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怒
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目が覚めてから、伊織さんを起こさないようにベッドを抜け出し、すぐに写真を確認した。
飾ってある写真はもちろん、泣くのを我慢している写真もやはり夢で見た顔と全く同じだ。今回の夢もはっきりと覚えている。
と、いうことは他の写真の夢も見れるんだろうか。あの日貰ってきた写真は全部で五枚。
残っているのは、なぜか女の子の格好をしてむくれている写真に、大泣きしている写真、あとはプールではしゃいでいる写真だ。
まさか、全て生で見ることができるのか!?
生とはちょっと違うかもしれないが、触った感触だって覚えているのだ。ほとんど生みたいなものだろう。
この奇妙な現象に、今まで一度も神様に感謝したことなどなかった俺が両手を合わせて心の中で感謝の意を述べた。
神様、この度は貴重な体験をさせて頂き、誠にありがとうございます。残りの写真の夢も楽しみにしておりますので、何卒よろしくお願いいたします。
伊織さんが起きて来て「なにしてんの?」と言われるまで祈っていた。
◇◇◇
「ぼくおとこのこだもん!!」
突然大きな声が響き、驚いて目を開けた。
そして、目の前には写真と同じ服を着てむくれた顔をした天使が。もう驚くことはない。むしろ神様ありがとうございます、と感謝した。
ぷりぷりと怒っているいお君もめちゃくちゃ可愛い。膨らんだほっぺたをつつきたい衝動に駆られるが、ぐっと堪えた。
「いお君どうしたの?」
相変わらず伊織さんの実家で2人きりなのに、いお君も俺がいることに驚いたり不思議に思ったりはしていないようだ。
「ママがえっちゃんのふくきせてくるの!ぼくおとこのこなのに!」
ああ....、一人称が僕になってる.....。それはそれで可愛いけど"いお"って言ってるのももう少し聞きたかったな....。
成長を感じられて嬉しい気持ちはあるが、寂しくもある。
「いお君は嫌なの?」
「いやなの!おとこのこなのにおんなのこのふくきるのへんだもん!」
怒ってるのになんでこんな愛らしいんだろう。思わず和んでしまう。
.......いけない。いお君は真剣なんだから。
「別に変じゃないよ?」
意見が少数派だからといって変だと決めつける方がよっぽど変だ。好きなことを自由に楽しんで何が悪い。似合ってるんだから尚更。
「でも....、ゆーとくんがへんだって.....」
なるほど。ゆうと君はいお君の可愛さに嫉妬してるんだな。首を洗って待っててね、ゆうと君。いお君を悲しませた罪は重いぞ。
「男の子が女の子の服を着ちゃいけないなんて決まりなんてないんだから、好きな服を着ていいんだよ。きっとゆうと君はいお君があまりにも可愛くなったからびっくりして意地悪言っちゃったんじゃないかな」
「ぼくかわいい?」
「ものすっっっっごく可愛いよ!」
「このかっこうもへんじゃない?」
「変じゃないよ。むしろすごく良く似合ってる。お母さんにも可愛いって言われなかった?」
「......いわれた」
「でももし女の子の格好をするのが嫌ならちゃんとお母さんに話してみな?ちゃんと話せばわかってくれるから」
「うん.....」
納得はしてくれたようだが、顔がまだ暗い。
「他にもなにか気になることがあるの?」
「......ゆーとくん、ぼくのこときらいだからへんっていったの?」
そっちか...!
