あの日の貴方に会えたら

文字の大きさ
上 下
4 / 5

しおりを挟む
これで、五枚中三枚の写真と同じ場面の夢を見たことになる。まだ夢を見ていない二枚の写真を眺めながら、次はどっちが見られるのだろう、と期待で胸が膨らんでいた。ここまできたら残りの二枚も絶対に見れるだろう。

泣いている方なら慰める時に触りたい放題だし、プールの方だったらまた可愛いいお君がたくさん見れる。どちらにせよ、美味しいことに変わりはないので楽しみだ。

ニヤニヤと写真を眺めていたら、また見ているのか、と伊織さんに呆れられてしまった。



◇◇◇




.......慰める時に触りたい放題だとか、どちらにせよ美味しいだとか思っていた自分を殴ってやりたい。
泣いているいお君を前に、激しく自分を責めた。悲痛な泣き声が胸に突き刺さる。

今回も無事写真の夢を見れたのだが、出迎えてくれたのは耳をつんざくような声だった。

立って泣くいお君をぎゅっと抱きしめてなだめるが、泣き止むどころか悪化したような気がする。声をかけても、泣いている声が大きすぎて聞こえていない。いお君は俺の体に腕を回してくれたが、それを喜ぶ余裕はなかった。

背中を撫でてなだめ始めてから、どれくらい経っただろう。段々落ち着いてきたものの、泣き疲れて寝てしまったようだ。
もしかして今回はこれで終わってしまうのだろうか。そうだとしたらなんて残酷なんだ。泣いている理由もわからないままなんて。もし誰かにイジメられたんだったらそいつは生かしておけない。

だが、予想に反して目の前が暗くなることはなかった。

抱っこした状態でほっと息を吐きつつ、涙でぐちゃぐちゃになった顔をぬぐう。顔が真っ赤になって、汗もかいてしまっている。額に張り付いた前髪を横に流すと、少し眉毛が動いた。
起こしてしまったかと焦ったが、すぴすぴと寝息を立てたまま、目が開くことはなかった。

鼻が詰まって、呼吸しずらそうな音を立てているのが可愛いくて、愛おしいのに、泣いたのが原因だと思うと素直に喜べない。向かい合っているので、半分程しか見えないあどけない寝顔も、手放しで可愛いとは思えずにいる。

理由は知りたいけど、目が覚めたらまた泣き出してしまうかもしれない。もしかしたら、泣いて寝ての繰り返しになる可能性だってある。
一抹の不安を覚えながら、いお君が目覚めるのを待った。


そして、今回も前回と同様、伊織さんの実家で他には誰もいない。いお君が寝ている間、暇だったので周りに目を向けると、時計やカレンダーなど時間に関する物が一切ないことに気づいた。

偶然か、必然か。少なくとも、現代の伊織さんの実家には、各部屋にカレンダーはともかく時計は置いてあったはずだ。わかるのは、外が明るいので朝か昼なことだけ。

なので正確な時間はわからないが、体感的には二十分くらい。それほど長い間寝ていたわけではないと思う。いお君が寝返りを打ってゆっくりと目を開けた。

寝る前に何をしていたのか忘れたのか、辺りをきょろきょろと見回している。そして、俺と目が合うと、くりっとした大きな目に涙が浮かぶ。
俺は慌てて頭を撫でながら声をかけた。

「どうした?いお君。なにか辛いことあった?」

「うぅ~......」

先程のように泣き叫ぶことはなかったが、次から次へと涙が零れ落ちていく。それでもなんとか嗚咽の合間に"チロ"と聞こえてきて、飼っていたハムスターが亡くなってしまった事がわかった。

