16 / 27
1章
16話
しおりを挟む
ホテルに入るとすぐに後ろからぎゅっと抱きしめられた。
「っ、おいっ...!」
「少しだけ、少しだけでいいんです。それでも嫌なら殴ってください」
.....殴れるわけないだろ....。
仕方なく大人しくしているとミィーファの心臓の音がどくん、どくんと伝わってくる。
それが、ひどく心地いい。
少しだけと言ったのに随分長い。文句を言ってやろうと思ったらミィーファが先に口を開いた。
「....私の前では強がらないでください」
「っ、別に——」
「震えてますよ」
「......はぁ....。たしかに、多少怖かったがお前のお陰で未遂だったしもう大丈夫だ。....ありがとな」
お礼を言うと回された腕にぎゅっと力が込められた。
「おい——」
「律さん、好きです」
「!?」
急な告白に身体がびくりと震える。
「.....それは刷り込みみたいなもんだ。こっちで初めて優しくされてそう思い込んでるだけだろ」
「初めは私もそう思ってました。けど、傷つけられてもやっぱりあなたを探してるんです。苦しんでたら助けたいと思うんです。笑顔を見たいと思うんです」
———やめろ、やめてくれ...。
「律さんが傷ついていたらこうして抱きしめたいんです」
俺はもう、大切な人を作りたくない....。
「....め...ろ...、い...やだ...。もう......失いたく、ない.....」
「....アキラさんのことですか?」
「!?」
"彰"という名前を他人の口から聞いたのはいつぶりだろうか。
いつしかみんな彰の名前を呼ばなくなった。
まるで、最初から居なかったかのように。
「...すみません。トモキさんから聞きました。まだアキラさんのことが好きなんですよね...」
......こいつも、忘れろと言うんだろうか。
早く忘れて前を向けと。
「なので、アキラさんのこと、教えてくれませんか?」
予想とはまるで違う言葉に一瞬、理解ができなかった。
「は.....?」
「アキラさんはどんな方なのですか?」
「.....な、なんで....」
そこでようやく身体を離し、俺の前に回り込んできた。
真っ直ぐに見つめられ、目を離すことができない。
「律さんが好きな人のこと、知りたいんです。話したくなければ、無理にとは言いませんが」
「........」
俺の好きなアキは、14年前のあのころのまま。
「......怒ったりは、あまりしない奴で.....」
ぽつりと話し出せば今までの思い出がぶわっと溢れてくる。
「....俺と、知樹が...馬鹿なことやっても、いつも笑って....」
涙が、ぼろぼろと零れた。
あの日ですら涙なんて出てこなかったのに、なんで。
「...誰とでも...すぐ仲良くなるんだ....」
「....素敵な人ですね」
ミィーファが俺の止まらない涙を親指でぬぐいながら相槌をうつ。
「ああ....。だから俺は、あいつに近づく奴、みんな睨みつけてやった...」
「ふふっ、それは怖い」
「........名前を呼べば...いつでも笑顔で......っ、なのに....なのにあのときはっ.....」
あの時の光景を思い出し、身体がカタカタと震えだす。
ミィーファが大丈夫、とでも言うように手をぎゅっと握ってくれる。
「...俺のっ、俺の誕生日じゃなきゃ....、俺が、あの日に生まれてなければっ....。俺が、あの時止めてたらっ....」
俺の所為なのに、誰も俺を責めない。
「.....辛かったですね....」
「.......なんで、お前が泣くんだ....」
「律さんが苦しんでるからです。私にも、半分分けてください。私も一緒に背負います」
なにを、言って....?
「全部、吐き出してください。後悔してること、全部。辛いこと、全部」
全部....?
ずっと後悔してた。ずっと自分を責めていた。
誰も俺を責めてくれないから。
みんなお前の所為じゃないと。自分を責めるなとしか言わない。
俺が一緒に行ってたら何か変わったかもしれないのに。
止められてたらあんなことにはならなかったのに。
それなのにみんな早く忘れろと言う。
なんで?俺は忘れたくない。
どんな些細なことだって覚えておきたいのに。
でも、もう思い出せないこともあって、このままこうやって全部忘れてしまうのかと思うと怖くてしかたがない。
アキがもう居ないと.....死んだと認めるよりも、アキを忘れてしまう方が怖いんだ。
本当は分かってたんだ。もう、アキに会えないことは。認めるのは怖かったけどわかってた。
だからこそ忘れたくない。忘れてしまったらもう、二度と会えなくなる。
もう、会えないのに、触れないのに、俺の記憶まで奪わないでくれ。
「大丈夫ですよ。アキラさんは律さんの中で生きています。忘れるのが怖いなら毎日アキラさんの話をしましょう?そうすれば絶対忘れませんから」
毎日、話を....?
