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喜
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あの日、どうやら俺は酔って寝てしまったらしい。寝てしまった俺を伊織さんとお父さんで運んでくれたようだ。
なんて失態を犯してしまったんだ。と、いうか酔って寝てしまうことなど初めてで、自分でもびっくりしている。そんな飲んだつもりもなかったのに。
お父さんの手まで煩わせてしまって申し訳なさでいっぱいだったが、伊織さん的には自分1人で運べなかったことにご立腹だったらしい。
身長は俺の方が少し高いくらいなのだが、体格は圧倒的に俺の方がいいので1人では重すぎて運べなかったようだ。
ただ、この筋肉は言ってしまえば伊織さんのための筋肉だ。伊織さんを抱き上げるためだけにつけたので、もし伊織さんが今後筋肉をつけるようなら俺はその上をいく。それだけは譲れない。まあ、伊織さんは筋肉がつきにくい体をしているらしいから多分大丈夫だとは思うけど。
しかし、あの日見た夢?妙にリアルだったがなんだったんだろう。内容もはっきり覚えてるし、握った手の感触まで思い出せる。
「伊織さん、小さい頃って自分の事"いお"って呼んでました?」
「っ!な、なんで知って....!」
あまりにも気になったので次の日、伊織さんに聞いてみるとぎょっとした様子で振り返った。
本当だったのか。
「いつの間に母さんから聞いたんだよ....」
ちょっと恥ずかしそうにしてるのがまた可愛い。由希子さんから聞いたと思っているようなのでそれは否定せずに、やはりあの日見たのは夢とは違うんじゃないだろうかと考えを巡らせるが答えは出ない。
どちらにしろ幸せな一時だったことな変わりはない。夢でも現実でもどっちでもいいか。
忘れろ、と言われたが当然無理。脳に焼きついちゃってるんでね。
「で、さっきからなにしてんだ?」
「昨日もらった写真飾ろうと思って。でも写真立てが足りないんで買いに行かなくちゃ」
写真立てが一つしかなく、取り敢えず一番お気に入りのハムスターを手に満面の笑みを浮かべている写真を飾った。
「は!?そんなの飾らなくていいから!」
「えー、だって毎日眺めたいじゃないですか」
「俺は眺めたくない!」
「こんなかわいいのに」
「かわいくない!」
朝から飾る飾らないで大いに揉めたが、一つだけなら、とお許しを得た。他の写真は日ごと入れ替えてもいい。
◇◇◇
「おにいちゃん!みて!」
急に声をかけられ、意識が浮上した。
現状を理解できずにぼーっとしていると、再び声が響く。
「おにいちゃん!みてよ!」
可愛い声のした方を向けば、またも天使が目の前に。
「天使......」
「てんし?」
思わず声が出てしまった。またこの夢?だ。是非もう一度見たいと思っていたのでとても嬉しい。
「ハムスター?かわいいね」
本当はハムスターより小さい伊織さんの方が一億万倍可愛いけど。
「でしょ!チロってゆーの!」
ぐっ.....!いちいち可愛いなぁ、もう!
「チロちゃんかぁ。触っていい?」
「いいよ」
小さな手の上で意外にもじっとしているハムスターの頭を撫でる。初めて触ったけど毛がさらさらで結構気持ちいいんだな。
俺が撫でると、嫌だったのか、もしくは今までじっとしていたのが奇跡だったのか忙しなく動き始めた。
当然小さな手からすぐに降りてしまい、地面にべちゃっと着地する。
「チロ!」
いお君は落としてしまった事に慌てていたが、チロは何事もなかったかのように走り回っている。それをいお君が追いかけていてとても微笑ましい光景だ。
そこで初めて周りを見た。少し古めかしい感じはあるが、ここは伊織さんの実家だ。なぜ伊織さんが1人で家に居て、俺がここに居るのかはわからないが夢ってそんなもんだよな。自分に都合のいいように進む。
「つかまえたー!」
部屋の角に追い込んでようやくチロを捕獲したようだ。なかなか策士だな。それにしても可愛い。もう可愛いしか出てこない。
その時、ふと思い出した。
あれ......、この顔って...写真と同じじゃないか....?
見間違えるはずもない。今朝写真立てに入れて飾ったんだから。やはりこれは夢というよりも伊織さんの記憶の中に入り込んでる、と言ったほうが正しいんじゃないだろうか。
「かあいいね~」
.....ま、いっか。つまるところ、行き着く先は同じだ。
捕まえたハムスターを膝の上に乗せ、にこにこと嬉しそうに撫でているいお君を見ていると他のことなどどうでもよくなる。
いお君がハムスターを撫でていると、そのまま膝の上で丸まって寝だした。
羨ましい。即刻その場所変わってほしい。というかハムスターってこんな懐くのか?噛み散らかすイメージしかなかったけど....。伊織さんにかかればどんな生き物も懐いてしまうのかもしれない。
そんな事を考えていたら、いお君の顔に影が差した。
「どうかした?」
そんな顔も可愛いけど、できればずっと笑っていてほしい。
「みんな、いおのこときらいになったのかなぁ?」
「え?なんでそう思うの?」
そんなことは絶対に、120%ないと思いますけど。
「だってみんなえっちゃんばっかりだもん」
えっちゃん....、あ、妹の瑛莉ちゃんか。産まれたんだな。
「いおとはあそんでくれないの」
「いお君はえっちゃんのこと嫌い?」
「すきだよ!だってね、えっちゃんかわいいんだよ!」
あなたも相当可愛いですけどね...!
