年下上司の愛が重すぎる!

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番外編:二人の距離 佐原視点

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念願叶って、ようやく姫崎さんと付き合えるようになった。
劇的に何かが変わったというわけではないけれど、付き合ってからの姫崎さんは意外とたちが悪い。

「お疲れ様です、警部」

「あ、影山さん。お疲れ様です」

珍しく事務作業の多かった日の夕方、給湯室に入ったタイミングで影山さんに声をかけられた。

「影山さんも飲みますか?」

「いえ、俺は大丈夫です」

「....なにかありましたか?」

何も飲まないのに給湯室ここに来たということは、俺に用事があるのだろう。それも、俺だけに。
良くない知らせか、と一瞬身構えたが、重苦しい空気ではなく影山さんも笑顔だ。

「おめでとうございます」

「へ?」

突然述べられたお祝いの言葉に、間の抜けた声が漏れる。
誕生日でも、昇進したわけでもない。心当たりがなくて首を捻った。

「姫崎さんと付き合い始めたんですよね?」

付き合っていることを隠すつもりもなかったが、あえて言う必要もないだろうということで、聞かれたら答えるスタンスでいこうと姫崎さんとあらかじめ決めていた。
いつかバレるだろうとは思っていたが、予想よりも早い。隠すつもりはなくても、バレたらバレたで気恥ずかしいものがある。

「あー...、はい。ありがとうございます。姫崎さんに聞いたんですか?」

「ははっ、姫崎さんが言うわけないじゃないですかぁー。見てればわかりますよ」

確信的な言い方だったのでてっきり姫崎さんに聞いたのかと思ったけど、どうやら違うらしい。はたから見てもやっぱり見えてるんだろうか。

「しっかし、姫崎さんって結構甘えん坊だったんですね。距離近すぎません?」

「やっぱりそうですよね!」

自分が意識しすぎているだけかもしれない、という考えも少なからずあったため、思わず食い気味で反応してしまった。

「あからさますぎて砂吐きそうですよ。もしかしてあれって無意識ですか?」

「....たぶん.....。俺が触ろうとすると逃げるんで」

「えー!かわいそー!」

大袈裟なリアクションとともに、気の毒そうな視線を向けられる。
本当に、俺もそう思う。
外でも家でも、俺が触ろうとすると何かしら理由をつけて遠ざけるのに、自分からは無防備に近づいてくるのだ。

べたべた、という程ではないにしろ、今まで広げていた両手を下ろしているようなものだ。それも、俺だけに。そんなのもう、調子に乗るなと言う方が無理な話ではないだろうか。
触れる距離にいるのに、触らせてくれないなんて拷問以外の何物でもない。本人は煽っている自覚などないから余計だ。

「文句とか言わないんですか?」

「...言ったら、近づいてさえもらえなくなっちゃうじゃないですか」

「うわっ、健気ー!っていうか忠犬?」

確かに、今の状態は大好物を目の前に"待て"をさせられている犬のようなものだ。

「あーあー、いいなぁー。俺も恋人ほしくなってきたなぁー」

冗談とも、本音ともとれる物言いで、給湯室の外へ目を向けた。ここからでは見えないが、きっと、その視線の先には姫崎さんがいる。

「.....あの、失礼を承知で聞いてもいいですか...?」

「どうぞ?」

「....影山さんって、....姫崎さんのこと、好き、ですよね...?」

ずっと、気になっていた。いつも冗談っぽく振る舞ってはいるが、時折見せる、熱を帯びた表情かお。その視線の先は、いつだって姫崎さんだった。

「ははっ、姫崎さん取られるかもって心配でもしてるんですか?」

冗談にしてかわそうとする影山さんを、無言で見据える。
それでも誤魔化そうとするのなら、これ以上踏み込むつもりはなかった。けれど、軽くため息をついた影山さんの顔から笑顔が消える。

「まー、正直に言うと後悔はしてますね」

「後悔?」

「元々姫崎さんの顔は好みだったんですけど、ガードめちゃくちゃ堅いじゃないですか」

誤魔化されているかもしれない、とは思いつつもこれには頷く。

「だから、無理だと思ってたんですよ。警部も。それなのに姫崎さんの雰囲気どんどん柔らかくなってくし、俺がその顔させてみたかったなーっていう後悔」

そこで一度言葉を切ると、真面目な顔から含みのある笑顔へと一変した。

「まぁ、でも安心してください。他人が磨いたものを欲しがるようなみっともないまねはしませんよ」

それじゃお幸せに~、と止める間もなく手を振って給湯室を出て行ってしまう。
結局、直接的な回答はもらえず、はぐらかされたような感じになってしまったが、気がかりはなくなった。
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