正直、ゆうと君の事などどうでもいい。きっといお君の可愛さに新しい扉が開きそうになったとか、ただの嫉妬とかくだらないものだろう。
フォローなどしたくもないが、嫌いだと言ってしまえばいお君が傷ついてしまう。それは本意ではない。
「悪口を言う時ってね、必ずしも相手の事が嫌いってわけじゃないんだよ。ゆうと君、本当は自分も可愛い服着てみたかったんじゃないかな?それで羨ましくてつい言っちゃったんだよ」
「なんできたいっていわないの?」
「恥ずかしかったんじゃないかな?」
ま、違うと思うけどね。
「そっかー」
.....素直すぎるのも良くない気がしてきた。無垢な笑顔を見るのは心が癒されるけど、悪い大人に騙されたりはしないだろうか。
「いお君、知らない人には絶対についていっちゃ駄目だよ?それと、変なことされそうになったら大声出して助けを呼んでね」
「それママもいってたー」
由希子さん、さすがです。
「でもへんなことってなーに?」
はっ!!これってもしかして実践する流れでは....!?............いやいや、駄目だろ。落ち着け、俺。そんなことやって嫌われたらどうする。
「体触られたり、いお君が嫌だって思う事だよ」
「わかった!」
「約束だよ?」
「やくそくー!」
小指を出してきたので、その指に俺も小指を絡める。
「ゆーびきーりげーんまーんうーそつーいたーらはーりせんぼんのーます!ゆびきった!」
くっ.....、可愛いが過ぎるっ....!
その後、他にも女の子用の服があるというのでファッションショーが開催された。
「いお君女の子の服着るの嫌だったんじゃないの?」
「へんっていわれたのがやだったのー」
なるほど。女装自体は嫌じゃないって事ですね。今度伊織さんに頼んでみよう。
俺が可愛いと連呼していると、いお君もノリノリで「じゃあこれはー?」と聞いてくる。
全部可愛いに決まってるでしょ!!くそっ!なんで携帯を持ってないんだ!
◇◇◇
「伊織さーん、今度ナース服着てくれません?」
目が覚めてから女装が嫌いでは無いことを知って、是非伊織さんにも着て欲しくなった。
「は?やだよ」
「えー。女装嫌いじゃないって言ってたじゃないですか」
「いや、言ってないから」
「言ってましたよー。小さい頃」
「小さい頃会ってないだろ」
「夢で会いましたー」
「夢って....、それは郁人の願望だろ?」
「うーん....、否定はできませんけど、最近よく見るんです。もうすっごい可愛いくて」
「.....お前、夢だからって変なことしてないだろうな」
「してませんよー。めちゃくちゃ我慢してるんですから褒めてください」
「当たり前だ!」
「えー」
ちょっと粘ってみたが本当に嫌そうだったので諦めた。
子供の頃はよくても大人になったら嫌な事ってあるしな。非常に残念だが。
飾ってある写真はもちろん、泣くのを我慢している写真もやはり夢で見た顔と全く同じだ。今回の夢もはっきりと覚えている。
と、いうことは他の写真の夢も見れるんだろうか。あの日貰ってきた写真は全部で五枚。
残っているのは、なぜか女の子の格好をしてむくれている写真に、大泣きしている写真、あとはプールではしゃいでいる写真だ。
まさか、全て生で見ることができるのか!?
生とはちょっと違うかもしれないが、触った感触だって覚えているのだ。ほとんど生みたいなものだろう。
この奇妙な現象に、今まで一度も神様に感謝したことなどなかった俺が両手を合わせて心の中で感謝の意を述べた。
神様、この度は貴重な体験をさせて頂き、誠にありがとうございます。残りの写真の夢も楽しみにしておりますので、何卒よろしくお願いいたします。
伊織さんが起きて来て「なにしてんの?」と言われるまで祈っていた。
◇◇◇
「ぼくおとこのこだもん!!」
突然大きな声が響き、驚いて目を開けた。
そして、目の前には写真と同じ服を着てむくれた顔をした天使が。もう驚くことはない。むしろ神様ありがとうございます、と感謝した。
ぷりぷりと怒っているいお君もめちゃくちゃ可愛い。膨らんだほっぺたをつつきたい衝動に駆られるが、ぐっと堪えた。
「いお君どうしたの?」
相変わらず伊織さんの実家で2人きりなのに、いお君も俺がいることに驚いたり不思議に思ったりはしていないようだ。
「ママがえっちゃんのふくきせてくるの!ぼくおとこのこなのに!」
ああ....、一人称が僕になってる.....。それはそれで可愛いけど"いお"って言ってるのももう少し聞きたかったな....。