....そう、か....。そんな簡単なことでよかったのか....。
その言葉にだんだん落ち着きを取り戻してきた。
涙も止まりつつある。
その後もミィーファは俺の言葉を否定せず、時折り相槌をうって話を聞いてくれた。
風呂から出た後もずっと、眠くなるまで話を続けた。
「っ、おいっ...!」
「少しだけ、少しだけでいいんです。それでも嫌なら殴ってください」
.....殴れるわけないだろ....。
仕方なく大人しくしているとミィーファの心臓の音がどくん、どくんと伝わってくる。
それが、ひどく心地いい。
少しだけと言ったのに随分長い。文句を言ってやろうと思ったらミィーファが先に口を開いた。
「....私の前では強がらないでください」
「っ、別に——」
「震えてますよ」
「......はぁ....。たしかに、多少怖かったがお前のお陰で未遂だったしもう大丈夫だ。....ありがとな」
お礼を言うと回された腕にぎゅっと力が込められた。
「おい——」
「律さん、好きです」
「!?」
急な告白に身体がびくりと震える。
「.....それは刷り込みみたいなもんだ。こっちで初めて優しくされてそう思い込んでるだけだろ」
「初めは私もそう思ってました。けど、傷つけられてもやっぱりあなたを探してるんです。苦しんでたら助けたいと思うんです。笑顔を見たいと思うんです」
———やめろ、やめてくれ...。
「律さんが傷ついていたらこうして抱きしめたいんです」
俺はもう、大切な人を作りたくない....。
「....め...ろ...、い...やだ...。もう......失いたく、ない.....」
「....アキラさんのことですか?」
「!?」
"彰"という名前を他人の口から聞いたのはいつぶりだろうか。
いつしかみんな彰の名前を呼ばなくなった。
まるで、最初から居なかったかのように。
「...すみません。トモキさんから聞きました。まだアキラさんのことが好きなんですよね...」
......こいつも、忘れろと言うんだろうか。
早く忘れて前を向けと。
「なので、アキラさんのこと、教えてくれませんか?」
予想とはまるで違う言葉に一瞬、理解ができなかった。
「は.....?」
「アキラさんはどんな方なのですか?」
「.....な、なんで....」
そこでようやく身体を離し、俺の前に回り込んできた。
真っ直ぐに見つめられ、目を離すことができない。
「律さんが好きな人のこと、知りたいんです。話したくなければ、無理にとは言いませんが」
「........」
俺の好きなアキは、14年前のあのころのまま。
「......怒ったりは、あまりしない奴で.....」
ぽつりと話し出せば今までの思い出がぶわっと溢れてくる。
「....俺と、知樹が...馬鹿なことやっても、いつも笑って....」
涙が、ぼろぼろと零れた。
あの日ですら涙なんて出てこなかったのに、なんで。
「...誰とでも...すぐ仲良くなるんだ....」
「....素敵な人ですね」
ミィーファが俺の止まらない涙を親指でぬぐいながら相槌をうつ。
「ああ....。だから俺は、あいつに近づく奴、みんな睨みつけてやった...」
「ふふっ、それは怖い」
「........名前を呼べば...いつでも笑顔で......っ、なのに....なのにあのときはっ.....」
あの時の光景を思い出し、身体がカタカタと震えだす。
ミィーファが大丈夫、とでも言うように手をぎゅっと握ってくれる。
「...俺のっ、俺の誕生日じゃなきゃ....、俺が、あの日に生まれてなければっ....。俺が、あの時止めてたらっ....」
俺の所為なのに、誰も俺を責めない。
「.....辛かったですね....」
「.......なんで、お前が泣くんだ....」
「律さんが苦しんでるからです。私にも、半分分けてください。私も一緒に背負います」
なにを、言って....?
「全部、吐き出してください。後悔してること、全部。辛いこと、全部」
全部....?
ずっと後悔してた。ずっと自分を責めていた。
誰も俺を責めてくれないから。
みんなお前の所為じゃないと。自分を責めるなとしか言わない。
俺が一緒に行ってたら何か変わったかもしれないのに。
止められてたらあんなことにはならなかったのに。
それなのにみんな早く忘れろと言う。
なんで?俺は忘れたくない。
どんな些細なことだって覚えておきたいのに。
でも、もう思い出せないこともあって、このままこうやって全部忘れてしまうのかと思うと怖くてしかたがない。
アキがもう居ないと.....死んだと認めるよりも、アキを忘れてしまう方が怖いんだ。
本当は分かってたんだ。もう、アキに会えないことは。認めるのは怖かったけどわかってた。
だからこそ忘れたくない。忘れてしまったらもう、二度と会えなくなる。
もう、会えないのに、触れないのに、俺の記憶まで奪わないでくれ。
「大丈夫ですよ。アキラさんは律さんの中で生きています。忘れるのが怖いなら毎日アキラさんの話をしましょう?そうすれば絶対忘れませんから」
毎日、話を....?
....そう、か....。そんな簡単なことでよかったのか....。
その言葉にだんだん落ち着きを取り戻してきた。
涙も止まりつつある。
その後もミィーファは俺の言葉を否定せず、時折り相槌をうって話を聞いてくれた。
風呂から出た後もずっと、眠くなるまで話を続けた。
21
あなたにおすすめの小説
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
「普通を探した彼の二年間の物語」
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話
日向汐
BL
「好きです」
「…手離せよ」
「いやだ、」
じっと見つめてくる眼力に気圧される。
ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26)
閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、
一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨
短期でサクッと読める完結作です♡
ぜひぜひ
ゆるりとお楽しみください☻*
・───────────・
🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧
❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21
・───────────・
応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪)
なにとぞ、よしなに♡
・───────────・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる