
もしかして今回はこれで終わってしまうのだろうか。そうだとしたらなんて残酷なんだ。泣いている理由もわからないままなんて。もし誰かにイジメられたんだったらそいつは生かしておけない。
だが、予想に反して目の前が暗くなることはなかった。
抱っこした状態でほっと息を吐きつつ、涙でぐちゃぐちゃになった顔を拭う。顔が真っ赤になって、汗もかいてしまっている。額に張り付いた前髪を横に流すと、少し眉毛が動いた。
起こしてしまったかと焦ったが、すぴすぴと寝息を立てたまま、目が開くことはなかった。
鼻が詰まって、呼吸しずらそうな音を立てているのが可愛いくて、愛おしいのに、泣いたのが原因だと思うと素直に喜べない。向かい合っているので、半分程しか見えないあどけない寝顔も、手放しで可愛いとは思えずにいる。
理由は知りたいけど、目が覚めたらまた泣き出してしまうかもしれない。もしかしたら、泣いて寝ての繰り返しになる可能性だってある。
一抹の不安を覚えながら、いお君が目覚めるのを待った。
そして、今回も前回と同様、伊織さんの実家で他には誰もいない。いお君が寝ている間、暇だったので周りに目を向けると、時計やカレンダーなど時間に関する物が一切ないことに気づいた。
偶然か、必然か。少なくとも、現代の伊織さんの実家には、各部屋にカレンダーはともかく時計は置いてあったはずだ。わかるのは、外が明るいので朝か昼なことだけ。
なので正確な時間はわからないが、体感的には二十分くらい。それほど長い間寝ていたわけではないと思う。いお君が寝返りを打ってゆっくりと目を開けた。
寝る前に何をしていたのか忘れたのか、辺りをきょろきょろと見回している。そして、俺と目が合うと、くりっとした大きな目に涙が浮かぶ。
俺は慌てて頭を撫でながら声をかけた。
「どうした?いお君。なにか辛いことあった?」
「うぅ~......」
先程のように泣き叫ぶことはなかったが、次から次へと涙が零れ落ちていく。それでもなんとか嗚咽の合間に"チロ"と聞こえてきて、飼っていたハムスターが亡くなってしまった事がわかった。
「いお君可愛がってたもんね」
夢の時の様子しか知らないが、あれだけでも十分可愛がっているのは伝わってきた。ハムスターの方もかなり懐いていたように思う。少し嫉妬したくらいだし。
「チロっ.....。なんでっ...ゔっ...しんじゃっだのぉ....?」
俺の服を握りしめ、必死に涙を堪えながら聞いてくる。止まらずにぽろりと溢れ落ちた涙を見て、俺まで泣きそうになった。
「.......なんでたろうね。寂しいね」
「うっ....やだよぉ.....」
「.....でもね、チロは幸せだったと思うよ」
いお君は俺の言葉を聞いて、ズビズビと鼻をすすりながら大きな目をぱちくりさせている。
「.....しあわせ?」
「うん。こんなにいお君に可愛がってもらえてチロは幸せだよ。生き物には必ず寿命があるからお別れするのは辛いけど、その分楽しい思い出もいっぱいあるでしょ?」
「..........うん。いっぱいある」
「例えばどんなことが楽しかった?」
「あのね!チロごはんたべるとほっぺたぷっくりするの!」
鼻を真っ赤にさせて自分の頬をぷくっと膨らませた。
はぁぁあ!可愛いすぎる.....!!
「そっか~。可愛いねぇ。他にはどんな事があったの?」
「んとね、いっしょにおうちのなかたんけんもしたよ!」
他には?と何度も聞けばすっかり泣き止んで思い出を次々と話してくれた。
「チロはいお君の中で生きてるから、思い出せばまたすぐに会えるよ」
「うん!おにいちゃんありがとー!」
ようやく見せてくれた笑顔はなんだか輝いて見えた。
◇◇◇
「郁人.....?」
「ん......?」
目を開けると、伊織さんが心配そうな顔で覗き込んでいる。
「どうかしましたか...?」
「それはこっちの台詞だよ」
「え?」
なんで?
「泣いてるけどなんか怖い夢でも見たか?」
泣いてる?俺が?
目元を触ってみると確かに濡れていた。もしかしたらあの時、堪えきれていなかったのかもしれない。それにしても、怖い夢って。
「ふっ.....。伊織さんじゃあるまいし、そんな事で泣きませんよ」
「お、俺だって泣かないわ!」
この間怖い映画見た時、涙目でしたけどね。
「じゃあなんで泣いてたんだよ」と少し不貞腐れたように唇を尖らせる。
なんですか、その唇は。キスしていいってことですか?