「そっか、じゃあえっちゃんが死んじゃうのは嫌?」
「えっちゃんしんじゃやだ....」
ああ、悲しい顔をさせてしまった。罪悪感で胸が痛む。
「大丈夫、死なないよ。でもね、えっちゃんまだ小さいからちょっとでも目を離すと死んじゃうことだってあるんだよ」
「みてればしなない?」
「うん。だからみんなえっちゃんが死なないように必死なだけで、いお君のことが嫌いなわけじゃないよ」
くりくりのお目目で「ほんと?」と見上げてくる。
ぐっ....!上目遣いの威力半端ない....!伊織さんも今度上目遣いで強請ってくれないかなー....。
ほんとだよ、と頷けば眩しいほどの笑顔を見せてくれた。
か、可愛いっ.....!!無防備な感じがたまらない。抱きしめてもいいかな?
でも納得してくれたようでよかった。
「眠たくなった?」
「んー....」
いお君は安心して眠くなったのか、目を擦って大きく欠伸をした。
「寝ていいよ」
「うん....」
本当は膝の上に乗せたかったのだが、その場でこてんと寝転ぶとすぐに寝息をたててしまったので諦めた。膝の上にいたハムスターはいお君のお腹の上に移動し、そこでまた丸くなる。
チッ.....。
思わず舌打ちが出そうになったがなんとかこらえる。寝顔を見れば嫌な気持ちはすぐに吹き飛んだ。
ずっと見ていられる。
あどけない寝顔を間近で見ていると、無性に触りたくなってくる。
..............ほっぺにキスするくらいはいいかな....。いや、アウトか....?寝てる時点で何をしてもアウトな気がしてきた......。触るくらいならセーフか.....?
そんなことを考えて悶々としていると、急に目の前が暗くなった。
◇◇◇
意識がゆっくりと浮上し、見覚えのある天井が目に入る。
やっぱりほっぺにチューくらいしとけばよかった...!!
なんて失態を犯してしまったんだ。と、いうか酔って寝てしまうことなど初めてで、自分でもびっくりしている。そんな飲んだつもりもなかったのに。
お父さんの手まで煩わせてしまって申し訳なさでいっぱいだったが、伊織さん的には自分1人で運べなかったことにご立腹だったらしい。
身長は俺の方が少し高いくらいなのだが、体格は圧倒的に俺の方がいいので1人では重すぎて運べなかったようだ。
ただ、この筋肉は言ってしまえば伊織さんのための筋肉だ。伊織さんを抱き上げるためだけにつけたので、もし伊織さんが今後筋肉をつけるようなら俺はその上をいく。それだけは譲れない。まあ、伊織さんは筋肉がつきにくい体をしているらしいから多分大丈夫だとは思うけど。
しかし、あの日見た夢?妙にリアルだったがなんだったんだろう。内容もはっきり覚えてるし、握った手の感触まで思い出せる。
「伊織さん、小さい頃って自分の事"いお"って呼んでました?」
「っ!な、なんで知って....!」
あまりにも気になったので次の日、伊織さんに聞いてみるとぎょっとした様子で振り返った。
本当だったのか。
「いつの間に母さんから聞いたんだよ....」
ちょっと恥ずかしそうにしてるのがまた可愛い。由希子さんから聞いたと思っているようなのでそれは否定せずに、やはりあの日見たのは夢とは違うんじゃないだろうかと考えを巡らせるが答えは出ない。
どちらにしろ幸せな一時だったことな変わりはない。夢でも現実でもどっちでもいいか。
忘れろ、と言われたが当然無理。脳に焼きついちゃってるんでね。
「で、さっきからなにしてんだ?」
「昨日もらった写真飾ろうと思って。でも写真立てが足りないんで買いに行かなくちゃ」
写真立てが一つしかなく、取り敢えず一番お気に入りのハムスターを手に満面の笑みを浮かべている写真を飾った。
「は!?そんなの飾らなくていいから!」
「えー、だって毎日眺めたいじゃないですか」
「俺は眺めたくない!」
「こんなかわいいのに」
「かわいくない!」
朝から飾る飾らないで大いに揉めたが、一つだけなら、とお許しを得た。他の写真は日ごと入れ替えてもいい。
◇◇◇
「おにいちゃん!みて!」
急に声をかけられ、意識が浮上した。
現状を理解できずにぼーっとしていると、再び声が響く。
「おにいちゃん!みてよ!」
可愛い声のした方を向けば、またも天使が目の前に。
「天使......」
「てんし?」
思わず声が出てしまった。またこの夢?だ。是非もう一度見たいと思っていたのでとても嬉しい。
「ハムスター?かわいいね」
本当はハムスターより小さい伊織さんの方が一億万倍可愛いけど。
「でしょ!チロってゆーの!」
ぐっ.....!いちいち可愛いなぁ、もう!
