年下上司の愛が重すぎる!

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44話 佐原視点

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そうして一時間程走り続け、ようやく目的地にたどり着いた。
てっきり廃屋か、もっと人気のないところに呼び出されると思っていたのに、よくある雑居ビルだ。その五階。

さすがに、一時間走りっぱなしでかなりしんどいが、ぐずぐずしていられない。
一度だけ大きく深呼吸をしてから、五階まで一気に階段を駆け上った。


『鍵は開いてる』

五階にたどり着いた直後、まだ切っていなかった携帯から男の声が響く。
扉の前には監視カメラもあるし、電話越しから階段を上る様子が聞こえていたのもあるんだろうが、タイミングが良すぎて気味が悪い。

電話を切り、ドアノブに手をかけた。
肩で息をしている状態で説得力はないかもしれないが、なんの勝算もなく策に乗ったわけではない。
腕っぷしに自信はあるし、護符をこれでもかと貼り付けてある。
例え金属バットで殴られても、ナイフで斬りつけられても問題ない。
それに、顔が確認できればその場で逮捕できなくとも、その後の捜査は格段に楽になる。

ドアを勢いよく開けるのと同時に入り口から距離をとったが、襲いかかってくることはなかった。

「よぉ、疲れただろ。こっち来て茶でも飲めよ」

まるで友人にでも話しかけているかのように話しかけてきたのは、部屋の中で一番偉そうな奴だ。
小ぢんまりとした部屋で唯一座っているその男は、電話の声とも一致する。

こいつがストーカーの犯人で間違いなさそうだが顔を隠そうとしていないところを見ると、俺を殺すつもりか、それとも逃げきる自信があるのか。
年齢は親と同じくらいか?確かにどこにでもいそうな顔ではあるが、俺は一生忘れないぞ。もちろん殺されるつもりもない。

部屋には、座っている男の他にも四人、鋭い目つきでこちらを睨んでいる。
奥にも扉があるため他にもいる可能性はあるが、この場に居る五人に幽霊は憑いていない。

「親睦を深めに来たわけじゃない。さっさと要件を言え」

「そう言うなよ。これでも俺はお前に感謝してるんだ」

「感謝.....?」

「ああ。お前のおげであいつのあんな表情が見れたんだ。最高に良い気分だったぜ!」

こいつの言う"あんな顔"とはきっと良い意味ではないんだろう。
そんな顔を、俺がさせた?嘘だろ!いつ!?
最初の触る練習とかはすごく嫌そうだったけどあれは室内だったし....、と考えかけてやめた。
今はこっちに集中しなくては。

「.......なんでそんな恨んでるんだ」

「ん?そういや来たら言う約束だったな」

何が面白いのか、がはは、と下品に笑いながら続けた。

「あいつは俺の人生を台無しにしたんだよ。だからこれは当然の報いだ。人を不幸にしといて自分だけ幸せになろうだなんて都合がよすぎると思わないか?」

「人違いだろ。姫崎さんはそんなことする人じゃない」

「ははっ!お前はあいつの何を知ってる?家族構成は?交友関係は?警官になる前はどんな生活をしていた?」

そう言われ、何も答えられないことに歯噛みするが、そんなこと今は関係ない。

「確かに知らないことも多いけど、貶めるような行為なんてしない人だってことは知ってる」

「今見えてるものが全てだと思うなよ」

「俺は自分で見たものしか信じない」

「そうか。なら本人に聞いてみようぜ」

「本人....?」

戸惑う俺をよそに男はにやりと口角を上げ、一人の男に奥のドアを開けるよう指示をだした。
男はすぐに従い、ゆっくりと開けられた扉の向こう側にいたのは———


「姫崎さん!?」

紛れもなく姫崎さんだ。見間違えるはずなどない。
後手に縛られており、仲間であろう二人の男に両脇を支えられている。これでこの場にいる敵は七人。
この二人も幽霊は憑いていないが、姫崎さんがそんな簡単に捕まるだろうか?抜けてるところがあるから絶対とは言い切れないところはあるが。
現に姫崎さんは、バツが悪そうな顔で目を合わせてくれない。

「姫崎さん、どうしてここに.....」

「.............」

黙り込む姫崎さんの代わりに、男が口を開いた。

「教えてやれよ、誠。こいつの後をつけてたって」

「!?」

気安く名前を呼んでいることも気になったが、それよりも過剰に反応した姫崎さんの方が気になった。
弾かれたように男の方へ振り向き、目をこれでもかという程見開いている。

「おじ....さん....」

知り合い.....?

「こうして会って話すのは二十年ぶりくらいか」

「......ご無沙汰しております」

俺そっちのけで進む話に、慌てて口を挟んだ。

「.....姫崎さん?お知り合いですか....?」

だが、相変わらずこっちを見てくれず、開いた口を一度閉じてから躊躇いがちに言った。

「......俺の叔父だ」

おじ、って......。えっ、叔父!?



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