「......小さい頃の伊織さんが泣いてる夢見てたんです」
「はあ?そんなことで?」
「俺にとってはそんな事じゃないですから」
言葉に詰まる伊織さんの唇に、ちゅっとキスをした。
泣いている方なら慰める時に触りたい放題だし、プールの方だったらまた可愛いいお君がたくさん見れる。どちらにせよ、美味しいことに変わりはないので楽しみだ。
ニヤニヤと写真を眺めていたら、また見ているのか、と伊織さんに呆れられてしまった。
◇◇◇
.......慰める時に触りたい放題だとか、どちらにせよ美味しいだとか思っていた自分を殴ってやりたい。
泣いているいお君を前に、激しく自分を責めた。悲痛な泣き声が胸に突き刺さる。
今回も無事写真の夢を見れたのだが、出迎えてくれたのは耳を劈くような声だった。
立って泣くいお君をぎゅっと抱きしめてなだめるが、泣き止むどころか悪化したような気がする。声をかけても、泣いている声が大きすぎて聞こえていない。いお君は俺の体に腕を回してくれたが、それを喜ぶ余裕はなかった。
背中を撫でてなだめ始めてから、どれくらい経っただろう。段々落ち着いてきたものの、泣き疲れて寝てしまったようだ。
もしかして今回はこれで終わってしまうのだろうか。そうだとしたらなんて残酷なんだ。泣いている理由もわからないままなんて。もし誰かにイジメられたんだったらそいつは生かしておけない。
だが、予想に反して目の前が暗くなることはなかった。
抱っこした状態でほっと息を吐きつつ、涙でぐちゃぐちゃになった顔を拭う。顔が真っ赤になって、汗もかいてしまっている。額に張り付いた前髪を横に流すと、少し眉毛が動いた。
起こしてしまったかと焦ったが、すぴすぴと寝息を立てたまま、目が開くことはなかった。
鼻が詰まって、呼吸しずらそうな音を立てているのが可愛いくて、愛おしいのに、泣いたのが原因だと思うと素直に喜べない。向かい合っているので、半分程しか見えないあどけない寝顔も、手放しで可愛いとは思えずにいる。
理由は知りたいけど、目が覚めたらまた泣き出してしまうかもしれない。もしかしたら、泣いて寝ての繰り返しになる可能性だってある。
一抹の不安を覚えながら、いお君が目覚めるのを待った。
そして、今回も前回と同様、伊織さんの実家で他には誰もいない。いお君が寝ている間、暇だったので周りに目を向けると、時計やカレンダーなど時間に関する物が一切ないことに気づいた。
偶然か、必然か。少なくとも、現代の伊織さんの実家には、各部屋にカレンダーはともかく時計は置いてあったはずだ。わかるのは、外が明るいので朝か昼なことだけ。
なので正確な時間はわからないが、体感的には二十分くらい。それほど長い間寝ていたわけではないと思う。いお君が寝返りを打ってゆっくりと目を開けた。
寝る前に何をしていたのか忘れたのか、辺りをきょろきょろと見回している。そして、俺と目が合うと、くりっとした大きな目に涙が浮かぶ。
俺は慌てて頭を撫でながら声をかけた。
「どうした?いお君。なにか辛いことあった?」
「うぅ~......」
先程のように泣き叫ぶことはなかったが、次から次へと涙が零れ落ちていく。それでもなんとか嗚咽の合間に"チロ"と聞こえてきて、飼っていたハムスターが亡くなってしまった事がわかった。
「いお君可愛がってたもんね」
夢の時の様子しか知らないが、あれだけでも十分可愛がっているのは伝わってきた。ハムスターの方もかなり懐いていたように思う。少し嫉妬したくらいだし。
「チロっ.....。なんでっ...ゔっ...しんじゃっだのぉ....?」
俺の服を握りしめ、必死に涙を堪えながら聞いてくる。止まらずにぽろりと溢れ落ちた涙を見て、俺まで泣きそうになった。
「.......なんでたろうね。寂しいね」
「うっ....やだよぉ.....」
「.....でもね、チロは幸せだったと思うよ」
いお君は俺の言葉を聞いて、ズビズビと鼻をすすりながら大きな目をぱちくりさせている。
「.....しあわせ?」
「うん。こんなにいお君に可愛がってもらえてチロは幸せだよ。生き物には必ず寿命があるからお別れするのは辛いけど、その分楽しい思い出もいっぱいあるでしょ?」
「..........うん。いっぱいある」
「例えばどんなことが楽しかった?」
「あのね!チロごはんたべるとほっぺたぷっくりするの!」
鼻を真っ赤にさせて自分の頬をぷくっと膨らませた。
はぁぁあ!可愛いすぎる.....!!
「そっか~。可愛いねぇ。他にはどんな事があったの?」
「んとね、いっしょにおうちのなかたんけんもしたよ!」
他には?と何度も聞けばすっかり泣き止んで思い出を次々と話してくれた。
「チロはいお君の中で生きてるから、思い出せばまたすぐに会えるよ」
「うん!おにいちゃんありがとー!」
ようやく見せてくれた笑顔はなんだか輝いて見えた。
◇◇◇
「郁人.....?」
「ん......?」
目を開けると、伊織さんが心配そうな顔で覗き込んでいる。
「どうかしましたか...?」
「それはこっちの台詞だよ」
「え?」
なんで?
「泣いてるけどなんか怖い夢でも見たか?」
泣いてる?俺が?
目元を触ってみると確かに濡れていた。もしかしたらあの時、堪えきれていなかったのかもしれない。それにしても、怖い夢って。
「ふっ.....。伊織さんじゃあるまいし、そんな事で泣きませんよ」
「お、俺だって泣かないわ!」
この間怖い映画見た時、涙目でしたけどね。
「じゃあなんで泣いてたんだよ」と少し不貞腐れたように唇を尖らせる。
なんですか、その唇は。キスしていいってことですか?
「......小さい頃の伊織さんが泣いてる夢見てたんです」
「はあ?そんなことで?」
「俺にとってはそんな事じゃないですから」
言葉に詰まる伊織さんの唇に、ちゅっとキスをした。
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