「チロちゃんかぁ。触っていい?」
「いいよ」
小さな手の上で意外にもじっとしているハムスターの頭を撫でる。初めて触ったけど毛がさらさらで結構気持ちいいんだな。
俺が撫でると、嫌だったのか、もしくは今までじっとしていたのが奇跡だったのか忙しなく動き始めた。
当然小さな手からすぐに降りてしまい、地面にべちゃっと着地する。
「チロ!」
いお君は落としてしまった事に慌てていたが、チロは何事もなかったかのように走り回っている。それをいお君が追いかけていてとても微笑ましい光景だ。
そこで初めて周りを見た。少し古めかしい感じはあるが、ここは伊織さんの実家だ。なぜ伊織さんが1人で家に居て、俺がここに居るのかはわからないが夢ってそんなもんだよな。自分に都合のいいように進む。
「つかまえたー!」
部屋の角に追い込んでようやくチロを捕獲したようだ。なかなか策士だな。それにしても可愛い。もう可愛いしか出てこない。
その時、ふと思い出した。
あれ......、この顔って...写真と同じじゃないか....?
見間違えるはずもない。今朝写真立てに入れて飾ったんだから。やはりこれは夢というよりも伊織さんの記憶の中に入り込んでる、と言ったほうが正しいんじゃないだろうか。
「かあいいね~」
.....ま、いっか。つまるところ、行き着く先は同じだ。
捕まえたハムスターを膝の上に乗せ、にこにこと嬉しそうに撫でているいお君を見ていると他のことなどどうでもよくなる。
いお君がハムスターを撫でていると、そのまま膝の上で丸まって寝だした。
羨ましい。即刻その場所変わってほしい。というかハムスターってこんな懐くのか?噛み散らかすイメージしかなかったけど....。伊織さんにかかればどんな生き物も懐いてしまうのかもしれない。
そんな事を考えていたら、いお君の顔に影が差した。
「どうかした?」
そんな顔も可愛いけど、できればずっと笑っていてほしい。
「みんな、いおのこときらいになったのかなぁ?」
「え?なんでそう思うの?」
そんなことは絶対に、120%ないと思いますけど。
「だってみんなえっちゃんばっかりだもん」
えっちゃん....、あ、妹の瑛莉ちゃんか。産まれたんだな。
「いおとはあそんでくれないの」
「いお君はえっちゃんのこと嫌い?」
「すきだよ!だってね、えっちゃんかわいいんだよ!」
あなたも相当可愛いですけどね...!
「そっか、じゃあえっちゃんが死んじゃうのは嫌?」
「えっちゃんしんじゃやだ....」
ああ、悲しい顔をさせてしまった。罪悪感で胸が痛む。
「大丈夫、死なないよ。でもね、えっちゃんまだ小さいからちょっとでも目を離すと死んじゃうことだってあるんだよ」
「みてればしなない?」
「うん。だからみんなえっちゃんが死なないように必死なだけで、いお君のことが嫌いなわけじゃないよ」
くりくりのお目目で「ほんと?」と見上げてくる。
ぐっ....!上目遣いの威力半端ない....!伊織さんも今度上目遣いで強請ってくれないかなー....。
ほんとだよ、と頷けば眩しいほどの笑顔を見せてくれた。
か、可愛いっ.....!!無防備な感じがたまらない。抱きしめてもいいかな?
でも納得してくれたようでよかった。
「眠たくなった?」
「んー....」
いお君は安心して眠くなったのか、目を擦って大きく欠伸をした。
「寝ていいよ」
「うん....」
本当は膝の上に乗せたかったのだが、その場でこてんと寝転ぶとすぐに寝息をたててしまったので諦めた。膝の上にいたハムスターはいお君のお腹の上に移動し、そこでまた丸くなる。
チッ.....。
思わず舌打ちが出そうになったがなんとかこらえる。寝顔を見れば嫌な気持ちはすぐに吹き飛んだ。
ずっと見ていられる。
あどけない寝顔を間近で見ていると、無性に触りたくなってくる。
..............ほっぺにキスするくらいはいいかな....。いや、アウトか....?寝てる時点で何をしてもアウトな気がしてきた......。触るくらいならセーフか.....?
そんなことを考えて悶々としていると、急に目の前が暗くなった。
◇◇◇
意識がゆっくりと浮上し、見覚えのある天井が目に入る。
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