「いお君可愛がってたもんね」

夢の時の様子しか知らないが、あれだけでも十分可愛がっているのは伝わってきた。ハムスターの方もかなり懐いていたように思う。少し嫉妬したくらいだし。

「チロっ.....。なんでっ...ゔっ...しんじゃっだのぉ....?」

俺の服を握りしめ、必死に涙を堪えながら聞いてくる。止まらずにぽろりと溢れ落ちた涙を見て、俺まで泣きそうになった。

「.......なんでたろうね。寂しいね」

「うっ....やだよぉ.....」

「.....でもね、チロは幸せだったと思うよ」

いお君は俺の言葉を聞いて、ズビズビと鼻をすすりながら大きな目をぱちくりさせている。

「.....しあわせ?」

「うん。こんなにいお君に可愛がってもらえてチロは幸せだよ。生き物には必ず寿命があるからお別れするのは辛いけど、その分楽しい思い出もいっぱいあるでしょ?」

「..........うん。いっぱいある」

「例えばどんなことが楽しかった?」

「あのね!チロごはんたべるとほっぺたぷっくりするの!」

鼻を真っ赤にさせて自分の頬をぷくっと膨らませた。
はぁぁあ!可愛いすぎる.....!!

「そっか~。可愛いねぇ。他にはどんな事があったの?」

「んとね、いっしょにおうちのなかたんけんもしたよ!」

他には?と何度も聞けばすっかり泣き止んで思い出を次々と話してくれた。

「チロはいお君の中で生きてるから、思い出せばまたすぐに会えるよ」

「うん!おにいちゃんありがとー!」

ようやく見せてくれた笑顔はなんだか輝いて見えた。



◇◇◇



「郁人.....?」

「ん......?」

目を開けると、伊織さんが心配そうな顔で覗き込んでいる。

「どうかしましたか...?」

「それはこっちの台詞だよ」

「え?」

なんで?

「泣いてるけどなんか怖い夢でも見たか?」

泣いてる?俺が?
目元を触ってみると確かに濡れていた。もしかしたらあの時、堪えきれていなかったのかもしれない。それにしても、怖い夢って。

「ふっ.....。伊織さんじゃあるまいし、そんな事で泣きませんよ」

「お、俺だって泣かないわ!」

この間怖い映画見た時、涙目でしたけどね。
「じゃあなんで泣いてたんだよ」と少し不貞腐れたように唇を尖らせる。
なんですか、その唇は。キスしていいってことですか?

「......小さい頃の伊織さんが泣いてる夢見てたんです」

「はあ?そんなことで?」

「俺にとってはそんな事じゃないですから」

言葉に詰まる伊織さんの唇に、ちゅっとキスをした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

太陽に恋する花は口から出すには大きすぎる

きよひ
BL
片想い拗らせDK×親友を救おうと必死のDK 高校三年生の蒼井(あおい)は花吐き病を患っている。 花吐き病とは、片想いを拗らせると発症するという奇病だ。 親友の日向(ひゅうが)は蒼井の片想いの相手が自分だと知って、恋人ごっこを提案した。 両思いになるのを諦めている蒼井と、なんとしても両思いになりたい日向の行末は……。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

僕たち、結婚することになりました

リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった! 後輩はモテモテな25歳。 俺は37歳。 笑えるBL。ラブコメディ💛 fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

王太子からは逃げられない!

krm
BL
僕、ユーリは王家直属の魔法顧問補佐。 日々真面目に職務を全うしていた……はずなのに、どうしてこうなった!? すべては、王太子アルフレード様から「絶対に逃げられない」せい。 過剰なほどの支配欲を向けてくるアルフレード様は、僕が少しでも距離を取ろうとすると完璧な策略で逃走経路を封じてしまうのだ。 そんなある日、僕の手に謎の刻印が浮かび上がり、アルフレード様と協力して研究することに――!? それを機にますます距離を詰めてくるアルフレード様と、なんだかんだで彼を拒み切れない僕……。 逃げられない運命の中で巻き起こる、天才王太子×ツンデレ魔法顧問補佐のファンタジーラブコメ!

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

王様の恋

うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」 突然王に言われた一言。 王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。 ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。 ※エセ王国 ※エセファンタジー ※惚れ薬 ※異世界トリップ表現が少しあります

処理中です...