成長を感じられて嬉しい気持ちはあるが、寂しくもある。
「いお君は嫌なの?」
「いやなの!おとこのこなのにおんなのこのふくきるのへんだもん!」
怒ってるのになんでこんな愛らしいんだろう。思わず和んでしまう。
.......いけない。いお君は真剣なんだから。
「別に変じゃないよ?」
意見が少数派だからといって変だと決めつける方がよっぽど変だ。好きなことを自由に楽しんで何が悪い。似合ってるんだから尚更。
「でも....、ゆーとくんがへんだって.....」
なるほど。ゆうと君はいお君の可愛さに嫉妬してるんだな。首を洗って待っててね、ゆうと君。いお君を悲しませた罪は重いぞ。
「男の子が女の子の服を着ちゃいけないなんて決まりなんてないんだから、好きな服を着ていいんだよ。きっとゆうと君はいお君があまりにも可愛くなったからびっくりして意地悪言っちゃったんじゃないかな」
「ぼくかわいい?」
「ものすっっっっごく可愛いよ!」
「このかっこうもへんじゃない?」
「変じゃないよ。むしろすごく良く似合ってる。お母さんにも可愛いって言われなかった?」
「......いわれた」
「でももし女の子の格好をするのが嫌ならちゃんとお母さんに話してみな?ちゃんと話せばわかってくれるから」
「うん.....」
納得はしてくれたようだが、顔がまだ暗い。
「他にもなにか気になることがあるの?」
「......ゆーとくん、ぼくのこときらいだからへんっていったの?」
そっちか...!
正直、ゆうと君の事などどうでもいい。きっといお君の可愛さに新しい扉が開きそうになったとか、ただの嫉妬とかくだらないものだろう。
フォローなどしたくもないが、嫌いだと言ってしまえばいお君が傷ついてしまう。それは本意ではない。
「悪口を言う時ってね、必ずしも相手の事が嫌いってわけじゃないんだよ。ゆうと君、本当は自分も可愛い服着てみたかったんじゃないかな?それで羨ましくてつい言っちゃったんだよ」
「なんできたいっていわないの?」
「恥ずかしかったんじゃないかな?」
ま、違うと思うけどね。
「そっかー」
.....素直すぎるのも良くない気がしてきた。無垢な笑顔を見るのは心が癒されるけど、悪い大人に騙されたりはしないだろうか。
「いお君、知らない人には絶対についていっちゃ駄目だよ?それと、変なことされそうになったら大声出して助けを呼んでね」
「それママもいってたー」
由希子さん、さすがです。
「でもへんなことってなーに?」
はっ!!これってもしかして実践する流れでは....!?............いやいや、駄目だろ。落ち着け、俺。そんなことやって嫌われたらどうする。
「体触られたり、いお君が嫌だって思う事だよ」
「わかった!」
「約束だよ?」
「やくそくー!」
小指を出してきたので、その指に俺も小指を絡める。
「ゆーびきーりげーんまーんうーそつーいたーらはーりせんぼんのーます!ゆびきった!」
くっ.....、可愛いが過ぎるっ....!
その後、他にも女の子用の服があるというのでファッションショーが開催された。
「いお君女の子の服着るの嫌だったんじゃないの?」
「へんっていわれたのがやだったのー」
なるほど。女装自体は嫌じゃないって事ですね。今度伊織さんに頼んでみよう。
俺が可愛いと連呼していると、いお君もノリノリで「じゃあこれはー?」と聞いてくる。
全部可愛いに決まってるでしょ!!くそっ!なんで携帯を持ってないんだ!
◇◇◇
「伊織さーん、今度ナース服着てくれません?」
目が覚めてから女装が嫌いでは無いことを知って、是非伊織さんにも着て欲しくなった。
「は?やだよ」
「えー。女装嫌いじゃないって言ってたじゃないですか」
「いや、言ってないから」
「言ってましたよー。小さい頃」
「小さい頃会ってないだろ」
「夢で会いましたー」
「夢って....、それは郁人の願望だろ?」
「うーん....、否定はできませんけど、最近よく見るんです。もうすっごい可愛いくて」
「.....お前、夢だからって変なことしてないだろうな」
「してませんよー。めちゃくちゃ我慢してるんですから褒めてください」
「当たり前だ!」
「えー」
ちょっと粘ってみたが本当に嫌そうだったので諦めた。
子供の頃はよくても大人になったら嫌な事ってあるしな。非常に残念だが。
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